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Take2【傍若無人】
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回想は終わり、撮影シーンへと戻ってくる。
記憶を遡っている間に、どうやら状況が動いていたようだ。撮影をしていたむつみが、めぐりに何か注文をつけられているようである。
「なんだか嫌だから、そんなに近づかないでくれかな? それだけの話なんだけれど」
「いや、これは正当な撮影のための行為で、卑しい気持ちなどは……」
「そういうことじゃなくて、えーと」
なにやら若干揉めているようで、めぐりの顔には嫌悪が浮かんでいた。執拗な撮影に対して気分を害したといったところか。
そこで立ち上がったのがまこである。
「そろそろ私のシーンでしょ。ずんだ餅とシェイクの紹介だっけ?」
「シェイクは出典元の都合でなくしてます」
まこの問いにみずやが答え、ついでとばかりに市販のずんだシェイクを片手にカメラの前へと出た。
「そんな食べ方じゃ駄目、ぐりり。そのマナーっていうのが実に良くないの」
地下強制労働部屋の班長みたいなことを言いながら、シーンの中へと参加していった。セリ鍋の食べ方へのダメ出しの後、自らハフハフとかっこむ自演をしてみせるほどだ。
めぐりの配役であるぐりりとは違い、女の子らしさなどというものを捨てたのがまこ演じるまこちというキャラの魅力だろうか。胸の話ではない。断じてだ。
なんとか空気が和らいだところで、商品の宣伝に入る。
「うーんと、こんな感じ?」
立ち位置を調整して、セリ鍋やずんだ餅を置いた机の前に並んだまこ達。
「じゃあ、ここにゆるキャラの『むすび君』をさり気なく置いてアピールしよう」
雰囲気が固くならないように、むつみは市のマスコットキャラクターを置いてみた。
暗い趣のある店内に対して白くて可愛げのあるぬいぐるみがあるものだから、逆に浮いてしまっていた。むつみはそれに気づかずカメラを回し続ける。
「さりげないわけないでしょっ! 十分いずい(東北方言でしっくりこない、居心地が悪いなど)わ!」
気づいたまこは、そのストレートな性格から歯に衣着せぬ物言いで、その人形をひっつかんでむつみへと投げつけた。
「うぉっ!」
大した威力ではないが、ゆるキャラ砲弾をむつみは回避した。ポフンッと頭の形に合わせて三角飛びをした後、床に転がった。
まこは鼻でため息を吐くと、立ち位置に戻って目で指示した。
「……」
むつみも、女優が少しばかり威張ることなどなれているのか、気持ちを落ち着かせて撮影に戻る。周囲も息を呑んで見守っていたが、問題もなさそうで胸をなでおろした。
それを除けば、今の所撮影は順調に進む。
「――のセリ鍋をよろしくね」
「仙台市に来た人はぜひお立ち寄りください」
まことめぐりのセリフでシーンが終わり、緊張感が一気にほぐれた。
「お疲れ様ー。さて、片付けせねばな」
「これ、タオルどうぞ」
「次は青葉山公園だったか。って、もう5時か」
むつみがカットを入れて、広げられた食べ物の片付けを始めた。みずやがまこ達にタオルを渡して、もりやが次のスケジュールを確認した。
明日に回すかどうかという時刻である。そんな一段落ついたぐらいの時間な所為か、少し油断が生じたのかもしれない。
「さらにそこから鎌倉山に登る予定だし、今日はこれぐらいに、とっ!」
「あッ」
食べ終わった食器などを下げようと運んでいたむつみが、振り返った拍子に手をぶつけてしまった。まこの背中に。
胸だった可能性もあるが、一瞬のことだったのでわからない。
どちらかはさておき、鍋の汁が多少かかって肩口を濡らした。
あら大変と、お店の女将さんは慌てて店の奥へと引っ込んでいく。
「……すまない。えっと、タオルを」
「何よ。さっきの当てつけ?」
「えっ、は?」
むつみも慌てて対応しようとするが、まこは乱暴にタオルを受け取り不機嫌さを顕にした。
見当違いの指摘にむつみも驚くが、まこもまた直ぐに過ぎた考えだと気づく。
「あ~いえ。良いわ。次、どうするか決めて頂戴」
ちょうどそこで、女将さんが戻ってきて変えの衣装を持ってきてくれたおかげで悪い空気は払拭された。
まこは、肩口の汚れが酷い学生服だけを脱いで、シャツの上に借りた服を羽織る。当然、それほど扇情的ではないまでも、めぐりが目隠しに立つ。
男どもはそれほど興味なく、次の撮影を明日に見送るか相談する。
結果、山登りの予定もあるため翌日に持ち越される。難航した理由としては、天候がやや怪しいということであった。
「日曜日明けには校内での撮影でいっぱいいっぱいだろうしな」
