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6睡目・のジャ貴女(きじょ)カーニバル
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もともとその予定だったけど、ハァビーは遠慮してみせた。そういう考え方も少しずつ直していかないといけないな。
葉っぱと根っこでは手に入りにくさの差もあれば、薬効の違いなども関わってくるので一概には言えないけど。
とりあえず大丈夫そうなので、急がず慌てず三輪車を漕ぐ。家に帰りつくと空腹にもなっていた。
夕飯には、ハァビーを気遣って、ビッグフビフビの肉で作った干し肉を食べた。
「さて、明日の準備を」
「はい。まずは何が入り用です?」
怪我の調子も良いようで、ハァビーも手伝いたくてウズウズしているようだ。
ここで留めるとまた気遣ってしまうだろうし、彼女が『シィディア』に仕舞っている道具も必要だからな。
「じゃあ、言ったものを取り出してくれ。まず赤と白の布、棒、夜には松明、噴霧器、それから……」
えーと、えーとと思い出しながら、魔法の異次元空間から取り出していって貰った。作戦内容を簡単に書き出し、その晩はしっかりと休息をとった。
翌朝には生徒達が来るのを待ちながらも、少しずつ作戦を決行していく。
内容はこうだ。
まず、イブ村で仕入れた情報によると、今朝から昼にかけて青鋼蚕がハウスツリーをめがけて進行してくるとのことだ。昨日の万農薬の掛かった葉っぱには薬効が残っており、蚕達が食べたら一大事だ。
そのため一団を誘導して安全な部分へ取り付いてもらう必要がある。こちらはハァビーやフェイに任せても良いだろう。
誘導の前に、オニカミキリ達の駆除に男手で木酢液を直接吹きかけて置かなければならない。液自体は単なる忌避剤で、葉っぱに付着しても害はない。シジットとケェヌは高所でも大丈夫だろうし、俺とカホーとシービンが低所での作業や外へ追い立てる役目。
「……」「……」「……」「……」「……」
あー、うん。5人が5人とも微妙な表情するのもわかるよ?
ボロい兜をヘルメット代わりにして、紅白の旗を奮っているハァビーの姿。そして、噴霧器を背負ってオニカミキリと水遊びをしている俺。来て早々にそんな光景があったら、誰だって変な顔をするに決まってる。俺だってそうする。
「何をしていらっしゃるの?」
フェイが最初に気を取り直し、ハァビーに訊ねた。
「ピィヒュッ」
咥えていたホイッスルが可愛く鳴った。
「笛、笛」
「おっと、失礼しました。はい」
指摘されると口から離し、改めて返事をした。
「今年は青鋼蚕がやってきているので、誘導をお願いします。フェイさんも、これを持ってこちらまで案内してください」
「はぁ?」
フェイも、兜と旗を手渡されて戸惑った様子だ。
「大丈夫ですよ? 弔いと浄化の儀はしておきましたから」
「やっぱり戦場産ですのね。そういうつもりではなかったのですけれど」
聖女は丸く開いた小さな穴を覗き込みながら、今ひとつズレたハァビーの言葉にため息をついた。
あの黒く縁取られた穴は……弾痕だよな。技術レベルからして火縄銃ぐらいのものは存在すると思っていたけど。ハァビーを含むこの世界での知り合いは、全員そんな戦争を体験してきてる。
10年も昔と言えば昔。最近と言えば最近。俺達の被っている兜は、そんな歴史の名残を携えた骨董品だ。
シケたことを考えても仕方ないので、作業に集中することにした。
「さぁ、男どもはこっちで鬼退治だ」
「コツをお教えしますね」
噴霧器や旗、ホイッスルやらの使い方について、ハァビーが皆にレクチャーを始めた。説明はしおりを作っておいたおかげですんなりと飲み込んでくれる。
ハンドルで圧縮するシンプルなものだし扱いは大丈夫だろう。旗やホイッスルは普通の信号用だが、意外に伝わるから凄い。
相手が芋虫でも、人間サイズにまで成長すれば知能はそれなりに高くなるのだろうか。バロメッツなんかを見ていると、その可能性も否定できないな。
「高音を出すと、青鋼蚕には警戒音として聞こえてしまいますからこういう風に」
説明しながら、ハァビーはヒュルルと吹いた。
一般的に、生物の世界で高音は威嚇などに使われるからな。後は鳥の鳴き声とかに多い。
「わかりましたわ」
フェイも理解した様子で返事をすると、幼虫達の集団がやってくる方へと歩いていった。
ちらほらと到着した先発隊は、ハウスツリーの外壁を登ってきている。白色の柔軟なボディーをウニョウニョと動かして頑張る姿は、微笑ましいと言うべきか、ひたむきというべきか。
あ、いえ、気持ち悪いとか思っちゃいませんよ……?
「大仕事だ」
「エルフさん達を連れて来て正解でしたね」
ケェヌとシービンが準備を始めながら言った。
「え? 連れてきてたの?」
意外な存在に驚いていると、地面からすぅ~って姿を表したエルフ達。
「えぇ、アルラウネも会いたがっていましたから」
「そうか。中でバロメッツと遊ばせておいて」
アルラウネの埋まった鉢を見て、茎がへんにゃりしてるから少し罪悪感は芽生えた。
「えー、早速で悪いけど、手伝って貰えるかな?」
さっさと仕事を終わらせて、遊ぶ時間を作るとしようじゃないか!
