13 / 38
QUEST12.仕事の後始末と
しおりを挟む
「あの、怒って……」
受付嬢は引きつった表情を向けて、気にして当然のことをロイスに聞いた。
見捨てて囮にした相手が生きていたなどという、最もバツの悪い話もあるまい。
「その件については、まぁ、仕方ないことと諦めましょう。後で、適当なお詫びをいただくかもしれませんが」
とりあえずは不問に付すことにした。もとあといえばジョンの判断だ。
それから一行はジドニアーに到着し、ジョンの死亡を伝えることとなる。出来うるものなら遺体を見せしめにしたいところだったが、運ぶのも面倒な上に埋葬の時間もありはしなかった。
結果、鬼の住処の"巨獣"達によって『冒険者ランク不正取締官』の存在は隠滅された。
それでも、ジョン=カーターが『冒険者ランク不正取締官』に狙われている可能性は示唆されていたため、真実がわからないからこその噂が立つ。
「テレサ君、実のところはどうなんだね?」
「とおっしゃられても、さすがに意識を失っていた間のことなど存じ上げません……」
受付嬢ことテレサ=ホーガンはジドニアーの冒険者ギルドのギルド長から問われ、曖昧に答えるしかなかった。
後になって冷静に考えれば思い当たる節はあるが、ジョンという権力者が落ちて嬉しいのも間違ってはいない。結果、知らぬ存ぜぬを突き通すことになる。
ロイスの立場は、中央政府によって守られているためB級冒険者が運良く"バイホワイラー"の襲撃から生き残った、という程度の状況しかでてこない。
おかげで情報の出回る範囲では、冒険者ギルドの不正行為がやや収まることとなった。
だからといって、今まで不正を働いた者達がいなくなるわけでもない。
「次の仕事は、S級冒険者が容易なクエストで長期のクラス維持をしているから取り締まれ、だってさ」
ロイスは新たに舞い込んできた任務の用紙を眺めつつ、ベッドの隣にある机で寝てしまっているセーラに話しかけた。深い呼吸をしてまでみっともなく寝込んでいる。
ご褒美を上げた後、疲れ切って対面座位から離れた体を支えるために机を慌てて引き寄せたせいである。
新たな仕事の内容などセーラにはどうでも良いことなので、また当日にでも教えるとしてさておく。ちょうど、気にしている暇もない用件が舞い戻ってきてしまったからである。
しばし足音の近づいてくるリズムが響いた後、ロイス達の借りた部屋の前で止まる。のが早かったか――。
「ッ!」
ロイスはその足音が誰のものか察し、セーラを大カバンに収めた。しかし、上半身しか押し込めず残る半分にシーツを巻きつけベッド脇へと無造作に転がして偽装した。
ノックされて1秒を置いたところで入室を許可するため返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
さらに礼節を守って入室してきたのはエミューだった。
「お片付けでしたら、申し付けてくれれば」
「あー、良いよ。今日は早かったね」
室内での物音を勘違いしてくれたのか、エミューの言葉にロイスはさり気なく話題を変えるべく返した。
というのも、エミューは現在、Cランクのギルド賃貸の部屋に宿泊しつつ近所の休憩処で働いている。ロイス達の世話をするのは、食事のタイミングと何か言いつけたときだけである。
「えぇ、今日は大事なお客さんがくるとかで……」
エミューの含みのある返事は、自らの立場を憐れに思ったからか、はたまた室内に満ちる奇妙な香りの正体に至ったからか。
「そう」
「何か用事があればと寄ったんですが」
ロイスに笑いかけられ、気を取り直したエミューは改めて用件を切り出した。
短い間ではあるものの、ロイスは既に懐かれているというのを自覚していた。さすがに妹よりも幼い少女と絆を深めるなどということはできないため、上手く付き合いつつ距離を置く方法を考える。
考える振りでさり気なく窓を開けて、室内のこもった熱量を排出すると同時にエミューに意識付ける。
「うーん、じゃあ、タライにお湯を用意してもらって良いかな? 熱いめにたっぷりと」
「はい、喜んで!」
体を洗うためのお湯をロイスが頼むと、エミューは喜んで行動を開始した。ロイスのために働けることが嬉しいのだ。
ロイスはというと、エミューが去ったのを見送ってからカバンの中を覗き込む。
「……」
わかっていたことだが、投げ飛ばされて不機嫌なセーラの顔があった。膨らんだ頬に可愛げがあるものの、褒めたところで慰めにならない。
「あ、ははは……ごめん」
苦笑を浮かべつつ素直に謝った。
「後少しだけ時間がある。あ~ん」
「はいはい、わかりました。出るかな……」
何を思ったかセーラは口を開いて、何かを放り込んでくれとおねだりした。下半身はシーツが巻き付いているため、そうなるのも仕方ない。
ロイスはセーラの怒りを収めるために、エミューがやってくる寸前までに一回お詫びを口の中に入れてやった。
いつの間にかセーラが部屋にいたことをエミューは不思議に思うも、家族の絆を深めた事実は隠し通せたのだった。
