17 / 29
第二話・考えうる限り最低の初遭遇
2-4
しおりを挟む
色々と察せられていて、自己正当化ができない。
「なぁッ、もういって良いだろ?」
ここで痺れを切らせた緒方が、声を大きくして聞いてきた。
もちろん、逃げられるわけにはいかず沖が阻止に入る。
「待ってください。まだやるべきことがありますから」
「やることって……なんですかね?」
今度は、岸がうんざりした様子で聞いた。
それを両手を前にしてドゥドゥと抑える沖。そのまま正力さんと話をする。
「こちらの3人で、お知り合いは本当にいないんですね?」
4人の会話を聞いていればだいたい予想できるが、それゆえに被害者からしてみれば不可解な質問だった。皆して顔見知りなどいないように会話していたのだから、まずそこを疑うとは考えなかったのだろう。
いや、人間の記憶など当てにならないというもの。
「やっぱり記憶にないってば」
3人をざっと眺めた後、正力さんはそう答えた。
腕時計カメラで下方からコッソリ確認すれば、やはり犯人は憎たらしいとばかりに歯噛みしている。ただ適当に正力さんを狙ったわけではなく、怨恨の可能性の方が有力だろう。
「えーと、ではお三方はどういう集まりなんです? 古くからのご友人とか?」
沖はそれで諦めることなく発想を逆転させて、男達のことを探っていった。
「え? あー、新型スマフォを買いに行く同好会というか、ネットの集まりだよ」
答えたのは岩市だ。
緒方も続く。
「どうせ見ず知らずの関係だし、3人とも同じカラーを買ったわけさ」
「ということは、誰かが呼びかけたってことか?」
黙って見ていると逆に怪しまれそうなので、俺も少しだけ当たり障りのない質問をした。
「あぁ、確か岸じゃなかったか?」
「え? えっと、そうだったっけ?」
緒方に指摘されて、岸は戸惑いながら誤魔化そうとした。
怪しいところだが、保留にしてまずは証拠に至る道筋を固めなければならない。犯人はお前だなどと決めポーズをしたところで、じっちゃんの名に何百万賭けたとしても、俺の口からそれを言えば捕まるのは自分自身だ。
「そうだぜ。案内はお前ができるからって、あっちのお店に決めたんじゃねぇかよ」
緒方が詰めの一発を食らわせてくれた。
「犬サンのバルーンってことは……あの辺りの出身? じゃあ、もしかして?」
さらに正力さんも、出身地が絞り込めたことで思い当たった人物がいるようだ。
「もしかして、同じ小学校の……?」
記憶の到達点はそこだったようだ。
彼らの年齢がだいたい25になるかどうかだから、15年くらい前ともなると顔も忘れてるか。きっと、事情があって同窓会にも出られなかったんだろう。
俺なんて、同窓会どころか普通の学校にさえ行ったことがないからな。
「同窓会に出てこなかったからわからなかった……」
「……」
しみじみとしている間にも、犯行の動機に近づいてきたせいか険悪な空気になり始めた。
その昔に付き合いのあった奴――岸が眼鏡を正して、ここで思い出したかのように振る舞う。
「あぁ、正力。思い出しましたよ。昔は、随分と世話になりましたね」
「世話?」
「嫌な思い出だからすっかり忘れてましたよ」
「えっと、一緒に遊んだ覚えはあるけど……」
「チッ……」
岸の言葉に、正力さんは当時のことを思い出そうと記憶を掘り起こしている。
微かに舌打ちが聞こえた。ここまで言って思い出さないのかと、憤っているのが俺からだとわかる。
「軽い子供らしいイジりってやつですよ。あんたにとってはねッ」
「あ、あの……えっと……。おまわりさん!」
やや声を荒げて言い放った岸に危機感を覚えたか、正力さんが怯えてしまった。完全でないにせよわずかにコートの袖を掴まれれば、当然だ。
誰かが呼んだかそれとも既に呼んであったか、ちょうど良いタイミングで警察の制服が電光掲示板の向こうに見える。
俺も一応、さりげなく2人の間に入っておく。が、やってきた警察官がこれまたポニーテールの黒髪とタイツに包まれた御御足が美しい美女で、俺は思わずそちらへ流れてしまいそうになる。
「なにか問題でも?」
婦警さん、というのは今は不適切なのかもしれないけど響き重視だ。えー、その婦警さんが問いかけてきてくれたので俺が前に出る。
「えぇ、えぇ、貴女のお美しさが問題です。お名前を伺っても?」
「はぁ……? こういう者です」
戸惑いつつも、婦警さんは警察手帳を出した。
ほう、神本 遊里さんね。
「神本婦警、端的に話すとだな。ハッ!」
いかん、また目立ってた。
皆の視線が俺に突き刺さり、これ以上は周囲に俺の存在がバレてしまうので慌てて引き下がる。代わりに沖が説明してくれる。
「こちらの女性が盗撮被害に会われたというので、ちょっと揉めていました」
「そういうときは駅の事務所へ行って欲しいですが」
「すみません。事実がわからないと問題もありそうだったので」
「場合によっては法律にだって触れますからね?」
警官からすれば、勝手に捜査をすることを良くは思わないのは当然だ。柔和で小動物的な沖でなければ、もっとお説教を食らっていたかもしれないな。
神本婦警の登場で岸の苛立ちは収束したものの、さてここからどう詰めようか。
「なぁッ、もういって良いだろ?」
ここで痺れを切らせた緒方が、声を大きくして聞いてきた。
もちろん、逃げられるわけにはいかず沖が阻止に入る。
「待ってください。まだやるべきことがありますから」
「やることって……なんですかね?」
今度は、岸がうんざりした様子で聞いた。
それを両手を前にしてドゥドゥと抑える沖。そのまま正力さんと話をする。
「こちらの3人で、お知り合いは本当にいないんですね?」
4人の会話を聞いていればだいたい予想できるが、それゆえに被害者からしてみれば不可解な質問だった。皆して顔見知りなどいないように会話していたのだから、まずそこを疑うとは考えなかったのだろう。
いや、人間の記憶など当てにならないというもの。
「やっぱり記憶にないってば」
3人をざっと眺めた後、正力さんはそう答えた。
腕時計カメラで下方からコッソリ確認すれば、やはり犯人は憎たらしいとばかりに歯噛みしている。ただ適当に正力さんを狙ったわけではなく、怨恨の可能性の方が有力だろう。
「えーと、ではお三方はどういう集まりなんです? 古くからのご友人とか?」
沖はそれで諦めることなく発想を逆転させて、男達のことを探っていった。
「え? あー、新型スマフォを買いに行く同好会というか、ネットの集まりだよ」
答えたのは岩市だ。
緒方も続く。
「どうせ見ず知らずの関係だし、3人とも同じカラーを買ったわけさ」
「ということは、誰かが呼びかけたってことか?」
黙って見ていると逆に怪しまれそうなので、俺も少しだけ当たり障りのない質問をした。
「あぁ、確か岸じゃなかったか?」
「え? えっと、そうだったっけ?」
緒方に指摘されて、岸は戸惑いながら誤魔化そうとした。
怪しいところだが、保留にしてまずは証拠に至る道筋を固めなければならない。犯人はお前だなどと決めポーズをしたところで、じっちゃんの名に何百万賭けたとしても、俺の口からそれを言えば捕まるのは自分自身だ。
「そうだぜ。案内はお前ができるからって、あっちのお店に決めたんじゃねぇかよ」
緒方が詰めの一発を食らわせてくれた。
「犬サンのバルーンってことは……あの辺りの出身? じゃあ、もしかして?」
さらに正力さんも、出身地が絞り込めたことで思い当たった人物がいるようだ。
「もしかして、同じ小学校の……?」
記憶の到達点はそこだったようだ。
彼らの年齢がだいたい25になるかどうかだから、15年くらい前ともなると顔も忘れてるか。きっと、事情があって同窓会にも出られなかったんだろう。
俺なんて、同窓会どころか普通の学校にさえ行ったことがないからな。
「同窓会に出てこなかったからわからなかった……」
「……」
しみじみとしている間にも、犯行の動機に近づいてきたせいか険悪な空気になり始めた。
その昔に付き合いのあった奴――岸が眼鏡を正して、ここで思い出したかのように振る舞う。
「あぁ、正力。思い出しましたよ。昔は、随分と世話になりましたね」
「世話?」
「嫌な思い出だからすっかり忘れてましたよ」
「えっと、一緒に遊んだ覚えはあるけど……」
「チッ……」
岸の言葉に、正力さんは当時のことを思い出そうと記憶を掘り起こしている。
微かに舌打ちが聞こえた。ここまで言って思い出さないのかと、憤っているのが俺からだとわかる。
「軽い子供らしいイジりってやつですよ。あんたにとってはねッ」
「あ、あの……えっと……。おまわりさん!」
やや声を荒げて言い放った岸に危機感を覚えたか、正力さんが怯えてしまった。完全でないにせよわずかにコートの袖を掴まれれば、当然だ。
誰かが呼んだかそれとも既に呼んであったか、ちょうど良いタイミングで警察の制服が電光掲示板の向こうに見える。
俺も一応、さりげなく2人の間に入っておく。が、やってきた警察官がこれまたポニーテールの黒髪とタイツに包まれた御御足が美しい美女で、俺は思わずそちらへ流れてしまいそうになる。
「なにか問題でも?」
婦警さん、というのは今は不適切なのかもしれないけど響き重視だ。えー、その婦警さんが問いかけてきてくれたので俺が前に出る。
「えぇ、えぇ、貴女のお美しさが問題です。お名前を伺っても?」
「はぁ……? こういう者です」
戸惑いつつも、婦警さんは警察手帳を出した。
ほう、神本 遊里さんね。
「神本婦警、端的に話すとだな。ハッ!」
いかん、また目立ってた。
皆の視線が俺に突き刺さり、これ以上は周囲に俺の存在がバレてしまうので慌てて引き下がる。代わりに沖が説明してくれる。
「こちらの女性が盗撮被害に会われたというので、ちょっと揉めていました」
「そういうときは駅の事務所へ行って欲しいですが」
「すみません。事実がわからないと問題もありそうだったので」
「場合によっては法律にだって触れますからね?」
警官からすれば、勝手に捜査をすることを良くは思わないのは当然だ。柔和で小動物的な沖でなければ、もっとお説教を食らっていたかもしれないな。
神本婦警の登場で岸の苛立ちは収束したものの、さてここからどう詰めようか。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
やさしい首
常に移動する点P
ミステリー
長谷川修平の妻、裕子が行方不明となって二日後、遺体が発見された。首だけが近くの雑木林に放置されていた。その後、同じ場所に若い二人の男の首が遺棄される。そして、再び雑木林に首が。四人目の首、それは長谷川修平だった。
長谷川の友人、楠夫妻は事件の参考人として警察に任意で取り調べをうけたことで、地元住民から犯人扱いされる。定食屋「くすのき」も閉店せざるを得なくなった。
長谷川夫妻の死、若い男二人の死、四つの首が遺棄された雑木林。
楠夫妻の長男、真一は五年後自分の子供にもふりかかる汚名を
ぬぐうため、当時の所轄刑事相模とともに真犯人を探す。
※この作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
深淵の迷宮
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。
葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる