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5睡目・3/1の純情な感情
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『どうぞ』「です。確か、教師と学生を認識しているんだとか」
寡黙な騎士にエスコートされる形で、俺達は左右に続く校舎へと足を踏み入れた。
ハァビーの言う通りなら、魔法による生体認証ができるということだ。そこまで優秀とは思わなかったので、始終「へぇ~」を連発することになりそうである。
『それについては、サムベア先生の嘘かと』「そうなんですか!?」
「うわ、ホントだ! 普通に俺でも開けられる!」
しかしそれも、シービンの指摘であっさりと期待を打ち砕かれた。
試しに1人で出入りしてみたが、確かに部外者の俺でも扉を開くことができた。たぶん、こっちへワープしてくるサークルも生徒と一緒じゃなくても発動するだろう。
「まぁ、生体認証にしてしまうとエルフなどの半実態の種族が出入りできませんからね。そこまで万能ではありませんし」
まんまと騙されていたハァビーも、納得した様子で苦笑交じりに言った。
「エルフ? あじ……じゃなくて、色々な種族がいるとは聞いてたけど、エルフもいるのか?」
「えぇ。あ~、そうでした。エルフは稀少種ですが生産種でないので、私達の管轄外ということで外していました」
そこそこゲームなんかもやってきた現代っ子な俺は意外な事実を知って、次なる期待に胸を膨らませた。
ハァビー以外の亜人。えーと、人間に近しい種族を人間が呼ぶ時の言い方だと、気分を害することになるので気をつけている。人間以外の種族に会えるというのは結構嬉しいんだ。
もちろん、直接顔を遭わせる場合は各種族の特徴や思想への理解が必要だが。これはどこの世界でも、どんな存在でも同じことだろう。
「外の畑にも居るんですが、基本的にエルフは人嫌いです。人への警戒心が強いと言うべきでしょうか」
まさかあの畑に?
半実態ってことだから、姿を見えなくすることができるのだろう。昨晩の争いで怪我などさせていなければ良いが。もしかしたあら、あれのせいで余計に警戒させてしまった可能性はある。
「そうか。今は少し様子を見たほうが良いか? 下手に刺激すると、畑の範囲からさえ出ていってしまうかもしれないし」
「そうですね。ただ、最近の研究では自然豊かな場所でなくとも住み着く種族とされています。そして、一度定住すると余程のことがなければ出ていかないと」
「文献は家にあるんだろ? もしかしたら、改めて何かわかるかも」
「はい。私もまだ全部を読んだわけではないので、帰って調べてみましょう」
自然と笑顔が浮かんだ。やっぱり、彼女の方で合わせてくれているのかはわからないが、話していて煩わしいと思ったりしないな。
俺とハァビーがあれこれと話している間に、シービンから声がかかる。
「着き ました」
おっと、目的を忘れるところだった。
俺達は良くある木目調の白い扉の前にいて、周囲も少し青が薄くなっている。秘密基地の中央に近づくにつれて青鋼の含有率が変わったせいだろう。扉にまで最高級の素材を使わなくて良いと思ったのか、部屋を使うサムベアさんの好みなのかはわからない。
「あれ? ちょっと 失礼 します よ」
ノックの後、返事が無いのを訝しく思いながらシービンが扉を開いた。
正しくは開こうとした。そして施錠されていることに気付いて、いつも肩にかけているバックから古めかしい大きな鍵を取り出す。棒鍵なんてアンティークでしか見たことなかったが、彼ら錬成術士達はこちらの世界の鋳造技術を進歩させる気はないのだろうか。
まぁ、そういう疑問はさておき、教師の部屋の鍵を持っているというのはどういうことなのだろう。
「勝手に合鍵を作っちゃったりしてないよな……?」
『失礼な! ちゃんと許可を得て、いつでも来て良いという取り決めもしています』
俺が猜疑を問いかけると、シービンはやや憤然とした様子で返事した。彼のサムベアさんへの気持ちの寄せ方とかを見ると、ついつい疑ってしまうのも仕方ないだろう。
工業系の学校だと、卒業論文なんかの作成で教員の部屋への出入りが自由だったりするんだっけ? 小耳に挟んだ程度なので、こっちや魔法学園のシステムについてはわからない。
「ごめん、ごめん。それなら良いんだ」
ちゃんと謝った後、部屋の中を見渡すものの主の姿は見えなかった。
片付けてあるように見えて、棚や引き出しに無理やり詰め込んだ乱雑さが伝わってくる。五畳間くらいの細長い部屋で、割と普通の見た目なのが残念である。
「留守、みたいだな。他に居そうな場所の心当たりは?」
『さぁ……一応、稀少生産種の保護・飼育について国とやり取りしたり、忙しい方ではあるので。適当に尋ねて探しましょう』
流石に全てを知っているわけではないようだ。知っていたら、それはそれで怖いけどね。
部屋を施錠してから、近くを通りかかった生徒達に聞き込みへと向かった。
俺とハァビーは、辺に警戒されないよう離れたところで様子を伺っている。聞こえてくる言葉を通訳すると次のようになった。
『医療用シリンダーを片手に、スキップしながら食堂へ向かったのを見た』
注射器か? 想像するとかなり異質な光景だ。“料理の錬成術師”とか言いつつ、まさか真理の扉を見て頭がおかしくなったとか……。
