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第一話・雪山のペンションで
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「荒尾さんはどう思います?」
「えー……?」
対応に悩んでいる俺に、沖は唐突な問いかけをしてきた。端的で抽象的な質問なので、余計に悩む羽目となった。
「池田さんは、村田 富さんのことを切り捨てたこと、反省してないって言ってました。って村田先生が」
人の都合を無視してズイズイこないでくれ。
「あぁ、そういう」
まぁそれでも漸く合点がいった。
俺がいない間の見張り中に何を話したかは知らないが、村田が池田さん殺害に至ったのは衝動的な理由だったようだ。いや、必要なのはその動機が正しかったか否かという点か。
「さて、ちゃんと話したわけじゃないからな」
俺は、そうとしか答えられなかった。
「第一、なんで」「5年で人ってそんなに変われるものです?」
そんなことを聞くのか、そう問おうとして先回りされてしまう。また唐突なことを言い出すしこの沖は……。
変われるかどうかと言われれば人それぞれと言わざるを得ないが、既に起こした過ちを取り戻せはしない。池田さんのやったことの良し悪しはさておき、村田が許さなかったというならそこまでである。
「俺に聞かれてもな。逆に、どうしてそう考えるんだ?」
問い返すと沖はどう答えるだろうか。
「私はなかなか変わらないと思います。池田さんは、この5年間きっと死にものぐるいでフェミニストになろうとしたんじゃないでしょうか」
「随分と推測で話すじゃないか。どうしたジャーナリスト」
「むぅ、からかわないでください……。確かめる術がありませんからね」
沖の答えは、なかなかに曖昧な意見だ。俺は話の腰を折りつつ、ジャーナリストに怒られて肩をすくめた。
そして続く言葉を待つ。
「それこそ、自分がどうしてフェミニストになったのかも忘れるぐらいに……」
何を根拠にそう言うのかはわからないが、コレクションしたレディー達に電話に出てもらえないくらいの悲愴は感じた。
単純に見えて話がこじれているのは、フェミニズムと似ているのかもしれない。
こうして天風さんともお近づきになれない時間が過ぎ、全員で朝食をとる。昼の少し前には雪上車とパトカーががってきた。
「ふぅ、無事なんとかなったね」
「見張りがもっと続くと思うと憂鬱だった」
宗方君と西尾も安堵を見せた。
これでやっとこさ事件が解決する……のは良いとして、資料はいずこへ!? 警察にペンションを家探しされて目的物を盗られるのが最も困る。
村田さんが大人しく逮捕され、事情聴取に応じたため俺達はそれほど拘束されなかったのが救いか。
「さて、どうしたものか」
パトカーが被疑者をつれて走り去るのを見送った俺は、独り呟くのだった。
バスを待っての帰宅になる予定だが、諜報活動が終わるまでが仕事である。
「帰るんだろ? バスがもう数分でくるよ。このようなことになってしまったが、またお越しくだされば幸いだね」
オーナーが俺達を見送りに出てきて、呟きに答えるかのように言った。
確かに散々な一夜と言えばそうだが、ここに悪評を流すような輩はいないさ。褒めるところの多いサービスだったしな。
「ちょっと聞くけど、ここに別の楓荘ってあるのか?」
おかしい質問とはわかりつつも、このままでは引き下がれないのでオーナーに尋ねた。
流石に同じ名前のペンションがもう一つあるとは思いたくない。
「楓荘はないけど、もう1合ぐらい上ったところにカエレ荘って建物なら昔にあった」
ウッソだろお前……。
俺は二の句が告げなくなる。
「……」
電波が悪かったとは言え、似たような名前を聞き間違えたなんでスパイ活動始めて以来の大失態だ。
「荒尾さん、どうかしましたか? バス」「悪い! 急に答え合わせのため雪男を探したくなったから、先に帰ってくれ!」
バスが到着して沖に声を掛けられるも、苦しい言い訳をして立ち去らねばならなかった。
「はぁ? 見つかったらご一報ください」
あっさりと流されると滑った感じで恥ずかしいんだが。第一連絡先も知らないから、お前の書いた記事に乗せておいてくれ。
