底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

文字の大きさ
上 下
12 / 38

QUEST11.黒き奴隷の少女

しおりを挟む
「まぁ、どうするかは君の自由だ」

 少女の言葉を遮るようにして、ロイスは振り返るとジドニアーへの旅程を再開しようとした。どうあれ、少女の行く末に関わるのは仕事の含まれていなかった。

 少女は、ただ一人残され、呆然と呟く。

「一人で、生きていけるほど、強くない」

 ロイスにそんな声は聞こえていなかったものの、ここに残されても野垂れ死ぬ前に"巨獣"の餌食だろう。いや、そちらの方がマシとさえロイスは考えていた。

 逃亡奴隷の運命など、上手くいかなければ隠れ潜んでいる間に飢え死ぬか、新たに奴隷として捕まるか。後者の場合、逃亡したという前例がある分、苛烈な管理や使役が行われることだろう。

「……」

「……」

 立ち去ろうと馬車の回収に勤しむロイスを、カバンから突き出た腕が制止させていた。カバンを担ぎ上げられた状態で服を引っ張られても影響はないのだが、セーラが止める気持ちもわからなくはなかった。

 セーラの褐色が入った肌を見て気づく者も多いが、日に焼けているわけではなくちゃんとした理由がある。

 セーラは、アリス人の父親とボパーリア人の母親の間に生まれたハーフだ。そのため、ロイスはカバンに入れて担いでいくという面倒な出掛け方をしているわけである。

 出生などという重たい話を差し置いても、セーラとしては御者の少女を放っておくのが忍びなかったのだろう。

「はぁ~。セーラは……まったく」

 ロイスは呆れて頭を掻くが、否定の言葉は出てこなかった。

 ロイスの仕事に奴隷の保護は含まれていないが、彼は意外と怠惰なのである。

「ご飯は、料理とかできる?」

 そう少女に問うロイス。

「えっと、はい、一通りの家事や雑務は」

 少女は、何を聞かれたのかまだわからない様子で答えた。

「わからないかな。僕らが君を雇うよ」

 ボパーリア人だが流暢なアリス語を話すので問題と思っていたが、ロイスは端的な言葉を選び改めて少女に伝えた。もし使用人を雇う必要性があるとすれば、ロイスとセーラに出来ない食事管理のためくらいであった。

 少女は身を起こし、フードが脱げていることも気にせずロイスに駆け寄る。自分でカットしているのか、ウルフヘアーの赤髪が激しく揺れる。

「エミューと申します、ご主人様。以後、よろしくおねがいします」

 喜びを抑えて礼儀正しく振る舞うエミュー。しかし、そこには新たな主人に媚びようという態度が透けて見えた

 ジョンの奴隷に関する扱いを見ていれば、エミューがロイスに気に入れられようとするのもわかる。悪いというわけではないが、ロイスはそのように見られている状況に不満があった。

「僕は基本的に、君を自由にさせておくよ。妹もボパーリアの巫女の血が流れてるから。それから、ロイスとセーラだよ」

「……あぁ」

 ロイスの言葉を聞いて、エミューは考えを改めたようだ。

「よろしくおねがいします。ロイスさん、セーラさん」

「じゃあ、馬車をお願い」

「はい」

 ジョン相手に生きてこられた程度には順応性が高いようで、ロイスもよろしいとばかりにうなずいて行動を開始した。エミューもロイスのお願いを聞いて、自分にできることを始めた。

 セーラはというと、受付嬢を起こすとカバンから出られないためそのまま引っ込んでいる。ただ、エミューを救ってくれた兄に対して感謝を示しているのか、革の向こう側から頬ずりしている。

「はいはい。もう動かないで」

 甘えるセーラを制止して、漸く受付嬢を起こすのに取りかかれた。

「大丈夫ですか?」

「ゴガァ~」

 受付嬢は寝ていた。

「……おーい」

 こちらは少しだけは大変な思いをしたというのに、無傷な上にただ寝ているというのだ。意識を失った後、対してダメージを受けることなく精神が逃避に走ったのだろう。

 これぐらい図太くないと、ジョンの下で働けなかったのかもしれない。

「はぁ~。お、き、ろッ」

「あ、痛ッたぁ~! 鼻がぁ~! もげて、なぁいぃ~ッ?」

 埒が明かないとみるや、ロイスは受付嬢の鼻っ面にデコピンを食らわせた。S級冒険者でもあるロイスが普通レベルの攻撃を与えた場合、本当に鼻が削がれかねない。は言い過ぎとしても、鼻骨が砕けるだろう。

 こうして、なんとか受付嬢を無傷で救い出し、エミューも馬車を立て直したことで出発の準備が整う。

「酷いですマー……あ、あれ? 貴方がいるってことは、私は化け物の腹の中……?」

「いえ、生きてますって。なんとか追い払いましたので、とりあえずジドニアーに向かいましょう」

 詳しい説明は端折りつつも、まだ寝ぼけている受付嬢を出発へと促した。抑えている鼻の悶えるほどの痛みは現実だ。

 当然、ジョンの無事を確認すべく周囲を見渡す受付嬢。

「えっと、ギルド長は?」

「あまり見ない方が良いです。残念ながら……」

「あぁ……」

 こればかりは誤魔化しようもなく、人為的な傷を見せないためにも遺体を背に隠した。受付嬢も、すぐにロイスの言いたいことを常識的な範囲で察して目を伏せた。

 護衛の依頼を失敗したという経歴は残るものの、それが響くのは現役冒険者であるロイスくらいだろう。が、受付嬢が気にするのはそこではなく、囮を使った挙げ句に目的が叶わなかったことである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...