7 / 38
QUEST6.戦闘開始
しおりを挟む
そうした経緯はさておき、今回は運が悪かったのか"巨獣"の監視に引っかかってしまったらしい。
「どうやら、すでに囲まれているようです」
石柱を転げ落ちてくる小石に、ロイスが真っ先に気づいた。不穏な気配自体は以前から感じ取っていたが。
「!?」
ジョンが馬車から顔を出して周囲を確認した。
「あ、あれッ」
受付嬢がそう言って見上げた崖の頂上から現れたのは、耳が大きく長い白毛の毛深い生物だ。もっと小ぶりで鋭い牙が生え並んでいなかったのなら、愛玩動物としての道もあったことだろう。
「"ホワイラー"か……。脅かしやがって」
毛むくじゃらの胴長な生物を見つけて、ジョンは安堵したように言った。
"ホワイラー"は人ほどの大きさをした逆関節を持った直立型の"巨獣"で、集団による素早い襲撃を得意としている。"バッシュドラゴン"のようなフィジカルはないものの、その数メートルに及ぶ跳躍力は並の冒険者には厄介である。
「そのまま通り抜けろ。刺激せず縄張りから抜ければ、そうそう襲ってくる奴らじゃない」
ジョンは御者に指示を出し、彼女も静かに馬車を進ませた。
しかし、それはまだ"ホワイラー"というものを完全に理解していない冒険者の判断である。ロイスはこのまま通り抜けることの危険性を考え行動に移す。
「セーラ、起きてるでしょ」
「……」
ロイスが呼びかけると、セーラはカバンからモゾモゾと出てきた。
やや緊張している状態へと落ち着いた馬車周囲に気づかれないよう、音と気配を消しつつ行動する。セーラに一つの指示を出すと、ロイスはジョンと受付嬢の意識を引きつける。
「もう少しゆっくり走らせられません? 蹄の音に"ホワイラー"達が反応を示しているような気がします」
「これ以上遅くしたら、いざというときに速度が足りなくなります……。逃げ切れるかどうか……」
御者へと提案するも、そのあたりはちゃんと把握しているらしく反論された。馬車の速度は必要な要素ではなく、視線が外へと向いたすきにセーラが動く。
ロイスが伸ばした足にさらにセーラの足が絡み、馬車の中へと手が届くほどまでに延長される。セーラはジョン達が顔を出している方とは反対の窓から上半身を滑り込ませた。
荷物の中に受付嬢の武器である小型の砲筒があり、それを勝手に弄るのである。
――ターンッ!
引き金を操ると同時に火薬の爆破音が響き渡り、押し出された円錐形の金属片はあらぬ方へと飛んでいった。別に攻撃することが目的ではないので良い。
「ッ!?」
「ナッ!」
近くで発生した音にジョンと受付嬢は驚いた。
セーラは、わずかなジョン達の硬直時間を利用して馬車から抜け出し荷台へと戻ってくる。セーラがさっさとカバンをかぶり姿を隠すと、さらにロイスが言葉を続ける。
「な、何だ!?」
「砲筒が勝手に! 古いせいッ?」
「暴発ッ? 刺激した以上は、無視できませんよ!」
騒ぐジョンと受付嬢を差し置いて、ロイスのなんとわざとらしいセリフを吐いたことだろうか。
――アギャァ!
――アギャァッ!
"ホワイラー"達は銃声にやや驚きながらも威嚇程度と考えたか、身を隠すことなくこちらを見下ろしてきている。この程度で交戦状態になるのであれば、最初から"ホワイラー"は策など弄さないだろう。
そう、ロイスは道の先にある足元の悪くなっている地点を見て、敵が待ち伏せをしていることに気づいたのだ。
「先に行きます!」
「おん?」
ロイスはセーラをカバンに突っ込むと、自ら"ホワイラー"の陽動部隊を抑えるべく馬車から飛び降りた。移動する馬車から身を投げ出すなど、可能な限り速度を落としていたとしても普通ではない。ゴロゴロとカバンを抱えながらも転がり、無傷で地面へと胴体着地したのだった。
ジョン達が声をかける暇もなく、ロイスはカバンを背負い短剣を引き抜くと駆けていく。
「なッ、あ、おい! クソッ! 俺達も行くぞ! 馬車止めろ!」
「えぇッ! えぇ!」「はいぃ!」
ジョンの指示に従って、戸惑っていた受付嬢も1メートルほどの砲筒を取り、御者も慌てて馬車を止めた。不正を働いていようとも、一応はギルドの長として戦斧を握りしめ駆けていくのだった。
だいたい同時くらいに、攻勢に出たロイス達を確認して"ホワイラー"達も動き出す。本来ならこちらの逃走と足を削ってから挟撃するつもりだったのだろうが、追い立てれば良いと判断してくれたようだ。
――アギャギャァッ!
まず、一匹目の"ホワイラー"が様子見とばかりにロイスへと飛びかかってきた。
ロイスはそれを全身で受け止めてしまった。この程度であればB級冒険者でも回避できただろうが、元々ロイスにとっては避けるほどのものではなかったのだ。
「うわっ! ひ、ひぃッ!」
――アギャァァァァァァァァァァッ!
表向きは、もみ合った際にうまい具合に短剣が突き刺さって倒せたという演出のつもりだった。こうして、"ホワイラー"の絶命の叫びとともに他の"ホワイラー"も動き出した。
「どうやら、すでに囲まれているようです」
石柱を転げ落ちてくる小石に、ロイスが真っ先に気づいた。不穏な気配自体は以前から感じ取っていたが。
「!?」
ジョンが馬車から顔を出して周囲を確認した。
「あ、あれッ」
受付嬢がそう言って見上げた崖の頂上から現れたのは、耳が大きく長い白毛の毛深い生物だ。もっと小ぶりで鋭い牙が生え並んでいなかったのなら、愛玩動物としての道もあったことだろう。
「"ホワイラー"か……。脅かしやがって」
毛むくじゃらの胴長な生物を見つけて、ジョンは安堵したように言った。
"ホワイラー"は人ほどの大きさをした逆関節を持った直立型の"巨獣"で、集団による素早い襲撃を得意としている。"バッシュドラゴン"のようなフィジカルはないものの、その数メートルに及ぶ跳躍力は並の冒険者には厄介である。
「そのまま通り抜けろ。刺激せず縄張りから抜ければ、そうそう襲ってくる奴らじゃない」
ジョンは御者に指示を出し、彼女も静かに馬車を進ませた。
しかし、それはまだ"ホワイラー"というものを完全に理解していない冒険者の判断である。ロイスはこのまま通り抜けることの危険性を考え行動に移す。
「セーラ、起きてるでしょ」
「……」
ロイスが呼びかけると、セーラはカバンからモゾモゾと出てきた。
やや緊張している状態へと落ち着いた馬車周囲に気づかれないよう、音と気配を消しつつ行動する。セーラに一つの指示を出すと、ロイスはジョンと受付嬢の意識を引きつける。
「もう少しゆっくり走らせられません? 蹄の音に"ホワイラー"達が反応を示しているような気がします」
「これ以上遅くしたら、いざというときに速度が足りなくなります……。逃げ切れるかどうか……」
御者へと提案するも、そのあたりはちゃんと把握しているらしく反論された。馬車の速度は必要な要素ではなく、視線が外へと向いたすきにセーラが動く。
ロイスが伸ばした足にさらにセーラの足が絡み、馬車の中へと手が届くほどまでに延長される。セーラはジョン達が顔を出している方とは反対の窓から上半身を滑り込ませた。
荷物の中に受付嬢の武器である小型の砲筒があり、それを勝手に弄るのである。
――ターンッ!
引き金を操ると同時に火薬の爆破音が響き渡り、押し出された円錐形の金属片はあらぬ方へと飛んでいった。別に攻撃することが目的ではないので良い。
「ッ!?」
「ナッ!」
近くで発生した音にジョンと受付嬢は驚いた。
セーラは、わずかなジョン達の硬直時間を利用して馬車から抜け出し荷台へと戻ってくる。セーラがさっさとカバンをかぶり姿を隠すと、さらにロイスが言葉を続ける。
「な、何だ!?」
「砲筒が勝手に! 古いせいッ?」
「暴発ッ? 刺激した以上は、無視できませんよ!」
騒ぐジョンと受付嬢を差し置いて、ロイスのなんとわざとらしいセリフを吐いたことだろうか。
――アギャァ!
――アギャァッ!
"ホワイラー"達は銃声にやや驚きながらも威嚇程度と考えたか、身を隠すことなくこちらを見下ろしてきている。この程度で交戦状態になるのであれば、最初から"ホワイラー"は策など弄さないだろう。
そう、ロイスは道の先にある足元の悪くなっている地点を見て、敵が待ち伏せをしていることに気づいたのだ。
「先に行きます!」
「おん?」
ロイスはセーラをカバンに突っ込むと、自ら"ホワイラー"の陽動部隊を抑えるべく馬車から飛び降りた。移動する馬車から身を投げ出すなど、可能な限り速度を落としていたとしても普通ではない。ゴロゴロとカバンを抱えながらも転がり、無傷で地面へと胴体着地したのだった。
ジョン達が声をかける暇もなく、ロイスはカバンを背負い短剣を引き抜くと駆けていく。
「なッ、あ、おい! クソッ! 俺達も行くぞ! 馬車止めろ!」
「えぇッ! えぇ!」「はいぃ!」
ジョンの指示に従って、戸惑っていた受付嬢も1メートルほどの砲筒を取り、御者も慌てて馬車を止めた。不正を働いていようとも、一応はギルドの長として戦斧を握りしめ駆けていくのだった。
だいたい同時くらいに、攻勢に出たロイス達を確認して"ホワイラー"達も動き出す。本来ならこちらの逃走と足を削ってから挟撃するつもりだったのだろうが、追い立てれば良いと判断してくれたようだ。
――アギャギャァッ!
まず、一匹目の"ホワイラー"が様子見とばかりにロイスへと飛びかかってきた。
ロイスはそれを全身で受け止めてしまった。この程度であればB級冒険者でも回避できただろうが、元々ロイスにとっては避けるほどのものではなかったのだ。
「うわっ! ひ、ひぃッ!」
――アギャァァァァァァァァァァッ!
表向きは、もみ合った際にうまい具合に短剣が突き刺さって倒せたという演出のつもりだった。こうして、"ホワイラー"の絶命の叫びとともに他の"ホワイラー"も動き出した。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる