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第一話・雪山のペンションで
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また話が逸れ始めたところで西尾が割り込んでくる。
「で、どうする? 俺達にしてみりゃ、動機なんて同情に値するかどうかぐらいだから」
「おっと、すまない。沖、どうする?」
「なぜ私に振るんです?」
警察がくるまでの間、村田の処遇をどうするかという話だ。俺は目立ちたくないので、探偵役に指示を任せることにした。
当然、ただの若手ジャーナリストにそんな権限や覚悟があるはずもなく。
「とりあえず、縛ったり閉じ込めたりというのは良くないだろう。二人一組で交代しながら見張っておくかい?」
年長者のオーナーが、久しぶりに鶴の一声を上げた。
「じゃあ、オーナーと沖、俺と天風さん、西尾と宗方君でいこう。一番相性が良いだろ」
「余計なとこだけしゃしゃり出てくるんじゃぁないですよッ」
ここぞとばかりに俺は独断と偏見で組分けを決め、沖の珍しいツッコミを受けるのだった。
まずは昼頃まで3時間ごとの交代で、俺は3番目だ。当然、敏腕スパイは眠らない。
再び部屋の点検口から天井裏へと上がり、天風さん他皆の部屋をコソコソと覗く。最初に西尾や宗方君の部屋を確認しておくことで、レディーが寝てしまっている時間を稼ぐ。男2人の部屋は、見張りを担当してくれている間に調べられるからな。
「……」
天風さんが寝ているかどうか、小さな穴から明かりを漏らしてみて反応を伺った。チラチラと光を目に当てて、なにも動きがなければ点検口から侵入する。
まずは天井の口にぶら下がる。
可能な限り音をださないように体をスイングさせて、梁へと飛び移り手を掛けた。が、その際に口に咥えていたペンライトがこぼれ落ちる。
「……!」
慌てて膝を上げて、太ももに当てワンバウンドさせた。
落下を続けるライトを足に挟んだところで、トスし片手を離してキャッチする。
「ふぅ~……」
一安心して息を整えた。
が、物音かそれとも最初から起きていたのか、天風さんが寝返りを打つ。
うそぉん!
「ぅん……あ? ん~」
さらには上体を起こして、しばし停止した後に枕へゆっくりと頭を倒した。そして寝息を立て始めた。
あっぶねぇ……。ね、寝ぼけてただけか?
俺はというと、大慌てで梁の上で陰に身を隠していた。
ビックリはしたが、美人さんの寝顔を拝めるんだから文句も言えねぇなハハハッ。
もう一度明かりを当てて反応がないのを確認したら、今度こそ床に降り立って部屋を物色し始める。
「ないな」
十数分、資料探しで格闘した後にそう結論づけた。
何度となく天風さんが目覚めそうな予兆を見せていたので、これにておさらばすることにした。
「アデュー、スリーピングプリンセス」
挨拶を忘れず、点検口からコッソリと戻った。収穫なしというのは痛いが、まだまだ探す場所はある。
それから1時間ほどして、沖が見張りを終えて戻ってくる。俺は狸寝入りを決め込みながら、西尾組の部屋を探索できるチャンスを待った。
「ふ~。年の差が辛かったなぁ……」
人当たりこそ良くて相性が合っても、ジェネレーションギャップまではいかんともしがたかったようだ。しかし、他人行儀ではない沖の言葉遣いというのもめずらしい。せっかくだから聞納めとしておこう。
沖はパタリとベッドに倒れ込み、モゾモゾと掛け布団と毛布の中に潜り込んでいった。
少しして寝息が聞こえて、さらに30分もしたかというところで俺も動き出す。正直、やることが天風さんのときとほとんど同じで、侵入方法が天井かピッキングかの違い程度だ。特に代わり映えせず、男の部屋を事細かにお伝えしても仕方ない。何もなかったという事実のみで十分である。
さらに飛んで数時間弱。
「そういえば、重要なことを聞くのを忘れていた」
天風さんと向かいあわせに、1階の共用スペースにいた。
「何かしら?」
妖艶に頬杖をついて、微笑みながら応じてくれる。
「差し支えがなければ本名を伺っても?」
せっかく出会ったレディーの本名を知らずに分かれるなど、感動の『か』の字もない。あわよくば連絡先を手に入れていつでも声を聞きたい!
