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QUEST8.過ぎたる3秒前からの標的
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「はい」
「ん」
『ユールングア』がセーラに返された。ロイスだけでも"ホワイラー"の十数頭程度は倒せるが、彼の"ギフト"が戦闘向きではないからだ。
ある意味では戦闘のための能力とは言えるものの、やはり効率的ではセーラの【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】が有利である。
セーラは跳躍するように数歩ほど踏み出す。
「T5」
T5と略した"ギフト"を――不要だが――唱えながら、包囲を始めた"ホワイラー"の中心で鎌を一周振りかざした。当然、1秒に1回転程度の速度の斬撃など戦闘態勢の肉食生物からしてみれば鈍い動きだ。
後ろに少し飛び退れば簡単に避けられる攻撃を、その通りに回避したはず。
――グギャッ?
――ギャッ?
――ギャオ?
――オギュッ?
――ギャギャギャッ!?
"巨獣"のマニアでもなければ聞き分けができそうにない鳴き声は、次の瞬間には明らかな断末魔の叫びへと変わった。
なにせ、誰が見ても刃は届いていなかったにも関わらず、5頭ほどの"ホワイラー"が胴と首とが泣き分かれる。
「後のは届かなかった」
セーラは結果を見て、少し残念そうに言った。
【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】は通り過ぎた3秒前までの標的を攻撃することが可能だ。
最初から防御の姿勢を取っているか、肉体の強度で攻撃を受けきらない限りはまず『ユールングア』の餌食となる。
「来るよ」
取り逃がした敵が待ってくれるわけでもなく、"ホワイラー"の次の行動を察してロイスが言った。セーラもわかって、ロイスの方へと下がった。
ただ威嚇して怯む相手でないなら、四方八方、正面頭上と畳みかければ良い。無作為に飛びかかって来ているようで、順番やタイミングを揃えてきている点は評価に値する。
しかし、力不足であった。
――ギャンッ!
まず最初の一体に短剣を突き立て、頭を引きずり振り払う。もう一方の手はセーラとつないでおり振り回し始めた。
セーラの足をロイスは膝に乗せ、遠心力だけで回転を持続させる。その間も大鎌は襲ってくる"ホワイラー"達を切り裂き、薙ぎ払う。
「セーラ!」
「うん」
兄妹は呼吸を揃え、独楽のように回転していた体勢を変えた。
ロイスが膝のあたりでセーラを水平に抱えると、彼は両足を使って彼女を振り回す。セーラは『ユールングア』を頭上で真っ直ぐに構えることで、リーチが一回り延長される形になる。
――ギャッ!
――ギャギャッ!
――ギャギャギャッ!
地面を走って襲撃してきた数頭が側頭部を穿たれ、ロイス達は"ホワイラー"の連携攻撃をしのぎきった。が、どちらも攻撃の手は止まらない。
それは唐突に走った。
――ウンギャォォォォォォォォォォォォォッ!!
他の"巨獣"を呼び寄せる可能性を捨てて、遠吠えを放って指示を出したのは雑多な"ホワイラー"達より大きく、肥大した耳を持った何かだった。
"ホワイラー"達の中から知性や年齢によって発生するリーダー的存在で、"バイホワイラー"などと人間は名付けている。統制が取れていたり異様に数が多いことから、"バイホワイラー"に率いられているのは予想できていた。
そして次に"ホワイラー"の隊長が投入してきたのは、毛皮の上にさらに切り倒された仲間の体をまとった重装歩兵である。白い毛皮は赤く染まり、もはや白から連想された"ホワイラー"の名に似つかわしくなくなっていた。
重量が増えて機動力がなくなったのも合わせ、包囲して駄目なら縦列戦法で一点突破を目指してくる。
「フッ」
ならばと、ロイスは鼻で笑いつつ裂帛の気合を吐き投げつけた。何を? セーラをだ。
妹を物のように振り回すのもどうかというのに、さらには投げてぶつけようとしているのだ。
セーラはというと、そんな兄に顔色一つ変えずただ投げ飛ばされる。まるでそうなることを予想していたように、上手くブーメラン回転を調整して、"ホワイラー"の縦隊戦列に強烈な蹴りを食らわせる。
――ギャンッ!
――ギャギャンッ!
――キャギャァッ!
見事なストライクだ。が、"ホワイラー"の重装部隊が吹き飛ばされるのをロイスはただ見ているわけもない。
すべてが飛び散るよりも早く走り、反作用で戻ってきたセーラの手を掴んだ。そのセーラはすでに『ユールングア』を足で巻きつけるようにホールドしている。
両手を握り、そこからさらに回転斬りを続ける。
「T5」
セーラはそこに加えて"ギフト"を発動させ、飛び散り過ぎた"ホワイラー"と肉塊だったものも含めて容赦なく切り裂いた。二度と使い物にならないよう、3秒前が終わるまでひたすらミキサーにかけた。
これにはさすがの"バイホワイラー"も黙って見てはいられなくなったのか、崖上から命じるのを止めて動き出す。
平均的な"ホワイラー"よりも大きな体で、それ以上に敏捷な動きで石柱の間を飛び跳ね、ロイス達を撹乱しながら攻撃の機会を伺う。
ならばと、ロイスはセーラを頭上へと投げ上げ短剣を引き抜いた。
「ん」
『ユールングア』がセーラに返された。ロイスだけでも"ホワイラー"の十数頭程度は倒せるが、彼の"ギフト"が戦闘向きではないからだ。
ある意味では戦闘のための能力とは言えるものの、やはり効率的ではセーラの【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】が有利である。
セーラは跳躍するように数歩ほど踏み出す。
「T5」
T5と略した"ギフト"を――不要だが――唱えながら、包囲を始めた"ホワイラー"の中心で鎌を一周振りかざした。当然、1秒に1回転程度の速度の斬撃など戦闘態勢の肉食生物からしてみれば鈍い動きだ。
後ろに少し飛び退れば簡単に避けられる攻撃を、その通りに回避したはず。
――グギャッ?
