愛する仙台娘

AAKI

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Take5【論功行賞】

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 些細なことではあるが、このときにカメラとマイクは作動していた。慌てて置き去りにしたことと、めぐりがうっかり操作してしまったことが重なったのである。

 時折ノイズが走りながらも、無造作に動くカメラは少しずつまこやめぐりの顔を写す。雨音に紛れ、マイクがささやかな二人のつぶやきを拾う。

「めぐ、大丈夫だから……」

「う、うん……」

 まこはめぐりを励ましながら、滑る足をなんとか支えてゴツゴツとした道を下りた。邪魔になるカメラやマイクを手放さないのは、それが大事なものだとわかっているからだ。

 二人が出会って今日に至るまでの思い出と同じぐらい大事なもの。

 最初は東京住みということでお高く止まっているのかと思えば、存外話しやすい柔和な性格である。だからまこは、めぐりが好きになった。

 なにやら言葉の節々に地方特有の排他的なものを感じたものの、実は素直でストレートで隠し事が苦手な女の子である。ゆえにめぐりは、まこを好きになった。

 互いに想いを伝え合わずとも、一緒にいるだけで伝わるようになる。

「ちょっと高い段差だから」

 後もう少しで中腹ぐらいにたどり着いた。そこで、捻挫した状態では難しそうな岩場に差し掛かりまこはめぐりより先に下り体を預けさせようとする。先に荷物を受け取り、ほとんど倒れるように下りてくるめぐりを抱きかかえた。

 しかし、カメラとマイクとめぐりの重量を支えるのは難しかったらしい。

「あッ……」

 足が宙を掴んだかのように思えた瞬間、グラリと体が傾いていくのがわかった。まこは、カメラやマイクを投げ出して、受け身を取るか否かを一瞬のウチで考える。

「ッ!」

 めぐりも、まこに危機が迫っていることを察して思案した。なんとか動かせる方の足だけで体勢を変えて、まこが地面にぶつからないようにするかどうか。

 二人共が駄目かと思った。が、思ったよりも衝撃はやってこない。

「?」

「あ……」

 めぐりとまこが首をかしげそうになって、フッと視線を上げるとそこにはむつみ達3人の姿があった。見知らぬ男性は医者か誰かだろう。

「ふぅ。無事で良かった」

「待っていろと言ったのに……」

「機材も無事のようです」

 男子3人が口々に言って、状況を確認した。悪化のはめぐりの容態ぐらいで、すぐさま医者が持ってきた折りたたみ式のストレッチャーに乗せる。

「……」

 そんな様子をまこは呆然と見守るも、少しばかり感極まってしまったようだ。雨が顔を濡らしていた所為か、誰にも知られなかったかもしれないが。

 こうして、仙台高校映画研究部の休日は終わりを告げるのだった。

 もちろんめぐりは、数日の安静を言い渡された程度で済んだことを報告しておく。

 ――。

 ――――。

『評:峰騎士L先生』

『まず、登場人物が可愛いね。さらに同性愛を取り扱ってくる勇気は素晴らしいよ。仙台愛が溢れてるっていうかね――』

『佳作』

『題:愛する仙台娘』

 仙台高校の面々が作った映画に与えられた評価はそれだった。

「うん」「まぁ」「良くも悪くも」「ないかしら」「って感じね」

 5人がそれぞれ、口を揃えつつ言ったセリフ。

 苦労の割には見合わない気もする。が、ノイズが多かった山のシーンでは百合百合しい回想をもってつないだだけで、分相応な評価のようにも思える。

「他の批評担当が見る目がなかったのよ」

 さらに憎まれ口を追加したのはまこだ。言葉とは裏腹に、安心しているのは誰の目からも明らかだろう。

 あのような百合百合しい画が大勢の人にさらされるのも嫌だし、めぐりとの友情――強いてはその先の気持ちまで覗かれるのは、たまらなく恥ずかしいというもの。

「しかし、これで文化祭の分には困らないな」

「は?」

「おっと」

「ぶちょー……」

 安心したところで、むつみが爆弾を投下してきた。当然、まこも驚いた。

 直ぐに、この撮影が先の伏線だと気づき慌てる。しまったとばかりに、もりやとみずやが批判しつつも足を外へ向けた。

「ま、待ちなさいッ。こらぁ!」

 逃げようとするむつみ達を追うまこ。それを、足を痛めて走れないめぐりが、放っていかれながらも呼び止めようとする。

「まぁまぁ。その、私は別に、良いかなって……」

「……めぐがそう言うなら」

 言われて、まこはピタリと足を止めた。

 振り返るまこと、ゆっくりながらも歩み寄ってくるめぐり。二人の絆は、その間の距離に関わらないようである。

 どのような絆があったのかは、あえてここでは語らない。
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