絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

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4睡目・俺ひとりじゃない

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 俺が釣りから戻ったちょうどのところで、狩りも佳境に差し掛かっていた。

 木々の隙間を抜けて駆け込んできた、成人男性の五人分はあろうかというイノシシみたいな生物。その巨体が押し広げてくれたおかげか、原生林ってほどではなくて木が疎らに生えた丘陵地帯って感じだ。

 釣り中も、騒ぎが聞こえてきたのでちょっと不安だった。そもそも、大人の俺が安全に釣りをして、少年少女の狩りを任せるのはいかがなものなのか。

「飛んだよ! こいつ!」

 丘の切れ目にあたる10メートルもあるかぐらいの崖から、化物イノシシことビーアイジーエフビーエフビーことビッグフビフビが飛び出した。

 それに合わせて、法衣のような衣装に身を包んだ少年も空中へと身を投げ出して声を響かせた。

 ビッグフビフビより僅かに頭上。腰の捻りと腕の振りだけで、不可視の拳を打ち下ろす。

「ビュギャァァァァァァァァアァァッ!」

 断末魔の悲鳴もかくやと言う絶叫を吐き出した。頭部への一撃で、全身が縦に錐揉み回転しながら地面に吸い込まれようとする。

 このままだと、巨体はズドゴォンッと地面にクレーターを生み出すところだ。

 落下地の予想地点にはハァビーが佇んでいる。

「キャペ エルジー!」

 バレーボールのサーブを上げるときのフォームに近いだろうか。青いセミロングヘアーがそよぎ、毛先の踊りは少しずつ勢いをマシていった。

 彼女の力強い発声に応え、大木をギチギチと軋ませるようにして打ち鳴らしながら風が集う。それは狙いを外さず上昇気流を生み出し、落下してくる巨体と少年の体を受け止めた。

 ビッグフビフビほどになればゆっくりと軟着陸を決めるだけだが、俺より頭ひとつ分くらい小さな体だと吹き飛ばす勢いの突風だ。

 それでも彼は、空中で宙返りを決めて三点接地を決めた。

『二言の魔法理語(まほうりご)でこれだけできるなんて、ハァビーさんは凄いや』「って、そ、そんな! 皆さんに比べたら私なんて……! ねぇ、ダイナさん?」

 俺のために咄嗟に翻訳してくれた言葉で、褒められたことを後から知って顔を赤らめるのはもはや日常茶飯事となった。

 「そんなことはないよ」と言ってもまた照れるのだから、ハァビー達に向けて7尾の魚を掲げて釣果を見せるぐらいしかできない。

「アイエーエヌ ワイヘ?」

 ビッグフビフビを仕留めた少年は、立ち上がると別の方向を見て問いかけた。

 釣られて向いた視線の先に人などはなく、訝しく思った瞬間にはハァビーは大きな桶を用意していた。何事かと思えば、片足を投げ出してしゃがみこんだ体勢の黒服の少年が、空間から現れて腰だめの武器を鞘に収めている。

 チンッと鯉口が鳴ると同時に、ビッグフビフビの首に筋が入っていって……。残念ながらこれは見せられないし、俺もあまり見たくはない。

 視線を逸らした後に聞こえるのは、何か液体らしきものが吹き出す生々しい音。

「知ら アイエェビー」

 黒髪長髪の黒一色な少年は、影を孕んだ冷たい声で格闘少年に答えた。

「ハハハハッ!」

 法衣と道着を足して2で割ったような衣装の格闘少年は、短髪の容貌から見て取れる通りの快活な笑いを返した。

 黒一色の少年も格闘少年も、仲が悪いというわけではないのがわかる。

「シジットさんもケェヌさんも、えっと……サエヌ 達 ジェジーエスジー では」

 格闘家のシジットや刀使いのケェヌほどじゃないと謙遜するハァビー。だが、風の攻性魔法と空間魔法、そして聖魔法の治癒を巧みに操れるというだけで凄い、らしい。

 通訳に彼らとの会話にと忙しい彼女を見ると、俺も早く覚えないといけないなと思うのだが。

「それ に カホー サエヌ に シィダーラベタ ら。キューネェ?」

 ハァビーは、カホーさんに比べると私なんてまだまだだ、などとおっしゃいましたが。当の人物は俺達を遠巻きに眺める位置にいて、視線を受けると涼しげな表情で肩を竦めて見せた。

 カホーはローブにとんがり帽子の魔法使い然とした格好をしていて、その側には法衣を纏った少女がいる。彼女のものはシジットが着ているのとは違って、本当にゆったりとした白と青を基調として金の刺繍が施された服である。要は、本当に神様に使える聖女ってわけ。

「キューアァ、別 に フェイ と ハナエフダー して いる こと を 言った わけ ピィビーャ」

 カホーはこちらの視線を非難だと思ったのだろうが、それをシジットが訂正した。

 まぁ、インターンシップにやってきた初っ端からハァビーに粉をかけようとしたのだから、俺達に疑われたって仕方がない。臨時とは言え自分の教え子を猜疑の目で見るのは嫌だけど、ヨヨヨ。

 嘘泣きはさておき、まだ始まって2日で信用や信頼など互いに築けるわけもない。ハァビーは彼ら五人と面識が一応あるので、今みたいなこともできたのだろう。って、サムベアさんが居ないとなったら直ぐ口説きに来たのか、カホーは……。

「ダイナ サエヌ! こっち、手伝い して ください」

「おーっと、ごめ……オォジーメエヌ」

 呼ばれて振り向いたら、5人目の生徒がビッグフビフビをロープで釣り上げようとしていた。

 魚をハァビーに預けて、謝りつつ駆け寄るとその手伝いをする。俺よりも小柄で非力な少年が化物イノシシの巨体を持ち上げられるのは、木に着けた滑車のおかげである。

「シィジーレ ワイケェジー シービン オーエー カノガイータ アイジーカ?」

 シービンと呼んだ少年に、滑車の製作者かどうかを尋ねた。
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