絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

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6睡目・のジャ貴女(きじょ)カーニバル

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「何も無い村なので、治療が終わった後は暇でした……あ」

 フェイちゃんがまぁ~たやらかしやがったぁ!

 まだ十分に村人達に聞こえる距離で、振り向けば微妙な苦笑いを浮かべていた。事実と言えば事実なので反論は出来ないのだろうが、自虐と事実の指摘は心証に差があるもの。

「長閑で良い村だよね!」

「あぁ、広いから剣の稽古がし易い」

「そうそう。皆さんお年を召しているから、俺も口説かなくて済むしな!」

「薬ありがとうございましたぁ~!」

 シジットを含む男子組が大慌ててフォローを入れた。

「それでは、失礼しましたぁ!」

 フェイは幼馴染に抱えられるようにして、大急ぎで立ち去るのだった。

 俺達も、一瞬の苦笑を返した後は一目散にその場を離れる。聖女様の発言じゃなかったら石投げられててもおかしくなかったよ!

 失言をしたことのない者だけが石を投げなさい。とでも言えば良いの!? ねぇ!?

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか? 私、降りますね」

 5分ほど全力疾走した辺りでスピードを緩め、息を整える。更に荷物が増えているため、疲労が半端なくハァビーも気を利かせてくれた。

 腰ほどの高さの荷台から降りるという所作だが、彼女に異変が現れる。

「痛っ……」

「ハァビー? どこか……あっ、虫退治のときの!?」

 着地と同時に苦痛を訴えて膝を折ったことで、俺は数時間前にちゃんと治療を施せなかったことを思い出した。

「見せて」

「あ、の……っ!」

 ハァビーを荷台の縁に座らせ足首を手で少し動かしてみれば、痛みを訴えて顔をしかめさせた。

 それ以上に表情を赤くするのは、程よく贅肉の付いたふくよかな美脚をまじまじとみられるのが恥ずかしいからだろうか。少なくとも、バロメッツのせいでそっちのフェティシズムも開発された気がする。

 いやいや、今は邪念を振り払え!

「乗って。帰るまでには治癒しきれるでしょ」

「えっ。でも、お疲れですし」

 俺を気遣ってくれるハァビーが愛おしいが、だからこそ親父の教えが脳裏に過った。なんだかんだ、我の強い両親が上手くやっていけているのだから、その言葉も間違ってはないのだろう。

「男に負けないぐらい女の子は強いけど、怪我と病気のときにはいたわってやれって父親がさ」

「しかし、こうなったのは私の見通しが甘かったから……」

 頑なに俺に迷惑を掛けまいとしているが、このまま足を引きずって歩く姿を見るほうが心苦しかった。

 大事に思っているからこそ、ささいな手間も惜しみたくはない。少なくともその気持は本物だ。俺達は、そういうちょっとのことをなんてことないと助け合えるパートナーのはず。

「ハァビー」

「あ、あの、その……ありがとう、ございます。私、ずっと誰かに助けられてばかりで、お返しなんてほとんどできなくて」

「なるほど」

 ジッと目で訴えると、ハァビーも納得してくれたのか荷台に戻ってくれた。いろいろと気にしているようだが、この会話でさらに彼女のことを知れた。

 彼女は、人助けをしているという自覚がない。というより、1つの恩に自ら高い金利を吹っ掛……うん、吹っ掛けてしまうから人助けとみなす基準が酷く跳ね上がるのである。

 サムベアさんから稀少生産種のことを頼まれた現在、俺に泣きついてきた理由もわかるというもの。あの人だって不可能を可能にしろという無茶は言わなかったはずだから、過去の恩に対する返済に必要だと思い込んでしまったのが原因なのだろう。

「プッ」

 ハァビーの性格を推察して、ついつい笑いがこみ上げ吹き出してしまった。

 これに困惑を見せる彼女。

「な、何か!?」

「ごめん、ごめん。真面目というか、なんというか。恩とか、貸しとか、借りとか、なしにしよう。ぜーんっぶチャラ!」

 俺は運搬車に跨って、喋りながらも漕ぎ出した。

 当然、ハァビーがその言葉を飲み込むとは思っていない。なんとかなし崩しに支払おうとするのがわかっていて、先手を打つ。

「しかし」「チャラにしないなら、俺は向こうに帰れなくなる」

 意地悪を言うようで申し訳ないが、これぐらいしないと小さな綻びから壊れてしまいそうなのだ。俺の言葉がどういう意味か、聡明な彼女にわからないわけがないだろう。

「えっ……それは……」

「その時、一番の貸しをハァビーに作ることになる。返せる保証もない貸しだから、後腐れをなくすならそういうのって面倒くさいだろ?」

 こんなものは詭弁だ。こっちの世界に呼ばれたという負い目が残っていることを考えれば、送り返して漸くイーブンである。ただ、向こうに戻るための魔力を大事な羽根で補わなくてはならないことは知っている。

 だから、大真面目で生真面目でバカまじめでな彼女には一番利く方法だろう。

「わかりました……」

 渋々と言った様子で彼女は応え、それに返すよう俺は笑みを浮かべた。

「よーし! ちゃんと治しておくんだぞ? 素の魔力で足りないようなら、アルラウネの葉を煎じるから」

「え、あっ。あの、大丈夫です。せっかく育てた葉っぱなのに、使ってしまうのはもったいないです」

「ほら、まーたそんなこと言って。怪我や病気のときのために取っといた葉っぱでしょ。今のアルラウネなら、根っこだって少し貰っても元通りになるから大丈夫」

 俺を治療したせいで魔力が足りなくなったわけじゃないなら安心した。
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