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第一話・雪山のペンションで
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オーナーの言葉に不安が深まり、西尾や宗方君が涙声を出す。
「どうするんだよぉ……」
「お、おちおち、落ち着け……」
男のクセにだらしない。というのはいささか差別的か。まぁ、事件に遭遇したらこの反応も仕方ないだろう。
一線を画しているのは、この状況でメモを読み直している沖の余裕な態度だろ。
「どう思う?」
俺はさり気なく話題を振ってみた。
「どう、と言われましてもね。はて、こんなこと書きましたかね……?」
「あ? えーと、ほら、一番公平に判断できるだろ。無意識に色々と仕入れてるみたいだしよ」
書き加えたヒントに疑問を抱いている沖を、上手く探偵役として誘導していった。
「まぁ、まず、あのように吊ったのには意味があると見て良いでしょう。加えて、そこから見えてくることもあります」
「ほう。綱は倉庫で見た奴だけど、わざわざ使う必要が?」
俺はさり気なく次の情報を手渡した。
村田は、マフラーを使って絞殺してしまったことでそれを隠さざるを得なかった。元から用意していたのは自殺に見せかけるつもりだったからなのだろうが、事今回においては別の状況証拠を残してしまった。
池田さんの部屋には、隣室の天風さんが犯行に気づかない程度には争った形跡がない。皆無と言って良いほど。
「男の犯行だと思わせなければならない理由があったんですよ。現に、首を絞められるまで暴れた様子がないですもん」
「それって、ゴホッ、ゴホッ……もしかして」
村田さんが、その事実を誤魔化すために動いた。
しかし、俺がフォローに入って阻止する。
「まだ調子がよろしくないみたいですからごゆっくり。えー、理由か」
「あ、犯人が女性だから先生も油断した?」
俺のセリフを継ぐように、天風さんが答えを言ってくれた。
よしよし、上手い具合に皆で乗っかってくれている。主導する沖も、たった2行追記しただけで思った通りの動きをする。
わかっていてやっているという可能性もあるが、今は考えてもしかたない。
そして、天風さんのセリフで皆の視線が1人に向かう。
「ちょっと待って、ゴホッ。憶測もいいところじゃない。フゥ、フゥ……」
流石に全員から疑われ、村田さんは弁解を述べようとした。風邪は本当らしく、やはり苦しそうに咳き込んだ。
まぁ、俺も苦しめたいというわけでは……少しぐらい厳しくはするけど、うん。
「では、話を整理しましょう」
ここで沖が場を落ち着かせ、推理の詰めに入っていった。
最初にやるのは全員のアリバイ確認だろう。最も簡単であり、ここで容疑者の行動が食い違うと後の推理が難しくなる。
まぁ、俺が目撃しているし、トリックを弄せるほどの時間はなかった。
当然だが村田さんは、部屋で寝ていて悲鳴で目覚めたとしか答えられない。
「私は、犯行があったであろう少し前に目を冷まして、1階に降りました。オーナーに温かい飲み物を頂いていました」
「沖さんがロビーにくる少し前に池田さんも飲み物をもらいに来ていたので、自分達には犯行は不可能です」
そして、沖とオーナーのアリバイは予想通りに容易く証明された。
「えーと、俺は部屋で寝ていたな」
と西尾。
「同じく寝ていたから証明はできないねぇ」
宗方君も残念ながら駄目だった。
「私も無理だわ。起きてはいたけど、寝付けず遊んでいたもの」
天風さんもそう言うと、携帯を振って何かゲームでもしていたであろうことを教えてくれた。
「俺も愛するレディー達に電話をかけてた。が、履歴があるからアリバイは証明できるだろ?」
最後に俺のアリバイだが、俺もまた携帯を取り出してみせた。スパイの道具を使って、電話帳に入っているマイ・フェア・レディ達に片っ端から連絡したのだ。
天風さんがモニターを眺めてくる。
「どれも出てませんね」
「言わないであげてください」
「……」
指摘され、沖が俺の代わりに首を横に振った。何も言い返すことができなかった。
本当に、触れちゃいけないことに触れたときの顔をしてるから余計に。
「やっぱりトイレで何かしてたんですね」
沖よ、あっさりと話の流れを切り替えるの止めてくれ。
短く答えておく。
「あぁ」
嘘だ。とりあえずは不在証明ができたので、次の推理に移るべく沖を促す。
「それで、どうして村田さんが男だと? 中性的な美人さんにしか見えないが」
「それなんですが、荒尾さんは覚えていらっしゃいますよね?」
「何を?」
わかっているが、ここはとぼけておかないとネタ帳にイタズラしたことがバレてしまう。
それでも、書き足した2つだけでここまで詰められたのなら僥倖だ。『池田先生は男性嫌悪者』と『トイレにはまって恥ずかしかった』という2行、それだけ。
「私がトイレに……」
「あー」
予想していたけど、やっぱり思い出したという風に演じておいた。
「……」
その様子を見てこそいなかったが、村田は何をやらかしたのかを理解したようだった。表情からしか読み取れないが。
