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QUEST3.不正ランカー取締官
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『冒険者ランク不正取締官』は名前の通り、冒険者のランクが不正に操作されていないかを調べ処罰する役職である。ここオーガトラ大陸であれば中央政府の最高長官が任命している。
そのような高官に対して刃を向けたということは、すなわち中央政府への反逆を意味した。噂程度には耳にしていたが、自分が目をつけられているとは思っていなかったグラディス。
グラディスが次に取った行動は逃走。
「クソッ! 逃げ切って、またどこかでやり直すしか!」
セーラだけでも"ギフト"のせいなのか異様な実力を持ち合わせており、ロイスまでいては勝てる見込みが無いと判断した。この場は生き残って、別の大陸なりで再起を図るつもりだ。
瞬間的な移動速度であれば【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】に自信があり、現に飛翔するように急勾配の崖を登ることができている。
「【ティーファイブ】」
いまさら"ギフト"を使ったところで追いつけるわけがなかった。
元にセーラは一歩もその場を動いておらず、グラディスは崖上へと到達して見事に逃げおおせる。
そして、放物線の頂点に達したグラディスは自由落下を開始する。頭は崖下を眺め、そこにまだセーラ達がいることを確認した。加えて見覚えのあるライトアーマーの姿も。
「なん、で……?」
首のない鎧の男性にならって落ちていくのが、自身の頭部だとグラディスは気づいた。
「あーあ、一太刀で殺しちゃったか。見せしめにしたほうが不正の抑止にはなるんだけどなぁ」
落ちてくるグラディスの肉体を見上げ、ロイスは感慨などなさそうに呟いた。
「ごめんなさい、お兄さん」
セーラも同じく。
泣き別れた二つの部位は虚しく地面に転がり、兄妹はキャンプ地にしていた場所へと戻っていく。
「ハァ、ハァ……。何が?」
そこへやってきたのは、負傷していたはずのマーゴットだった。かなり急いできた様子だ。
まだ"バッシュドラゴン"の状態には理解が及ぶが、混乱するのも無理もないことだろう。なぜ見知らぬ少女が増えているのかだとか、グラディスの遺体があるのかについて理解するのはしばし時間を要する。
「クエスト終了の合図を打ち上げて。後、僕達の正体については内密にしてくれるよね?」
「……えぇ」
ロイスは、細かい説明は迎えがくるまでに説明すると暗に伝えマーゴットに箝口令を敷いた。マーゴットも馬鹿ではなく、場の状態からロイス達が只者ではないと察してうなずいた。
また、普通ならば徒歩で帰還するところを冒険者ギルドに連絡を送るあたりで、ミランダのダメージが危険だということも理解する。
「ミランダさんは……まだ息があれば良いのですが」
「"ギフト"で腕を犠牲にしつつも脱出したのが功を奏したね。片腕損傷による失血以外の致命傷はないよ」
落下のダメージについては防いだと、ロイスは容態を説明した。
マーゴットは、自分が無事に降りてこられた理由を含めて治療に立候補する。
「そうですか。なら、腕こそ元通りにはできませんが傷を塞ぐぐらいは僕の"ギフト"で可能です」
「それは良かった。ん? どうしたのさ?」
避難させてある場所へと向かおうとして、ロイスはマーゴットが名残惜しそうに亡骸達を見つめているのに気づいた。
弔いは治療が終わってからでも良いし、できれば証拠としてどちらも持ち帰りたいという気持ちがあった。が、マーゴットが気にしていたのはそこではないらしい。
「いえ、実を言うとこのクエストには、グラディスへの復讐のために参加したんです」
ポツポツと事情を話し始める。
「妹が、あの男に暴行されましてね。危ういところで逃げはできたんですが、それ以来、人を恐れて冒険者業も休んでしまって……家からもなかなか出なくなりました」
端的ではあるものの、マーゴットの悲痛な面持ちから心情は察するにあまりあった。
「そう。復讐の機会を奪ってしまったみたいだね」
「いえ、これで妹も少し救われるでしょう……」
ロイスはやや肩をすくめて言った。これも仕事であったためマーゴットに譲るわけにもいかなかったと。
マーゴットも満足ことしていなくてもロイスの言を受け入れ、前へと進みだした。
「それなら、僕の仕事が増えなくてよかった」
ロイスは相変わらず感慨もなにもないような表情と声音で言うと、セーラの手を取って再び歩を進めた。
ロイスはこれにてその日の任務を終えて、表向きは三名の冒険者が帰還を果たした。
ミランダは片腕を失いながらもマーゴットの"ギフト"により一命と取り留める。当然、意識が戻ったところで箝口令は敷いておいた。
