底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST24.偶然か必然か

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 レベルは裂帛の気合とともに、つかんでいた一枚を明後日の方向へとバイバイした。さらに、足裏に敷いた一枚は自分が飛び退くのに復帰のエネルギーを利用する。

 足が持ち上がるのに合わせてバック転宙返りを決めて、レベルは見事に危機を脱するのだった。

 けれど油断はできない。"メタリングダンサー"の足はまだ、ほぼ無傷で空中を漂っているのだから。"バッシュドラゴン"の頭骨ほどではないにせよ、その強度は並大抵の武器を通さない。

「用意できた」

 ここで、セーラから罠の準備ができたとの報告が入った。

 後は、"メタリングダンサー"がその軟体を引きずって簡易落とし穴にハマってくれれば、身動きの取れないところを一気に畳み掛けられる。その性質からあらゆる策が通じにくいという難点こそあるものの、集中砲火さえできれば本体の肉体は脆弱である。

「入った!」

 ――ギュギュゥ、ギュグゥゥゥゥゥゥゥッ!?

 進行方向に設置されたトラップに"メタリングダンサー"が落ち、ロイスの声に反応してレベルとセーラも標的へと走った。

 しかし、ここで予想さえしていなかったハプニングが起こる。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「なッ!?」「むッ?」「えぇッ!!」

 足元が大きく上下左右、無作為に揺れ動いたのだ。流石の三人もこれには驚き、バランスをとるために攻撃を止めその場に留まった。

「地震?」

「なんで、急に……」

「悪くはなかった」

 セーラを除いては、概ねこの現象に対する違和感を認識するものだった。

 地震が全く発生しないというわけではないが、それなりに予兆はあるものである。鬼の住処がいくら砂地の荒野であっても、それら気配を見逃すほど異質な世界ではない。

 ――ギュウギュウギュギュ……。

「"メタリングダンサー"は!?」

 消え行くような"巨獣"の鳴き声にロイスは気づき、ハッと目を配らせれば広がった穴の奥へと沈んでいく姿があった。

「あッ、逃げられた」

「落とし穴が広がって……ッ!」

 レベルが追いかけようとするも時既に遅し。が、悔しがっている暇さえもなかった。

 地震の影響か、いくつかの石柱が崩れロイス達に襲いかかったのだ。

 ――ドゴゴゴ、ドゴォォォォォォォォォォォン!

 岩の雨から逃げ延びる頃には、ロイス、レベルとセーラという形で分断されてしまった。

 ロイスであれば一息に向こう側へ合流できるし、レベルやセーラも不可能とまでは言わないだろう。しかし、両方とも合流を止める。

「……」

 まずはロイス側。近づいてきた気配に振り向いた。

「やぁ。随分と大変なことになったけど、無事かな?」

 爽やかに挨拶してきたのは、ロイスよりも少し年上といった感じの青年だった。安否の確認をしたあたり、騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。

「うん。えーと、貴方は?」

 ロイスは簡単に答え、昨晩の冒険者であろう青年に聞いた。

「俺はノーフィス=ダーク」

「ロイス=スミス。ハイオンのB級冒険者だよ」

 ノーフィスはあっさりと名乗り、ロイスも素直に応じた。ついでに――偽りの――冒険者ランクも伝えておくことで情報を引き出そうとする。

「俺はS級だ。仲間と"ソーヴァルチャー"の群れを狩りに来ててね」

 ロイスの思った以上にノーフィスは答えくれた。昨晩の掴んでいた亡骸は"ソーヴァルチャー"という"巨獣"だった。

 荒野の掃除屋と呼ばれ、首長くびながの鳥類のクチバシや翼がノコギリのように硬質化している。"バッシュドラゴン"と合わせて『ホコタテ"巨獣』"などと言われる。

「なるほど」

 ロイスは色々と得心いって小さく呟いた。

 道理で鬼の住処とまで言われた荒野が静かだったわけである。

「ん?」

「いえ、なんでも」

 ノーフィスはやや怪訝にするも、ロイスの言をあっさりと飲み込んでくれた。

 昨晩の光の柱はノーフィスのグループが上げたものなのは確かで、性質ないしは威力から見て"メタリングダンサー"を取り合うのは分が悪い。目的を話したところからして、奪いにくるかはわからないが。

「さて、ロイス君の仲間とも合流しないとな」

「……そうですね」

 お互いに離れ離れの立場だよと、ノーフィスは自らのことを暗に説明してくれた。しかしロイスは、ノーフィスのことを少しばかり胡散臭く見ていた。

 この分断された状況で出会ったのは偶然なのか。何かとフレンドリーに対応してくるのは、なんの裏もないのか。

 悠長に構えることの多いロイスとしては、いささか珍しい対応である。

「迂回したら合流できるかね?」

 ノーフィスはそんなこと知らぬ様子で行動方針を考えていた。

 S級のノーフィスに、この程度の岩石が乗り越えられないとは思えない。が、あえてロイスに実力を隠したいのなら仕方のないことか。ロイスもまた、相応の態度を取ることにする。

「標的の逃げた先がたぶんあっちだから、向かえば大丈夫かと」

「へぇ、仲間の行動まで予測できるのか? それだけ信頼している?」

 ロイスが意見を述べると、ノーフィスがすかさず探りを入れてきた。

「まぁ、妹もいるから」

 疑り過ぎかとも思ったが、とりあえずは当たり障りのない解答をしたロイス。それで納得したのか、ノーフィスはそれ以上なにも言わずに歩き出す。

 爽やかな銀髪の青年が考えていることを、ロイスは警戒しつつも表に出さずついていく。
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