受付嬢は引きつった表情を向けて、気にして当然のことをロイスに聞いた。
見捨てて囮にした相手が生きていたなどという、最もバツの悪い話もあるまい。
「その件については、まぁ、仕方ないことと諦めましょう。後で、適当なお詫びをいただくかもしれませんが」
とりあえずは不問に付すことにした。もとあといえばジョンの判断だ。
それから一行はジドニアーに到着し、ジョンの死亡を伝えることとなる。出来うるものなら遺体を見せしめにしたいところだったが、運ぶのも面倒な上に埋葬の時間もありはしなかった。
結果、鬼の住処の"巨獣"達によって『冒険者ランク不正取締官』の存在は隠滅された。
それでも、ジョン=カーターが『冒険者ランク不正取締官』に狙われている可能性は示唆されていたため、真実がわからないからこその噂が立つ。
「テレサ君、実のところはどうなんだね?」
「とおっしゃられても、さすがに意識を失っていた間のことなど存じ上げません……」
受付嬢ことテレサ=ホーガンはジドニアーの冒険者ギルドのギルド長から問われ、曖昧に答えるしかなかった。
後になって冷静に考えれば思い当たる節はあるが、ジョンという権力者が落ちて嬉しいのも間違ってはいない。結果、知らぬ存ぜぬを突き通すことになる。
ロイスの立場は、中央政府によって守られているためB級冒険者が運良く"バイホワイラー"の襲撃から生き残った、という程度の状況しかでてこない。
おかげで情報の出回る範囲では、冒険者ギルドの不正行為がやや収まることとなった。
だからといって、今まで不正を働いた者達がいなくなるわけでもない。
「次の仕事は、S級冒険者が容易なクエストで長期のクラス維持をしているから取り締まれ、だってさ」
ロイスは新たに舞い込んできた任務の用紙を眺めつつ、ベッドの隣にある机で寝てしまっているセーラに話しかけた。深い呼吸をしてまでみっともなく寝込んでいる。
ご褒美を上げた後、疲れ切って対面座位から離れた体を支えるために机を慌てて引き寄せたせいである。
新たな仕事の内容などセーラにはどうでも良いことなので、また当日にでも教えるとしてさておく。ちょうど、気にしている暇もない用件が舞い戻ってきてしまったからである。
しばし足音の近づいてくるリズムが響いた後、ロイス達の借りた部屋の前で止まる。のが早かったか――。
「ッ!」
ロイスはその足音が誰のものか察し、セーラを大カバンに収めた。しかし、上半身しか押し込めず残る半分にシーツを巻きつけベッド脇へと無造作に転がして偽装した。
ノックされて1秒を置いたところで入室を許可するため返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
さらに礼節を守って入室してきたのはエミューだった。
「お片付けでしたら、申し付けてくれれば」
「あー、良いよ。今日は早かったね」
室内での物音を勘違いしてくれたのか、エミューの言葉にロイスはさり気なく話題を変えるべく返した。
というのも、エミューは現在、Cランクのギルド賃貸の部屋に宿泊しつつ近所の休憩処で働いている。ロイス達の世話をするのは、食事のタイミングと何か言いつけたときだけである。
「えぇ、今日は大事なお客さんがくるとかで……」
エミューの含みのある返事は、自らの立場を憐れに思ったからか、はたまた室内に満ちる奇妙な香りの正体に至ったからか。
「そう」
「何か用事があればと寄ったんですが」
ロイスに笑いかけられ、気を取り直したエミューは改めて用件を切り出した。
短い間ではあるものの、ロイスは既に懐かれているというのを自覚していた。さすがに妹よりも幼い少女と絆を深めるなどということはできないため、上手く付き合いつつ距離を置く方法を考える。
考える振りでさり気なく窓を開けて、室内のこもった熱量を排出すると同時にエミューに意識付ける。
「うーん、じゃあ、タライにお湯を用意してもらって良いかな? 熱いめにたっぷりと」
「はい、喜んで!」
体を洗うためのお湯をロイスが頼むと、エミューは喜んで行動を開始した。ロイスのために働けることが嬉しいのだ。
ロイスはというと、エミューが去ったのを見送ってからカバンの中を覗き込む。
「……」
わかっていたことだが、投げ飛ばされて不機嫌なセーラの顔があった。膨らんだ頬に可愛げがあるものの、褒めたところで慰めにならない。
「あ、ははは……ごめん」
苦笑を浮かべつつ素直に謝った。
「後少しだけ時間がある。あ~ん」
「はいはい、わかりました。出るかな……」
何を思ったかセーラは口を開いて、何かを放り込んでくれとおねだりした。下半身はシーツが巻き付いているため、そうなるのも仕方ない。
ロイスはセーラの怒りを収めるために、エミューがやってくる寸前までに一回お詫びを口の中に入れてやった。
いつの間にかセーラが部屋にいたことをエミューは不思議に思うも、家族の絆を深めた事実は隠し通せたのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる