底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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UEST10.所詮はこんなもの

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「反抗を確認」

 ロイスは、ジョンの強襲に対して呆れを含んだ声で言った。短剣を使って戦斧を素直に後ろへといなす姿とは裏腹に心境は複雑だった。

 逃げてくれた方が楽だった反面、立ち向かってくる度胸については認めている。それ以上に罪を認めて職務からの追放処分を受けて欲しかった。

「馬鹿なッ!」

「逃げなかったことはすごいけど、身の振り方含めて読みが浅い」

 ジョンからしてみれば、ロイスがこれほどの実力だと認めたくなかっただろう。

 それでもグラディスを始末したことも事実。

 教え子を諭すような口調もジョンの感情に怒りの火をつける。

「ウラァァァァァァアァァァァァァッ!」

「ハァ……。フッ」

 【ニトロ・ブレイブ】を駆使して戦斧を振り回すも、ロイスはため息混じりに軽く受け流すか回避していった。"ホワイラー"との戦いよりも動きが良くなっていることに、ついつい鼻で笑ってしまった。

 ただ、猛攻も長くは続かず収束していく。

「ハァ、ハァ……クソッ……」

「おっと」

 短剣相手に一撃も掠めることさえできなかったことに悪態を突いたジョン。もはや疲労が酷すぎて、これ以上は戦うことは出来ないと判断したようだ。

 ヒョロヒョロと戦斧を投げつけてロイスを牽制した後、残った体力でジドニアーへと向かって走り出す。お年寄りが頑張って駆け足しているかのような遅さだが、まだ馬車に繋がれたままの馬を使えばなんとでもなる。

「今度は追いかけっこ? 大人のやることじゃないなぁ」

「うわッ!」

 速歩きで付かず離れずな上、転がっていた"バイホワイラー"の遺体につまずくくらいだ。地面で転げたジョンの姿に憐れみさえ感じた。

 しかし、同情はしない。

 ただ無感情に、ただ忠実に、職務を全うするだけである。

「ぐあぁッ! う、腕がッ!」

 ロイスの投げ返した戦斧が、ジョンの片腕を持っていった。続いて短剣を放ってもう一方の手を地面に縫い止める。

「ぎぃッ! あぁ、あぁぁうぁ……」

「もう諦めなよ。苦しむだけだよ」

 ロイスは上からジョンの苦悶顔を覗き込んで諭した。未来には役に立たない助言ではあったが、生まれ変わりでもあるなら無駄ではないかもしれない。

 言葉でなんとかできるのであれば、いくつもの不正を働いたりはしないだろう。

「くそが……」

 未だ立場がわかっていないのか、ジョンはロイスに向かって短い雑言を吐いた。この程度の罵声など聞き慣れているが、それを許さないものがいた。

 セーラである。

「お兄さんになんてことを」

「ガハッ! だ、誰……」

 ロイスを侮辱されたことを怒って、セーラがカバンから『ユールングア』を伸ばして肩を攻撃した。まさかカバンに潜んでいるとは思わなかっただろう。

 ジョンも思わず誰何の声を上げるも、今はそんなことをしている場合ではないと気づき慌てる。

「た、頼む! 命、だけは……! 早く、腕の治療、を!」

 その傷では逃げたところで長くは持たないとわかって、もはやジョンは命乞いするしかなくなった。

 しかしロイスは、すがりついてこようとするジョンから距離をとる。縫い留められた手と、半分になった腕が余分な間を生み出す。

「もう手遅れだよ」

 そしてロイスは冷たく言い放った。

「そんなぁあぁぁぁん……」

 痛みが実感できてきたのもあるのだろうが、良い年した大人が涙と鼻水で顔を汚している姿は見苦しかった。ただ、それを見るのも後少しのこと。

 痛めつけて見せしめにするのも興ざめで、ロイスは"バイホワイラー"の牙をへし折ると一撃でジョンの命を刈り取ってやる。もとより、時間を描けると

「あっ……」

 頭部に牙の欠片を通されて、ジョンは軽く痙攣けいれんを続けながら地面に倒れ伏した。断末魔の声など、"ホワイラー"などよりも薄っぺらだった。

 実力的にも――【ニトロ・ブレイブ】を使っても――攻撃Sを除いてはB平均といった具合だろう。

「みみっちい死に様」

 つまらないと言いたげにつぶやくと、ロイスは一仕事を終えてため息をついた。

 一息でもあるのだが、先程までのゴタゴタで御者が意識を取り戻してしまっていたからだ。

 狸寝入りを続けていたものの、息遣いの変化やジョンの叫び声に怯えてわずかにビクつくなど、わかりやすく反応していたのである。幸い、受付嬢は意識を失ったまま。逆に無事なのか気になってしまうところである。

「取って食うわけじゃないから」

 いつまでも寝た振りをされても話にならないため、ロイスは害意がないことを示した。

 御者の少女は恐る恐るといった様子で視線を向ける。被っていたフードがから顔が覗いたことで、少女のボパーリア人特有の黒い肌が顕になる。

「君を縛っていた男は死んだよ。どこへでも行くと良い」

 ジョンに血縁者がいないことは確認しているため、少女は奴隷から開放されるチャンスがあった。このままハイオンへと帰れば、ジョンの財産――当然、その範囲に入る奴隷も――国に徴収される。ジドニアーのような大都市も危険だろう。

 今しか逃げ切れる可能性はないわけだ。

「私は……」
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