底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST14.探索開始

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 手漕ぎの船は海峡を渡り、離れ小島となったネオジオランドへとたどり着く。鬱蒼うっそうと生い茂る木々が細長い陸地に乗ったような姿で、船を止めるための桟橋の周囲ぐらいしか砂地が見えない。

「よっと。さて、気合いを入れ直さないと」

 接岸した船から降りたところで、ミランダは頬の緩みをペチペチと叩くように直して言った。

 ロイスは船員に軽い謝礼をした後、ミランダと歩調を合わせつつ森へと向かって歩きだす。とはいえジャングルを闇雲の回っても標的など見つかるはずもなく、ロイスは独り言をつぶやく。

「まずはどうしようかな。島の外周に沿って歩いてみるか」

 ならば最初に探すべきは、特定の行動をとり易い生き物の方だと判断したロイス。

「良いわよ」

 尋ねずとも答えたミランダの声音は、ロイスとの散歩をしばし楽しめることへの期待を含んでしまっていた。

「それにしても、これ、本当に同じ島なのかしら?」

 ミランダは、草木と腐葉土の匂いが湿気と混合された世界へと足を踏み入れながら言った。ロイスは背中に疑問を投げかけられ、改めて無数の顔を持つ島を見上げた。

 基本的にネオジオランドへやってくる理由など無いに等しい。良くて、ミヤコゴケと呼ばれる活力剤のための素材を取りにくるくらいだろう。

 訪れる頻度が低いため、同じように思えないというのは確かだ。

「感覚が狂うのもわかるよ。はぐれないように」

「あ、うんッ」

 ロイスはS級冒険者の意地もあって、地形という敵を侮りはせず地面を踏みしめた。その後を続くミランダも、流石に浮かれてはいられないと気づいて声を弾ませた。

 ここで、兄とミランダの関係に嫉妬したか、はたまた熱帯林の暑さに参ったかセーラはカバンから出て歩くことを決める。

「はぁ……」

「出てきたのか? まぁ、そうそう人なんてこないから大丈夫だろうけど」

「むむむ……」

 仮初の二人っきりの時間を邪魔されたことで、ミランダはジッとセーラを睨みつけた。どことなく首より下を気にしているようにも見えた。確かに、鉄製の胸当てに覆われたミランダの胸部は成長途中のセーラと比肩しうる。

 悪い方向で。

 身体的不足はさておいて、一行がまず目指したのは"ゲールペント"の痕跡を探すことである。

「セーラ、そっちはどう?」

「だめ」

 ロイスは木の上から滑り降りつつセーラに聞いた。別の木に登っていたセーラからの返事は、短く的確なものだった。

 "ゲールペント"は単純に捉えると有翼の蛇といえる姿である。飛行もするが、基本的には木々に巻き付いて獲物を狙いすましている。

 排泄物のような痕跡も、地面では虫などの餌になるため、樹上の方が多くみつけられる。だが、島の外周を縄張りにしていないのか半分ほどを回った辺りでさえ見つからなかった。

「ミランダはどう?」

「うぅん、"ゲールペント"っぽいのはないわね。赤い糸状のものぐらいかな」

 さらに別の木から降りてきたミランダにも聞くが、彼女もまた首を横に振った。ただ、別のものを見つけたらしい。

 ミランダでは思い至らないかもしれないが、その赤い糸は人間の髪の毛である。

「そう。もしかしたら、他の木にもあるかもしれないから探して」

「あれって、髪の毛よね……? もしかして、ロイスさんの狙ってる相手って」

 意外なことに、説明を端折ったというのにミランダは答えへ行き着いた。

 そう、次の依頼における目標には【ドーマウス】という髪の毛を操る"ギフト"がある。針状に硬質化した髪の毛を射出することができるらしい。

 基礎能力としては『攻撃A速度A判断A生存A汎用A』ではあるものの、"ギフト"使用時には『攻撃S速度S判断A生存A汎用S』と評価されている。

「まぁ、実際には一段回ぐらいは下がるだろうけど」

 目標であるチェシー=ンゲルの資料をミランダに見せつつ、ロイスは個人的な評価を述べた。

 正直なところ、ミランダと同じ程度だと思っているロイス。比べられる本人からすれば複雑だろうし、汎用性の面ではミランダは複雑な気分であろう。

 ミランダの【ライジング・インパクト】は、左右どちらかの手で触れたモノの末端までを衝撃の発動部にできる。その総量により破壊力は変わるものの最低でも手に、自分にもダメージが残るという難儀な"ギフト"である。

「か、狩りのスタイルが違うからね。うん」

 ミランダは自分に言い聞かせるように言って、チェシーの情報をロイスに突き返した。

 確かにミランダの冒険者としての手法は、雑務か中~小型の"巨獣"を対象とした討伐である。中型ともなるとグループになるのも、"ギフト"の勝手の悪さ故だ。

 今度の仕事もロイスの助力は願ってもない話なわけである。

 こうして、一行は島を一周したところでさらに中心部へと向かって潜っていく。

「あっつぅ」

 陽の光が遮られつつも、潮風も阻まれるためか湿気と熱がまとわりついてきた。うんざりしてしまうのはミランダだけではなかった。

 進むにつれて薄暗くなり、合わせ森の様相も変わっていく。これまでは木々ばかりだったが、少しずつ石の塊が見え始める。

 ただ岩肌が露出しているわけではなく、崩れてこそいるものの人工物であることが伺える積み上げ方をされている。疎らながらもわずかに規則性を感じさせる配置は、明らかな文明の名残であることがわかる。
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