16 / 38
QUEST15.密林の猫
しおりを挟む
「……」
「セーラ?」
旧都と呼ばれるその遺跡群を、セーラが立ち止まり見つめたためロイスは声をかけた。
旧都はボパーリア人の信仰の中心地である。出生こそ曰くがあり記憶のない、それでも巫女の娘であるセーラには何か感じ取れるものがあるのだろう。
「んん、やっぱり抜け殻」
いや、逆に感じ取れなかったからこそ立ち止まったようだ。
このような孤島を首都として扱ったのは、大霊峰こと天上の石にこそ神が住まうとされていたからである。そこに下々の者が住むなど恐れ多いとしていたが、アリス人からすれば見解は違った。
いや、アリス人の見解の方が正しいかもしれない。
これは大昔の物語だ。神が己らの力で背徳の限りを尽くした人々に怒り、暴虐を振るい始めたがため英雄が封じたとされている。
「まぁ、確かに、神様とやらが何事もなければ守ってくれただろうしね」
ロイスは答えた。もしかしたら愛想を尽かしているかも、などと付け加えつつ。
そんな様子を、ミランダは良くわからないといった様子で眺める。が、直ぐに嫉妬したりする時間もなくなる。
「!?」
――シュルルルルルルルルッ!
ミランダが見上げれば、甲高い鳴き声を響かせて通り過ぎていく長い影。クチバシを持ったトボケ顔の、空飛ぶ蛇とも言うべき様相は確かに"ゲールペント"だった。
「まてぇいッ!」
続けてやってきたのは、風もないのにロングヘアーをなびかせる女性だった。フワフワと踊るように無秩序な動きの橙色の髪には似合わず、怒鳴る声は空気を絹を裂くようだった。
「あッ」「あッ」「ん」
「はへ?」
4人は、飛び去る"ゲールペント"のことを忘れて顔を見合わせた。それも数秒ともたず、まずチェシーが標的を逃すまいと動く。
「ちょこまかとしやがって!」
チェシーは、比較的に好戦的ではない"ゲールペント"を捉えるのに難儀している様子だった。
しかし、チェシーの都合などロイスからしてみれば二の次である。
「待った」
「なんッ。邪魔するチッ!」
まず話から持ちかけようとロイスは制止しようとするが、その時間を"ゲールペント"が許してくれなかった。チェシーの追跡に辟易したのだろうか、その動きを止めるために戻ってきた。
――シュロロロロロロロロッ!
――ガフッ!
大きなクチバシが開いて、そこから白く濁った液体が発射された。
――ガフッ!
――ガフッ!
連続して数発がロイス達のいる地点へと投下され、皆は回避を試みた。
吐き出された液体はやや刺激臭を伴っているが毒ではなく、粘性を持ったものである。毒のような餌の捕獲手段を持たない"ゲールペント"は、このトリモチとも言える粘液を用いて動きを止めた後で相手を丸呑みにする。
「げぇッ! こいつ……!」
回避しきれなかったチェシーにその粘液が飛び跳ね、髪が汚れことに怒りをあらわにした。
それでも、飛び去っていく"ゲールペント"を追いかけたかったのを踏みとどまったのはロイス達を邪魔者と判断したからである。
「さいならッ」
武器は腰に巻いた鞭と思われるが、"ギフト"の性能を落とされた今では3人を相手するのは無理だった。チェシーの判断は的確だと言えた。
「あッ、待って!」
ロイスは止めようと声をかけるも、既に走り去ってしまったチェシー。
まだ『冒険者不正取締官』としての名乗りも罪状も宣言していない今、まだ任務の執行には至らない。ただ、ロイスはそれを追わなかった。
「セーラ、そっちはお願い」
「ん」
代わりにセーラへと指示を出した。セーラもそれを引受けた。
単純に追いかけても良いのだが、森での活動に一日の長を持つチェシーが罠を用意していないとも限らない。
「ミランダ、こっちはクエストの方を終わらせよう」
さらには人数の有利を利用して、獲物の横取りを目論んだのだ。当然、それでが目撃ではなかったが。
「うん!」
ミランダとしてはそうした画策など考慮の内ではない。ただ嬉しげに返事を返して、ロイスの後に続くのだった。
中心方向へと向かうロイス達と、北へと向かうセーラ。二手に分かれてから10分も"ゲールペント"と追いかけっこをしたか。
まだ海の見えない森林の中、巣と思しき遺跡群の壁に囲まれた地点で漸く立ち止まることができた。
「巣かしらね?」
「あぁ、うまい具合に砦を作ってるみたいだ」
ミランダが岩陰から覗き込んで状況判断に努め、ロイスは先立って攻略方法を模索した。
大きめの木を中心に遺跡群が存在しているため、一気に畳み掛けるということが難しい。突入口が限られていることで、こちらの動きが読まれ易いという点もある。
ロイス一人であれば一気に畳み掛けることもできたが、ミランダの実力アップにはつながらないので止めておいた。
そしておもむろにミランダを見ていう。
「木登り――」
「え?」
当然ミランダは不思議な単語に混乱しかけた。
何のことはない。子供のお遊びについて言及しているだけである。
「――しようか」
「う、うん……」
そんな遊びの誘いに、わけもわからない内にうなずいてしまったミランダ。
「セーラ?」
旧都と呼ばれるその遺跡群を、セーラが立ち止まり見つめたためロイスは声をかけた。
旧都はボパーリア人の信仰の中心地である。出生こそ曰くがあり記憶のない、それでも巫女の娘であるセーラには何か感じ取れるものがあるのだろう。
「んん、やっぱり抜け殻」
いや、逆に感じ取れなかったからこそ立ち止まったようだ。
このような孤島を首都として扱ったのは、大霊峰こと天上の石にこそ神が住まうとされていたからである。そこに下々の者が住むなど恐れ多いとしていたが、アリス人からすれば見解は違った。
いや、アリス人の見解の方が正しいかもしれない。
これは大昔の物語だ。神が己らの力で背徳の限りを尽くした人々に怒り、暴虐を振るい始めたがため英雄が封じたとされている。
「まぁ、確かに、神様とやらが何事もなければ守ってくれただろうしね」
ロイスは答えた。もしかしたら愛想を尽かしているかも、などと付け加えつつ。
そんな様子を、ミランダは良くわからないといった様子で眺める。が、直ぐに嫉妬したりする時間もなくなる。
「!?」
――シュルルルルルルルルッ!
