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QUEST31.くだらない生贄
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「生命力、光の柱、あぁ……」
「そうそう、そういうこと。お兄さんの方は、君ほど役に立たないから使い道はないかな」
セーラが独り言を呟いていると、ノーフィスの方から勝手に話してくれた。
「まぁ、だから、生かして捕まえたいんだ。いくつも"巨獣"用のゴミを作りたくはないしな」
ノーフィスはセーラの思いなど知らない様子で、いけしゃあしゃあとゲス発言を繰り返した。
「……」
対してセーラは沈黙と鋭い視線で答えた。
ノーフィスはそんなセーラを嘲笑う。爽やかな見た目には似合わない物言いをする。
「やっぱり怒ったかッ? 同族への哀れみか、仲間を守りたい一心か。無表情かと思ったがそうとも違うようだな!」
人間の心を弄び、煽り、絶望する姿を見るのが最高の喜びだと言わんばかりの高らかな笑い声を上げた。
しかし、ノーフィスは一つだけ勘違いしていた。
「確かに同胞も仲間も大事――」
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!」
「ハァァァァァァアァァァァァァ!!」
セーラがつぶやきを残している間に、岩陰から飛び出したメログとハッターが切りかかっていく。
荒野に吹き込む温かい風は異常な熱を帯び、岩の谷になった地点で砂埃を巻き上げる。メログの"ギフト"【エピセンター】がさらに大地を耕し、セーラもそれらに乗じて『ユールング』で土を叩き煙幕を濃くする。
しかし、メログは既にセーラの位置を覚えており、砂煙に映るシルエットに向かって槍を突き出した。
「もらったぁ!」
穂先にかかる抵抗に手応えを感じたメログは声を上げる。しかし、すぐに違和感に気づく。
「あ?」
次の瞬間には、煙幕を裂くような斬撃がメログの体を切った。
「【ファントムペイン】! これで、焼けただれた肉に移し替え――」
仲間を攻撃したのは当然ながらハッターだ。
どうやらハッターの"ギフト"は、切っておいた何かと次の切断したものの素材を入れ替えるというもののようである。ダメージを受けなくて正解だった。
「ばか、な……!」
「――メログ!? 小娘はッ?」
砂煙がやや晴れたところで二人が何を攻撃したのか理解し、驚愕の声を上げ表情を浮かべるのだ。メログの槍には干からびたボパーリア人の遺体が突き刺さっており、ハッター達の探した姿はもっと下にあった。
【エピセンター】の振動で動けなくならば、自ら倒れ安定を優先すれば良い。
寝転んだ体勢から体を横回転。メログとハッターは『ユールングア』の餌食になった。
「これで、大したことのない貴方だけ」
セーラはすぐさま、小砲を残してほぼ無力となったノーフィスに向き直った。
が、流石はS級といったところだろうか。メログとハッターは、最後の力を振り絞ってセーラに縋りついてくる。
「随分と、侮ってくれるぜ……」
「最期まで看取ってくれんかのぉ……」
ダメージを与えられるほどではないにせよ、セーラの動きを止めるには十分だった。
そして、岩陰から姿を表したノーフィスの腕には死に体となったアコニムが。何をしようとしているのかとセーラが訝しめば、ノーフィスの言い分は次のとおりである。
「まだ使える」
「まだ使えたか……」
ノーフィスが言うと同時にアコニムの豊満な体は見るも無残なミイラに代わり、続けざまに突き出された彼の手の平へと光球が生まれ出た。セーラも、迂闊だったと小さく呟いた。
「【サクリファイス・ア・ポーン】」
S級冒険者の生命力を見誤っていた。ノーフィスの"ギフト"によって、まだこれほどのエネルギーを絞り出せるとは。
反省している間にも、光球は光線へと変わりセーラを襲う。
――ズガガガガガガガガガガガガガガッ!