天風さんはジッと俺の方を見据えて、怪しげな笑みを崩さない。
そして、気づいてしまった。
「差し支えがありそうだから止めておくわ」
そう答えた天風さんが俺を見ていないことに。
ならばソファーで寝ている村田か。いや、その更に後、階段のところに立つ沖だ。
「いや……」「飲み物、入れ直してくるわね」
あいつとは大した関係じゃないと言いかけたのを、天風さんの方から遮ってくれた。これ以上は、俺のポリシーに反するということを暗に教えてくれる。
「……あぁ」
「うーん?」
俺が答えつつ安堵している間に、沖が近づいてきて首を傾げた。
「邪魔しちゃいましたか?」
邪魔しちゃいましたか、じゃない! ことごとく俺の調子を狂わせやがって……。
「いーや、何でもないさ。それより、寝てなくて良いのか?」
「えぇ、私、割とショートスリーパーなので」
一応気を使ってみるが、どうやら睡眠時間は少なくて良いようだ。ジャーナリストとして鍛えたのか天性かは知らないが、ちょっと俺も危なかっしかったな。
内心安堵していると、沖はチョコリと無遠慮に俺の隣に座る。
「……」
それを俺は、横目に見てどうすべきか考えた。
「で、どうする? 俺達にしてみりゃ、動機なんて同情に値するかどうかぐらいだから」
「おっと、すまない。沖、どうする?」
「なぜ私に振るんです?」
警察がくるまでの間、村田の処遇をどうするかという話だ。俺は目立ちたくないので、探偵役に指示を任せることにした。
当然、ただの若手ジャーナリストにそんな権限や覚悟があるはずもなく。
「とりあえず、縛ったり閉じ込めたりというのは良くないだろう。二人一組で交代しながら見張っておくかい?」
年長者のオーナーが、久しぶりに鶴の一声を上げた。
「じゃあ、オーナーと沖、俺と天風さん、西尾と宗方君でいこう。一番相性が良いだろ」
「余計なとこだけしゃしゃり出てくるんじゃぁないですよッ」
ここぞとばかりに俺は独断と偏見で組分けを決め、沖の珍しいツッコミを受けるのだった。
まずは昼頃まで3時間ごとの交代で、俺は3番目だ。当然、敏腕スパイは眠らない。
再び部屋の点検口から天井裏へと上がり、天風さん他皆の部屋をコソコソと覗く。最初に西尾や宗方君の部屋を確認しておくことで、レディーが寝てしまっている時間を稼ぐ。男2人の部屋は、見張りを担当してくれている間に調べられるからな。
「……」
天風さんが寝ているかどうか、小さな穴から明かりを漏らしてみて反応を伺った。チラチラと光を目に当てて、なにも動きがなければ点検口から侵入する。
まずは天井の口にぶら下がる。
可能な限り音をださないように体をスイングさせて、梁へと飛び移り手を掛けた。が、その際に口に咥えていたペンライトがこぼれ落ちる。
「……!」
慌てて膝を上げて、太ももに当てワンバウンドさせた。
落下を続けるライトを足に挟んだところで、トスし片手を離してキャッチする。
「ふぅ~……」
一安心して息を整えた。
が、物音かそれとも最初から起きていたのか、天風さんが寝返りを打つ。
うそぉん!
「ぅん……あ? ん~」
さらには上体を起こして、しばし停止した後に枕へゆっくりと頭を倒した。そして寝息を立て始めた。
あっぶねぇ……。ね、寝ぼけてただけか?
俺はというと、大慌てで梁の上で陰に身を隠していた。
ビックリはしたが、美人さんの寝顔を拝めるんだから文句も言えねぇなハハハッ。
もう一度明かりを当てて反応がないのを確認したら、今度こそ床に降り立って部屋を物色し始める。
「ないな」
十数分、資料探しで格闘した後にそう結論づけた。
何度となく天風さんが目覚めそうな予兆を見せていたので、これにておさらばすることにした。
「アデュー、スリーピングプリンセス」
挨拶を忘れず、点検口からコッソリと戻った。収穫なしというのは痛いが、まだまだ探す場所はある。
それから1時間ほどして、沖が見張りを終えて戻ってくる。俺は狸寝入りを決め込みながら、西尾組の部屋を探索できるチャンスを待った。
「ふ~。年の差が辛かったなぁ……」
人当たりこそ良くて相性が合っても、ジェネレーションギャップまではいかんともしがたかったようだ。しかし、他人行儀ではない沖の言葉遣いというのもめずらしい。せっかくだから聞納めとしておこう。
沖はパタリとベッドに倒れ込み、モゾモゾと掛け布団と毛布の中に潜り込んでいった。
少しして寝息が聞こえて、さらに30分もしたかというところで俺も動き出す。正直、やることが天風さんのときとほとんど同じで、侵入方法が天井かピッキングかの違い程度だ。特に代わり映えせず、男の部屋を事細かにお伝えしても仕方ない。何もなかったという事実のみで十分である。
さらに飛んで数時間弱。
「そういえば、重要なことを聞くのを忘れていた」
天風さんと向かいあわせに、1階の共用スペースにいた。
「何かしら?」
妖艶に頬杖をついて、微笑みながら応じてくれる。
「差し支えがなければ本名を伺っても?」
せっかく出会ったレディーの本名を知らずに分かれるなど、感動の『か』の字もない。あわよくば連絡先を手に入れていつでも声を聞きたい!
天風さんはジッと俺の方を見据えて、怪しげな笑みを崩さない。
そして、気づいてしまった。
「差し支えがありそうだから止めておくわ」
そう答えた天風さんが俺を見ていないことに。
ならばソファーで寝ている村田か。いや、その更に後、階段のところに立つ沖だ。
「いや……」「飲み物、入れ直してくるわね」
あいつとは大した関係じゃないと言いかけたのを、天風さんの方から遮ってくれた。これ以上は、俺のポリシーに反するということを暗に教えてくれる。
「……あぁ」
「うーん?」
俺が答えつつ安堵している間に、沖が近づいてきて首を傾げた。
「邪魔しちゃいましたか?」
邪魔しちゃいましたか、じゃない! ことごとく俺の調子を狂わせやがって……。
「いーや、何でもないさ。それより、寝てなくて良いのか?」
「えぇ、私、割とショートスリーパーなので」
一応気を使ってみるが、どうやら睡眠時間は少なくて良いようだ。ジャーナリストとして鍛えたのか天性かは知らないが、ちょっと俺も危なかっしかったな。
内心安堵していると、沖はチョコリと無遠慮に俺の隣に座る。
「……」
それを俺は、横目に見てどうすべきか考えた。
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