ミランダが見上げれば、甲高い鳴き声を響かせて通り過ぎていく長い影。クチバシを持ったトボケ顔の、空飛ぶ蛇とも言うべき様相は確かに"ゲールペント"だった。
「まてぇいッ!」
続けてやってきたのは、風もないのにロングヘアーをなびかせる女性だった。フワフワと踊るように無秩序な動きの橙色の髪には似合わず、怒鳴る声は空気を絹を裂くようだった。
「あッ」「あッ」「ん」
「はへ?」
4人は、飛び去る"ゲールペント"のことを忘れて顔を見合わせた。それも数秒ともたず、まずチェシーが標的を逃すまいと動く。
「ちょこまかとしやがって!」
チェシーは、比較的に好戦的ではない"ゲールペント"を捉えるのに難儀している様子だった。
しかし、チェシーの都合などロイスからしてみれば二の次である。
「待った」
「なんッ。邪魔するチッ!」
まず話から持ちかけようとロイスは制止しようとするが、その時間を"ゲールペント"が許してくれなかった。チェシーの追跡に辟易したのだろうか、その動きを止めるために戻ってきた。
――シュロロロロロロロロッ!
――ガフッ!
大きなクチバシが開いて、そこから白く濁った液体が発射された。
――ガフッ!
――ガフッ!
連続して数発がロイス達のいる地点へと投下され、皆は回避を試みた。
吐き出された液体はやや刺激臭を伴っているが毒ではなく、粘性を持ったものである。毒のような餌の捕獲手段を持たない"ゲールペント"は、このトリモチとも言える粘液を用いて動きを止めた後で相手を丸呑みにする。
「げぇッ! こいつ……!」
回避しきれなかったチェシーにその粘液が飛び跳ね、髪が汚れことに怒りをあらわにした。
それでも、飛び去っていく"ゲールペント"を追いかけたかったのを踏みとどまったのはロイス達を邪魔者と判断したからである。
「さいならッ」
武器は腰に巻いた鞭と思われるが、"ギフト"の性能を落とされた今では3人を相手するのは無理だった。チェシーの判断は的確だと言えた。
「あッ、待って!」
ロイスは止めようと声をかけるも、既に走り去ってしまったチェシー。
まだ『冒険者不正取締官』としての名乗りも罪状も宣言していない今、まだ任務の執行には至らない。ただ、ロイスはそれを追わなかった。
「セーラ、そっちはお願い」
「ん」
代わりにセーラへと指示を出した。セーラもそれを引受けた。
単純に追いかけても良いのだが、森での活動に一日の長を持つチェシーが罠を用意していないとも限らない。
「ミランダ、こっちはクエストの方を終わらせよう」
さらには人数の有利を利用して、獲物の横取りを目論んだのだ。当然、それでが目撃ではなかったが。
「うん!」
ミランダとしてはそうした画策など考慮の内ではない。ただ嬉しげに返事を返して、ロイスの後に続くのだった。
中心方向へと向かうロイス達と、北へと向かうセーラ。二手に分かれてから10分も"ゲールペント"と追いかけっこをしたか。
まだ海の見えない森林の中、巣と思しき遺跡群の壁に囲まれた地点で漸く立ち止まることができた。
「巣かしらね?」
「あぁ、うまい具合に砦を作ってるみたいだ」
ミランダが岩陰から覗き込んで状況判断に努め、ロイスは先立って攻略方法を模索した。
大きめの木を中心に遺跡群が存在しているため、一気に畳み掛けるということが難しい。突入口が限られていることで、こちらの動きが読まれ易いという点もある。
ロイス一人であれば一気に畳み掛けることもできたが、ミランダの実力アップにはつながらないので止めておいた。
そしておもむろにミランダを見ていう。
「木登り――」
「え?」
当然ミランダは不思議な単語に混乱しかけた。
何のことはない。子供のお遊びについて言及しているだけである。
「――しようか」
「う、うん……」
そんな遊びの誘いに、わけもわからない内にうなずいてしまったミランダ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる