1 / 38
QUEST0.ばらばらなチーム
しおりを挟む
――ピュロロロロロロロッ。
大きな鳥類の影と鳴き声が蔦木の隙間から垂直に落ちて、正午に近いことがわかった。
草木がドーム状に茂っていながら広く開けた場に、4つの人影がある。いずれも二十歳前後かそれに満たない若い青年達だ。
金髪を整髪剤で尖らせた男が簡易の寝床から起き上がり、革製のライトアーマーのおかげで凝った肩や首をカキカキと鳴らしつつ枕代わりにしていた剣を掴む。
「良い感じの時間だ」
金髪の青年、グラディスはそう言うと出発の準備をサッと整えた。
そして少し離れた位置の木陰で座って休んでいたであろう黒髪のどちらかといえば少年ほどの青年に近づいていく。
「ロイス、さっさとしやがれ」
「あ、ドリムさん。すぐ行きます」
ロイスと呼ばれた幼さを残した人物は、慌てて答えると手にしていた安っぽい紙を丸めた。休むために抱きかかえていた巨大なカバンに突っ込むと同時に立ち上がり、一人でなんとか背負い駆け始めた。
グラディスはというと、人のことを姓名で呼ぶ良い子ぶったロイスの態度が鼻につくのか、からかうような感じで頭を掴んで聞く。
「仮眠も取らずに何を見てやがったんだ?」
「あー、いえ、今回のクエストの討伐対象を覚えていたんです」
ロイスは照れるような困っているような表情で答えた。
「また間違えて、バカにされたくないですから……」
ロイスはそう付け加えた。
「けっ、これだからB級は。"バッシュドラゴン"ぐらい、ちょいと上のランクの奴らについていけば覚えるっつーの」
出来の悪い後輩に呆れつつ、グラディスはロイスをやや突き飛ばすようにして歩いていってしまった。それに対してロイスは、尻もちを回避しようとして強かに大木に体を打ち付けた。
周囲の視線が向くと苦笑を返して誤魔化す。よくあることだからとロイス。
「随分な荷物だが、代わろうか?」
やや長身でモノクルをかけた男性が、ロイスの身長ほどある巨大なカバンを気にして近づいてきた。ここメブルト山へやってくるまでもずっと背負っていたのだ。個人的な道具だとしても、クエスト攻略のために用意したのは間違いない。
「すみません、ヌグイェンさん。でも、これぐらいは大丈夫です」
「そうか。何度か言ってると思うけど、俺みたいなC級冒険者にさん付けじゃなくても良いし、マーゴットって下の名前でも」
これまで含め数度ロイスに断られ、ヌグイェンことマーゴットはよほど大事なものなのだろうと大人しく引き下がった。
「そうよ。同じぐらいの年だし、ランクの分はもう少しピシッとしないと」
「マルティさん、まぁ、ハハハッ……」
などとロイスを注意するのは、このグループ唯一の女性でミランダ=マルティという人物だ。同じB級であるロイスとしては、苦笑いを浮かべて逃げるしかなかった。
そのように駄弁っている3人に、苛立ちをぶつけるのはグラディスである。
「おいお前ら、真面目にやりやがれ!」
怒られた3人は、サッと顔を見合わせると急ぎ走り出した。
どさくさに紛れてミランダがグループに支給された簡易の罠セットを持ったり、手持ち無沙汰なマーゴットはグラディスをにらみつけるしかなかったり、ロイス=スミスは自分の荷物に傾心していたりと。到底、役割というものがない。
「良いかお前ら、せっかくS級昇格がかかったクエストにつれてきてやってんだ。気ぃ引き締めてかかれ」
「は、はいッ」
「……すみません」
「はーい、がんばりまーす」
グラディスの叱咤に三者三様の反応を返した。
ロイスを除けば真面目には思えないが、グラディスもお小言に夢中でもはや気にしていない。感謝こそしているかもしれないという程度だ。
そのまま歩いて樹木に覆われたキャンプ地を出ていくと、皆の眼前には自然豊かな山岳地帯が広がっていた。後は登るか降るかどちらかである。
一行はそこそこ整地された広い山道を登り、中腹ほどまでたどり着いた。小言も終わっていくらか続いた沈黙を破るように、グラディスがマーゴットに指示を出す。
「おいマーゴット、あそこで"バッシュドラゴン"の痕跡がないか探るのと偵察だ」
そう示した。突き出た岩の庇が途切れ、日差しが高山植物を照らす程よく拓けた地点である。
餌場にして集まっていた短い角持ちの四足動物"ディアーホース"達は、4人の姿を見て食事をやめる。
「はい」「あ、私がやるわ」
マーゴットがグラディスを一瞥してから動き出そうとしたところで、ミランダが先輩風を吹かせたいのか率先して動いた。
「あッ……」
グラディスは若干の詰まりを感じるも、ミランダをそのまま行かせた。
「邪魔してごめんね」
ミランダは"ディアーホース"達が逃げていくのに罪悪感を感じつつ、周囲に他の生物の痕跡がないかを探し始めた。
またしても手持ち部沙汰になったマーゴットは、グラディスと同じように周囲を見張りを始める。そこへゆっくりした歩調で近づいてくるのがロイスだ。
「……C級より役立たずかよ」
グラディスはそんなロイスを見て、憎たらしそうに呟いた。B級とは言え、時間をかけた叩き上げでマーゴットより実力はないと判断した。
「す、すみません」
「辛いなら代わるが……」
「あッ、マルティさん!」
