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QUEST13.恋の渡し船
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ギルド長の処罰から一週間ほど経過した頃、ロイスはいつものように大きなカバンを背負い仕事へと向かっていた。
改めてジドニアーに馬車で移動し、さらに西に作られた港から船に乗る。磯の香りと潮風に包まれ向かうはネオジオランドと呼ばれる小島である。
出発がまもなく迫った船上には、船尾と船首を見張る二人の船員を除けばロイスともう一人の客だけとなった。元から乗客を5人も乗せればいっぱいの小舟ではあるが。
「あれ? 奇遇ね」
腕の具合を確かめていた女性は顔を上げると、さすがに狭い船内でロイスを見逃すことなく声をかけてきた。
「ミランダさん?」
以前に依頼を共にして、"バッシュドラゴン"に腕を噛みつかれた女性だった。ミランダの名前を忘れていなかったことは、他人にあまり興味を持たないロイスとしても珍しいことだった。
確かに、ミランダは――贔屓目に見ても――セーラと遜色のない美少女である。
その美人さんはどことなくポーズを変えて、レギンスを七分丈のパンツから覗かせながら、問いかける。
「ロイ、えー、スミスさんももしかして旧都遺跡の"ゲールペント"の討伐?」
どうやら、ミランダは依頼で向かうらしかった。といっても、基本的にネオジオランドこと旧都跡は依頼でもなければ立ち入れないが。
なお、前ギルド長ジョンの不正やここ数日の混乱で依頼が二組以上の冒険者に渡る。近日の間に、ネオジオランドでの依頼が"ゲールペント"討伐しかなかったため、ミランダも何かを期待したのだろう。
「いや、別の方の仕事」
「あー」
ロイスの端的な答えに、ミランダは横目に大カバンを見て納得した。エメラルダ鉱石の如き鮮やかなグリーンの瞳に失望が映っていた。
「邪魔にならないよう気をつけるわ」
ミランダは気持ちを切り替えて言った。
気を使ってくれるのはロイスにとしてはありがたいが、読みは違った。
多分、既にネオジオランドに向かったS級冒険者とミランダの依頼はブッキングしていると判断できる。ならば、ミランダとは協力して行動した方が良い。分担するのも同行するのも。
「バラけて行動しても足を引っ張る結果になるかもしれない。必要になるまでは一緒に行動しないかい?」
ロイスは瞬間だけ思考を巡らせた上で、ミランダに提案した。
「えっ、あ、えーと、スミスさんが良いなら、私は……」
「えーと、まぁ、よろしく」
それに対してミランダは、肩ほどまでに垂れた深緑の三編みを弄りながらとても嬉しそうに曖昧な返事をした。なかなかに困る返答だが、否定ではないのでロイスは良い方向で受け取った。
これまでの反応で、ミランダがロイスに好意を寄せているのは理解できる。
「うん……」
少女の口から漏れた静かな返事は、数日前のことを思い返してだろうか。
"バッシュドラゴン"との戦いで何が起こったのか、改めて説明しなければならない。特に、ミランダの左腕を覆う長いグローブの中について言及するには。
――。
――――。
わざと吹き飛ばされ崖から落ちたロイスの目に、なかなか衝撃的な光景が映る。
「アァァァァァァァァァアァァァッッッ!」
ミランダは、痛みと気合を声にして残る片腕で囚われた左の二の腕を掴んだ。瞬間、雷のような光がわずかに瞬き左腕が爆発する。
――ドゥンッ!
――ガァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァ!!!
巨獣の口腔に響く鈍い破裂音の後、長い下顎はほとんどが引き裂かれ悲鳴が吹き出した。
二の腕から先をパージしたミランダは、痛みか衝撃かのせいで意識を失うに至った。
それがミランダの"ギフト"で【ライジング・インパクト】というらしい。
あいにくと片腕は"バッシュドラゴン"の口内に微塵となって張り付き回収できず。マーゴットの"ギフト"は失った部位まで再生できなかったため、代わりに"バッシュドラゴン"の頭骨から作られた無機質な棒がつけられているだけである。
「フッ!」
ロイスは単に、落下するミランダに宙を蹴るように追いつき落下手前で拾ったに過ぎない。
――。
――――。
回想のようなこともあったが、本当に好意を寄せられる理由がわからなかった。
「あー、でも、"ゲールペント"の討伐なんて選んだけど無様な姿を見られたら恥ずかしいなぁ……」
ロイスは思案を巡らせていると、ミランダが悩ましげにつぶやくのが聞こえた。これでロイスは合点がいった。
成否で言えば否だが。
「冒険者としてのノウハウを知りたいなら、微力だけど手を貸すよ」
ロイスは、ミランダが冒険者としての箔を求めて媚を売っているのだと考え、仕方なしに手伝うことを提案した。
「えッ! それって……本当に良いの?」
「あぁ、後進を育てるのも、痛っ、S級冒険者としての……任務だからね」
ミランダは非常に喜んだ様子で聞いてきて、ロイスはこれを正解とみなしてしまった。さらに、兄の甘さに嫉妬した妹が背中をカバンの中から蹴りつけきた。
セーラの動いているところを船員達に見られなかったのは幸いである。