そうも言っていられず、俺は大急ぎで廃屋へと走ったのだった。トホホ……。
「えー……?」
対応に悩んでいる俺に、沖は唐突な問いかけをしてきた。端的で抽象的な質問なので、余計に悩む羽目となった。
「池田さんは、村田 富さんのことを切り捨てたこと、反省してないって言ってました。って村田先生が」
人の都合を無視してズイズイこないでくれ。
「あぁ、そういう」
まぁそれでも漸く合点がいった。
俺がいない間の見張り中に何を話したかは知らないが、村田が池田さん殺害に至ったのは衝動的な理由だったようだ。いや、必要なのはその動機が正しかったか否かという点か。
「さて、ちゃんと話したわけじゃないからな」
俺は、そうとしか答えられなかった。
「第一、なんで」「5年で人ってそんなに変われるものです?」
そんなことを聞くのか、そう問おうとして先回りされてしまう。また唐突なことを言い出すしこの沖は……。
変われるかどうかと言われれば人それぞれと言わざるを得ないが、既に起こした過ちを取り戻せはしない。池田さんのやったことの良し悪しはさておき、村田が許さなかったというならそこまでである。
「俺に聞かれてもな。逆に、どうしてそう考えるんだ?」
問い返すと沖はどう答えるだろうか。
「私はなかなか変わらないと思います。池田さんは、この5年間きっと死にものぐるいでフェミニストになろうとしたんじゃないでしょうか」
「随分と推測で話すじゃないか。どうしたジャーナリスト」
「むぅ、からかわないでください……。確かめる術がありませんからね」
沖の答えは、なかなかに曖昧な意見だ。俺は話の腰を折りつつ、ジャーナリストに怒られて肩をすくめた。
そして続く言葉を待つ。
「それこそ、自分がどうしてフェミニストになったのかも忘れるぐらいに……」
何を根拠にそう言うのかはわからないが、コレクションしたレディー達に電話に出てもらえないくらいの悲愴は感じた。
単純に見えて話がこじれているのは、フェミニズムと似ているのかもしれない。
こうして天風さんともお近づきになれない時間が過ぎ、全員で朝食をとる。昼の少し前には雪上車とパトカーががってきた。
「ふぅ、無事なんとかなったね」
「見張りがもっと続くと思うと憂鬱だった」
宗方君と西尾も安堵を見せた。
これでやっとこさ事件が解決する……のは良いとして、資料はいずこへ!? 警察にペンションを家探しされて目的物を盗られるのが最も困る。
村田さんが大人しく逮捕され、事情聴取に応じたため俺達はそれほど拘束されなかったのが救いか。
「さて、どうしたものか」
パトカーが被疑者をつれて走り去るのを見送った俺は、独り呟くのだった。
バスを待っての帰宅になる予定だが、諜報活動が終わるまでが仕事である。
「帰るんだろ? バスがもう数分でくるよ。このようなことになってしまったが、またお越しくだされば幸いだね」
オーナーが俺達を見送りに出てきて、呟きに答えるかのように言った。
確かに散々な一夜と言えばそうだが、ここに悪評を流すような輩はいないさ。褒めるところの多いサービスだったしな。
「ちょっと聞くけど、ここに別の楓荘ってあるのか?」
おかしい質問とはわかりつつも、このままでは引き下がれないのでオーナーに尋ねた。
流石に同じ名前のペンションがもう一つあるとは思いたくない。
「楓荘はないけど、もう1合ぐらい上ったところにカエレ荘って建物なら昔にあった」
ウッソだろお前……。
俺は二の句が告げなくなる。
「……」
電波が悪かったとは言え、似たような名前を聞き間違えたなんでスパイ活動始めて以来の大失態だ。
「荒尾さん、どうかしましたか? バス」「悪い! 急に答え合わせのため雪男を探したくなったから、先に帰ってくれ!」
バスが到着して沖に声を掛けられるも、苦しい言い訳をして立ち去らねばならなかった。
「はぁ? 見つかったらご一報ください」
あっさりと流されると滑った感じで恥ずかしいんだが。第一連絡先も知らないから、お前の書いた記事に乗せておいてくれ。
そうも言っていられず、俺は大急ぎで廃屋へと走ったのだった。トホホ……。
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