底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST18.大浴場

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「お疲れ様。僕も仕事を終わらせてくるよ」

「うん」

 ロイスはミランダを労いつつチェシーの対応に向かった。ミランダも、あまり身動きすることができそうにない様子で見送った後、自ら手の治療をする。

 そこでセーラも、偶然の到着を装ってロイスの前へと出ていく。

「そちらもお疲れさん」

「うん」

 ロイスは自分の指示を上手く達成してくれたセーラを労った。

 チェシーはというと、自分にも手柄を寄越せとばかりに手助けを催促する。

「チッ……。さっさと助けてちょうだいよ。乱入の件、ちゃんと決着をつけないとね」

「さて、僕らは『冒険者ランク不正取締官』だ」

 しかし、ロイスはここで名乗りを上げた。単純に、からかいたくてやった。

「……」

 チェシーは、自分の置かれた状況が完全に手詰まりだと理解し黙るしかなかった。ただ、腹を上に向けて服従のポーズを取っているのであれば降参なのだろう。

 その格好しかできないともいう。

「不相応な依頼の達成によるランク昇格。大した罪状ではないけど、S級まで続けると十分に重いよ」

「はッ……はは……。命だけはお助けを」

 ロイスはいつものように丁寧な罪状説明をしていった。すると、珍しいことにチェシーは大人しく敗北と処罰を受け入れてくれた。

 少しばかり拍子抜けしてしまったが、ここは怠惰なロイス。

「まぁ、大人しく罰を受けるっていうなら殺すのも面倒かな。セーラ」

 評価を求めるため、追跡を担当したセーラにも意見を聞いた。

 ロイスの考えとしては、

「A級への降格でもやっていけると思うんだけど」

 というものだ。

「私も」

 セーラは同意見ということもあって端的に答えた。これまでの仕事で最も簡単な一件が終わりを告げた。

 迎えの船を狼煙玉で呼びジドニアーへ戻り、そこからハイオンへと帰還してからのことは簡単だった。ギルド長であったジョンを処罰するよりも後々の処理に難儀しないのは当然だろうが。

 組織の長が新たに決められていないからこそロイスが臨時で口を挟めたというのも大きい。それが功を奏してチェシーの降格とミランダの昇格を同時に可能としたのである。もちろん、ミランダの件は"バッシュドラゴン"ならびに"ゲールペント"の討伐で満たしていると判断してのことである。

 大変なのはこれからなのだが。

 さておき、状況はロイスにとって悩ましいものとなっていた。

「うーん」

 ロイスは、天井を仰ぎ見て唸った。

 その原因はというと、ミランダの昇給祝いとの名目でギルド管理の風呂場を貸し切ったことにある。が、借りることそのものは受付嬢ことテレサの手助けを受けつつもロイスの権限で可能にできた。

 しかしセーラは、残念なことに冒険者登録がない。貸切風呂とばかりに強権を発動することもできただろうが、ロイスですらそのような無法に抵抗があったわけである。

 何だと思ってるんだ。

「冒険者以外にも貸し出すってことにすれば無理ではないんだろうけど、色々とやりすぎて食い込ませる時間はないかぁ……」

 よってロイスはどうするか悩んでいた。

 ここで助け舟を出してくれるのはエミュー。

「では、セーラさんはこちらでお預かりいたします。服を新調せねばなりませんから」

 割と重要なことを思い出させてくれた上に、引き受けてくれるというのも助かった。単純にロイスがお願いしても聞いてくれただろうが、後々のお詫びが大きくなりすぎて問題があった。

「むぅ……」

 やや不服そうにしながらも、セーラはエミューに腕を引っ張られ部屋に取り残されたのである。

「じゃあ、行くとしましょうか」

 邪魔者セーラがいなくなって一番喜んだのはミランダだ。

 そう、冒険者であるミランダならばギルド管理の風呂場が混浴だと知っていたわけである。

 ロイスと裸の付き合いという嬉し恥ずかしいシチュエーションに、ミランダはというと手放しに喜んだわけでもない。

「あの、えーと。こっち、あまり見ないでね……?」

 浴場へと入ったところで怖気づく羽目となった。

 多分、体のセーラより多少膨らみのある程度のラインに関して恥じているというわけではない。現に垢擦り用の布で隠しているのは左側半分だ。腕の傷が気になるというのは女性らしいかもしれない。

「この広いお風呂を二人だけって、ちょっとやりすぎたかな」

 ロイスは意に介した様子もなく、普段とは違う湯船に関心して言うのだった。

「むぅ……」

 それはそれで不満なミランダであった。

 ロイスはさっさと傷一つない体を洗い流し、そそくさと湯船へと入っていく。

 ミランダも後に続くが、その動きは緩慢である。原因は一目でわかる通り、片腕の欠けた状態では右半身を洗うのに難儀するからだ。

 見ているのも待つのももどかしいと思ったロイスは、手伝うため湯船を出て近づく。

「背中を流すよ」

「え? あっ、いえ、そんなことさせ!」

 ロイスが申し出ると、それなりに驚いて固辞してくる。国に所属するロイスに背中を流させようすることを躊躇ったのだ。

 それでも、洗剤の泡で滑る手から垢擦り布を引き抜き、ロイスはミランダの背中を無理やり洗い始める。
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