底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST20.さらなる一仕事

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 ロイスは一人、退廃的な町並みを歩く。

 時折は腐臭こそ混ざるものの、大通りはまだ普通に歩けた。いったい誰が、町の反社会的組織に始末され裏路地に転がっているのだろう。

 ロイスには興味のないことではあったが。

「たまには一人の時間も良いね」

 いつもは誰かが側にいることへの窮屈さに、贅沢な悩みをぶちまけるのだった。

 ただ、そんな自由も朝過ぎから出てきて昼の前には終わりを告げる。

「ん?」

 見覚えのある眼鏡の顔が近づいてくるのにロイスは反応した。

 ハイオンの冒険者ギルドに所属しているのだから、マーゴットがここにいるのは普通である。気になったのは、兄の方ではなく妹の方。推定ではあるが、マーゴットの影に隠れるようにしている姿から判断した。

「スミスさん、ちょうど良かったです」

「はい?」

 マーゴットは改まった物言いで反応を示し、何事かと首をかしげたロイス。

 マーゴットと解決する用件などあっただろうか。謝意などの話し合いで済むものは、先の依頼が終わった際に片付けたはずである。

「わざわざ探してくれてたの?」

「えー、そういうことにしておきましょう。恥ずかしながら、スミスさんにお願いがありましてね」

 上手い具合についでという言葉をはぐらかされた。冒険者ギルドにでも向かう途中だったのだろう。

 さておき、恥を忍んで何をお願いしようとしているのか。というのも大体は思い至っている。

「その子の、妹さんのことかな?」

「話が早くて助かります。愚妹の――」

「まだ引き受けるとは、ぁ~……」

 ロイスから言い出せば、マーゴットはやや声を弾ませつつ妹を紹介しようとした。ロイスとしては、ミランダのことも思えば二つ返事というわけにはいかなかった。

 しかし、待ったをかけようとしたところでセリフが出てこなくなる。

 ロイスは久しく戸惑った。まさか、自分が他者の美貌に息を呑むなどということがあるとは。

「え、えっと、あの……」

 美少女と呼ぶにふさわしいマーゴットの妹は、言葉を失ったロイスに怪訝な表情で話しかけた。引っ込み思案なのか、なんとも中途半端な声だ。

 仕方ない。兄の陰からヒョコッと顔が出てきたとき、これほどの美が存在するのかと疑ったほどである。

 水の精霊を思わせるかのような青のロングヘアーに健康的かつ色白の肌が栄え、わずかにうるむ瞳はサファイエル鉱石の如き輝きを放つ。声音一つ取っても、空気の振動が一服の清涼剤となるほどだ。

 何よりも、セーラやミランダに欠けている部分を補っている。

「いや、まぁ、一人も二人も同じか」

 ロイスは、端切れの悪い返事をした。魅了されたなどとは口が裂けても言えないため、成り行きで引き受けたという体を取った。

「引き受けてくださると?」

「うん、仕方ないし構わないよ」

 マーゴットが確認したことで、ロイスによる身元引受が決定したのだった。

「ありが、とうございます。レベル=ヌグイェンと、申します。よろしくお願いします」

 漸く、マーゴットの妹ことレベルは名乗りを上げてくれた。とは言え、まだまだロイスに慣れるのは時間が掛かりそうだ。

「しばらくは妹さんの、セーラさんの世話になると思うけれど。なんとかS級に返り咲いて、冒険者としてやっていけるよう面倒を見てやってください」

 マーゴットも改めてロイスに頭を下げた。

 ロイスにとっては難しい話ではない。後々、レベルの能力について調べたところでは、元S級だったこともあり素養は十分。

「ふむふむ」

 ロイスは短い休息を終え、ギルドに|赴きレベルのデータを確認した。用紙には『攻撃A、速度S、判断S、生存A、汎用A』と書かれており、さらに"ギフト"使用時は『攻撃S、速度S、判断S、生存S、汎用A』とある。ほぼ非の打ち所がない才能に、ロイスとしては関心するしかなかった。

「ホント、ペナルティがなければって感じだね」

「はい……」

 ロイスの言葉に、レベルが申し訳無さそうに応じた。別にレベル自身が多きな非があるわけではないのだが。

 特に、グラディスとの一件を考えればわずかの部分も責められない。

「2年も休んでしまっては、仕方ないです」

 ギルドからのペナルティを受けたことに関して、レベルは諦めているように答えた。

 冒険者に少しばかりの福利厚生があることは、住処の部屋からもわかることだろう。S級冒険者にもなるとやはり良い部屋を安くで借りることもできるし、大浴場も然り。

 ただ、そうしたものに腰を据えて冒険者業をしないとなれば、ギルドとしても嬉しくはない。

 結論、仕事をしない冒険者にはS級から順に2年、1年、半年、3ヶ月、1ヶ月のスパンで降格処分が下される。

「まだA級だし、レベルのレベル水準なら直ぐに戻れるさ」

 ロイスは慰めを言った。割と本心だ。

「はい、頑張ります」

 レベルの声は、はっきりとはしているが小さかった。

 問題は実力よりも、レベルの心をむしばんでいるもの・・である。

「……」「……」

 ロイスとレベルの視線が交わった。

「ッ……」

 直ぐにレベルの方が折れて目を逸らすも、その必要はなかっただろう。
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