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QUEST7.七転八倒の演技
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ロイスはというと、勢い余って飛び出していった冒険者が、何度も転び立ち上がりして生き残っているように見せかける。
「ひぇっ!」
「クソッ!」
「早い!」
ジョンと受付嬢も奮闘はしているものの、ブランクのせいか戦斧も砲弾も当たらずブンブンとパンパンと虚空を攻撃する。いきなり実践で取り戻すようなものではなかった。
その間もロイスは、なんとか一匹、一匹と"ホワイラー"達の心臓を刺し貫いていく。とはいえ、上手く揉み合いになったときだけできる倒し方だ。悲鳴や鳴き声によって次から次へと集まってくる"ホワイラー"を、完全に処理しきれなかった。
「困ったなぁ……うわっ」
演技を続けながらも、ロイスは若干焦っていた。このままでは他の"巨獣"までもが集まってくる可能性があった。
「クソッ! なんとかならないのか!?」
攻撃を受けないようにするのが精一杯なジョンが、苛立ち始めて怒鳴った。
「そんなことおっしゃられても!」
受付嬢も、流石に言い返した。
もはやこの場に役立つ人員はいないと、ジョンは判断して次の手に出る。
「ウオォォォオォォォォォォォォッ!」
ジョンは高らかに叫び、己の"ギフト"【ニトロ・ブレイブ】を発動した。
全身の筋肉が数倍に肥大化して、赤々と色彩を帯びたかと思えば白い蒸気が漂い始める。己の中にある何かを燃やし、一時的に身体能力を強化することができる。
度重なる使用が難しい"ギフト"であるため、ジョンが取ったのは一点突破の策だった。
すなわち、逃走。
【ニトロ・ブレイブ】をもってしても速度A程度で走り抜け、包囲しにきた"ホワイラー"の数匹を斧で斬り伏せていく。密集しだしたことが逆に逃げ場を奪うという皮肉な話だ。
「ギルド長!?」
味方を捨てての逃亡に受付嬢は驚いた。
一応、ギルド長としてのジョンを護衛するという依頼である以上、この判断が完全に間違いというわけではない。放っておけば馬車まで破壊される。しかし、先に待つものを考えれば悪手なのも間違いない。
「出せ!」
「でも……」
「出さないとお前も放り出すぞ!」
「はひッ!」
さらには、受付嬢達のことを考えて抵抗する御者の少女を無視して、共犯に巻き込んで馬車を走らせ始めた。
「ま、待って!」
――ドンッ。
受付嬢は放っていかれてはまずいと、改めて包囲を狭め始めた"ホワイラー"を――なんとか近距離で――撃って走った。まだ加速しきっていない馬車になんとかしがみついたが、その視線はわずかにロイスを見つめて外れた。
もうロイスは間に合わないと思ったからだ。
せめてもの手向けに、わずかなチャンスのために"ギフト"を残していく受付嬢。
「……」
砲筒の先から放たれたのは球体ではあるものの、破壊力はなく静かに地面へ転がった。
"ホワイラー"達は何事かと少しだけ黒い玉を向いた瞬間、パンパンと弾けると激しい閃光を放ち、また一部は白い煙を噴出させる。受付嬢の【フラッシュ・フォグ】は、この通り撹乱するためのものだ。
ただの足止め程度のつもりだったにせよ、光と煙に覆われロイスとしてはなかなか悪くない状況となる。
「セーラ、『ユールングア』を」
「ん」
チャンスとばかりに、ロイスは短剣を収めてセーラに要求した。カバンから手が突き出てロイスに渡されたのは、以前にも使っている折りたたみ型の大鎌だった。
わざわざ銘を考える必要などなかったのだが、アリオエ最高長官から贈呈品された特別な武器なので仕方ない。
――グッ!
――ギャッ!
――ゴギャッ!
――グギャギャッ!
つまらないことを思い出しつつも、ロイスは一振りで"ホワイラー"達の首を切り落とした。いや、一振りに見えて四方八方へと縦横無尽の斬撃を繰り出しているのだ。
ジョン達から見えなくなり、さらに視覚を奪われた"ホワイラー"達ごときであれば容易に倒せる。
それが、S級冒険者であり『冒険者ランク不正取締官』に選ばれたスミス兄妹の実力だった。
「これでお終いっと」
囲んでいた"ホワイラー"達を数秒のうちに片付け終え、ロイスは何の考えていないように馬車の行き先を追った。
陽動部隊とともに多くの"ホワイラー"を屠ったため、待ち伏せの本隊で大損害を負うということはないはずである。案の定、追いついてみれば車輪の外れた馬車が横滑りになっていた。
馬の方も"ホワイラー"に取り囲まれているものの今の所無事だし、修理さえできれば徒歩でジドニアーまで向かう必要はなさそうである。
「とりあえず無事か」
見渡せば、ジョンも受付嬢も御者も、投げ出された際のダメージはあるが生きている様子が伺えた。意識を失う程度なので確実に安全とは言えないが。
しかし、目撃者がいないのであれば好都合。
――グギュッ!
――グギャグッ。
「ヨイショッ」
新たな獲物の登場に、"ホワイラー"達が歓喜か警戒か鳴き声を集めた。戦闘の予感に気づいたセーラもまた、カバンから顔を出して戦闘準備に入った。
「ひぇっ!」
「クソッ!」
「早い!」
ジョンと受付嬢も奮闘はしているものの、ブランクのせいか戦斧も砲弾も当たらずブンブンとパンパンと虚空を攻撃する。いきなり実践で取り戻すようなものではなかった。
その間もロイスは、なんとか一匹、一匹と"ホワイラー"達の心臓を刺し貫いていく。とはいえ、上手く揉み合いになったときだけできる倒し方だ。悲鳴や鳴き声によって次から次へと集まってくる"ホワイラー"を、完全に処理しきれなかった。
「困ったなぁ……うわっ」
演技を続けながらも、ロイスは若干焦っていた。このままでは他の"巨獣"までもが集まってくる可能性があった。
「クソッ! なんとかならないのか!?」
攻撃を受けないようにするのが精一杯なジョンが、苛立ち始めて怒鳴った。
「そんなことおっしゃられても!」
受付嬢も、流石に言い返した。
もはやこの場に役立つ人員はいないと、ジョンは判断して次の手に出る。
「ウオォォォオォォォォォォォォッ!」
ジョンは高らかに叫び、己の"ギフト"【ニトロ・ブレイブ】を発動した。
全身の筋肉が数倍に肥大化して、赤々と色彩を帯びたかと思えば白い蒸気が漂い始める。己の中にある何かを燃やし、一時的に身体能力を強化することができる。
度重なる使用が難しい"ギフト"であるため、ジョンが取ったのは一点突破の策だった。
すなわち、逃走。
【ニトロ・ブレイブ】をもってしても速度A程度で走り抜け、包囲しにきた"ホワイラー"の数匹を斧で斬り伏せていく。密集しだしたことが逆に逃げ場を奪うという皮肉な話だ。
「ギルド長!?」
味方を捨てての逃亡に受付嬢は驚いた。
一応、ギルド長としてのジョンを護衛するという依頼である以上、この判断が完全に間違いというわけではない。放っておけば馬車まで破壊される。しかし、先に待つものを考えれば悪手なのも間違いない。
「出せ!」
「でも……」
「出さないとお前も放り出すぞ!」
「はひッ!」
さらには、受付嬢達のことを考えて抵抗する御者の少女を無視して、共犯に巻き込んで馬車を走らせ始めた。
「ま、待って!」
――ドンッ。
受付嬢は放っていかれてはまずいと、改めて包囲を狭め始めた"ホワイラー"を――なんとか近距離で――撃って走った。まだ加速しきっていない馬車になんとかしがみついたが、その視線はわずかにロイスを見つめて外れた。
もうロイスは間に合わないと思ったからだ。
せめてもの手向けに、わずかなチャンスのために"ギフト"を残していく受付嬢。
「……」
砲筒の先から放たれたのは球体ではあるものの、破壊力はなく静かに地面へ転がった。
"ホワイラー"達は何事かと少しだけ黒い玉を向いた瞬間、パンパンと弾けると激しい閃光を放ち、また一部は白い煙を噴出させる。受付嬢の【フラッシュ・フォグ】は、この通り撹乱するためのものだ。
ただの足止め程度のつもりだったにせよ、光と煙に覆われロイスとしてはなかなか悪くない状況となる。
「セーラ、『ユールングア』を」
「ん」
チャンスとばかりに、ロイスは短剣を収めてセーラに要求した。カバンから手が突き出てロイスに渡されたのは、以前にも使っている折りたたみ型の大鎌だった。
わざわざ銘を考える必要などなかったのだが、アリオエ最高長官から贈呈品された特別な武器なので仕方ない。
――グッ!
――ギャッ!
――ゴギャッ!
――グギャギャッ!
つまらないことを思い出しつつも、ロイスは一振りで"ホワイラー"達の首を切り落とした。いや、一振りに見えて四方八方へと縦横無尽の斬撃を繰り出しているのだ。
ジョン達から見えなくなり、さらに視覚を奪われた"ホワイラー"達ごときであれば容易に倒せる。
それが、S級冒険者であり『冒険者ランク不正取締官』に選ばれたスミス兄妹の実力だった。
「これでお終いっと」
囲んでいた"ホワイラー"達を数秒のうちに片付け終え、ロイスは何の考えていないように馬車の行き先を追った。
陽動部隊とともに多くの"ホワイラー"を屠ったため、待ち伏せの本隊で大損害を負うということはないはずである。案の定、追いついてみれば車輪の外れた馬車が横滑りになっていた。
馬の方も"ホワイラー"に取り囲まれているものの今の所無事だし、修理さえできれば徒歩でジドニアーまで向かう必要はなさそうである。
「とりあえず無事か」
見渡せば、ジョンも受付嬢も御者も、投げ出された際のダメージはあるが生きている様子が伺えた。意識を失う程度なので確実に安全とは言えないが。
しかし、目撃者がいないのであれば好都合。
――グギュッ!
――グギャグッ。
「ヨイショッ」
新たな獲物の登場に、"ホワイラー"達が歓喜か警戒か鳴き声を集めた。戦闘の予感に気づいたセーラもまた、カバンから顔を出して戦闘準備に入った。
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