バカげた想像をしている間にもシービンは戻ってきて、なんとも妙な表情をしながらも聞いた話を伝えてくれた。
寡黙な騎士にエスコートされる形で、俺達は左右に続く校舎へと足を踏み入れた。
ハァビーの言う通りなら、魔法による生体認証ができるということだ。そこまで優秀とは思わなかったので、始終「へぇ~」を連発することになりそうである。
『それについては、サムベア先生の嘘かと』「そうなんですか!?」
「うわ、ホントだ! 普通に俺でも開けられる!」
しかしそれも、シービンの指摘であっさりと期待を打ち砕かれた。
試しに1人で出入りしてみたが、確かに部外者の俺でも扉を開くことができた。たぶん、こっちへワープしてくるサークルも生徒と一緒じゃなくても発動するだろう。
「まぁ、生体認証にしてしまうとエルフなどの半実態の種族が出入りできませんからね。そこまで万能ではありませんし」
まんまと騙されていたハァビーも、納得した様子で苦笑交じりに言った。
「エルフ? あじ……じゃなくて、色々な種族がいるとは聞いてたけど、エルフもいるのか?」
「えぇ。あ~、そうでした。エルフは稀少種ですが生産種でないので、私達の管轄外ということで外していました」
そこそこゲームなんかもやってきた現代っ子な俺は意外な事実を知って、次なる期待に胸を膨らませた。
ハァビー以外の亜人。えーと、人間に近しい種族を人間が呼ぶ時の言い方だと、気分を害することになるので気をつけている。人間以外の種族に会えるというのは結構嬉しいんだ。
もちろん、直接顔を遭わせる場合は各種族の特徴や思想への理解が必要だが。これはどこの世界でも、どんな存在でも同じことだろう。
「外の畑にも居るんですが、基本的にエルフは人嫌いです。人への警戒心が強いと言うべきでしょうか」
まさかあの畑に?
半実態ってことだから、姿を見えなくすることができるのだろう。昨晩の争いで怪我などさせていなければ良いが。もしかしたあら、あれのせいで余計に警戒させてしまった可能性はある。
「そうか。今は少し様子を見たほうが良いか? 下手に刺激すると、畑の範囲からさえ出ていってしまうかもしれないし」
「そうですね。ただ、最近の研究では自然豊かな場所でなくとも住み着く種族とされています。そして、一度定住すると余程のことがなければ出ていかないと」
「文献は家にあるんだろ? もしかしたら、改めて何かわかるかも」
「はい。私もまだ全部を読んだわけではないので、帰って調べてみましょう」
自然と笑顔が浮かんだ。やっぱり、彼女の方で合わせてくれているのかはわからないが、話していて煩わしいと思ったりしないな。
俺とハァビーがあれこれと話している間に、シービンから声がかかる。
「着き ました」
おっと、目的を忘れるところだった。
俺達は良くある木目調の白い扉の前にいて、周囲も少し青が薄くなっている。秘密基地の中央に近づくにつれて青鋼の含有率が変わったせいだろう。扉にまで最高級の素材を使わなくて良いと思ったのか、部屋を使うサムベアさんの好みなのかはわからない。
「あれ? ちょっと 失礼 します よ」
ノックの後、返事が無いのを訝しく思いながらシービンが扉を開いた。
正しくは開こうとした。そして施錠されていることに気付いて、いつも肩にかけているバックから古めかしい大きな鍵を取り出す。棒鍵なんてアンティークでしか見たことなかったが、彼ら錬成術士達はこちらの世界の鋳造技術を進歩させる気はないのだろうか。
まぁ、そういう疑問はさておき、教師の部屋の鍵を持っているというのはどういうことなのだろう。
「勝手に合鍵を作っちゃったりしてないよな……?」
『失礼な! ちゃんと許可を得て、いつでも来て良いという取り決めもしています』
俺が猜疑を問いかけると、シービンはやや憤然とした様子で返事した。彼のサムベアさんへの気持ちの寄せ方とかを見ると、ついつい疑ってしまうのも仕方ないだろう。
工業系の学校だと、卒業論文なんかの作成で教員の部屋への出入りが自由だったりするんだっけ? 小耳に挟んだ程度なので、こっちや魔法学園のシステムについてはわからない。
「ごめん、ごめん。それなら良いんだ」
ちゃんと謝った後、部屋の中を見渡すものの主の姿は見えなかった。
片付けてあるように見えて、棚や引き出しに無理やり詰め込んだ乱雑さが伝わってくる。五畳間くらいの細長い部屋で、割と普通の見た目なのが残念である。
「留守、みたいだな。他に居そうな場所の心当たりは?」
『さぁ……一応、稀少生産種の保護・飼育について国とやり取りしたり、忙しい方ではあるので。適当に尋ねて探しましょう』
流石に全てを知っているわけではないようだ。知っていたら、それはそれで怖いけどね。
部屋を施錠してから、近くを通りかかった生徒達に聞き込みへと向かった。
俺とハァビーは、辺に警戒されないよう離れたところで様子を伺っている。聞こえてくる言葉を通訳すると次のようになった。
『医療用シリンダーを片手に、スキップしながら食堂へ向かったのを見た』
注射器か? 想像するとかなり異質な光景だ。“料理の錬成術師”とか言いつつ、まさか真理の扉を見て頭がおかしくなったとか……。
バカげた想像をしている間にもシービンは戻ってきて、なんとも妙な表情をしながらも聞いた話を伝えてくれた。
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