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QUEST2.神からの力
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この世界"ボパーリア"に住まう人々には、一人に一つの力が『神』と崇める何かから与えられている。ただ生活に便利なものか、もしくは"バッシュドラゴン"を含めた怪物達"巨獣"と戦うための力か、はたまたその他かはそれぞれだ。
「俺の"ギフト"をくらいやがれ!」
グラディスは叫び、己の能力を開放した。
風をまとった体は素早く"バッシュドラゴン"へと肉迫し、風圧により助力を得た斬撃を首筋の柔らかい部分へと叩き込む。
――ギャァァァァァアァァァァァァ!!
手負いの獣は予想外の挙動に反応しきれず、重要な管を切り裂かれ数分とせず倒れ伏した。
――グ、ルァァァァ……。
断末魔の悲鳴はあまりにか細いものだった。
「手間取らせやがって。さて、と」
グラディスは己の"ギフト"――【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】を消し、一息の後に次の行動に移った。
グラディスには、マーゴット達が戻ってくるまでにやってしまわねばならないことがあった。それは、ロイスが残していった大きなカバンに近づいて……。
「何が入っているやら。まぁ、教習代として金目のものをいくつか」
A級冒険者でありながらあさましくも、仲間の荷物を物色して私腹を肥やしていたのだ。
しかし、グラディスがカバンに手をかけようかとした瞬間、フタ部分の隙間から手が伸びてくるではないか。
「は?」
さすがにこれにはグラディスも戸惑いを浮かべた。
その間にも、褐色で細い腕はカバンの表面を弄り留め具を探し当てる。パチリと器用に外すと、スルスル布は崩れていって地面で重なる。
「ふぅ~」
現れたのは少女だった。ブルネットのセミロングヘアーを軽く振り、革袋の中でまとわりついた熱を払った。夜陰に澄み渡る月光のような声で吐息を絞り出した後、程よく酸素を取り入れたところで意図的な呼吸をやめた。
戸惑うグラディスを尻目に、持っていた伸縮式の大鎌を伸ばして刃を立てる。静かな漆黒の瞳は、確かに獲物を見つめる者のそれ。
グラディスがすぐに行動に移せなかったのは、武器を除けば古びたハーフマントの下にインナーウェアを着込んだ程度の少女に対し、警戒心が働ききらなかったからである。
そして、数秒だけ流れた沈黙を破ったのはロイスの声。
「グラディス=ドリム。A級冒険者。わかっているだけでも5件の悪質な囮行為の強要。金品の窃盗数件」
罪状とばかりに言葉を紡いで行った。
「場合によっては6件目と、お兄さんを侮辱した罪もだよ。反省の弁次第では、一思いに処罰してあげる」
ロイスの妹と思しき少女が言葉を継いで、黒光りする大鎌をグラディスの首元に突きつけた。
どうやらミランダはなんとか生きているようだとか、ロイスと少女が何者かだとか、そんなことはグラディスにとってどうだって良かった。このままでは冒険者ランクが奪われるという一点のみが問題なのである。
「ふざけるな! もうS級が見えてきてんだからよ!」
何者ともわからない無能冒険者達に自分の道を阻まれてたまるかと、グラディスは剣で大鎌を振り払った。
すぐさま"ギフト"を行使して少女へと切りかかっていく。
「俺の【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】を喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!」
髪をまっすぐになびかせ、土煙を巻き上げながら、2メートルほどの距離を一気に詰めた。が、裂帛の声と斬撃は虚しく空を通り過ぎていった。
「……慌てすぎたか?」
急ぎ過ぎて狙いを外したのだろうと、グラディスは考えて身を翻した。再び少女に向かって瞬足の一撃を叩き込む。
しかし、狙いに反して斬撃は軽く鎌でいなされる。
――ィーーン。
――キィィィーンッ。
二重の金属音が今になって森へ木霊した瞬間、グラディスは漸く2撃目と同じく受け流されていたのだと理解した。信じがたい現実を理解する。
「なッ、何者だ、お前ら!?」
グラディスは驚愕を顔に浮かべて、ほぼ少女にだけ向かって尋ねた。
「グラディス=ドリム。"ギフト"使用時の『速度』はSか。まぁ、さすがってところだね」
少女はあまり会話を得意としないのか、代わりにロイスが問いとは別の答えを返した。手に持っているのは、グラディスの能力を5項目5段階で――さらに"ギフト"使用時とを比較して――評価した紙面だろう。
対応するにあたって、ロイスが用意したものだと思われる。
しかし、グラディスの欲しい答えはそうではない。
「俺はロイス=スミス。彼女は妹のセーラ=スミス」
ロイスは挑発するかのように、悠長に自己紹介に移った。
「何者だと聞いてるだろぉがッ!」「うるさいし、そっちは駄目」
グラディスもしびれを切らしてロイスへ斬りかかるも、移動の間へとセーラに割り込まれ攻撃を阻止されてしまう。
「ッ!?」
【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】へと追いついて、大人でも片手で扱うのが難しい大鎌でグラディスを打ち返したのだ。何度となく驚かされるのだった。
ロイスはその様子を平然と眺めながら、やっと目的の言葉を口にする。
「『冒険者ランク不正取締官』」
「ッ……」
聞かなければ良かったと、グラディスはすぐに後悔することになった。
「俺の"ギフト"をくらいやがれ!」
グラディスは叫び、己の能力を開放した。
風をまとった体は素早く"バッシュドラゴン"へと肉迫し、風圧により助力を得た斬撃を首筋の柔らかい部分へと叩き込む。
――ギャァァァァァアァァァァァァ!!
