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QUEST30.S級のクズ野郎

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「ア~ハハハハハハハハハハハハッ~~! ア、ハハ、アハッ……」

「T5……」

 アコニムの高笑いが荒野に響き渡り、虚しく散っていった。

 そしてセーラの目の前には、全身を己の血で染めた魔女が膝を落としている。悪女アコニムの胸には横一文字の切り傷があるものの、それ自体は致命傷ではない。

 ただ、幻覚剤が入っていたビンと出血毒のビンが切られている。

「今、何が起こったんだ?」

「さぁの。確かに、アコニムは攻撃を予想して距離をとりおった」

「見えない攻撃を飛ばす"ギフト"か? T5って言ったけど」

 傍で見ていた仲間の三人は、何がアコニムを切ったのかを推測する。仲間が今にも息絶えようとしている姿に、なんら感慨も迷いもないように見えた。

 流石に【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】の正体までは知られていないようだが、何度も能力の範囲に入ってくれるとも思えない。

「詳しくは知らねぇが、とりあえず!」

 考えるのも面倒になったのか、メログが先んじて攻撃を再開した。

「武器を使わせなけりゃ良い! 【エピセンター】!」

 まずは"ギフト"による牽制だ。

 メログが能力を発動させながら駆け寄ってくる間に、地面が徐々に揺れる。踏みしめれば踏みしめるほどに揺れは大きくなり、セーラの眼前に迫るころには彼女は立っていられないほどになった。

「もらったぁ!!」

「ッ!」

 身動きを封じてからの槍による一突き。メログ自身は振動の影響を受けないのが羨ましく疎ましい。

 一撃目はなんとか大鎌で捌いたものの、バランスを崩されたところで畳み掛けられる。セーラに攻撃させなければ"ギフト"は怖くないと見たのだろう。

「武術は、普通」

 足元の揺れさえなければなんとか受け、回避できる程度の攻撃だとセーラは評価した。

「ハァッ! 俺の槍さばきを並の技量とはな! 随分酷いこと言ってくれるぜ」

 これにメログは怒るわけでもなく、苦笑を浮かべた。なおも攻撃の手を休めてはくれず、リズムも乱さずセーラを封じてくる。

 他の三人に比べて粗暴で身勝手な性格かと思っていたが、コンビネーションを崩さない程度の思慮はあるようだ。しかし、このあたりで動きを乱してくれなければセーラとしては困ってしまう。

 なにせ、まだハッターやノーフィスが残っているから。

 まずアコニムが敵を弱らせ、次にメログが獲物を牽制し、サイドからハッターが隙をみつけて攻撃するのだろう。そして、ノーフィスは――。

「チィッ!」

 セーラはらしからぬ声を上げて、ハッターの斬撃を『ユールングア』の柄で受け止めた。続けて突き出される穂先を、小ジャンプからの足でメログの手で抑え込みギリギリのガードを成功させる。

「仕込杖……。なかなかの腕前」

 セーラはハッターの武芸の才を認めた。いつ杖に隠した刃で切りかかってきたのか分からないほどで、後少しでも遅れていたら頭と体が生き別れていたところだ。

 とりあえず、ハッターに切られるのは避けた方が良いだろう。

「あの一瞬を受け止めるとは、ただの小娘と侮れんのぉ」

 ハッターはセーラを褒めながらホッホホと笑った。まるで好々爺が孫を愛でるかのようではあるが、振るわれる杖は鈍器を通り越した凶器であった。

 しばらくその刃と槍を、受けては回避し、躱しては弾き返し耐え忍ぶ。

 次に生まれた隙は、ノーフィスが短い砲でセーラを狙ったときだった。

 ――ターンッ、ターン、ターン!

「ッ!」

 数発の発砲音が響き渡った。タイミングを理解していたのか、攻め込んでいた二人も寸でのタイミングで回避した。

 セーラはギリギリで銃弾を回避できたが、問題はとんでもないコンビネーションではない。仲間に当てようがどうしようがセーラには関係ないのだから。

 まずは、少しずつ圧されたどり着いていた彼らのベースキャンプの近くと思しき開けた地点。そこに転がる巨大な干し肉か何かのような黒い塊が、否応なく目に入る。"ホワイラー"が集まって貪っているからだ。

 ――クァクァ?

 ――ガァ?

 セーラの登場に、"ホワイラー"達は鎖と首輪がついた肉塊を引きずって逃げていってしまった。

「……」

 セーラは、ノーフィス達が追撃してきても良いよう『ユールングア』を構えて前を見た。こちらの"ギフト"を警戒してか身を隠しているようだ。

「あれあれ? 怒ったか?」

 石柱に声を反射させながら、ノーフィスが言い放った。

「ボパーリア人の出涸らしに」

 ノーフィスは挑発のつもりか、黒い塊がセーラの同胞の亡骸だということを教えてくれた。セーラもなんとなくは察していたものの、考えることはノーフィスの思惑とは違った。

 どうすれば、成人を全ての水分を吸い尽くしたかのような肉塊にできるのか。

「……」

「逃した子はアコニムの代わりに入れてやろう。君も、もしかしたら2発分くらいの生命力はあると思うから、加えてやろう」

 セーラが思案していると、何やらふざけたことをほざき始めたノーフィス。干し肉を作ったのはゲス野郎の"ギフト"だと確定させ、セーラは昨晩の光線との関係を結びつけようとする。
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