――ギャッ?
――ギャオ?
――オギュッ?
――ギャギャギャッ!?
"巨獣"のマニアでもなければ聞き分けができそうにない鳴き声は、次の瞬間には明らかな断末魔の叫びへと変わった。
なにせ、誰が見ても刃は届いていなかったにも関わらず、5頭ほどの"ホワイラー"が胴と首とが泣き分かれる。
「後のは届かなかった」
セーラは結果を見て、少し残念そうに言った。
【スルー・スリー・タイム・トゥー・ターゲット】は通り過ぎた3秒前までの標的を攻撃することが可能だ。
最初から防御の姿勢を取っているか、肉体の強度で攻撃を受けきらない限りはまず『ユールングア』の餌食となる。
「来るよ」
取り逃がした敵が待ってくれるわけでもなく、"ホワイラー"の次の行動を察してロイスが言った。セーラもわかって、ロイスの方へと下がった。
ただ威嚇して怯む相手でないなら、四方八方、正面頭上と畳みかければ良い。無作為に飛びかかって来ているようで、順番やタイミングを揃えてきている点は評価に値する。
しかし、力不足であった。
――ギャンッ!
まず最初の一体に短剣を突き立て、頭を引きずり振り払う。もう一方の手はセーラとつないでおり振り回し始めた。
セーラの足をロイスは膝に乗せ、遠心力だけで回転を持続させる。その間も大鎌は襲ってくる"ホワイラー"達を切り裂き、薙ぎ払う。
「セーラ!」
「うん」
兄妹は呼吸を揃え、独楽のように回転していた体勢を変えた。
ロイスが膝のあたりでセーラを水平に抱えると、彼は両足を使って彼女を振り回す。セーラは『ユールングア』を頭上で真っ直ぐに構えることで、リーチが一回り延長される形になる。
――ギャッ!
――ギャギャッ!
――ギャギャギャッ!
地面を走って襲撃してきた数頭が側頭部を穿たれ、ロイス達は"ホワイラー"の連携攻撃をしのぎきった。が、どちらも攻撃の手は止まらない。
それは唐突に走った。
――ウンギャォォォォォォォォォォォォォッ!!
他の"巨獣"を呼び寄せる可能性を捨てて、遠吠えを放って指示を出したのは雑多な"ホワイラー"達より大きく、肥大した耳を持った何かだった。
"ホワイラー"達の中から知性や年齢によって発生するリーダー的存在で、"バイホワイラー"などと人間は名付けている。統制が取れていたり異様に数が多いことから、"バイホワイラー"に率いられているのは予想できていた。
そして次に"ホワイラー"の隊長が投入してきたのは、毛皮の上にさらに切り倒された仲間の体をまとった重装歩兵である。白い毛皮は赤く染まり、もはや白から連想された"ホワイラー"の名に似つかわしくなくなっていた。
重量が増えて機動力がなくなったのも合わせ、包囲して駄目なら縦列戦法で一点突破を目指してくる。
「フッ」
ならばと、ロイスは鼻で笑いつつ裂帛の気合を吐き投げつけた。何を? セーラをだ。
妹を物のように振り回すのもどうかというのに、さらには投げてぶつけようとしているのだ。
セーラはというと、そんな兄に顔色一つ変えずただ投げ飛ばされる。まるでそうなることを予想していたように、上手くブーメラン回転を調整して、"ホワイラー"の縦隊戦列に強烈な蹴りを食らわせる。
――ギャンッ!
――ギャギャンッ!
――キャギャァッ!
見事なストライクだ。が、"ホワイラー"の重装部隊が吹き飛ばされるのをロイスはただ見ているわけもない。
すべてが飛び散るよりも早く走り、反作用で戻ってきたセーラの手を掴んだ。そのセーラはすでに『ユールングア』を足で巻きつけるようにホールドしている。
両手を握り、そこからさらに回転斬りを続ける。
「T5」
セーラはそこに加えて"ギフト"を発動させ、飛び散り過ぎた"ホワイラー"と肉塊だったものも含めて容赦なく切り裂いた。二度と使い物にならないよう、3秒前が終わるまでひたすらミキサーにかけた。
これにはさすがの"バイホワイラー"も黙って見てはいられなくなったのか、崖上から命じるのを止めて動き出す。
平均的な"ホワイラー"よりも大きな体で、それ以上に敏捷な動きで石柱の間を飛び跳ね、ロイス達を撹乱しながら攻撃の機会を伺う。
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