「フフフッ~」
ミランダのやや紅潮した満面の笑みが収まったのは、それから10分と少し後のことだった。
改めてジドニアーに馬車で移動し、さらに西に作られた港から船に乗る。磯の香りと潮風に包まれ向かうはネオジオランドと呼ばれる小島である。
出発がまもなく迫った船上には、船尾と船首を見張る二人の船員を除けばロイスともう一人の客だけとなった。元から乗客を5人も乗せればいっぱいの小舟ではあるが。
「あれ? 奇遇ね」
腕の具合を確かめていた女性は顔を上げると、さすがに狭い船内でロイスを見逃すことなく声をかけてきた。
「ミランダさん?」
以前に依頼を共にして、"バッシュドラゴン"に腕を噛みつかれた女性だった。ミランダの名前を忘れていなかったことは、他人にあまり興味を持たないロイスとしても珍しいことだった。
確かに、ミランダは――贔屓目に見ても――セーラと遜色のない美少女である。
その美人さんはどことなくポーズを変えて、レギンスを七分丈のパンツから覗かせながら、問いかける。
「ロイ、えー、スミスさんももしかして旧都遺跡の"ゲールペント"の討伐?」
どうやら、ミランダは依頼で向かうらしかった。といっても、基本的にネオジオランドこと旧都跡は依頼でもなければ立ち入れないが。
なお、前ギルド長ジョンの不正やここ数日の混乱で依頼が二組以上の冒険者に渡る。近日の間に、ネオジオランドでの依頼が"ゲールペント"討伐しかなかったため、ミランダも何かを期待したのだろう。
「いや、別の方の仕事」
「あー」
ロイスの端的な答えに、ミランダは横目に大カバンを見て納得した。エメラルダ鉱石の如き鮮やかなグリーンの瞳に失望が映っていた。
「邪魔にならないよう気をつけるわ」
ミランダは気持ちを切り替えて言った。
気を使ってくれるのはロイスにとしてはありがたいが、読みは違った。
多分、既にネオジオランドに向かったS級冒険者とミランダの依頼はブッキングしていると判断できる。ならば、ミランダとは協力して行動した方が良い。分担するのも同行するのも。
「バラけて行動しても足を引っ張る結果になるかもしれない。必要になるまでは一緒に行動しないかい?」
ロイスは瞬間だけ思考を巡らせた上で、ミランダに提案した。
「えっ、あ、えーと、スミスさんが良いなら、私は……」
「えーと、まぁ、よろしく」
それに対してミランダは、肩ほどまでに垂れた深緑の三編みを弄りながらとても嬉しそうに曖昧な返事をした。なかなかに困る返答だが、否定ではないのでロイスは良い方向で受け取った。
これまでの反応で、ミランダがロイスに好意を寄せているのは理解できる。
「うん……」
少女の口から漏れた静かな返事は、数日前のことを思い返してだろうか。
"バッシュドラゴン"との戦いで何が起こったのか、改めて説明しなければならない。特に、ミランダの左腕を覆う長いグローブの中について言及するには。
――。
――――。
わざと吹き飛ばされ崖から落ちたロイスの目に、なかなか衝撃的な光景が映る。
「アァァァァァァァァァアァァァッッッ!」
ミランダは、痛みと気合を声にして残る片腕で囚われた左の二の腕を掴んだ。瞬間、雷のような光がわずかに瞬き左腕が爆発する。
――ドゥンッ!
――ガァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァ!!!
巨獣の口腔に響く鈍い破裂音の後、長い下顎はほとんどが引き裂かれ悲鳴が吹き出した。
二の腕から先をパージしたミランダは、痛みか衝撃かのせいで意識を失うに至った。
それがミランダの"ギフト"で【ライジング・インパクト】というらしい。
あいにくと片腕は"バッシュドラゴン"の口内に微塵となって張り付き回収できず。マーゴットの"ギフト"は失った部位まで再生できなかったため、代わりに"バッシュドラゴン"の頭骨から作られた無機質な棒がつけられているだけである。
「フッ!」
ロイスは単に、落下するミランダに宙を蹴るように追いつき落下手前で拾ったに過ぎない。
――。
――――。
回想のようなこともあったが、本当に好意を寄せられる理由がわからなかった。
「あー、でも、"ゲールペント"の討伐なんて選んだけど無様な姿を見られたら恥ずかしいなぁ……」
ロイスは思案を巡らせていると、ミランダが悩ましげにつぶやくのが聞こえた。これでロイスは合点がいった。
成否で言えば否だが。
「冒険者としてのノウハウを知りたいなら、微力だけど手を貸すよ」
ロイスは、ミランダが冒険者としての箔を求めて媚を売っているのだと考え、仕方なしに手伝うことを提案した。
「えッ! それって……本当に良いの?」
「あぁ、後進を育てるのも、痛っ、S級冒険者としての……任務だからね」
ミランダは非常に喜んだ様子で聞いてきて、ロイスはこれを正解とみなしてしまった。さらに、兄の甘さに嫉妬した妹が背中をカバンの中から蹴りつけきた。
セーラの動いているところを船員達に見られなかったのは幸いである。
「フフフッ~」
ミランダのやや紅潮した満面の笑みが収まったのは、それから10分と少し後のことだった。
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