26 / 77
7睡目・ワガママで悩まさないで
2
しおりを挟む
「ダイナ先生は、何か好きな武器はありますか? これが使いやすいとか」
すると唐突に、シービンがまた訊ねてきた。
「ぶ、武器? 急にそんなことを言われてもなぁ……」
武術の経験なんて学生時代に柔道を少しやった程度だから、戸惑うこと戸惑うこと。防具の方が役に立つんじゃないかとも思うが。
「防具じゃ駄目か? ケェヌみたいな手甲や足甲みたいな」
「この量の青鋼ではそれぐらいが精々ですが、先生の身体能力では雑兵に大盾ほど無用の代物です。扱える武器で自衛に走る方が、まだ懸命というものでしょう」
冷静な反論をありがとう。厳しいお言葉だが、正論なので受け止めることにした。そりゃ、危険な狩りやらを生徒に任せようとするぐらいですけど……。
扱える武器などと言いつつ隣でケェヌは密かに刀をお勧めしてくるし、カホーやフェイは魔法の杖みたいなものを推奨している。
「……」
「ダイナ先生の魔力は存じませんが、魔法ロッドが良いのでは?」
「まぁ、確かに。シジットぐらいの魔力でも、あれならそこそこやれるな」
ありがたい話だが、刀は技量として追いついていないと考えられた。魔法の杖だと、ハァビーと役割が被るから何か違う気がした。
だから、考えて1つの結果を出す。
「うーん……じゃぁ、棍とか」
「棍、ですか?」
「あぁ、サムベアさんって簡単な杖術ぐらい教えられるだろ? 棒術も少しぐらいはわかるんじゃないかと思って」
下手なものより殺傷能力は低く、それでいて自衛のためなら振り回しているだけでもなんとかなりそうな武器だ。
「わかりました。それでは、サムベア先生と一緒に錬成します」
シービンは頷いて、ルンルンとスキップなどしながら机のインゴットを手に取り、古ぼけたカバンに大事に仕舞った。
しかし、生徒達は俺をからかうためだけに来てるのか? この一週間だって、普通に看病の様子を面白おかしく眺めていたくせに。雨も降ってる中、わざわざご苦労さまなことである。
「さておき、言い渡してあった作業は?」
怪我で動けない間、5人には学校の畑を使ってオクラやらトウモロコシやら、夏から秋にかけて作れる野菜の世話を指示していた。以前の聖別した種の事件みたいにめちゃくちゃにせず、ちゃんと植生を学ばせるための勉強だ。
雨季の前からハウスツリーまでレポートを作成しに来ていたのだから、これぐらいのことはできるだろうと試験代わりに出したのである。
「それについては問題ねぇぜ」
「今度こそ、まともな野菜畑になるよ」
カホーとシジットが胸を張って答えた。
ほう、これは期待して見させて貰えそうじゃないか。
今から久しぶりに学園に向かって、サムベアさんの作ったご飯のご相伴に預からせて貰おうか。あ、目的が違うね。
ちなみに、エルフ達が絵で教えてくれた評価は上々だった。
「おっと、ありがとう。へぇ、ちゃんと野菜別にして、畝幅や株間もしっかり測ってるな」
感心、感心。
俺はハァビーと生徒達を伴い、運搬車を漕いで学園まで向かうことにする。そこでフと気づくのだ。はて……三輪車のハンドルに何やら見覚えはないけどなんとなく知っているダイヤルめいたものがあるぞ?
シービンの方を流し目で見る。
「変速ギア、こんなのでどうです? 聞いた話だけで、歯車をどう切り替えるのか悩みましたけど」
「……はぁ」
俺はため息混じりに呆れた。まさか、本当に作ってしまうとは思わなかった。それも一週間程度で。
多分、技術的には文明に間に合っているとは思うからそのまま使っても大丈夫だろう。
「壊れたりはしないと思うので、試してみてください」
「あ、あぁ……。迂闊なことは言えないんだがなぁ……」
「何か?」
急かされて乗ることになり、俺は自分の過ちを小さく後悔した。小声を聞き取られそうになったから、さっさと三輪車を漕ぐことにする。
まず、乗り心地についてはこれまでと変わらず、これと言って操作性に難はない。次にメインの変速ギアだが、これは3段階と意外に少なめである。いきなり6段階とか10段階なんてやってられないわな。
「ギアHが最も重くて、ギアCが最も軽くなっています」
「いつもの重さがギアFか。お、この感じは良いな。たっぷりと荷物を載せても足が軽い。もう坂道も怖くない!」
なんだか首なしライダーになりそうなことを言いつつ、俺はキコキコと初めて自転車を買って貰った子供みたいに試乗してみせた。ギアを変更しても、チェーンが外れるようなこともなくスムーズだ。
あの発言だけで、良くぞここまで作れたものだと感心した。
「ちゃんとできてるな。けどなんで『変速ギア』の言葉だけで推測できたんだ?」
訊いてみた。
「運搬車には乗り慣れている様子でしたし、ギアというのが歯車の別名だとハァビー先生に伺って、予想できたのがこれでした。変速という単語で、言葉の流れから言って速度を変えるというのが理解できれば、後はこの通りです」
シービンは、なんてことないと言った様子で答えてくれた。
くっ……この物創りの天才め! エンジンの理屈を俺の知識レベルで伝えても、ガソリン車は無理でも魔法自転車ぐらいは作るんじゃないか?