要するに、村田の次に入った沖がトイレにハマるような場合、便座が上げられていたってことだ。女性がそんなことをするだろうか? 否。
さて、最後の詰めだ。
「どうするんだよぉ……」
「お、おちおち、落ち着け……」
男のクセにだらしない。というのはいささか差別的か。まぁ、事件に遭遇したらこの反応も仕方ないだろう。
一線を画しているのは、この状況でメモを読み直している沖の余裕な態度だろ。
「どう思う?」
俺はさり気なく話題を振ってみた。
「どう、と言われましてもね。はて、こんなこと書きましたかね……?」
「あ? えーと、ほら、一番公平に判断できるだろ。無意識に色々と仕入れてるみたいだしよ」
書き加えたヒントに疑問を抱いている沖を、上手く探偵役として誘導していった。
「まぁ、まず、あのように吊ったのには意味があると見て良いでしょう。加えて、そこから見えてくることもあります」
「ほう。綱は倉庫で見た奴だけど、わざわざ使う必要が?」
俺はさり気なく次の情報を手渡した。
村田は、マフラーを使って絞殺してしまったことでそれを隠さざるを得なかった。元から用意していたのは自殺に見せかけるつもりだったからなのだろうが、事今回においては別の状況証拠を残してしまった。
池田さんの部屋には、隣室の天風さんが犯行に気づかない程度には争った形跡がない。皆無と言って良いほど。
「男の犯行だと思わせなければならない理由があったんですよ。現に、首を絞められるまで暴れた様子がないですもん」
「それって、ゴホッ、ゴホッ……もしかして」
村田さんが、その事実を誤魔化すために動いた。
しかし、俺がフォローに入って阻止する。
「まだ調子がよろしくないみたいですからごゆっくり。えー、理由か」
「あ、犯人が女性だから先生も油断した?」
俺のセリフを継ぐように、天風さんが答えを言ってくれた。
よしよし、上手い具合に皆で乗っかってくれている。主導する沖も、たった2行追記しただけで思った通りの動きをする。
わかっていてやっているという可能性もあるが、今は考えてもしかたない。
そして、天風さんのセリフで皆の視線が1人に向かう。
「ちょっと待って、ゴホッ。憶測もいいところじゃない。フゥ、フゥ……」
流石に全員から疑われ、村田さんは弁解を述べようとした。風邪は本当らしく、やはり苦しそうに咳き込んだ。
まぁ、俺も苦しめたいというわけでは……少しぐらい厳しくはするけど、うん。
「では、話を整理しましょう」
ここで沖が場を落ち着かせ、推理の詰めに入っていった。
最初にやるのは全員のアリバイ確認だろう。最も簡単であり、ここで容疑者の行動が食い違うと後の推理が難しくなる。
まぁ、俺が目撃しているし、トリックを弄せるほどの時間はなかった。
当然だが村田さんは、部屋で寝ていて悲鳴で目覚めたとしか答えられない。
「私は、犯行があったであろう少し前に目を冷まして、1階に降りました。オーナーに温かい飲み物を頂いていました」
「沖さんがロビーにくる少し前に池田さんも飲み物をもらいに来ていたので、自分達には犯行は不可能です」
そして、沖とオーナーのアリバイは予想通りに容易く証明された。
「えーと、俺は部屋で寝ていたな」
と西尾。
「同じく寝ていたから証明はできないねぇ」
宗方君も残念ながら駄目だった。
「私も無理だわ。起きてはいたけど、寝付けず遊んでいたもの」
天風さんもそう言うと、携帯を振って何かゲームでもしていたであろうことを教えてくれた。
「俺も愛するレディー達に電話をかけてた。が、履歴があるからアリバイは証明できるだろ?」
最後に俺のアリバイだが、俺もまた携帯を取り出してみせた。スパイの道具を使って、電話帳に入っているマイ・フェア・レディ達に片っ端から連絡したのだ。
天風さんがモニターを眺めてくる。
「どれも出てませんね」
「言わないであげてください」
「……」
指摘され、沖が俺の代わりに首を横に振った。何も言い返すことができなかった。
本当に、触れちゃいけないことに触れたときの顔をしてるから余計に。
「やっぱりトイレで何かしてたんですね」
沖よ、あっさりと話の流れを切り替えるの止めてくれ。
短く答えておく。
「あぁ」
嘘だ。とりあえずは不在証明ができたので、次の推理に移るべく沖を促す。
「それで、どうして村田さんが男だと? 中性的な美人さんにしか見えないが」
「それなんですが、荒尾さんは覚えていらっしゃいますよね?」
「何を?」
わかっているが、ここはとぼけておかないとネタ帳にイタズラしたことがバレてしまう。
それでも、書き足した2つだけでここまで詰められたのなら僥倖だ。『池田先生は男性嫌悪者』と『トイレにはまって恥ずかしかった』という2行、それだけ。
「私がトイレに……」
「あー」
予想していたけど、やっぱり思い出したという風に演じておいた。
「……」
その様子を見てこそいなかったが、村田は何をやらかしたのかを理解したようだった。表情からしか読み取れないが。
要するに、村田の次に入った沖がトイレにハマるような場合、便座が上げられていたってことだ。女性がそんなことをするだろうか? 否。
さて、最後の詰めだ。
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