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7睡目・ワガママで悩まさないで

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「隠してある場所は村人さん達が知っていますが、選手が側にいると口を噤んでしまいます。他にも、村人さんが隠し持っている木札もあります。」

「村人から如何に情報を得るかが鍵のゲームと」

「そういうことです。それで、エルフ首長さんが選手に立候補しています」

「そうなのか」

 エルフ首長の珍しくもない自己主張。ファリッバが意気込んでいたが、ここは先に名乗り出た方を優先するとしよう。

 目配せで彼女にも確認を取ると、快く首肯を返してくれた。

「お手並み拝見かな」

 焚き木をどけるぐらいはできるだろうけど、捜し物が得意って感じはない。ゆるふわ系でのんびり屋なエルフ首長が、どうやって宝物を見つけてくるか観察する。

 流石に、他のエルフ達を連れてきて人海戦術はルール違反だ。

 すると彼女は地面に沈んで消えてしまい、しばらくそうして姿を見せなくなった。

「あぁ、村人に見られさえしなければ盗み聞きし放題なのか」

 どうやって情報を得るかが重要なゲームなのであって、むやみやたらに探せば良いってものじゃないんだ。

 村人チームの選手を探してみれば、影の薄い感じで細身の男性をなんとか発見した。物陰に隠れやすくご婦人方の側にいても気付かれていない。シービンより存在感がないだと……。

「ちょっと地味な勝負になりましたね」

「そうだな。でも、エルフ首長がこういうこすいことを考えるとはね」

 ハァビーの言う通りだが、俺はエルフ首長の予想に反した行動に感心と驚きを抱いた。

 しかし、そうしている間にも村人チームが1つ目の木札を見つけてしまう。お宝らしく、穴を掘ったところから。

「おやおや、先取は村人側でしたか。あまり見ないエルフの立候補ということもあって期待しておりますが、まだ姿を消したままですな」

 村人チームの優勢に、村長は少し焦りを覚えている様子だ。お祭りを賑やかすためのお遊びなので、遊びとは言え簡単に負けたのではいけないわけだ。

 なぁに、俺は信じている。エルフ首長は勝ってくれるって。

 ここで漸く彼女が姿を表し、手に持っていた木札を村長に確認して貰う。

「おぉ、これは鳥小屋店さんとこに預けたもの」

「あらまぁ、いつの間に掠め取られていたのかしら。」

 手提げのカバンに入っているものを、こっそりといただいてきたらしい。難易度の高い技に、村長達も期待を込めた風に言った。

 後1つとなったが、選手両名は場所の検討をつけているのだろうか。と思っていると、二者ともに佇んだまま何か考え込んでいる様子である。

「あそこは見つからないだろう、か。最も目立つから逆に考えない場所……」

 村人チームの選手がブツブツと呟いていた。どうやら、心理的盲点を突く場所に隠してあるらしく、情報こそ得ているが推理が必要らしい。聞く限りの話だと、村のシンボルか何かに隠してあるってことか。

 しかし、この村にそういうスカイだとか東京だとか京都だとかあべのはる何とかなんて言うのもない。

 あ、そこか。

「うーん……ハッ!」

 俺は少しだけ早く気付いた。

 2人とも考えているが、程なくしてわかったらしく同時に走り出した。

 そう、お祭り用に建てられた櫓の方へ。

 先にハシゴを登りは始めたのは村人チームの人。このままでは、当然ながらエルフ首長が負ける。

 手に汗握る展開の中、彼女はフワッと宙に浮き上がる。櫓の梁や補強の筋交すじかいを蹴って、素早く頂上へと向かった。

 ドレス風の服を翻して、そんな動きが出来たのかってローンダートからの登頂を成功させる。

「ッ!?」「クッ!」

 村人チームの人も、櫓の人も、目を見開いている様子だ。

 先に到着したエルフ首長の勝ちかと思ったが、木札を貰うまではわからない。絵を描いて要求するまでの間に、村人チームの選手がたどり着いてしまう。

「木札を!」

 選手が言うと寸分違わずに、エルフ首長も黒板を前に差し出した。

「……」

 櫓の審判は逡巡した後、懐から木札を出してジャッジ。

 結果は……。

 2つに割った! 2人に向かって差し出した!

「引き分け!」

 これは、仕方ない。お互いに頑張ったのだから、健闘を称え合ってこの勝負は一分けで終わった。

 しかし、一敗一分。残る三人で三連勝しないといけないのだから、難しいかもしれないな。せめて一勝できれば面目は保てるだろうか?

「次、簡単なら良いな」

「ふふふ。ダイナさん、目標は大きく持たなければなりませんよ」

「ふむ? ハァビーさんの言う通りなのジャ」

 半分以上は諦めていたところを、ハァビーにたしなめられてしまった。ファリッバまでそちらの味方をするもので、これではなんとしてでも勝たなければならないではないかとプレッシャーがかかる。

 心の準備も出来ない内に、次なる勝負内容が決まってしまう。

「中堅戦、『理語学』!」

 宣言されたのは、なんと学問だ。木箱などで簡易の机やら椅子を用意して、答案用紙まで並べているのだから、完全にテスト試験である。

 チラッとファリッバを見て、勧めてみた。

 彼女はバツの悪そうな顔で視線を逸らせて言う。

「我、これ苦手かもしれんのジャ……」
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