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QUEST12.仕事の後始末と
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「あの、怒って……」
受付嬢は引きつった表情を向けて、気にして当然のことをロイスに聞いた。
見捨てて囮にした相手が生きていたなどという、最もバツの悪い話もあるまい。
「その件については、まぁ、仕方ないことと諦めましょう。後で、適当なお詫びをいただくかもしれませんが」
とりあえずは不問に付すことにした。もとあといえばジョンの判断だ。
それから一行はジドニアーに到着し、ジョンの死亡を伝えることとなる。出来うるものなら遺体を見せしめにしたいところだったが、運ぶのも面倒な上に埋葬の時間もありはしなかった。
結果、鬼の住処の"巨獣"達によって『冒険者ランク不正取締官』の存在は隠滅された。
それでも、ジョン=カーターが『冒険者ランク不正取締官』に狙われている可能性は示唆されていたため、真実がわからないからこその噂が立つ。
「テレサ君、実のところはどうなんだね?」
「とおっしゃられても、さすがに意識を失っていた間のことなど存じ上げません……」
受付嬢ことテレサ=ホーガンはジドニアーの冒険者ギルドのギルド長から問われ、曖昧に答えるしかなかった。
後になって冷静に考えれば思い当たる節はあるが、ジョンという権力者が落ちて嬉しいのも間違ってはいない。結果、知らぬ存ぜぬを突き通すことになる。
ロイスの立場は、中央政府によって守られているためB級冒険者が運良く"バイホワイラー"の襲撃から生き残った、という程度の状況しかでてこない。
おかげで情報の出回る範囲では、冒険者ギルドの不正行為がやや収まることとなった。
だからといって、今まで不正を働いた者達がいなくなるわけでもない。
「次の仕事は、S級冒険者が容易なクエストで長期のクラス維持をしているから取り締まれ、だってさ」
ロイスは新たに舞い込んできた任務の用紙を眺めつつ、ベッドの隣にある机で寝てしまっているセーラに話しかけた。深い呼吸をしてまでみっともなく寝込んでいる。
ご褒美を上げた後、疲れ切って対面座位から離れた体を支えるために机を慌てて引き寄せたせいである。
新たな仕事の内容などセーラにはどうでも良いことなので、また当日にでも教えるとしてさておく。ちょうど、気にしている暇もない用件が舞い戻ってきてしまったからである。
しばし足音の近づいてくるリズムが響いた後、ロイス達の借りた部屋の前で止まる。のが早かったか――。
「ッ!」
ロイスはその足音が誰のものか察し、セーラを大カバンに収めた。しかし、上半身しか押し込めず残る半分にシーツを巻きつけベッド脇へと無造作に転がして偽装した。
ノックされて1秒を置いたところで入室を許可するため返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
さらに礼節を守って入室してきたのはエミューだった。
「お片付けでしたら、申し付けてくれれば」
「あー、良いよ。今日は早かったね」
室内での物音を勘違いしてくれたのか、エミューの言葉にロイスはさり気なく話題を変えるべく返した。
というのも、エミューは現在、Cランクのギルド賃貸の部屋に宿泊しつつ近所の休憩処で働いている。ロイス達の世話をするのは、食事のタイミングと何か言いつけたときだけである。
「えぇ、今日は大事なお客さんがくるとかで……」
エミューの含みのある返事は、自らの立場を憐れに思ったからか、はたまた室内に満ちる奇妙な香りの正体に至ったからか。
「そう」
「何か用事があればと寄ったんですが」
ロイスに笑いかけられ、気を取り直したエミューは改めて用件を切り出した。
短い間ではあるものの、ロイスは既に懐かれているというのを自覚していた。さすがに妹よりも幼い少女と絆を深めるなどということはできないため、上手く付き合いつつ距離を置く方法を考える。
考える振りでさり気なく窓を開けて、室内のこもった熱量を排出すると同時にエミューに意識付ける。
「うーん、じゃあ、タライにお湯を用意してもらって良いかな? 熱いめにたっぷりと」
「はい、喜んで!」
体を洗うためのお湯をロイスが頼むと、エミューは喜んで行動を開始した。ロイスのために働けることが嬉しいのだ。
ロイスはというと、エミューが去ったのを見送ってからカバンの中を覗き込む。
「……」
わかっていたことだが、投げ飛ばされて不機嫌なセーラの顔があった。膨らんだ頬に可愛げがあるものの、褒めたところで慰めにならない。
「あ、ははは……ごめん」
苦笑を浮かべつつ素直に謝った。
「後少しだけ時間がある。あ~ん」
「はいはい、わかりました。出るかな……」
何を思ったかセーラは口を開いて、何かを放り込んでくれとおねだりした。下半身はシーツが巻き付いているため、そうなるのも仕方ない。
ロイスはセーラの怒りを収めるために、エミューがやってくる寸前までに一回お詫びを口の中に入れてやった。
