底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST9.不死身の不正取締官

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 それは"バイホワイラー"への誘いだ。

 "バイホワイラー"はまんまとその罠にハマり、一度は岩陰に姿を消したものの背後から襲撃をかける。大きく開かれた口がロイスへと迫り、彼もまた短剣を突き出して応戦する。

 シルエットが交差した瞬間、驚くべき光景がそこにはあった。

 切っ先は"バイホワイラー"の首筋をわずかにかすめるだけで、反対に牙は深々とロイスの肩に食い込んでいる。かに見えた。

 狂牙は確実にロイスの肉へ突き刺さっているというのに、そこから鮮血が溢れる様子はない。

「痛いんだよ! いつまで噛み付いてる!」

 そう怒鳴って、ロイスは"バイホワイラー"の顎を蹴り上げた。もはや"バイホワイラー"そのものを打ち上げるような勢いだが。

 ――ブギャ、ギャッ!

 上空数メートルへと到達する"バイホワイラー"と、革鎧の肩がちぎられているだけで無傷のロイス。

 これがロイスの"ギフト"【ノークォリティー】である。寿命と、ある一つの条件を除いてあらゆる手段でロイスを殺傷することができないというものだ。

 だからこそこんなゴリ押し戦法ができる。

 蹴り上げた"バイホワイラー"はというと、宙を側転しながら落ちてくるセーラが『ユールングア』で首筋をきれいに貫かれる。

 ――ギャッ、グギャァァァァァァァァアァァァァァァァァァァッ!

 断末魔の鳴き声は高らかに響き渡り、雨となって空から雫が降り注いだ。

 それを聞いた雑多な"ホワイラー"達は、リーダーが倒されたことを知り蜘蛛の子を散らしたように来ていく。

 ――ギュッ!

 ――ギュギュッ!

 ――キューンッ!

「終わったね」

「……」

 逃げ去っていく長耳の"巨獣"を見送ってロイスがつぶやくも、セーラは不満がある様子だ。

「相変わらず妹使いが荒い」

 崖から落ちるのにつきあわされたり、鎌と同じように振り回されたりと、扱いに文句があったらしい。

 ロイスとしてはそのようなつもりはなく、ただ盾と矛を同時に扱えるという点で行動していただけだ。それでも、いつまでも拗ねていられても困るのでなだめに入る。

「あー……まぁ、そう言わず。戻ったら可愛がって上げるから、許してよ」

「むぅ~。たっぷりちょうだいね……?」

「はいはい。さて、皆が寝ている間がチャンスかな」

 そう約束することでなんとか不機嫌を直してもらい、ロイスは仕事に移ることにした。ジョンを無理矢理にでも起こして、不正の件を問いただし処罰するつもりだ。

 ちょうどジョンは目を覚まし始める。

「うぅぅ……」

 ロイスはジョンの覚醒を待ちながら、他の2人がまだ気絶していることを確認した。セーラもカバンの中に戻っているため、後は淡々と仕事をこなすだけである。

「ハッ? まだ、生きてる……?」

 ジョンは意識を取り戻すと、まずは自分に身の様子を確かめた。

 わずかな怪我を除いて無事だとわかると、安堵の息をついてまずは落ち着きを取り戻す。すぐに、側に佇んでいたロイスが危機を打ち払ってくれたのだと気づくジョン。

「あぁ、お前がなんとかしてくれたのか。思ったよりやるじゃないか」

 かなり上からではあるが、それで話の腰を折っても仕方ない。

「ジョン=カーター・ギルド長」

「な、なんだ……?」

 ロイスはいきなり改まった呼び方をして、ジョンもさすがに戸惑った様子で応じた。

 B級冒険者ごときロイスに上から見つめられ、ジョンの顔には少しばかり怒りも浮かんでいる。

「『冒険者ランク不正取締官』の権限により、お前の査問を開始する」

「は?」

「不相応な冒険者のランク昇格ならびに脅迫、他に過剰な支給品を申請して裏で取引していたこと。それ含めて余罪数件に対する処罰だ」

 気弱そうだったロイスがジョンの恐れていた役職を名乗り、ギルド長は何が起こっているのかわからない様子だった。それでも、隠していたことをツラツラと並べられて理解を始めた。

 自分が最も出会ってはいけない人物と遭遇したどころか、それを雇い入れていたという事実。

「あ、あ、あぁ……」

「アリオエ=スプリング=アリス政府最高長官の沙汰により、職務からの放任を命じる。罪状を認めるか?」

 その問いはもはや、ジョンにとっての死刑宣告に等しかった。

 これまで多くの雑多な冒険者から搾取もしてきたし、権力を失えば従えてきた不正ランカー達の信任を失う。財産もいくらかは返還されるだろうから、自分を守るものがなくなるということである。

 ともすれば選択肢は二つ。すなわち、ロイスをどうにかするか、また逃げおおせて再起を図るか。

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 まずは1つ目、ロイスを殺害することを選択した。

 短剣を所持するだけの見た目がヒョロヒョロとした少年である。【ニトロ・ブレイブ】であれば不意打ちでなんとかなると思ったのかもしれない。最悪、ジドニアーまで距離はないため、隠れ家なりに身を寄せてほとぼりが冷めるのを待っても良かっただろう。

 が、当然ながらそれはいかなる面から見ても愚行。そもそもの不正が愚行。
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