グラディスの亡骸を作った者は謎のままに、ただ『冒険者ランク不正取締官』の存在だけを流す。これで多少は仕事が減れば良いのだが、とロイスは考える。
しかし、新たな仕事が舞い込んだのは帰還からまもなくのことだった。
そのような高官に対して刃を向けたということは、すなわち中央政府への反逆を意味した。噂程度には耳にしていたが、自分が目をつけられているとは思っていなかったグラディス。
グラディスが次に取った行動は逃走。
「クソッ! 逃げ切って、またどこかでやり直すしか!」
セーラだけでも"ギフト"のせいなのか異様な実力を持ち合わせており、ロイスまでいては勝てる見込みが無いと判断した。この場は生き残って、別の大陸なりで再起を図るつもりだ。
瞬間的な移動速度であれば【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】に自信があり、現に飛翔するように急勾配の崖を登ることができている。
「【ティーファイブ】」
いまさら"ギフト"を使ったところで追いつけるわけがなかった。
元にセーラは一歩もその場を動いておらず、グラディスは崖上へと到達して見事に逃げおおせる。
そして、放物線の頂点に達したグラディスは自由落下を開始する。頭は崖下を眺め、そこにまだセーラ達がいることを確認した。加えて見覚えのあるライトアーマーの姿も。
「なん、で……?」
首のない鎧の男性にならって落ちていくのが、自身の頭部だとグラディスは気づいた。
「あーあ、一太刀で殺しちゃったか。見せしめにしたほうが不正の抑止にはなるんだけどなぁ」
落ちてくるグラディスの肉体を見上げ、ロイスは感慨などなさそうに呟いた。
「ごめんなさい、お兄さん」
セーラも同じく。
泣き別れた二つの部位は虚しく地面に転がり、兄妹はキャンプ地にしていた場所へと戻っていく。
「ハァ、ハァ……。何が?」
そこへやってきたのは、負傷していたはずのマーゴットだった。かなり急いできた様子だ。
まだ"バッシュドラゴン"の状態には理解が及ぶが、混乱するのも無理もないことだろう。なぜ見知らぬ少女が増えているのかだとか、グラディスの遺体があるのかについて理解するのはしばし時間を要する。
「クエスト終了の合図を打ち上げて。後、僕達の正体については内密にしてくれるよね?」
「……えぇ」
ロイスは、細かい説明は迎えがくるまでに説明すると暗に伝えマーゴットに箝口令を敷いた。マーゴットも馬鹿ではなく、場の状態からロイス達が只者ではないと察してうなずいた。
また、普通ならば徒歩で帰還するところを冒険者ギルドに連絡を送るあたりで、ミランダのダメージが危険だということも理解する。
「ミランダさんは……まだ息があれば良いのですが」
「"ギフト"で腕を犠牲にしつつも脱出したのが功を奏したね。片腕損傷による失血以外の致命傷はないよ」
落下のダメージについては防いだと、ロイスは容態を説明した。
マーゴットは、自分が無事に降りてこられた理由を含めて治療に立候補する。
「そうですか。なら、腕こそ元通りにはできませんが傷を塞ぐぐらいは僕の"ギフト"で可能です」
「それは良かった。ん? どうしたのさ?」
避難させてある場所へと向かおうとして、ロイスはマーゴットが名残惜しそうに亡骸達を見つめているのに気づいた。
弔いは治療が終わってからでも良いし、できれば証拠としてどちらも持ち帰りたいという気持ちがあった。が、マーゴットが気にしていたのはそこではないらしい。
「いえ、実を言うとこのクエストには、グラディスへの復讐のために参加したんです」
ポツポツと事情を話し始める。
「妹が、あの男に暴行されましてね。危ういところで逃げはできたんですが、それ以来、人を恐れて冒険者業も休んでしまって……家からもなかなか出なくなりました」
端的ではあるものの、マーゴットの悲痛な面持ちから心情は察するにあまりあった。
「そう。復讐の機会を奪ってしまったみたいだね」
「いえ、これで妹も少し救われるでしょう……」
ロイスはやや肩をすくめて言った。これも仕事であったためマーゴットに譲るわけにもいかなかったと。
マーゴットも満足ことしていなくてもロイスの言を受け入れ、前へと進みだした。
「それなら、僕の仕事が増えなくてよかった」
ロイスは相変わらず感慨もなにもないような表情と声音で言うと、セーラの手を取って再び歩を進めた。
ロイスはこれにてその日の任務を終えて、表向きは三名の冒険者が帰還を果たした。
ミランダは片腕を失いながらもマーゴットの"ギフト"により一命と取り留める。当然、意識が戻ったところで箝口令は敷いておいた。
グラディスの亡骸を作った者は謎のままに、ただ『冒険者ランク不正取締官』の存在だけを流す。これで多少は仕事が減れば良いのだが、とロイスは考える。
しかし、新たな仕事が舞い込んだのは帰還からまもなくのことだった。
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