いつの間にかセーラが部屋にいたことをエミューは不思議に思うも、家族の絆を深めた事実は隠し通せたのだった。
受付嬢は引きつった表情を向けて、気にして当然のことをロイスに聞いた。
見捨てて囮にした相手が生きていたなどという、最もバツの悪い話もあるまい。
「その件については、まぁ、仕方ないことと諦めましょう。後で、適当なお詫びをいただくかもしれませんが」
とりあえずは不問に付すことにした。もとあといえばジョンの判断だ。
それから一行はジドニアーに到着し、ジョンの死亡を伝えることとなる。出来うるものなら遺体を見せしめにしたいところだったが、運ぶのも面倒な上に埋葬の時間もありはしなかった。
結果、鬼の住処の"巨獣"達によって『冒険者ランク不正取締官』の存在は隠滅された。
それでも、ジョン=カーターが『冒険者ランク不正取締官』に狙われている可能性は示唆されていたため、真実がわからないからこその噂が立つ。
「テレサ君、実のところはどうなんだね?」
「とおっしゃられても、さすがに意識を失っていた間のことなど存じ上げません……」
受付嬢ことテレサ=ホーガンはジドニアーの冒険者ギルドのギルド長から問われ、曖昧に答えるしかなかった。
後になって冷静に考えれば思い当たる節はあるが、ジョンという権力者が落ちて嬉しいのも間違ってはいない。結果、知らぬ存ぜぬを突き通すことになる。
ロイスの立場は、中央政府によって守られているためB級冒険者が運良く"バイホワイラー"の襲撃から生き残った、という程度の状況しかでてこない。
おかげで情報の出回る範囲では、冒険者ギルドの不正行為がやや収まることとなった。
だからといって、今まで不正を働いた者達がいなくなるわけでもない。
「次の仕事は、S級冒険者が容易なクエストで長期のクラス維持をしているから取り締まれ、だってさ」
ロイスは新たに舞い込んできた任務の用紙を眺めつつ、ベッドの隣にある机で寝てしまっているセーラに話しかけた。深い呼吸をしてまでみっともなく寝込んでいる。
ご褒美を上げた後、疲れ切って対面座位から離れた体を支えるために机を慌てて引き寄せたせいである。
新たな仕事の内容などセーラにはどうでも良いことなので、また当日にでも教えるとしてさておく。ちょうど、気にしている暇もない用件が舞い戻ってきてしまったからである。
しばし足音の近づいてくるリズムが響いた後、ロイス達の借りた部屋の前で止まる。のが早かったか――。
「ッ!」
ロイスはその足音が誰のものか察し、セーラを大カバンに収めた。しかし、上半身しか押し込めず残る半分にシーツを巻きつけベッド脇へと無造作に転がして偽装した。
ノックされて1秒を置いたところで入室を許可するため返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
さらに礼節を守って入室してきたのはエミューだった。
「お片付けでしたら、申し付けてくれれば」
「あー、良いよ。今日は早かったね」
室内での物音を勘違いしてくれたのか、エミューの言葉にロイスはさり気なく話題を変えるべく返した。
というのも、エミューは現在、Cランクのギルド賃貸の部屋に宿泊しつつ近所の休憩処で働いている。ロイス達の世話をするのは、食事のタイミングと何か言いつけたときだけである。
「えぇ、今日は大事なお客さんがくるとかで……」
エミューの含みのある返事は、自らの立場を憐れに思ったからか、はたまた室内に満ちる奇妙な香りの正体に至ったからか。
「そう」
「何か用事があればと寄ったんですが」
ロイスに笑いかけられ、気を取り直したエミューは改めて用件を切り出した。
短い間ではあるものの、ロイスは既に懐かれているというのを自覚していた。さすがに妹よりも幼い少女と絆を深めるなどということはできないため、上手く付き合いつつ距離を置く方法を考える。
考える振りでさり気なく窓を開けて、室内のこもった熱量を排出すると同時にエミューに意識付ける。
「うーん、じゃあ、タライにお湯を用意してもらって良いかな? 熱いめにたっぷりと」
「はい、喜んで!」
体を洗うためのお湯をロイスが頼むと、エミューは喜んで行動を開始した。ロイスのために働けることが嬉しいのだ。
ロイスはというと、エミューが去ったのを見送ってからカバンの中を覗き込む。
「……」
わかっていたことだが、投げ飛ばされて不機嫌なセーラの顔があった。膨らんだ頬に可愛げがあるものの、褒めたところで慰めにならない。
「あ、ははは……ごめん」
苦笑を浮かべつつ素直に謝った。
「後少しだけ時間がある。あ~ん」
「はいはい、わかりました。出るかな……」
何を思ったかセーラは口を開いて、何かを放り込んでくれとおねだりした。下半身はシーツが巻き付いているため、そうなるのも仕方ない。
ロイスはセーラの怒りを収めるために、エミューがやってくる寸前までに一回お詫びを口の中に入れてやった。
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