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4睡目・俺ひとりじゃない
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「はい、レエヌセビー 術士 の」
彼は無造作な白髪と黒髪の半々になった頭を掻いて、少なからず実力を誇りたいかのように答えた。錬成術士ゆえに制限を掛けられない環境であるなら、こういう物品を作り出せるということらしい。
いや、シービンもやはりというべきか他の皆と同じく群を抜いて実力が高い。
鉄製の滑車を精密に作る腕前というのは詳しく知らないが、ビッグフビフビの巨体を引き上げるに足るだけの代物を錬成できるのは確かだ。
「誇って……えーと、どういうんだっけ?」
辞書も開けない状態で言葉に詰まってしまったので、恥を忍んでハァビーに声を掛けた。
「ジェジーシィジー ワイエックスダーテですね」
彼女の応えを聞いて、改めて謙遜しなくて良いということを伝える。
「あー、そうそう。ジェジーシィジー ワイエックスダーテ ワイモ ビィビー」
「ありがとう ござい ます」
まだまだ会話もままならず大変だ。
さて、皆が昼飯の準備をしている間に、俺達がどうしてこんな丘陵地帯の森へやってきたのか説明しよう。別に、ビッグフビフビを狩ること自体が目的ではなかった。
『これで必要な分の血は溜まりましたか?』
「あぁ、溜まったよ。これでアルラウネが育てられる」
ハァビーの通訳してくれたシービンの言葉に、当の目的が口から出てきた。
アルラウネ。またの名をマンドラゴラ。
その名前や、どういう場所に生えるのかという植生ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
「ナス科の植物を育てられるだけの男の精……カホーぐらいのプレイボーイなら行けたかもな」
「何かおっしゃいました?」
「なんでもない」
馬鹿げたことを考えたが、ハァビーやフェイもいるので自重した。
要は、男の出すものだと足りないので血液を代用しようって話だ。これもハァビーの家にある文献に記されていたから、先達の偉大さが身に染みてわかる。
ちなみに今回、生徒達に育てさせるのは2株目で、最初の奴は日々の飯用の動物から血を集めた。今日みたいに大物を狩れないので苦労しましたとも!
脱線したようだが、ビッグフビフビと出会ったのは単なる偶然だったのである。
そうしていると、生徒達から声がかかった。シービンも慌てて皆のところへと走っていく。
『何をしているんですか? 早くこないとお弁当がなくなりますよ』
人数も多いため、持て余した時間で釣りをして正解だ。
「ですって」
「急がないとな」
「内臓の処理は後で大丈夫でしょう。私が『シィディア』に仕舞っておきますので」
「あぁ」
『シィディア』というのは、さっきハァビーが桶を取り出したのと同じ魔法である。質量によって時間がかかるため、しばしここに残ってもらうことになるな。
お願いすることにして、俺達も昼飯を食いっぱぐれないようにと急いだ。
「魚はもう少しかかりそうですね。う~ん、美味しそうなお弁当です」
「誰が作ったんだ? フェイかな?」
『いいえ、信じられないことにサムベア先生です。あ……いえ、ちょっと意外かもしれませんが』
「……」「……」
俺達は、問いかけ、そして翻訳したことを後悔した。サラリと爆弾発言をしてくれるフェイ。
真っ先に動いたのはシジットである。
『え、えっと……早く食べましょう!』
『そう、そう!』
フォローするかのように他の皆がお弁当を回していった。
俺達も輪に加わって、手拭きの後に昼食を受け取った。ソーセージやら卵焼き、謎の肉の唐揚げなど、メニューは普通のものである。うん、こういうシンプルなバリエーションこそ良いんだよ。
「いっただきま~す」
サムベアさんの手作り弁当に舌鼓だ。
いや、しかし、これは……。
「美味い……。ほんと、なんで普通の見た目なのに……」
もっとサバサバした性格で、包丁どころかお玉さえも触ったことがなさそうなのにお上手だ。
ソーセージはただ焼いただけかと思ったが、微かに香辛料と甘いタレがコーティングされていて見事な塩梅になっている。卵焼きだって、魚介系の出汁が利いているのと甘いタイプのと。謎肉は牛に近いさっぱりしたものを柔らかくして、丸く成形してから揚げたらしい。肉質を柔らかくする際に使ったであろうフルーツの香りが、食後の爽やかさを演出してくれている。
『あれで、皆には“料理の錬成術師”なんて呼ばれてるからねぇ』
俺の驚いた表情から察したのか、カホーが聞いても居ないことをペラペラと喋り始めた。
『錬成魔法は近いところありますからね』
今度はシービンだ。
なるほど、どうして彼ら五人の教師をやっていられるのかわかったような気がした。常識外のぶっとんだ力こそなくとも、ある種の才能と経験が彼女を支えているのだろう。
「しかし、普段はハァビーのワイルドな料理ばっかだから新鮮だ」
久しぶりに食べた家庭的な料理に、ついつい漏らしてしまった。
肉の処理や味付けはちゃんとされているから問題なく食べられるよ!