「編集とかもあるからなぁ」
「ギリギリですね」
という具合に、三者三様の意見がまとまった。
記憶を遡っている間に、どうやら状況が動いていたようだ。撮影をしていたむつみが、めぐりに何か注文をつけられているようである。
「なんだか嫌だから、そんなに近づかないでくれかな? それだけの話なんだけれど」
「いや、これは正当な撮影のための行為で、卑しい気持ちなどは……」
「そういうことじゃなくて、えーと」
なにやら若干揉めているようで、めぐりの顔には嫌悪が浮かんでいた。執拗な撮影に対して気分を害したといったところか。
そこで立ち上がったのがまこである。
「そろそろ私のシーンでしょ。ずんだ餅とシェイクの紹介だっけ?」
「シェイクは出典元の都合でなくしてます」
まこの問いにみずやが答え、ついでとばかりに市販のずんだシェイクを片手にカメラの前へと出た。
「そんな食べ方じゃ駄目、ぐりり。そのマナーっていうのが実に良くないの」
地下強制労働部屋の班長みたいなことを言いながら、シーンの中へと参加していった。セリ鍋の食べ方へのダメ出しの後、自らハフハフとかっこむ自演をしてみせるほどだ。
めぐりの配役であるぐりりとは違い、女の子らしさなどというものを捨てたのがまこ演じるまこちというキャラの魅力だろうか。胸の話ではない。断じてだ。
なんとか空気が和らいだところで、商品の宣伝に入る。
「うーんと、こんな感じ?」
立ち位置を調整して、セリ鍋やずんだ餅を置いた机の前に並んだまこ達。
「じゃあ、ここにゆるキャラの『むすび君』をさり気なく置いてアピールしよう」
雰囲気が固くならないように、むつみは市のマスコットキャラクターを置いてみた。
暗い趣のある店内に対して白くて可愛げのあるぬいぐるみがあるものだから、逆に浮いてしまっていた。むつみはそれに気づかずカメラを回し続ける。
「さりげないわけないでしょっ! 十分いずい(東北方言でしっくりこない、居心地が悪いなど)わ!」
気づいたまこは、そのストレートな性格から歯に衣着せぬ物言いで、その人形をひっつかんでむつみへと投げつけた。
「うぉっ!」
大した威力ではないが、ゆるキャラ砲弾をむつみは回避した。ポフンッと頭の形に合わせて三角飛びをした後、床に転がった。
まこは鼻でため息を吐くと、立ち位置に戻って目で指示した。
「……」
むつみも、女優が少しばかり威張ることなどなれているのか、気持ちを落ち着かせて撮影に戻る。周囲も息を呑んで見守っていたが、問題もなさそうで胸をなでおろした。
それを除けば、今の所撮影は順調に進む。
「――のセリ鍋をよろしくね」
「仙台市に来た人はぜひお立ち寄りください」
まことめぐりのセリフでシーンが終わり、緊張感が一気にほぐれた。
「お疲れ様ー。さて、片付けせねばな」
「これ、タオルどうぞ」
「次は青葉山公園だったか。って、もう5時か」
むつみがカットを入れて、広げられた食べ物の片付けを始めた。みずやがまこ達にタオルを渡して、もりやが次のスケジュールを確認した。
明日に回すかどうかという時刻である。そんな一段落ついたぐらいの時間な所為か、少し油断が生じたのかもしれない。
「さらにそこから鎌倉山に登る予定だし、今日はこれぐらいに、とっ!」
「あッ」
食べ終わった食器などを下げようと運んでいたむつみが、振り返った拍子に手をぶつけてしまった。まこの背中に。
胸だった可能性もあるが、一瞬のことだったのでわからない。
どちらかはさておき、鍋の汁が多少かかって肩口を濡らした。
あら大変と、お店の女将さんは慌てて店の奥へと引っ込んでいく。
「……すまない。えっと、タオルを」
「何よ。さっきの当てつけ?」
「えっ、は?」
むつみも慌てて対応しようとするが、まこは乱暴にタオルを受け取り不機嫌さを顕にした。
見当違いの指摘にむつみも驚くが、まこもまた直ぐに過ぎた考えだと気づく。
「あ~いえ。良いわ。次、どうするか決めて頂戴」
ちょうどそこで、女将さんが戻ってきて変えの衣装を持ってきてくれたおかげで悪い空気は払拭された。
まこは、肩口の汚れが酷い学生服だけを脱いで、シャツの上に借りた服を羽織る。当然、それほど扇情的ではないまでも、めぐりが目隠しに立つ。
男どもはそれほど興味なく、次の撮影を明日に見送るか相談する。
結果、山登りの予定もあるため翌日に持ち越される。難航した理由としては、天候がやや怪しいということであった。
「日曜日明けには校内での撮影でいっぱいいっぱいだろうしな」
「編集とかもあるからなぁ」
「ギリギリですね」
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