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7睡目・ワガママで悩まさないで

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 誰ともなしに訊いてみると、ハァビーが反応してくれる。

「どうしたものでしょう? 私が治療などでお返しするという手もありますが」

「ま、その辺りもおいおいね。向こうから何か頼んでくるかもしれないし」

「そ、そうですね」

 俺の保留案に、彼女は少しためらいを見せた。それでも、これまでみたいに恩を背負い込まないよう気をつけてるのがわかった。まだ完全には割り切れていないって感じだけど、少しずつ成長はしているみたいだから良いか。

 時計を見ればもう8時ぐらいになっていたので、ご飯を食べて少し腹ごなしをしてから寝ることにした。まぁ、翌朝も特に問題なく6人で出掛けるに至った。

 イブ村に到着した俺達を待っていたのは、村落とは思えないような盛大な祭の風景だった。昨晩は遅くて、広場とかの様子を眺めていく暇がなかったし、少し舐めてたっていうのもあって驚いた。

「終戦記念なんて、小さな村とかではそんなに重視しないと思っていたけど、こりゃ凄いな」

「そうでございましょう。“荒野の賢者”殿」

 感心していると、突然背後から話しか掛けられたのでビクッてしちゃった。

「ッ。村長、さん? その“荒野の賢者”というのは?」

 聞き慣れない言葉もあったので、一秒ぐらい俺への言葉だってわからなかった。でも、ハァビーは“隻翼の天使”だし、他の子達は村の住人と面識は無いはずだし。消去法で俺がその“荒野の賢者”なんだろうなって。

 一体何のことやら?

「何を言いますか! 天使だけに及ばず、我らの見たことがない多くの生物達を引き連れ、賢者住まう森より参られた方をそう呼ばずしてなんと呼びます!」

 少し剣幕に近い感極まった口調に、俺は驚きながらも視線を後の彼女達に向けた。ちなみに、元々済んでいた人も賢者って呼ばれていたらしい。

 混雑しても仕方ないので、エルフ首長を除いては彼女達には別の場所で待機して貰っている。それでも、凄いメンツであることは確かだ。バロメッツやアルラウネなんて、基底世界のサブカルチャー内じゃ魔物って呼ばれる類の生物だし。

 特にファリッバなど目立って仕方ない。

「皆が怖がるようなら、我は帰っても良いのジャよ?」

 彼女もちょっとぐらいは気にしていたようで、周囲の空気を読んで遠慮しようとした。しかしな、そんなことをいうようなら、俺は皆を連れてボイコットだがな。

『何をおっしゃいますか! “荒野の賢者”様がお連れになっている全てが使いの方です。遠慮なさらず、どうか祭を楽しんで行ってください!』

 久しぶりに早口でまくし立ててきたので、ハァビーの通訳が発動した。

 もしかして、気合が入ったお祭りの様相は賢者の俺がやってくるかもしれないからとか? いや、既に挨拶を終わらせて帰ったフェイ聖女に見栄を張ったんだろう。そうに決っている。

 俺はそんなに自意識過剰じゃないんだ。

「そ、そう……? じゃあ、今日は楽しませて貰います」

 俺の言葉を合図に、終戦記念祭が開始された。皆、わーいって感じで俺の後をついてくる。

「ささ、こちらへどうぞ。この村には若い者が少なくなったので、お若い“荒野の賢者”様方にもご協力願いたいと思っておりまして」

「へぇ。せっかくだすから、可能なことなら」

「良かったです。わかりやすく申しますと、この村の者達5人と、“荒野の賢者”様達で別れ、競い合うというものでございます」

 食べて飲んでだけでなく、皆で出し物をして楽しもうって主旨らしい。

 しかし、本当に内容次第って感じだな。若いとは言ってもこちらは女の子がほとんどだし、バロメッツやアルラウネに至ってはどこまでやれるかさっぱりなレベルである。

「競技の内容はクジで決めます。内容を見てから参加者を決めても構いませんので」

「おぉ、そうですか? なら、なんとかなりますかね」

 村長が、昔はたくましかったであろう白ひげを揺らして説明してくれた。思ったより優しいルールで良かった。

 そして彼が手を上げると、広場の中央に立てられたやぐらの上の村人がツボの中から一枚の紙を引っ張り出す。

「『球運び』!」

 櫓の村人が声を張り上げた。それと同時に、周囲に居た村人達が道具を準備し始めた。

 取手が5センチぐらいの木製スプーンとピンポン玉ぐらいの木製の球。大体何をするのかわかる内容である。

「匙を咥え、球を落とさないように開始地点から目的地点まで向かうのでございます」

「これ、何ていう運動会? えぇ、まぁ、内容はわかりました。そうなると……」

 誰に出てもらうか相談しようとしたところで、俺は妙案を思いついた。

「村人5人に対してこっちは6人ですけど、あの綿の子と葉っぱの子。2人一組ってわけにはいかないです?」

「2人で、ですか? 途中で匙を受け渡す形式ですかな? 小さい子ですからそれでも」

「いえ、こうするんです」

 村長の言葉に、俺はちゃんと2人が上手く競技に参加できるよう手段を伝えた。
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