手負いの獣は予想外の挙動に反応しきれず、重要な管を切り裂かれ数分とせず倒れ伏した。
――グ、ルァァァァ……。
断末魔の悲鳴はあまりにか細いものだった。
「手間取らせやがって。さて、と」
グラディスは己の"ギフト"――【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】を消し、一息の後に次の行動に移った。
グラディスには、マーゴット達が戻ってくるまでにやってしまわねばならないことがあった。それは、ロイスが残していった大きなカバンに近づいて……。
「何が入っているやら。まぁ、教習代として金目のものをいくつか」
A級冒険者でありながらあさましくも、仲間の荷物を物色して私腹を肥やしていたのだ。
しかし、グラディスがカバンに手をかけようかとした瞬間、フタ部分の隙間から手が伸びてくるではないか。
「は?」
さすがにこれにはグラディスも戸惑いを浮かべた。
その間にも、褐色で細い腕はカバンの表面を弄り留め具を探し当てる。パチリと器用に外すと、スルスル布は崩れていって地面で重なる。
「ふぅ~」
現れたのは少女だった。ブルネットのセミロングヘアーを軽く振り、革袋の中でまとわりついた熱を払った。夜陰に澄み渡る月光のような声で吐息を絞り出した後、程よく酸素を取り入れたところで意図的な呼吸をやめた。
戸惑うグラディスを尻目に、持っていた伸縮式の大鎌を伸ばして刃を立てる。静かな漆黒の瞳は、確かに獲物を見つめる者のそれ。
グラディスがすぐに行動に移せなかったのは、武器を除けば古びたハーフマントの下にインナーウェアを着込んだ程度の少女に対し、警戒心が働ききらなかったからである。
そして、数秒だけ流れた沈黙を破ったのはロイスの声。
「グラディス=ドリム。A級冒険者。わかっているだけでも5件の悪質な囮行為の強要。金品の窃盗数件」
罪状とばかりに言葉を紡いで行った。
「場合によっては6件目と、お兄さんを侮辱した罪もだよ。反省の弁次第では、一思いに処罰してあげる」
ロイスの妹と思しき少女が言葉を継いで、黒光りする大鎌をグラディスの首元に突きつけた。
どうやらミランダはなんとか生きているようだとか、ロイスと少女が何者かだとか、そんなことはグラディスにとってどうだって良かった。このままでは冒険者ランクが奪われるという一点のみが問題なのである。
「ふざけるな! もうS級が見えてきてんだからよ!」
何者ともわからない無能冒険者達に自分の道を阻まれてたまるかと、グラディスは剣で大鎌を振り払った。
すぐさま"ギフト"を行使して少女へと切りかかっていく。
「俺の【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】を喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!」
髪をまっすぐになびかせ、土煙を巻き上げながら、2メートルほどの距離を一気に詰めた。が、裂帛の声と斬撃は虚しく空を通り過ぎていった。
「……慌てすぎたか?」
急ぎ過ぎて狙いを外したのだろうと、グラディスは考えて身を翻した。再び少女に向かって瞬足の一撃を叩き込む。
しかし、狙いに反して斬撃は軽く鎌でいなされる。
――ィーーン。
――キィィィーンッ。
二重の金属音が今になって森へ木霊した瞬間、グラディスは漸く2撃目と同じく受け流されていたのだと理解した。信じがたい現実を理解する。
「なッ、何者だ、お前ら!?」
グラディスは驚愕を顔に浮かべて、ほぼ少女にだけ向かって尋ねた。
「グラディス=ドリム。"ギフト"使用時の『速度』はSか。まぁ、さすがってところだね」
少女はあまり会話を得意としないのか、代わりにロイスが問いとは別の答えを返した。手に持っているのは、グラディスの能力を5項目5段階で――さらに"ギフト"使用時とを比較して――評価した紙面だろう。
対応するにあたって、ロイスが用意したものだと思われる。
しかし、グラディスの欲しい答えはそうではない。
「俺はロイス=スミス。彼女は妹のセーラ=スミス」
ロイスは挑発するかのように、悠長に自己紹介に移った。
「何者だと聞いてるだろぉがッ!」「うるさいし、そっちは駄目」
グラディスもしびれを切らしてロイスへ斬りかかるも、移動の間へとセーラに割り込まれ攻撃を阻止されてしまう。
「ッ!?」
【ストーム・イン・ザ・ゲイザー】へと追いついて、大人でも片手で扱うのが難しい大鎌でグラディスを打ち返したのだ。何度となく驚かされるのだった。
ロイスはその様子を平然と眺めながら、やっと目的の言葉を口にする。
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