葉っぱと根っこでは手に入りにくさの差もあれば、薬効の違いなども関わってくるので一概には言えないけど。
とりあえず大丈夫そうなので、急がず慌てず三輪車を漕ぐ。家に帰りつくと空腹にもなっていた。
夕飯には、ハァビーを気遣って、ビッグフビフビの肉で作った干し肉を食べた。
「さて、明日の準備を」
「はい。まずは何が入り用です?」
怪我の調子も良いようで、ハァビーも手伝いたくてウズウズしているようだ。
ここで留めるとまた気遣ってしまうだろうし、彼女が『シィディア』に仕舞っている道具も必要だからな。
「じゃあ、言ったものを取り出してくれ。まず赤と白の布、棒、夜には松明、噴霧器、それから……」
えーと、えーとと思い出しながら、魔法の異次元空間から取り出していって貰った。作戦内容を簡単に書き出し、その晩はしっかりと休息をとった。
翌朝には生徒達が来るのを待ちながらも、少しずつ作戦を決行していく。
内容はこうだ。
まず、イブ村で仕入れた情報によると、今朝から昼にかけて青鋼蚕がハウスツリーをめがけて進行してくるとのことだ。昨日の万農薬の掛かった葉っぱには薬効が残っており、蚕達が食べたら一大事だ。
そのため一団を誘導して安全な部分へ取り付いてもらう必要がある。こちらはハァビーやフェイに任せても良いだろう。
誘導の前に、オニカミキリ達の駆除に男手で木酢液を直接吹きかけて置かなければならない。液自体は単なる忌避剤で、葉っぱに付着しても害はない。シジットとケェヌは高所でも大丈夫だろうし、俺とカホーとシービンが低所での作業や外へ追い立てる役目。
「……」「……」「……」「……」「……」
あー、うん。5人が5人とも微妙な表情するのもわかるよ?
ボロい兜をヘルメット代わりにして、紅白の旗を奮っているハァビーの姿。そして、噴霧器を背負ってオニカミキリと水遊びをしている俺。来て早々にそんな光景があったら、誰だって変な顔をするに決まってる。俺だってそうする。
「何をしていらっしゃるの?」
フェイが最初に気を取り直し、ハァビーに訊ねた。
「ピィヒュッ」
咥えていたホイッスルが可愛く鳴った。
「笛、笛」
「おっと、失礼しました。はい」
指摘されると口から離し、改めて返事をした。
「今年は青鋼蚕がやってきているので、誘導をお願いします。フェイさんも、これを持ってこちらまで案内してください」
「はぁ?」
フェイも、兜と旗を手渡されて戸惑った様子だ。
「大丈夫ですよ? 弔いと浄化の儀はしておきましたから」
「やっぱり戦場産ですのね。そういうつもりではなかったのですけれど」
聖女は丸く開いた小さな穴を覗き込みながら、今ひとつズレたハァビーの言葉にため息をついた。
あの黒く縁取られた穴は……弾痕だよな。技術レベルからして火縄銃ぐらいのものは存在すると思っていたけど。ハァビーを含むこの世界での知り合いは、全員そんな戦争を体験してきてる。
10年も昔と言えば昔。最近と言えば最近。俺達の被っている兜は、そんな歴史の名残を携えた骨董品だ。
シケたことを考えても仕方ないので、作業に集中することにした。
「さぁ、男どもはこっちで鬼退治だ」
「コツをお教えしますね」
噴霧器や旗、ホイッスルやらの使い方について、ハァビーが皆にレクチャーを始めた。説明はしおりを作っておいたおかげですんなりと飲み込んでくれる。
ハンドルで圧縮するシンプルなものだし扱いは大丈夫だろう。旗やホイッスルは普通の信号用だが、意外に伝わるから凄い。
相手が芋虫でも、人間サイズにまで成長すれば知能はそれなりに高くなるのだろうか。バロメッツなんかを見ていると、その可能性も否定できないな。
「高音を出すと、青鋼蚕には警戒音として聞こえてしまいますからこういう風に」
説明しながら、ハァビーはヒュルルと吹いた。
一般的に、生物の世界で高音は威嚇などに使われるからな。後は鳥の鳴き声とかに多い。
「わかりましたわ」
フェイも理解した様子で返事をすると、幼虫達の集団がやってくる方へと歩いていった。
ちらほらと到着した先発隊は、ハウスツリーの外壁を登ってきている。白色の柔軟なボディーをウニョウニョと動かして頑張る姿は、微笑ましいと言うべきか、ひたむきというべきか。
あ、いえ、気持ち悪いとか思っちゃいませんよ……?
「大仕事だ」
「エルフさん達を連れて来て正解でしたね」
ケェヌとシービンが準備を始めながら言った。
「え? 連れてきてたの?」
意外な存在に驚いていると、地面からすぅ~って姿を表したエルフ達。
「えぇ、アルラウネも会いたがっていましたから」
「そうか。中でバロメッツと遊ばせておいて」
アルラウネの埋まった鉢を見て、茎がへんにゃりしてるから少し罪悪感は芽生えた。
「えー、早速で悪いけど、手伝って貰えるかな?」
さっさと仕事を終わらせて、遊ぶ時間を作るとしようじゃないか!
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