底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

文字の大きさ
上 下
34 / 38

QUEST33.スタンディングオベーション

しおりを挟む
「ふぅッ」

 予想外の"ギフト"に驚きを隠さないロイス。ただ獣化による身体能力の上昇に留まると思っていただけに、正直"メタリングダンサー"では役不足だったと感じてしまった。

 なにせ、その間も足による攻撃は止まず、足元以外からならどこからでも飛んでくる。流線型の飛翔物体を炎の盾で、踊りながらも状況に応じて並べ防ぐ。決して難しい振り付けではないものの、速度はかなりハイテンポである。

 体で覚えてしまっているのか、"メタリングダンサー"の攻撃さえステップのリズムに取り込んでいた。

 ――ギュギュルギュウゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 "メタリングダンサー"は単細胞的な見た目に関わらず、レベルの実力を理解して地団駄のような反応を見せた。いくつもの足が焼かれ、踏み込む足などそろそろ生やせなくなったというのに。

 しかし、もはや引けない戦いだ。このまま諦めてロイス達に殴り倒されるか、体の全てが失われるまで足を飛ばし続けるか。

 "メタリングダンサー"は軟体の中心にある核さえ残っていれば、雑食ゆえに何度でも巨大化できる。その性質をもってして、後者に賭け勝負に出てくる。

「困ったね。防戦一方で終わりそう」

 ロイスも驚くほどに呆気ない終わりを、"メタリングダンサー"が最後の核を包んだ肉体を飛翔させたことで、彼は実感した。違いは、今までの板状ではなく棒状に近いということか。さらには回転している。

 炎に阻まれるのであれば、それを払い除け貫通すれば良いというわけだ。

「来るッ!」

 レベルも、これは流石に単純には受け止められないと判断した。

 ロイスが同感とばかりに、ラストのステップと同時にレベルを抱きかかえジャンプする。

 一瞬、炎とせめぎ合い突破してきた"メタリングダンサー"の核。二人の間へと割り込んできたそれは、全てを巻き込み回転を続ける。

 ――ギュッギュッ!?

 唐突なランデブーに"メタリングダンサー"は驚き、なおもロイスの意図がわからず飛翔を続けざるを得ない。しかし、すぐに終わりはやってきた。

 レベルもロイスの考えを理解したのか。いや、ここまでくればやれることはそれほど多くない。

「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 そこから二人は体勢を変え、"メタリングダンサー"を同時に蹴った。

 ――ギュギュギュッ!?

 驚愕か悲鳴か、飛翔物体は加速した。

 ――ギュギュルギュウゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 ナイスシュートだ。

 S級冒険者のラブラブキックを受けた"メタリングダンサー"は、自らの肉体を止めることができずついには石柱へと衝突する。

 ――ドゴォォォォォォォンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 石の塔は高速の弾丸を受け、根本から砕けポッキリと崩れ始める。二人は、寸前まで"メタリングダンサー"の核が岩とぶつかり砕けるのを見届けていた。

 そして、止めをさす必要性もないと踵を返しセーラのいる方へと進んだ。

 抉れた地面のおかげで迷うことなくセーラと合流できた二人。

「お兄さんッ」

 セーラは服こそボロボロになりながらも、ロイスの姿を見つけてすぐさま走り寄ってきた。

「おぉう、なかなかの相手だったみたいだね」

 ロイスはセーラの体当たりを受け止め、戦いの過酷さを評価するのだった。労いをかけるのはレベルの仕事だ。

「お疲れ様です。本当に、無事で良かったです。セーラさん一人に任せてしまったこと、ちょっと心配だったんですが」

 そう言うレベルはわずかばかりの不安を顕にした。相手がS級冒険者4人ともなれば、普通勝算などないというもの。

 思わずロイスとダンスをしてしまったが、"メタリングダンサー"を振り切ってでもセーラを助けに行くべきだったのだろう。

「まぁ、『ユールングア』さえあれば大丈夫」

 セーラが言うにはそういうことのようだ。それほど特筆することのない折りたたみ可能なだけの大鎌に、どれほどの信頼を寄せているのか定かではない。

「セーラならなんとかできると思ってたし、そこはね」

「はぁ……」

 ロイスも似たような感想を述べ、レベルがとやかくいうわけにもいかなくなった。

 兄にさえ信じていて貰えればいくらでも力を発揮できるというのがセーラのポテンシャルなのだろう。レベルはそう納得するのだった。

 こうしてなんとかクエストを終え、三人は倒した者達の遺品を手に帰還するのだった。

「長官からの手紙だ?」

 帰り際、受け取ったのは四通の連絡。

 そこには次の仕事の内容が書かれており、なんと見覚えのあるS級冒険者達の名が連なっているではないか。図らずしも、任務を終えたというわけである。

 長官からしてみればスタンディングオベーションものだろう。そんなわけでロイス達は、重労働の疲労を身に街へと帰りつくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

処理中です...