地面を抉る轟音。
――ビシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
セーラ達は光の奔流に飲まれた。
「呆気なかったな」
セーラという敵に対しても、仲間についても、ノーフィスは感慨なく呟いた。言い放つような言葉は、ただいらない玩具が壊れたのと同程度の代物であった。
ノーフィスにとって元から世の全てはそのくらいのものでしかなく、あらゆるものが自分のためにあり存在の有無など気にするものでさえない。
「なんだったんだろな、あのボパーリア人は」
セーラの怒った理由が兄のためだというのも、全く理解し難いものだった。同じボパーリア人を生贄に使ったことではなく、わずかに家族を侮辱された程度というのが余計に。
ノーフィスはこれまで通り平然と、静かにその場を歩き去ろうとする。レベルに追いついて、欠けた駒の補充に使うつもりだ。
「ふぅん……?」
軽く生返事をしてはいるが、ノーフィスは前に進めなくなった理由を考えるしかなかった。
しかし、気づくことなどない。
首筋にあてがわれた鋭い刃があることに。
気づくはずもない。
「そうそう、そういうこと。お兄さんの方は、君ほど役に立たないから使い道はないかな」
セーラが独り言を呟いていると、ノーフィスの方から勝手に話してくれた。
「まぁ、だから、生かして捕まえたいんだ。いくつも"巨獣"用のゴミを作りたくはないしな」
ノーフィスはセーラの思いなど知らない様子で、いけしゃあしゃあとゲス発言を繰り返した。
「……」
対してセーラは沈黙と鋭い視線で答えた。
ノーフィスはそんなセーラを嘲笑う。爽やかな見た目には似合わない物言いをする。
「やっぱり怒ったかッ? 同族への哀れみか、仲間を守りたい一心か。無表情かと思ったがそうとも違うようだな!」
人間の心を弄び、煽り、絶望する姿を見るのが最高の喜びだと言わんばかりの高らかな笑い声を上げた。
しかし、ノーフィスは一つだけ勘違いしていた。
「確かに同胞も仲間も大事――」
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!」
「ハァァァァァァアァァァァァァ!!」
セーラがつぶやきを残している間に、岩陰から飛び出したメログとハッターが切りかかっていく。
荒野に吹き込む温かい風は異常な熱を帯び、岩の谷になった地点で砂埃を巻き上げる。メログの"ギフト"【エピセンター】がさらに大地を耕し、セーラもそれらに乗じて『ユールング』で土を叩き煙幕を濃くする。
しかし、メログは既にセーラの位置を覚えており、砂煙に映るシルエットに向かって槍を突き出した。
「もらったぁ!」
穂先にかかる抵抗に手応えを感じたメログは声を上げる。しかし、すぐに違和感に気づく。
「あ?」
次の瞬間には、煙幕を裂くような斬撃がメログの体を切った。
「【ファントムペイン】! これで、焼けただれた肉に移し替え――」
仲間を攻撃したのは当然ながらハッターだ。
どうやらハッターの"ギフト"は、切っておいた何かと次の切断したものの素材を入れ替えるというもののようである。ダメージを受けなくて正解だった。
「ばか、な……!」
「――メログ!? 小娘はッ?」
砂煙がやや晴れたところで二人が何を攻撃したのか理解し、驚愕の声を上げ表情を浮かべるのだ。メログの槍には干からびたボパーリア人の遺体が突き刺さっており、ハッター達の探した姿はもっと下にあった。
【エピセンター】の振動で動けなくならば、自ら倒れ安定を優先すれば良い。
寝転んだ体勢から体を横回転。メログとハッターは『ユールングア』の餌食になった。
「これで、大したことのない貴方だけ」
セーラはすぐさま、小砲を残してほぼ無力となったノーフィスに向き直った。
が、流石はS級といったところだろうか。メログとハッターは、最後の力を振り絞ってセーラに縋りついてくる。
「随分と、侮ってくれるぜ……」
「最期まで看取ってくれんかのぉ……」
ダメージを与えられるほどではないにせよ、セーラの動きを止めるには十分だった。
そして、岩陰から姿を表したノーフィスの腕には死に体となったアコニムが。何をしようとしているのかとセーラが訝しめば、ノーフィスの言い分は次のとおりである。
「まだ使える」
「まだ使えたか……」
ノーフィスが言うと同時にアコニムの豊満な体は見るも無残なミイラに代わり、続けざまに突き出された彼の手の平へと光球が生まれ出た。セーラも、迂闊だったと小さく呟いた。
「【サクリファイス・ア・ポーン】」
S級冒険者の生命力を見誤っていた。ノーフィスの"ギフト"によって、まだこれほどのエネルギーを絞り出せるとは。
反省している間にも、光球は光線へと変わりセーラを襲う。
――ズガガガガガガガガガガガガガガッ!
地面を抉る轟音。
――ビシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
セーラ達は光の奔流に飲まれた。
「呆気なかったな」
セーラという敵に対しても、仲間についても、ノーフィスは感慨なく呟いた。言い放つような言葉は、ただいらない玩具が壊れたのと同程度の代物であった。
ノーフィスにとって元から世の全てはそのくらいのものでしかなく、あらゆるものが自分のためにあり存在の有無など気にするものでさえない。
「なんだったんだろな、あのボパーリア人は」
セーラの怒った理由が兄のためだというのも、全く理解し難いものだった。同じボパーリア人を生贄に使ったことではなく、わずかに家族を侮辱された程度というのが余計に。
ノーフィスはこれまで通り平然と、静かにその場を歩き去ろうとする。レベルに追いついて、欠けた駒の補充に使うつもりだ。
「ふぅん……?」
軽く生返事をしてはいるが、ノーフィスは前に進めなくなった理由を考えるしかなかった。
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気づくはずもない。
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