底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST28.ここは任されたから

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「ググゥゥゥ……」

 淑女とは思えない鈍いうめき声をレベルは上げた。浮かべる表情も目つきも、悔しさと怒りに滲んでいた。

 視線の先には、嘲りを含んだ満面の笑みを浮かべたアコニム。メログとハッターもまた、狩りの成功に喜びを貼り付けている。

 レベルは、裏切られるとは思っていなかった。元からそんな関係でこそなかったと言われればそうだが、少なくとも敵対する関係を想定はしていなかった。

「なぜ……。良い人達だと、思って、い……たのに……」

 レベルは痺れた体を横たえたまま、なんとか三人に聞いた。マントに染み込んだ幻覚剤のせいで、目の前の冒険者達が実体なのかも怪しいが。

「なぜねぇ~」

 声ははっきりと聞こえるため、近くにアコニム達がいるのは確かだろう。痺れ薬も、風上にいなければ粉を吸引させることはできないから。

「本当は別の狙いがあったんだけどぉ~、ちょっと気分が変わっちゃってぇ~~」

 アコニムは答えた。

「ボパーリアの小娘の方で良かったんだが、俺としても姉ちゃんの方が良いね」

「ワシャも、弄るならお嬢さんの方が興味深いんじゃ」

 メログとハッターは、卑しさを通り越した醜悪な笑みを浮かべて言った。何をしようとしているかまではわからずとも、ただ直感できる。

 逃げなくてはマズい。

「捕まえたのは私なんだから、まず私の実験からよぉ~~!」

 恐れるレベルを他所に、アコニムは全身を打ち震わせて主張した。

「面白い出血毒を作れたのだけれど、元気な検体がなくて困ってたのぉ~」

 アコニムが必要としているものは、どう解釈しても誰かを救うための研究材料ではない。それだけはわかった。

 ハッターの考えはというと、

「ワシャの分も残しといてくれよ。あらゆるデータを調べ尽くさねば、それほどに興味深い!」

 などと垂涎とばかりの表情に言ってのける。知識狂いといったところのようだ。

「手足ぐらいは構わんが、顔と下半身は使えるようにしといてくれよ」

 メログは、粗野な見た目に反さず下半身のことしか考えていなかった。悪辣な表情は緩み、この後のことで下卑た笑みに変わっている。

 それは、レベルの古傷を開くのに十分な顔であった。忌まわしい記憶が引きずり出されてくる。

 グラディスに騙され、操を奪われそうになった過去。なんとか危機感に任せた力の行使で難を逃れたものの、何度もそのような幸運が続くとも思っていない。

「い、や……!」

 レベルは必死にもがいてその場を逃れようとしたが、痺れ薬のせいか四つん這いになるのがやっとだった。

 しかしアコニムは、笑みを崩して目を見開いてみせる。

「ちょっと嗅がせただけで中型くらいなら"巨獣"を動けなくする程度はできる毒よぉ~?」

 かなりの代物を吸わされてもなお、身動きが可能なレベルの能力に驚きを隠せない様子だった。

 そんなことはどうでも良いとして、多少動けたところでこの三人から逃げ切るのは難しいだろう。実力だけではなく、レベルには周囲の状況がほぼわからない。

「さて、一応逃げられないようにはさせて貰うぜ」

 そう言って手を伸ばしてくるメログの存在とて、実在のものなのかもわからない。声の存在感などで真であると考えるしかなかった。

 レベルは精一杯の抵抗として、【ブロッサム】を発動させる。

「ちか……」

「あ?」

 唐突な見た目の変化にメログはやや驚くも、無駄な抵抗と判断したのか動き出す。もしかしたら、それすらもレベルの観ている幻覚・・という可能性も。

 しかし、何であれレベルを縛り付けるトラウマが予断を許さなかった。

 近づいてくる手に畏れ、ついにレベルは【ブロッサム】の本領を発揮させる。

「近寄らなでぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇーー!」

「なッ!?」

 レベルの叫び声が響いた瞬間、伸ばされたメログの腕に青白い炎が灯った。

「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァー! アツッ、熱い! この、あちぃ!!」

 メログは少し遅れて神経を伝達してきた高温に、流石にダメージを受けて振り払おうと暴れた。

 今のうちとレベルは震える足で立ち上がり、千鳥足ながらもロイス達がいるであろう方向へと進み出す。

「あらあらあらあららら~ッ」

「あっちぃ! クソッ、クソッ、クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「まぁまぁ、落ち着くんじゃ二人とも」

 アコニムは、痺れているにも逃げられるレベルに関心と驚きを。メログはなんとか青い炎を消すも、焼けただれた腕の痛みを怒りに変えた。そんな二人をなだめつつ、メログの腕を取って動きを止めるハッター。

 何かが一瞬でメログの焦げた腕を切り落とし、出血するよりも早く何かをつなげる。作り物の腕のようだが、空中から生まれたような気さえする。

 レベルならば始終を見ていれば何事かと、少しくらい詳しくわかったかもしれないが、今は逃げるのが先決だと判断する。

「ふぅ、ふぅ……」

「随分と舐めた真似してくれやがったなぁッナッ!?」

 石柱で体を支えつつ息も絶え絶えに逃走するレベル。しかし、復活したメログにすぐ追いつかれてしまった。かに思えた瞬間、何かがレベルとメログの間に落ちてきた。

「グッ! えッ、セーラさん!?」

 着弾の勢いでわずかに押しのけられるも、レベルは砂煙から覗く小さな体を見つけて驚いた。いや、安堵さえした。
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