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6睡目・のジャ貴女(きじょ)カーニバル

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「そんなに揉まんで欲しいのジャが……。こそばいジャろが」

「やっぱりそうですよねー」

「?」

 なぜ蚕人が俺を抱きしめて寝ているのか知らないが、彼女も俺の言葉の意味など知らない。

 爺臭い訛りこそあるが、声音や体つきから女性だとわかる。いろいろと聞きたいことがあった。

「ヘエヌジー語……喋れるんですね。いえ、それより、ハァビーは大丈夫ですか?」

 まずは視界を蚕人の体でふさがれているため、ハァビーの安否を確認した。

「あぁ。それについては後なのジャな。有翼人種の娘なら、衝撃で意識を飛ばしておるが無事ジャよ。寝具の上で寝ておるのジャ」

 蚕人が答えた。

 喋る度にお腹の柔らかいところがプルプルと震えるのが心地良いので、そろそろ離れないと男心がヤバい。しかし、けっこう全身でホールドされている。

「そうか。良かった。ぅ~ん?」

 ハァビーの無事を確認して一度は安堵したものの、別の疑問が湧き上がってきた。彼女が気絶しているのに、どうして俺はある程度の治療が施されているのだろうか。もしかしたら、全身ズタボロで痛みすら感じなくなっているとか?

 蚕人が治癒魔法を使えたから落雷の傷が残っていない何ていうのはどうだ。可能性として一番有り得そうだろ。

「俺の傷は……?」

 希望的観測を並べても仕方ないので、俺は恐る恐るだが訊くことにした。

 蚕人は少し申し訳なさそうに答える。

「それについては、すまんが葉っぱの娘が渡してくれた薬草を使わせて貰ったのジャ。大事なものだったのかもしれんが、あぁもせがまれたんでは使わざるを得んかったのジャ」

 なるほど、アルラウネが保存してあった葉っぱを持ち出してきてくれたのか。ならば、バロメッツマントのおかげで瀕死にまでは至らなかったのだろう。

 破損していたりしないと良いが。

「けど、あれは煎じて塗布するか経口摂取じゃないと……いや、止めておこうか……」

「う、うむ。そうしてくれると助かるのジャ……」

 少なくとも雷撃によりダメージを受けた全身を治療するには、相応の処置を施さなければならないはずだ。蚕人が何をしたのかを考えると、あまり深く触れない方が良いと判断した。咳払いする彼女の体温が少しだけ上がったような気がした。

 彼女は体から俺の顔を離してくれて、視界を確保することができた。

「プハッ。えーと、アルラウネには感謝しないと」

「アルラウネ、ジャな。娘ならそこの鉢で寝ておるのジャ」

 視線を横に移動させると、鉢から腰ぐらいまで出して眠りに付いているアルラウネがいた。

「乾燥しちゃうだろ。手ぬぐいを痛たたッ」

 側に転がっていた布を被せようとするが、体の僅かな動きだけで激痛が走った。

「こらこら、今はジッとしておるのジャ。かなり吹き飛ばされたから、五体が正しくくっついてるだけでも凄いことなのジャぞ」

 痛めた部分を下手に動かさないよう、蚕人は柔らかい手足を含む体で固定してきた。改めて嗅覚が働き、青草と甘いような香りが僅かにする。

 また恥ずかしさがこみ上げるが、訊かなければならないことを考えて忘れる。

「……えーと、助けてくれてありがとう。それで、君はどうしてあんなことを? 逃げれば良かっただけだし、喋れるなら俺達に助けを求めても」

 まずお礼の後、なぜ仲間を犠牲にして落雷を逸らそうとしたのかを訊いた。

 青鋼蚕の仲間ではなく、何らかの方法で操れるんじゃないかなんて考えたけど、俺を助けた彼女がそういう悪性とは断言できなかった。とりあえず、遠回しにしておく。

「うむ。まず、我はファリッバというのジャが。彼奴きゃやつらを指導し、時に守られる存在なのジャ」

「羊飼いみたいなものか? ファリッバは虫人種なのか虫なのか、どっち?」

「姫とか言って欲しいが、まぁそうジャな。もし答えるとするなら、両方の間の子ジャな。出自は訊んで欲しいのジャ」

 ファリッバと名乗る女性……少女か? 彼女の答えを聞いて、なんとなく察しはついた。大を生かすための小の犠牲を覚悟してのことならば、それこそ俺がとやかく言って良いことじゃない。

 出生についても少し厄介な事情が絡んでいるようなので、不要となれば触らないのが大人というものだ。

「この国は、まだ我らにも過ごしやすいのジャ。しかし、身を挺してまで、守ろうなどと思ってくれる者は、おらんかったのジャ」

 大きいとは言え蚕のファリッバ達が、フェビアルド国内を行脚していられたのは、一重に彼女の働きと国民の柔和さがあってのことなのだろう。

 俺は何も言わず、ただ訥々と語られる彼女の感謝の台詞に耳を傾ける。

「彼奴らはまた夏が終わる頃には、多くの子らを産む。次の子らが、また秋に子を増やす。漸く落ち着ける場所を見つけられたのジャ。この気持ち、どう返せば良いやら……」

「別に要らないよ。自分の住処を守るためと、少し手間を掛けただけのことさ」

 大したことはしていないと、彼女からは気持ちだけ受け取ることにした。お金に関しては、また学園の方から支払われるのだから。

 しかし、ハウスツリーの葉をたくさん用意する必要がありそうだ。
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