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6睡目・のジャ貴女(きじょ)カーニバル

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 エルフ達にお願いするのは命綱としての仕事だ。半実態なので物質への干渉はできるとは言え、重たい噴霧器を担ぐことは出来ない。人を持ち上げるほどの干渉力もないが、少しでも支えられたなら助かる見込みは増える。

 人外の身体能力を持つケェヌやシジットはまだしも、俺、カホー、シービンは肉体面だけ見れば一般人と変わらない。カホーは咄嗟の魔法でなんとか衝撃を殺せるかもしれない。

 エルフ達は、どこからともなく小さな黒板を取り出して絵を書き始めた。これが彼女達の会話方法で、アルラウネも最近は同様に彼女らとコミュニケーションをとる。こちらの話し声は聞こえるので、これだけでも割となんとかなるんだよな。

 しかも、結構お早いんですよ。女子高生とかがスマフォで文字打つのが高速なのに、おじさんな俺達が驚くレベルでびっくりした。

「じゃあ、お願いするよ」

 エルフ達が、俺の説明を理解したことを絵で知らせてくれた。最近、ちょっとしたことでも描いてくれるのは何なんだろうね。

「チェッ、ダイナせんせーだけモテモテでさぁ」

 その様子を見ていたカホーが、面白くなさそうに舌打ちした。

 男の嫉妬は見苦しいぜ。まぁ、そんなんじゃないさ。婚姻を保留にしたせいで、俺への恩を作れるのが嬉しい程度の話。多分?

「そういう浮いたもんじゃないって。それに、カホーは口説きに行く側な分、上手く立ち回る余裕があるぞ?」

 肩を竦めて見せるが、納得した様子はなかった。愛するより愛されたい年頃なんだろうか。

 全方位を女の子に睨まれるって、恋愛初心者な俺には大変なことなんだよ~。贅沢な悩みと思うかもしんないけど。

 まぁ、そんなことを言っている間に作業は順調に進んでいき、エルフ達のおかげでかなり無茶な木登りも出来たことで一時間の内に終わった。

「ずいぶんと集まってきてますね。そろそろフェイを呼んできます」

 青鋼蚕の群れの行列も終わりを迎えているようで、シジットは樹から飛び降りて走っていった。

 俺もオニカミキリがいないことを確認した後、地上に降りた。先に異常を知らせたのはハァビーだった。

「ダイナさん、あれ……」

「ぉ? なんだ、あれ……?」

 示された先を見ると、幼虫とか蚕蛾って話ではない何かがいた。俺達は、今まで見たことのない存在を前にして目を丸くしたのだった。

 体表や質感は青鋼蚕と変わらないのだが、2本の足で立っている上に手もちゃんと2つ揃っている。まるで幼虫の被り物をしているようなものが垂れているが、生体組織なのかも不明だ。亜人に類する人間なのか、虫なのか判断がつかない中途半端な擬人化存在。

「こっちを見ましたよ……」

虫人種ちゅうじんしゅとかいうのも居たはずだよな?」

「あそこまで虫に近くはありません。良くて鉤爪みたいな手があるとか、虫の特徴を一部持っている程度です。なので、私にも何が何だか」

「一応、観察は続けよう。悪いものだったら、こっちには打てる手がたくさんある」

 釣り上がった視線をこちらに向けてきてビビったが、不良に睨まれたときみたいに恐れる必要はなかった。なにせ、こっちには威を借ることのできる生徒達がたくさんいるのだから。

 生徒、生徒! 教育者おとなとして恥ずかしくないのか!? とか言わない!

「確か、棒が置いてあったよな? これっぐらいの」

「え? えぇ、サムベアさんに教えてもらった簡単な杖術用ですが」

 あれってサムベアさんに教えて貰ったんだなぁ。そろそろ、あの人が本当に魔法使いなのか怪しくなってきた……。ハァビーの持っていたのが1メートルぐらいだったけど、1メートル半か2メートルぐらいの棒術はいけるのか?

 俺はそんなことを考えつつ、とりあえず今は女体化された青鋼蚕……仮称・蚕人かいこじんを見張ることにした。ホント、いざというときハァビーや生徒達に守られているようじゃ駄目だからな。

 ただ、監視を続けたかったが蚕人は樹の上に器用な動きで登っていき、更にはおかしな風も吹いてきた。

「この風……そろそろ雨季ですね。あの子達が濡れないよう、カバーをしてあげましょう」

「そうだな。布、布」

 まぁ、基底世界でいうところの梅雨の時季だな。植物が元気になる季節だが、反して楽な気候というわけじゃない。だから高い撥水性を持ったものを使ってカバーをしてやった。

 防水布よりも少し通気性がある分、植物にカビが付かなくて助かるんだ。

「全体は覆いきれませんけど、どうします~?」

「銅剤なんかで防除ができないから、風が通った方が良い。そのまま直上だけで良い」

「よーし、そっちを引っ張ってくれ」

「わかった。シジット、力が強すぎる」

「ごめん、ごめん」

 そんな感じで雨除けを終えた。

「思ったより早く降ってきたな」

 ポツリ、ポツリ、振り始めた雨粒が地面に黒点を作っていった。ギリギリで間に合ってよかったと、作業していた5人で安堵の息を吐いた。濡れて風邪なんてひいてはいけないので、皆して急いでハウスツリーの中へと避難した。

 ハァビーとフェイが用意してくれた温かいモグラ芋のスープを飲んでゆっくりして、雨季の到来に少しばかりのノスタルジーを感じるのである。と、そうしたいのもやまやまだが、バロメッツやアルラウネが甘えたいとハグやら抱っこをせがんでくるのだ。

「はいはい、熱いから危ないぞ。この子達を見てると、自分から逃げる芋も信じられるな」

「村でモグラ芋を貰ったので。おかわり、どうですか?」

「え……? あぁ、いただくよ」

 熱々スープの入った鍋を手に、2体の他にエルフ達の牽制をするハァビー。怖い顔をしているから、鍋の中が空っぽなんじゃないかと錯覚してしまった。
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