底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

文字の大きさ
上 下
9 / 38

QUEST8.過ぎたる3秒前からの標的

しおりを挟む
「はい」

「ん」

 『ユールングア』がセーラに返された。ロイスだけでも"ホワイラー"の十数頭程度は倒せるが、彼の"ギフト"が戦闘向きではないからだ。

 ある意味では戦闘のための能力とは言えるものの、やはり効率的ではセーラの【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】が有利である。

 セーラは跳躍するように数歩ほど踏み出す。

「T5」

 T5と略した"ギフト"を――不要だが――唱えながら、包囲を始めた"ホワイラー"の中心で鎌を一周振りかざした。当然、1秒に1回転程度の速度の斬撃など戦闘態勢の肉食生物からしてみれば鈍い動きだ。

 後ろに少し飛び退れば簡単に避けられる攻撃を、その通りに回避したはず。

 ――グギャッ?

 ――ギャッ?

 ――ギャオ?

 ――オギュッ?

 ――ギャギャギャッ!?

 "巨獣"のマニアでもなければ聞き分けができそうにない鳴き声は、次の瞬間には明らかな断末魔の叫びへと変わった。

 なにせ、誰が見ても刃は届いていなかったにも関わらず、5頭ほどの"ホワイラー"が胴と首とが泣き分かれる。

「後のは届かなかった」

 セーラは結果を見て、少し残念そうに言った。

 【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】は通り過ぎた・・・・・3秒前・・までの標的を攻撃することが可能だ。

 最初から防御の姿勢を取っているか、肉体の強度で攻撃を受けきらない限りはまず『ユールングア』の餌食となる。

「来るよ」

 取り逃がした敵が待ってくれるわけでもなく、"ホワイラー"の次の行動を察してロイスが言った。セーラもわかって、ロイスの方へと下がった。

 ただ威嚇して怯む相手でないなら、四方八方、正面頭上と畳みかければ良い。無作為に飛びかかって来ているようで、順番やタイミングを揃えてきている点は評価に値する。

 しかし、力不足であった。

 ――ギャンッ!

 まず最初の一体に短剣を突き立て、頭を引きずり振り払う。もう一方の手はセーラとつないでおり振り回し始めた。

 セーラの足をロイスは膝に乗せ、遠心力だけで回転を持続させる。その間も大鎌は襲ってくる"ホワイラー"達を切り裂き、薙ぎ払う。

「セーラ!」

「うん」

 兄妹は呼吸を揃え、独楽こまのように回転していた体勢を変えた。

 ロイスが膝のあたりでセーラを水平に抱えると、彼は両足を使って彼女を振り回す。セーラは『ユールングア』を頭上で真っ直ぐに構えることで、リーチが一回り延長される形になる。

 ――ギャッ!

 ――ギャギャッ!

 ――ギャギャギャッ!

 地面を走って襲撃してきた数頭が側頭部を穿たれ、ロイス達は"ホワイラー"の連携攻撃をしのぎきった。が、どちらも攻撃の手は止まらない。

 それは唐突に走った。

 ――ウンギャォォォォォォォォォォォォォッ!!

 他の"巨獣"を呼び寄せる可能性を捨てて、遠吠えを放って指示を出したのは雑多な"ホワイラー"達より大きく、肥大した耳を持った何かだった。

 "ホワイラー"達の中から知性や年齢によって発生するリーダー的存在で、"バイホワイラー"などと人間は名付けている。統制が取れていたり異様に数が多いことから、"バイホワイラー"に率いられているのは予想できていた。

 そして次に"ホワイラー"の隊長が投入してきたのは、毛皮の上にさらに切り倒された仲間の体をまとった重装歩兵である。白い毛皮は赤く染まり、もはやから連想された"ホワイラー"の名に似つかわしくなくなっていた。

 重量が増えて機動力がなくなったのも合わせ、包囲して駄目なら縦列戦法で一点突破を目指してくる。

「フッ」

 ならばと、ロイスは鼻で笑いつつ裂帛の気合を吐き投げつけた。何を? セーラをだ。

 妹を物のように振り回すのもどうかというのに、さらには投げてぶつけようとしているのだ。

 セーラはというと、そんな兄に顔色一つ変えずただ投げ飛ばされる。まるでそうなることを予想していたように、上手くブーメラン回転を調整して、"ホワイラー"の縦隊戦列に強烈な蹴りを食らわせる。

 ――ギャンッ!

 ――ギャギャンッ!

 ――キャギャァッ!

 見事なストライクだ。が、"ホワイラー"の重装部隊が吹き飛ばされるのをロイスはただ見ているわけもない。

 すべてが飛び散るよりも早く走り、反作用で戻ってきたセーラの手を掴んだ。そのセーラはすでに『ユールングア』を足で巻きつけるようにホールドしている。

 両手を握り、そこからさらに回転斬りを続ける。

「T5」

 セーラはそこに加えて"ギフト"を発動させ、飛び散り過ぎた"ホワイラー"と肉塊だったものも含めて容赦なく切り裂いた。二度と使い物にならないよう、3秒前が終わるまでひたすらミキサーにかけた。

 これにはさすがの"バイホワイラー"も黙って見てはいられなくなったのか、崖上から命じるのを止めて動き出す。

 平均的な"ホワイラー"よりも大きな体で、それ以上に敏捷な動きで石柱の間を飛び跳ね、ロイス達を撹乱しながら攻撃の機会を伺う。

 ならばと、ロイスはセーラを頭上へと投げ上げ短剣を引き抜いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...