「ところで、ダイナ先生。先生のところでは、どのような乗り物を使ってらしたんでしょう?」
迂闊なことを言えないと改めて自戒していると、シービンが不意打ちまがいに訊いてきた。
すると唐突に、シービンがまた訊ねてきた。
「ぶ、武器? 急にそんなことを言われてもなぁ……」
武術の経験なんて学生時代に柔道を少しやった程度だから、戸惑うこと戸惑うこと。防具の方が役に立つんじゃないかとも思うが。
「防具じゃ駄目か? ケェヌみたいな手甲や足甲みたいな」
「この量の青鋼ではそれぐらいが精々ですが、先生の身体能力では雑兵に大盾ほど無用の代物です。扱える武器で自衛に走る方が、まだ懸命というものでしょう」
冷静な反論をありがとう。厳しいお言葉だが、正論なので受け止めることにした。そりゃ、危険な狩りやらを生徒に任せようとするぐらいですけど……。
扱える武器などと言いつつ隣でケェヌは密かに刀をお勧めしてくるし、カホーやフェイは魔法の杖みたいなものを推奨している。
「……」
「ダイナ先生の魔力は存じませんが、魔法ロッドが良いのでは?」
「まぁ、確かに。シジットぐらいの魔力でも、あれならそこそこやれるな」
ありがたい話だが、刀は技量として追いついていないと考えられた。魔法の杖だと、ハァビーと役割が被るから何か違う気がした。
だから、考えて1つの結果を出す。
「うーん……じゃぁ、棍とか」
「棍、ですか?」
「あぁ、サムベアさんって簡単な杖術ぐらい教えられるだろ? 棒術も少しぐらいはわかるんじゃないかと思って」
下手なものより殺傷能力は低く、それでいて自衛のためなら振り回しているだけでもなんとかなりそうな武器だ。
「わかりました。それでは、サムベア先生と一緒に錬成します」
シービンは頷いて、ルンルンとスキップなどしながら机のインゴットを手に取り、古ぼけたカバンに大事に仕舞った。
しかし、生徒達は俺をからかうためだけに来てるのか? この一週間だって、普通に看病の様子を面白おかしく眺めていたくせに。雨も降ってる中、わざわざご苦労さまなことである。
「さておき、言い渡してあった作業は?」
怪我で動けない間、5人には学校の畑を使ってオクラやらトウモロコシやら、夏から秋にかけて作れる野菜の世話を指示していた。以前の聖別した種の事件みたいにめちゃくちゃにせず、ちゃんと植生を学ばせるための勉強だ。
雨季の前からハウスツリーまでレポートを作成しに来ていたのだから、これぐらいのことはできるだろうと試験代わりに出したのである。
「それについては問題ねぇぜ」
「今度こそ、まともな野菜畑になるよ」
カホーとシジットが胸を張って答えた。
ほう、これは期待して見させて貰えそうじゃないか。
今から久しぶりに学園に向かって、サムベアさんの作ったご飯のご相伴に預からせて貰おうか。あ、目的が違うね。
ちなみに、エルフ達が絵で教えてくれた評価は上々だった。
「おっと、ありがとう。へぇ、ちゃんと野菜別にして、畝幅や株間もしっかり測ってるな」
感心、感心。
俺はハァビーと生徒達を伴い、運搬車を漕いで学園まで向かうことにする。そこでフと気づくのだ。はて……三輪車のハンドルに何やら見覚えはないけどなんとなく知っているダイヤルめいたものがあるぞ?
シービンの方を流し目で見る。
「変速ギア、こんなのでどうです? 聞いた話だけで、歯車をどう切り替えるのか悩みましたけど」
「……はぁ」
俺はため息混じりに呆れた。まさか、本当に作ってしまうとは思わなかった。それも一週間程度で。
多分、技術的には文明に間に合っているとは思うからそのまま使っても大丈夫だろう。
「壊れたりはしないと思うので、試してみてください」
「あ、あぁ……。迂闊なことは言えないんだがなぁ……」
「何か?」
急かされて乗ることになり、俺は自分の過ちを小さく後悔した。小声を聞き取られそうになったから、さっさと三輪車を漕ぐことにする。
まず、乗り心地についてはこれまでと変わらず、これと言って操作性に難はない。次にメインの変速ギアだが、これは3段階と意外に少なめである。いきなり6段階とか10段階なんてやってられないわな。
「ギアHが最も重くて、ギアCが最も軽くなっています」
「いつもの重さがギアFか。お、この感じは良いな。たっぷりと荷物を載せても足が軽い。もう坂道も怖くない!」
なんだか首なしライダーになりそうなことを言いつつ、俺はキコキコと初めて自転車を買って貰った子供みたいに試乗してみせた。ギアを変更しても、チェーンが外れるようなこともなくスムーズだ。
あの発言だけで、良くぞここまで作れたものだと感心した。
「ちゃんとできてるな。けどなんで『変速ギア』の言葉だけで推測できたんだ?」
訊いてみた。
「運搬車には乗り慣れている様子でしたし、ギアというのが歯車の別名だとハァビー先生に伺って、予想できたのがこれでした。変速という単語で、言葉の流れから言って速度を変えるというのが理解できれば、後はこの通りです」
シービンは、なんてことないと言った様子で答えてくれた。
くっ……この物創りの天才め! エンジンの理屈を俺の知識レベルで伝えても、ガソリン車は無理でも魔法自転車ぐらいは作るんじゃないか?
「ところで、ダイナ先生。先生のところでは、どのような乗り物を使ってらしたんでしょう?」
迂闊なことを言えないと改めて自戒していると、シービンが不意打ちまがいに訊いてきた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる