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5睡目・3/1の純情な感情
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そんな様子に何かを察したのだろう。頭脳明晰なシービンが、日本語が不自由なのも関わらず提案してくる。
『学校の見学なんてどうですか?』「ですか?」
「ほぅ……」
通訳された予想外の嬉しい申し出に、俺は思わず唸ってしまった。
インターンシップ担当とは言え部外者で、部外者でありながら関係者でもある今の立場。そりゃ、聖法国家フェビアルド有数の国立魔法学園を見学させて貰えるなんて、存在を知ってからも憧れの1つだったさ。
魔法なんて使えたら、当然嬉しいに決っている。
「でも、黙って見学させて貰って大丈夫なのかね?」
『先生はあれで抜かりはありません。学園長にも、お二人のことは通してありますよ』
胸を張ってサムベアさんのことを言うけど、今小さな声で「たぶん」って言ったでしょ?
「一応、確認しとこうか……。というわけですが、ハァビーさん?」
「……ダイナさんがお望みなら」
俺が魔法に傾倒して目的を忘れたりしないか、ハァビーは心配しているようだ。
断言こそできないまでも、頼まれたこと放り出したら親父がこっちまで来て殴り倒しにくるんじゃないかと恐れているから大丈夫。
許可は貰ったので、シービンの発言に疑いの目を向けつつ、俺達は校内見学の許可を貰いに教員用の寄宿舎へと向かった。昨日は遅かったから、薄闇に映る校舎の全景だけだったので何の評価もしなかったが、今日は少しゆっくりと眺めながら進んでいこうと思う。
まぁ、元から校舎なんて見えないんだけどね。
俺達は畑予定地から出て、近くにあるストーンサークルへと向かった。無作為に並べられているように見えて上空から見るとハートになっているらしいが、学園の入り口だったりする。
「なんで空間魔法で転移する入り口にしたんだろね?」
幾ら国立だからといっても、地下に教育機関を作るのはやりすぎじゃないかと思った。酸素や排熱なども魔法で行い、緊急時には別の場所へ転移が可能という話ではないか。
『生徒を守るためでしょう?』
『ディヴメア神様の教義において、生徒もまた神の子らですわ』
シジットとフェイが疑問に答えてくれた。
その間にも俺達は淡い光に包まれ、気がつけば屋内に佇んでいる。薄い青色の光沢を放つ壁に囲まれた通路で、左右には名札を冠した棚が幾つも並んでいる。更にその奥に部屋が1つあって、大きな扉が見えた。
『鋼鉄と青鋼で作られた壁という時点で、余程だけどな』「そうですね。青鋼と言えば、ケェヌさんがコートの下に着込んでいるものと同じですね」
ハァビーは直ぐに校舎と思しき空間を構成する物質を見抜き、ケェヌの装備にまで言及した。
青鋼というのはこちらの世界でもかなりレアな金属だ。硬度はダイヤモンドに並び、軟性が金ぐらいあるため変形に強く、魔法への耐性が非常に高いという代物。それを胸当てと手甲、足甲ぐらいにしか使っていないケェヌのものに比べ、校舎全体というとんでもっぷりである。あ、刀もか。
どこまで使っているかは知らないが、この部屋だけでもかなりの量だ。
金より高価な床を踏みつけるのも憚られるが、ハァビーにピッタリと寄り添われる形で俺も前へ進み出た。
「キュジェダー、フッ」
緊張した様子が面白かったのか、フェイが俺達を見て笑った。小さく息を漏らす程度の含み笑いだが、決してバカにしている表情ではなかった。彼女のアッシュブロンドと言うのか、綺麗なロングヘアーが楽しげに揺れるのがわかる。
『風に恋をすると言った様子ですね』「フェアッ! フェイさん!」
また、いつものように通訳して顔を赤くしたハァビー。
女子特有の恋にって奴なのかな? それとも、また空を飛びたいという渇望を表したものなのか。
「逸れないように、ね……」「ダイナ、さん……」
有翼人種のこと、ディーラのことは文献で少し読んだ程度だが、少しでも気が紛れるならばと彼女の手を取った。
フェイがまだ言葉を続ける。ただ、それはハァビーのトラウマに触れるものである。
『悔やまれますわね。もしかしたら、ハァビーさんこそ“聖櫃”に選ばれていたかもしれません。“隻翼の天使”の異名さえなければアッ……』「えっ、と……」
この地雷を踏み抜く才Nooooooォッ! 何なの、この聖女ちゃんは!? 一日一回は失言しないと駄目な呪いでもかかってるの!?
そんなはずないよねぇ?
“聖櫃”って聖人や聖女に刻まれる刻印で、呪術魔法なんかの邪悪なものを寄せ付けない神様の守護だもんね。
「あ、あの! その……」
「さぁささ、フェイ、先生を探そう!」
幼馴染にシジットったらマインスイープのタイムアタック記録を更新中じゃない!
失言した本人に悪気がないからなおさら質が悪いってやつだ……。俺だって顔合わせしたときの、「頼りなさそう」の爆弾発言は聞かなかったことにした。ハァビーは……気にしてない振りをしていても、握った手に力がこもるのがわかる。
あたふたするフェイが背中をシジットに押される形で、いつものようにその場は収まるのだった。
自然と5人の内のリーダーっぽいケェヌが棒型のドアノブに下げると、重厚な扉は難なく開いて次の通路を見せてくれる。
『学校の見学なんてどうですか?』「ですか?」
「ほぅ……」
通訳された予想外の嬉しい申し出に、俺は思わず唸ってしまった。
インターンシップ担当とは言え部外者で、部外者でありながら関係者でもある今の立場。そりゃ、聖法国家フェビアルド有数の国立魔法学園を見学させて貰えるなんて、存在を知ってからも憧れの1つだったさ。
魔法なんて使えたら、当然嬉しいに決っている。
「でも、黙って見学させて貰って大丈夫なのかね?」
『先生はあれで抜かりはありません。学園長にも、お二人のことは通してありますよ』
胸を張ってサムベアさんのことを言うけど、今小さな声で「たぶん」って言ったでしょ?
「一応、確認しとこうか……。というわけですが、ハァビーさん?」
「……ダイナさんがお望みなら」
俺が魔法に傾倒して目的を忘れたりしないか、ハァビーは心配しているようだ。
断言こそできないまでも、頼まれたこと放り出したら親父がこっちまで来て殴り倒しにくるんじゃないかと恐れているから大丈夫。
許可は貰ったので、シービンの発言に疑いの目を向けつつ、俺達は校内見学の許可を貰いに教員用の寄宿舎へと向かった。昨日は遅かったから、薄闇に映る校舎の全景だけだったので何の評価もしなかったが、今日は少しゆっくりと眺めながら進んでいこうと思う。
まぁ、元から校舎なんて見えないんだけどね。
俺達は畑予定地から出て、近くにあるストーンサークルへと向かった。無作為に並べられているように見えて上空から見るとハートになっているらしいが、学園の入り口だったりする。
「なんで空間魔法で転移する入り口にしたんだろね?」
幾ら国立だからといっても、地下に教育機関を作るのはやりすぎじゃないかと思った。酸素や排熱なども魔法で行い、緊急時には別の場所へ転移が可能という話ではないか。
『生徒を守るためでしょう?』
『ディヴメア神様の教義において、生徒もまた神の子らですわ』
シジットとフェイが疑問に答えてくれた。
その間にも俺達は淡い光に包まれ、気がつけば屋内に佇んでいる。薄い青色の光沢を放つ壁に囲まれた通路で、左右には名札を冠した棚が幾つも並んでいる。更にその奥に部屋が1つあって、大きな扉が見えた。
『鋼鉄と青鋼で作られた壁という時点で、余程だけどな』「そうですね。青鋼と言えば、ケェヌさんがコートの下に着込んでいるものと同じですね」
ハァビーは直ぐに校舎と思しき空間を構成する物質を見抜き、ケェヌの装備にまで言及した。
青鋼というのはこちらの世界でもかなりレアな金属だ。硬度はダイヤモンドに並び、軟性が金ぐらいあるため変形に強く、魔法への耐性が非常に高いという代物。それを胸当てと手甲、足甲ぐらいにしか使っていないケェヌのものに比べ、校舎全体というとんでもっぷりである。あ、刀もか。
どこまで使っているかは知らないが、この部屋だけでもかなりの量だ。
金より高価な床を踏みつけるのも憚られるが、ハァビーにピッタリと寄り添われる形で俺も前へ進み出た。
「キュジェダー、フッ」
緊張した様子が面白かったのか、フェイが俺達を見て笑った。小さく息を漏らす程度の含み笑いだが、決してバカにしている表情ではなかった。彼女のアッシュブロンドと言うのか、綺麗なロングヘアーが楽しげに揺れるのがわかる。
『風に恋をすると言った様子ですね』「フェアッ! フェイさん!」
また、いつものように通訳して顔を赤くしたハァビー。
女子特有の恋にって奴なのかな? それとも、また空を飛びたいという渇望を表したものなのか。
「逸れないように、ね……」「ダイナ、さん……」
有翼人種のこと、ディーラのことは文献で少し読んだ程度だが、少しでも気が紛れるならばと彼女の手を取った。
フェイがまだ言葉を続ける。ただ、それはハァビーのトラウマに触れるものである。
『悔やまれますわね。もしかしたら、ハァビーさんこそ“聖櫃”に選ばれていたかもしれません。“隻翼の天使”の異名さえなければアッ……』「えっ、と……」
この地雷を踏み抜く才Nooooooォッ! 何なの、この聖女ちゃんは!? 一日一回は失言しないと駄目な呪いでもかかってるの!?
そんなはずないよねぇ?
“聖櫃”って聖人や聖女に刻まれる刻印で、呪術魔法なんかの邪悪なものを寄せ付けない神様の守護だもんね。
「あ、あの! その……」
「さぁささ、フェイ、先生を探そう!」
幼馴染にシジットったらマインスイープのタイムアタック記録を更新中じゃない!
失言した本人に悪気がないからなおさら質が悪いってやつだ……。俺だって顔合わせしたときの、「頼りなさそう」の爆弾発言は聞かなかったことにした。ハァビーは……気にしてない振りをしていても、握った手に力がこもるのがわかる。
あたふたするフェイが背中をシジットに押される形で、いつものようにその場は収まるのだった。
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