大きな鳥類の影と鳴き声が蔦木の隙間から垂直に落ちて、正午に近いことがわかった。
草木がドーム状に茂っていながら広く開けた場に、4つの人影がある。いずれも二十歳前後かそれに満たない若い青年達だ。
金髪を整髪剤で尖らせた男が簡易の寝床から起き上がり、革製のライトアーマーのおかげで凝った肩や首をカキカキと鳴らしつつ枕代わりにしていた剣を掴む。
「良い感じの時間だ」
金髪の青年、グラディスはそう言うと出発の準備をサッと整えた。
そして少し離れた位置の木陰で座って休んでいたであろう黒髪のどちらかといえば少年ほどの青年に近づいていく。
「ロイス、さっさとしやがれ」
「あ、ドリムさん。すぐ行きます」
ロイスと呼ばれた幼さを残した人物は、慌てて答えると手にしていた安っぽい紙を丸めた。休むために抱きかかえていた巨大なカバンに突っ込むと同時に立ち上がり、一人でなんとか背負い駆け始めた。
グラディスはというと、人のことを姓名で呼ぶ良い子ぶったロイスの態度が鼻につくのか、からかうような感じで頭を掴んで聞く。
「仮眠も取らずに何を見てやがったんだ?」
「あー、いえ、今回のクエストの討伐対象を覚えていたんです」
ロイスは照れるような困っているような表情で答えた。
「また間違えて、バカにされたくないですから……」
ロイスはそう付け加えた。
「けっ、これだからB級は。"バッシュドラゴン"ぐらい、ちょいと上のランクの奴らについていけば覚えるっつーの」
出来の悪い後輩に呆れつつ、グラディスはロイスをやや突き飛ばすようにして歩いていってしまった。それに対してロイスは、尻もちを回避しようとして強かに大木に体を打ち付けた。
周囲の視線が向くと苦笑を返して誤魔化す。よくあることだからとロイス。
「随分な荷物だが、代わろうか?」
やや長身でモノクルをかけた男性が、ロイスの身長ほどある巨大なカバンを気にして近づいてきた。ここメブルト山へやってくるまでもずっと背負っていたのだ。個人的な道具だとしても、クエスト攻略のために用意したのは間違いない。
「すみません、ヌグイェンさん。でも、これぐらいは大丈夫です」
「そうか。何度か言ってると思うけど、俺みたいなC級冒険者にさん付けじゃなくても良いし、マーゴットって下の名前でも」
これまで含め数度ロイスに断られ、ヌグイェンことマーゴットはよほど大事なものなのだろうと大人しく引き下がった。
「そうよ。同じぐらいの年だし、ランクの分はもう少しピシッとしないと」
「マルティさん、まぁ、ハハハッ……」
などとロイスを注意するのは、このグループ唯一の女性でミランダ=マルティという人物だ。同じB級であるロイスとしては、苦笑いを浮かべて逃げるしかなかった。
そのように駄弁っている3人に、苛立ちをぶつけるのはグラディスである。
「おいお前ら、真面目にやりやがれ!」
怒られた3人は、サッと顔を見合わせると急ぎ走り出した。
どさくさに紛れてミランダがグループに支給された簡易の罠セットを持ったり、手持ち無沙汰なマーゴットはグラディスをにらみつけるしかなかったり、ロイス=スミスは自分の荷物に傾心していたりと。到底、役割というものがない。
「良いかお前ら、せっかくS級昇格がかかったクエストにつれてきてやってんだ。気ぃ引き締めてかかれ」
「は、はいッ」
「……すみません」
「はーい、がんばりまーす」
グラディスの叱咤に三者三様の反応を返した。
ロイスを除けば真面目には思えないが、グラディスもお小言に夢中でもはや気にしていない。感謝こそしているかもしれないという程度だ。
そのまま歩いて樹木に覆われたキャンプ地を出ていくと、皆の眼前には自然豊かな山岳地帯が広がっていた。後は登るか降るかどちらかである。
一行はそこそこ整地された広い山道を登り、中腹ほどまでたどり着いた。小言も終わっていくらか続いた沈黙を破るように、グラディスがマーゴットに指示を出す。
「おいマーゴット、あそこで"バッシュドラゴン"の痕跡がないか探るのと偵察だ」
そう示した。突き出た岩の庇が途切れ、日差しが高山植物を照らす程よく拓けた地点である。
餌場にして集まっていた短い角持ちの四足動物"ディアーホース"達は、4人の姿を見て食事をやめる。
「はい」「あ、私がやるわ」
マーゴットがグラディスを一瞥してから動き出そうとしたところで、ミランダが先輩風を吹かせたいのか率先して動いた。
「あッ……」
グラディスは若干の詰まりを感じるも、ミランダをそのまま行かせた。
「邪魔してごめんね」
ミランダは"ディアーホース"達が逃げていくのに罪悪感を感じつつ、周囲に他の生物の痕跡がないかを探し始めた。
またしても手持ち部沙汰になったマーゴットは、グラディスと同じように周囲を見張りを始める。そこへゆっくりした歩調で近づいてくるのがロイスだ。
「……C級より役立たずかよ」
グラディスはそんなロイスを見て、憎たらしそうに呟いた。B級とは言え、時間をかけた叩き上げでマーゴットより実力はないと判断した。
「す、すみません」
「辛いなら代わるが……」
「あッ、マルティさん!」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる