スパイだけが謎解きを知っている

AAKI

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第二話・考えうる限り最低の初遭遇

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 色々と察せられていて、自己正当化ができない。

「なぁッ、もういって良いだろ?」

 ここで痺れを切らせた緒方が、声を大きくして聞いてきた。

 もちろん、逃げられるわけにはいかず沖が阻止に入る。

「待ってください。まだやるべきことがありますから」

「やることって……なんですかね?」

 今度は、岸がうんざりした様子で聞いた。

 それを両手を前にしてドゥドゥと抑える沖。そのまま正力さんと話をする。

「こちらの3人で、お知り合いは本当にいないんですね?」

 4人の会話を聞いていればだいたい予想できるが、それゆえに被害者からしてみれば不可解な質問だった。皆して顔見知りなどいないように会話していたのだから、まずそこを疑うとは考えなかったのだろう。

 いや、人間の記憶など当てにならないというもの。

「やっぱり記憶にないってば」

 3人をざっと眺めた後、正力さんはそう答えた。

 腕時計カメラで下方からコッソリ確認すれば、やはり犯人は憎たらしいとばかりに歯噛みしている。ただ適当に正力さんを狙ったわけではなく、怨恨の可能性の方が有力だろう。

「えーと、ではお三方はどういう集まりなんです? 古くからのご友人とか?」

 沖はそれで諦めることなく発想を逆転させて、男達のことを探っていった。

「え? あー、新型スマフォを買いに行く同好会というか、ネットの集まりだよ」

 答えたのは岩市だ。

 緒方も続く。

「どうせ見ず知らずの関係だし、3人とも同じカラーを買ったわけさ」

「ということは、誰かが呼びかけたってことか?」

 黙って見ていると逆に怪しまれそうなので、俺も少しだけ当たり障りのない質問をした。

「あぁ、確か岸じゃなかったか?」

「え? えっと、そうだったっけ?」

 緒方に指摘されて、岸は戸惑いながら誤魔化そうとした。

 怪しいところだが、保留にしてまずは証拠に至る道筋を固めなければならない。犯人はお前だなどと決めポーズをしたところで、じっちゃんの名に何百万賭けたとしても、俺の口からそれを言えば捕まるのは自分自身だ。

「そうだぜ。案内はお前ができるからって、あっちのお店に決めたんじゃねぇかよ」

 緒方が詰めの一発を食らわせてくれた。

「犬サンのバルーンってことは……あの辺りの出身? じゃあ、もしかして?」

 さらに正力さんも、出身地が絞り込めたことで思い当たった人物がいるようだ。

「もしかして、同じ小学校の……?」

 記憶の到達点はそこだったようだ。

 彼らの年齢がだいたい25になるかどうかだから、15年くらい前ともなると顔も忘れてるか。きっと、事情があって同窓会にも出られなかったんだろう。

 俺なんて、同窓会どころか普通の学校にさえ行ったことがないからな。

「同窓会に出てこなかったからわからなかった……」

「……」

 しみじみとしている間にも、犯行の動機に近づいてきたせいか険悪な空気になり始めた。

 その昔に付き合いのあった奴――岸が眼鏡を正して、ここで思い出したかのように振る舞う。

「あぁ、正力。思い出しましたよ。昔は、随分と世話になりましたね」

「世話?」

「嫌な思い出だからすっかり忘れてましたよ」

「えっと、一緒に遊んだ覚えはあるけど……」

「チッ……」

 岸の言葉に、正力さんは当時のことを思い出そうと記憶を掘り起こしている。

 微かに舌打ちが聞こえた。ここまで言って思い出さないのかと、憤っているのが俺からだとわかる。

「軽い子供らしいイジりってやつですよ。あんたにとってはねッ」

「あ、あの……えっと……。おまわりさん!」

 やや声を荒げて言い放った岸に危機感を覚えたか、正力さんが怯えてしまった。完全でないにせよわずかにコートの袖を掴まれれば、当然だ。

 誰かが呼んだかそれとも既に呼んであったか、ちょうど良いタイミングで警察の制服が電光掲示板の向こうに見える。

 俺も一応、さりげなく2人の間に入っておく。が、やってきた警察官がこれまたポニーテールの黒髪とタイツに包まれた御御足が美しい美女で、俺は思わずそちらへ流れてしまいそうになる。

「なにか問題でも?」

 婦警さん、というのは今は不適切なのかもしれないけど響き重視だ。えー、その婦警さんが問いかけてきてくれたので俺が前に出る。

「えぇ、えぇ、貴女のお美しさが問題です。お名前を伺っても?」

「はぁ……? こういう者です」

 戸惑いつつも、婦警さんは警察手帳を出した。

 ほう、神本かみもと 遊里ゆうりさんね。

「神本婦警、端的に話すとだな。ハッ!」

 いかん、また目立ってた。

 皆の視線が俺に突き刺さり、これ以上は周囲に俺の存在がバレてしまうので慌てて引き下がる。代わりに沖が説明してくれる。

「こちらの女性が盗撮被害に会われたというので、ちょっと揉めていました」

「そういうときは駅の事務所へ行って欲しいですが」

「すみません。事実がわからないと問題もありそうだったので」

「場合によっては法律にだって触れますからね?」

 警官からすれば、勝手に捜査をすることを良くは思わないのは当然だ。柔和で小動物的な沖でなければ、もっとお説教を食らっていたかもしれないな。

 神本婦警の登場で岸の苛立ちは収束したものの、さてここからどう詰めようか。
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