底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST4.兄妹の絆

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 グラディス=ドリムの取締の後、一日も経っていない翌朝には新たな任務の指示書がスミス兄妹宛に送られてきた。

 内容は公式文書としての通達としては気さくすぎる気もするが。

『ロイス=スミスならびにセーラ=スミス。元気にしてるかい!?

 挨拶も半端で悪いね。両名に――』

「最高長官殿も、人使いが荒いなぁ……」

 用紙の内容を把握し終えたロイスは、ギシギシと頻繁に軋むベッドに寝転びながら怠惰な様子で呟いた。

 文武両道、美男で有名な最高長官アリオエ=スプリング=アリスには兄妹で恩義があるため、立場以上に期待に応える気ではいる。とはいえ存外、ロイスには人並みに怠惰なところがあった。

「今度はこの街のギルド長だってさ。元凶があるとは踏んでたけど」

 標的が標的だけに、面倒さを感じたロイスは誰ともなしに言った。

 ここハイオンの町は、中央政府と大霊峰または天上の石ヘブンズロックスカーリックで隔たれており、行政の目が届きにくくなっている。そのせいか、背徳の町などと揶揄され自治の不正が横行していた。

 冒険者とて例外ではなく、ロイス達が信任されたというわけである。

 昨日同様、仕事の一手としてB級冒険者に扮しハイオンの冒険者ギルドに忍び込んでいる。今いるややカビ臭い小さな部屋は、あいにくだがクラスごとに割り当てられる標準的な部屋だ。

「ふぅ。簡単には手出しできない」

 行き先の定まらない言葉に答えたのは、ロイスの足の間で体を起こしたセーラだった。口から溢れる白い飲み物を手の甲で拭い、どことなくなめらかに言葉を発する。

「暗殺、強襲、暴動、どれにする?」

「物騒だなぁ。町にいられなくなったらどうするのさ」

 思わぬセーラの発言に、ロイスは苦笑を浮かべざるを得なかった。

 暗殺をするにしても、大人しく処罰されるならばギルドからの追放程度で済むことだろう。ロイス達の任務は、無法の殺人許可証マーダーライセンスではないのだ。

 他の手段とて、『冒険者ランク不正取締官』としての存在がバレるか、はたまた時間をかけて冒険者を扇動し引きずり下ろすという長期の仕事になる。

「ギルドの関係者を抱き込んで、上手く相対できれば良いんだけど」

「……」

 別の方法を模索しようとすると、今度はセーラが不機嫌そうな表情を作った。傍から見れば無表情にさえ思えるが、半分は血のつながった兄だからこそわかる。

「どうしたのさ?」

「だって、お兄さん、受付の人のことじーっと見てた」

 聞くと、どうやらギルドの関係者である受付嬢を恋のライバルとみなしているようだ。

「あー……? えーと、ほら、僕だって成人を迎えた男の子だし?」

 嫉妬する妹をなだめようとするも、適した言葉を出せない弱腰なロイス。本能に正直なセリフはセーラの妬みを買うだけとなった。

 こうした点は、異母の繋がりと言えようか。

「当たり前の恋愛とかもしてみたいなぁって。あの、セーラ?」

「……そんなことしなくても、お兄さんの相手は私がする」

 無意味な言葉を尽くすロイスは、彼に向けて腰を向けたセーラに戸惑いを覚えた。そして、続く言動にもはや説得は無理だと察するのだった。

「壁、薄いんだけど」

「フッ」

 ロイスは周囲への迷惑を訴えるが、いつものごとく流されてしま。そんな兄を、セーラは呼気程度の笑い声を上げて受け入れた。

 それから二時間ほど、ベッドの上で兄妹の絆を確かめあった。後々、宿の管理者を通じて苦情が入ったのは仕方のないことだろう。

「フゥ……フゥ……」

 お遊びが過ぎて、セーラの12才を数える程度の体は荒く上下してベッドに横たわっていた。汗を含む様々な臭気がその荒々しさを物語っていた。

 元凶のロイスはというと、まさに朝飯前と言わんばかりに小腹の様子を確かめる。

「朝食まだやってそうだね。えー、セーラ、大丈夫?」

 妹を心配できる程度には体力が有り余っているらしく、服を整え直すとベッドから降りてしっかりとした足取りで出口へと向かった。

「だい、じょうハァ~……ぶ。せい、り……フゥ~ある……」

「そう。一緒に行かないなら何かもらってくるよ」

 荷物や武器の手入れがあるらしく、セーラは珍しくロイスの誘いを断った。

 ロイスは代わりにご飯を部屋まで持ってくることにして、注文を聞く。

「お肉」

「あ~、まぁ、そうなるよね。ここで食べられそうなものって」

 即答された内容にロイスも苦笑した。冒険者ギルドにもよるが、基本的に酒飲みの味付けであるため二人に合う料理が少ないのだ。まだ若いがゆえにマシな肉料理で凌いでいられるものの、バランス面で将来が危ぶまれている可能性がある。

 ロイスは注文だけ聞くと部屋を出ていく。

「あ、そうか。後ろでやっても出来ないってこと、教えた方が良いかなぁ」

 呟きが聞こえない程度に離れたところで、セーラとの間で意味合いの勘違いが生まれていたことに気づくのだった。
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