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5睡目・3/1の純情な感情

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 エルフは大抵は普通の亜人、人間のそれとあまり変わらない存在とされている。古くは神様や精霊に近いとされているが、忘れ去られた設定だろう。だからこれまでの話で統合すれば、文献が少ない理由もわかってくるというものだ。

 とは言えここで諦めるわけにもいかず、あるもので調べるしかない。

「ふ~む。インタビュー記事はそれほどないんだ。身長なんかは人の平均より少し高いけど、体重は……禁則事項と」

 女性の体重に触れるのははばかられたのか『3-Co』とあり、半実態らしいので見た目以上にスカスカってことだ。単位は『シィオー』と、分子記号のようだが俺で言うところの『キログラム』である。

 さておき、色々と気になる内容が見られた。しかし、それらを噛み砕くより早く俺の睡魔が限界を迎えたことをここに謝罪しよう。

 翌朝、テーブルに突っ伏した俺に布団が掛けられていた。こんな気遣いをされるのは高校受験のときぐらいのものだよ。ちょっと気恥ずかしいような、嬉しいような……。

 隣で、俺に頭を預けて寝ているハァビーの姿を見ると、良くわからない気持ちが勝ってしまう。

「ハァビー?」

「ん、んぅ……。エーサ……ァ? ひゃぁわぁッ! す、すすす、すみません!!」

 その彼女はどこかで聞いたフレーズで目を覚ますと、俺に迷惑をかけていたと思ったのか慌てて離れた。

 相変わらず、顔を赤く染めるのだけは早い。彼女は手櫛で寝癖の着いた青い髪を整え、変な睡眠の痕跡が残っていないか心配になったらしく水瓶へと這っていく。

「いや、大丈夫。えーと、時間は?」

 俺は無防備な姿から目を逸らし、次に時計を見るために本棚の間に直立する大きなのっぽさんと顔を合わす。

 朝の6時50分をちょっとだけ過ぎたところ。決まった時間で開始しなければならない決まりこそないが、遅くなり過ぎても無責任だろう。

「直ぐ朝食を用意しますね」

「あぁ、こっちは資料をまとめておくから。後は、今日の予定だけど、本格的に魔法のことを教えてって。出て行っちゃったか」

 調理のために外へと出ていくハァビーを見送った。

 文献からまとめた資料を持ち出す準備をしつつ、本日も学園内を見学させて貰おうかと思案していた。

 それからはいつものように朝食を終わらせ、一張羅な薄緑だか薄灰色だかわからないツナギタイプの作業着に変え、運搬車で四時間の道程を汗しながら学園へと向かう。

「あれは……?」

 フと青空を仰いでみれば、半透明よりかは存在感のある人型が飛んでいるではないか。

 金髪も目立つが、大空に黒いロングヘアーがなびいているのもなかなかである。1つ2つなら良いが、10個くらいがフヨフヨしていたら異常と思わざるを得ない。

「エルフ? 移動しているみたいですね」

「移動か。でも普通、彼女らは自分の住処に選んだ場所から移住しないはずだよな。余程の環境変化が無い限りは」

 近づくにつれて見えてくる、一様に整った顔立ちの美女・少女のとんがり耳と少し透けた全体像に、視力の良いハァビーが先に気付いた。

 エルフは基本的に自然豊かな場所、汚染されていない地平・水平などに住み着く。

「元の自然がなくなったからと言っても、移動することは珍しいのに」

 ハァビーの言う通り、自然環境の変化そのものを嫌って消えるわけではない。

「俺の世界、済んでいる日本とか周辺の国には、風水という考え方があるんだ。多分、エルフ達はその中で扱われる地脈とか天脈、人脈みたいなものを選り好むんだろう」

「フースイですか? 魔法なんかとは違うんです? 魔力と近い考え方のようですけど」

 この世界では魔法に分類できるかもしれない。でもやはり、エルフ達について調べた文献などを見る限り、魔力の流れとは外れたところにある自然の活動を表しているように思える。

 要するに、学問とか学術だ。

 そしてエルフ達が学園の畑から逃げ出すということは……。

「急ぐぞ!」

「は、はい! 頑張ってください!」

 オウッと気合を入れて、三輪運搬車を必死に走らせた。嫌な予感がした。

 カホーの魔法をぶちかましまくっても居なくならなかった者達が、急に立ち去ろうとしてしまう出来事とは。

「……」「……」

 ゼェゼェと肩で息をするぐらいに急いでやってきた俺達を待っていたのは、畑の一部分を覆い尽くす野菜達だった。5人の生徒達はそれらを前にして喜ぶか、自慢げにしていた。

 俺達の姿を認めた彼らは、特にシジットはとても誇らしいと言わんばかりの表情である。

「何があったんだ……? これは?」

『俺の持ってきた野菜の種がこうなりました』

 俺の質問に直ぐ様答えてくれたが、何を言っているのかわからなかった。シジットの言葉自体というより、どうしてそれが成立したのかがわからない。

「どんな魔法を使ったら、野菜が1日で種から果菜をつけることができるんだ……?」

 怒らないから正直に答えて?

『魔法じゃありません。『聖別』した種を使ったんですよ』

 聖別? 魔法じゃないのに、このレベルの奇跡とか信じられませんよ?

 俺の知る範囲の話じゃないので、魔法のことを知る人に聞くことにする。

「ハァビー、見解を」

「多分、植物の育つ全ての行程を魔力で補ったのでしょう。ただ、シジットさんは魔力こそあっても容量は少ないので、祈りの時間はそこそこかかるはずですが」

 流石はハァビー。他者の魔力量までちゃんと認識してた。

『こうなることを予想した上で、三日前から準備していたのです』

 シジットの言が確かなら、俺達がインターンシップにくることを聞いた直ぐに行動したことになる。足りない魔力量を、聖別という祈りの時間でカバーしたわけだ。

『流石はディヴメア神様ですわね!』

 彼の見事な働きに反応したのはフェイだった。

 けど、そうじゃないんだ。シジットの純情に気付いている俺達に言わせれば、彼の求めたものに対して彼女の言葉は見当外れである。

 通訳しているハァビーの表情が痛々しい上に、彼もその勘違いを苦笑交じりにフォローするから余計に。

『そう、だね。ディヴメア神様に感謝だね』

 今日のマインスイープも早かったな……。

『えっと……シジット、よくやりましたわね!』

「死体蹴りやめなさぁぁぁぁぁいっ! こんな地雷原じゃマインローラーもぶっ壊れるって!」

 漸く気付きよりました。

 突っ込みを入れた俺を含む5人は、目も当てられないと言わんばかりに手で顔を覆って空を仰いだ。そして、空を浮遊するエルフ達と目が合った。

 シジットとフェイのことは仕方ないとして、今は生い茂った野菜達をどうにかしなければならない。
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