「ふーんッ。別に、言い訳がましいことを考えなくて良いんですよ? サムベアさんの料理が美味しいのは本当ですし、私は私で基礎の調理しか学んでいないだけです」
ハァビーには珍しく、鼻を鳴らして反論してきた。
それを聞いて俺は思うのだ。彼女こそ言い訳がましいことを言わなくてもと。
勉強の日々で寝食を疎かにしてしまう性格は、今日までの生活でなんとなくわかっている。まぁ、そういうところも可愛いのだが。
彼は無造作な白髪と黒髪の半々になった頭を掻いて、少なからず実力を誇りたいかのように答えた。錬成術士ゆえに制限を掛けられない環境であるなら、こういう物品を作り出せるということらしい。
いや、シービンもやはりというべきか他の皆と同じく群を抜いて実力が高い。
鉄製の滑車を精密に作る腕前というのは詳しく知らないが、ビッグフビフビの巨体を引き上げるに足るだけの代物を錬成できるのは確かだ。
「誇って……えーと、どういうんだっけ?」
辞書も開けない状態で言葉に詰まってしまったので、恥を忍んでハァビーに声を掛けた。
「ジェジーシィジー ワイエックスダーテですね」
彼女の応えを聞いて、改めて謙遜しなくて良いということを伝える。
「あー、そうそう。ジェジーシィジー ワイエックスダーテ ワイモ ビィビー」
「ありがとう ござい ます」
まだまだ会話もままならず大変だ。
さて、皆が昼飯の準備をしている間に、俺達がどうしてこんな丘陵地帯の森へやってきたのか説明しよう。別に、ビッグフビフビを狩ること自体が目的ではなかった。
『これで必要な分の血は溜まりましたか?』
「あぁ、溜まったよ。これでアルラウネが育てられる」
ハァビーの通訳してくれたシービンの言葉に、当の目的が口から出てきた。
アルラウネ。またの名をマンドラゴラ。
その名前や、どういう場所に生えるのかという植生ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
「ナス科の植物を育てられるだけの男の精……カホーぐらいのプレイボーイなら行けたかもな」
「何かおっしゃいました?」
「なんでもない」
馬鹿げたことを考えたが、ハァビーやフェイもいるので自重した。
要は、男の出すものだと足りないので血液を代用しようって話だ。これもハァビーの家にある文献に記されていたから、先達の偉大さが身に染みてわかる。
ちなみに今回、生徒達に育てさせるのは2株目で、最初の奴は日々の飯用の動物から血を集めた。今日みたいに大物を狩れないので苦労しましたとも!
脱線したようだが、ビッグフビフビと出会ったのは単なる偶然だったのである。
そうしていると、生徒達から声がかかった。シービンも慌てて皆のところへと走っていく。
『何をしているんですか? 早くこないとお弁当がなくなりますよ』
人数も多いため、持て余した時間で釣りをして正解だ。
「ですって」
「急がないとな」
「内臓の処理は後で大丈夫でしょう。私が『シィディア』に仕舞っておきますので」
「あぁ」
『シィディア』というのは、さっきハァビーが桶を取り出したのと同じ魔法である。質量によって時間がかかるため、しばしここに残ってもらうことになるな。
お願いすることにして、俺達も昼飯を食いっぱぐれないようにと急いだ。
「魚はもう少しかかりそうですね。う~ん、美味しそうなお弁当です」
「誰が作ったんだ? フェイかな?」
『いいえ、信じられないことにサムベア先生です。あ……いえ、ちょっと意外かもしれませんが』
「……」「……」
俺達は、問いかけ、そして翻訳したことを後悔した。サラリと爆弾発言をしてくれるフェイ。
真っ先に動いたのはシジットである。
『え、えっと……早く食べましょう!』
『そう、そう!』
フォローするかのように他の皆がお弁当を回していった。
俺達も輪に加わって、手拭きの後に昼食を受け取った。ソーセージやら卵焼き、謎の肉の唐揚げなど、メニューは普通のものである。うん、こういうシンプルなバリエーションこそ良いんだよ。
「いっただきま~す」
サムベアさんの手作り弁当に舌鼓だ。
いや、しかし、これは……。
「美味い……。ほんと、なんで普通の見た目なのに……」
もっとサバサバした性格で、包丁どころかお玉さえも触ったことがなさそうなのにお上手だ。
ソーセージはただ焼いただけかと思ったが、微かに香辛料と甘いタレがコーティングされていて見事な塩梅になっている。卵焼きだって、魚介系の出汁が利いているのと甘いタイプのと。謎肉は牛に近いさっぱりしたものを柔らかくして、丸く成形してから揚げたらしい。肉質を柔らかくする際に使ったであろうフルーツの香りが、食後の爽やかさを演出してくれている。
『あれで、皆には“料理の錬成術師”なんて呼ばれてるからねぇ』
俺の驚いた表情から察したのか、カホーが聞いても居ないことをペラペラと喋り始めた。
『錬成魔法は近いところありますからね』
今度はシービンだ。
なるほど、どうして彼ら五人の教師をやっていられるのかわかったような気がした。常識外のぶっとんだ力こそなくとも、ある種の才能と経験が彼女を支えているのだろう。
「しかし、普段はハァビーのワイルドな料理ばっかだから新鮮だ」
久しぶりに食べた家庭的な料理に、ついつい漏らしてしまった。
肉の処理や味付けはちゃんとされているから問題なく食べられるよ!
「ふーんッ。別に、言い訳がましいことを考えなくて良いんですよ? サムベアさんの料理が美味しいのは本当ですし、私は私で基礎の調理しか学んでいないだけです」
ハァビーには珍しく、鼻を鳴らして反論してきた。
それを聞いて俺は思うのだ。彼女こそ言い訳がましいことを言わなくてもと。
勉強の日々で寝食を疎かにしてしまう性格は、今日までの生活でなんとなくわかっている。まぁ、そういうところも可愛いのだが。
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