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QUEST0.ばらばらなチーム
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――ピュロロロロロロロッ。
大きな鳥類の影と鳴き声が蔦木の隙間から垂直に落ちて、正午に近いことがわかった。
草木がドーム状に茂っていながら広く開けた場に、4つの人影がある。いずれも二十歳前後かそれに満たない若い青年達だ。
金髪を整髪剤で尖らせた男が簡易の寝床から起き上がり、革製のライトアーマーのおかげで凝った肩や首をカキカキと鳴らしつつ枕代わりにしていた剣を掴む。
「良い感じの時間だ」
金髪の青年、グラディスはそう言うと出発の準備をサッと整えた。
そして少し離れた位置の木陰で座って休んでいたであろう黒髪のどちらかといえば少年ほどの青年に近づいていく。
「ロイス、さっさとしやがれ」
「あ、ドリムさん。すぐ行きます」
ロイスと呼ばれた幼さを残した人物は、慌てて答えると手にしていた安っぽい紙を丸めた。休むために抱きかかえていた巨大なカバンに突っ込むと同時に立ち上がり、一人でなんとか背負い駆け始めた。
グラディスはというと、人のことを姓名で呼ぶ良い子ぶったロイスの態度が鼻につくのか、からかうような感じで頭を掴んで聞く。
「仮眠も取らずに何を見てやがったんだ?」
「あー、いえ、今回のクエストの討伐対象を覚えていたんです」
ロイスは照れるような困っているような表情で答えた。
「また間違えて、バカにされたくないですから……」
ロイスはそう付け加えた。
「けっ、これだからB級は。"バッシュドラゴン"ぐらい、ちょいと上のランクの奴らについていけば覚えるっつーの」
出来の悪い後輩に呆れつつ、グラディスはロイスをやや突き飛ばすようにして歩いていってしまった。それに対してロイスは、尻もちを回避しようとして強かに大木に体を打ち付けた。
周囲の視線が向くと苦笑を返して誤魔化す。よくあることだからとロイス。
「随分な荷物だが、代わろうか?」
やや長身でモノクルをかけた男性が、ロイスの身長ほどある巨大なカバンを気にして近づいてきた。ここメブルト山へやってくるまでもずっと背負っていたのだ。個人的な道具だとしても、クエスト攻略のために用意したのは間違いない。
「すみません、ヌグイェンさん。でも、これぐらいは大丈夫です」
「そうか。何度か言ってると思うけど、俺みたいなC級冒険者にさん付けじゃなくても良いし、マーゴットって下の名前でも」
これまで含め数度ロイスに断られ、ヌグイェンことマーゴットはよほど大事なものなのだろうと大人しく引き下がった。
「そうよ。同じぐらいの年だし、ランクの分はもう少しピシッとしないと」
「マルティさん、まぁ、ハハハッ……」
などとロイスを注意するのは、このグループ唯一の女性でミランダ=マルティという人物だ。同じB級であるロイスとしては、苦笑いを浮かべて逃げるしかなかった。
そのように駄弁っている3人に、苛立ちをぶつけるのはグラディスである。
「おいお前ら、真面目にやりやがれ!」
怒られた3人は、サッと顔を見合わせると急ぎ走り出した。
どさくさに紛れてミランダがグループに支給された簡易の罠セットを持ったり、手持ち無沙汰なマーゴットはグラディスをにらみつけるしかなかったり、ロイス=スミスは自分の荷物に傾心していたりと。到底、役割というものがない。
「良いかお前ら、せっかくS級昇格がかかったクエストにつれてきてやってんだ。気ぃ引き締めてかかれ」
「は、はいッ」
「……すみません」
「はーい、がんばりまーす」
グラディスの叱咤に三者三様の反応を返した。
ロイスを除けば真面目には思えないが、グラディスもお小言に夢中でもはや気にしていない。感謝こそしているかもしれないという程度だ。
そのまま歩いて樹木に覆われたキャンプ地を出ていくと、皆の眼前には自然豊かな山岳地帯が広がっていた。後は登るか降るかどちらかである。
一行はそこそこ整地された広い山道を登り、中腹ほどまでたどり着いた。小言も終わっていくらか続いた沈黙を破るように、グラディスがマーゴットに指示を出す。
「おいマーゴット、あそこで"バッシュドラゴン"の痕跡がないか探るのと偵察だ」
そう示した。突き出た岩の庇が途切れ、日差しが高山植物を照らす程よく拓けた地点である。
餌場にして集まっていた短い角持ちの四足動物"ディアーホース"達は、4人の姿を見て食事をやめる。
「はい」「あ、私がやるわ」
マーゴットがグラディスを一瞥してから動き出そうとしたところで、ミランダが先輩風を吹かせたいのか率先して動いた。
「あッ……」
グラディスは若干の詰まりを感じるも、ミランダをそのまま行かせた。
「邪魔してごめんね」
ミランダは"ディアーホース"達が逃げていくのに罪悪感を感じつつ、周囲に他の生物の痕跡がないかを探し始めた。
またしても手持ち部沙汰になったマーゴットは、グラディスと同じように周囲を見張りを始める。そこへゆっくりした歩調で近づいてくるのがロイスだ。
「……C級より役立たずかよ」
グラディスはそんなロイスを見て、憎たらしそうに呟いた。B級とは言え、時間をかけた叩き上げでマーゴットより実力はないと判断した。
「す、すみません」
「辛いなら代わるが……」
「あッ、マルティさん!」
大きな鳥類の影と鳴き声が蔦木の隙間から垂直に落ちて、正午に近いことがわかった。
草木がドーム状に茂っていながら広く開けた場に、4つの人影がある。いずれも二十歳前後かそれに満たない若い青年達だ。
金髪を整髪剤で尖らせた男が簡易の寝床から起き上がり、革製のライトアーマーのおかげで凝った肩や首をカキカキと鳴らしつつ枕代わりにしていた剣を掴む。
「良い感じの時間だ」
金髪の青年、グラディスはそう言うと出発の準備をサッと整えた。
そして少し離れた位置の木陰で座って休んでいたであろう黒髪のどちらかといえば少年ほどの青年に近づいていく。
「ロイス、さっさとしやがれ」
「あ、ドリムさん。すぐ行きます」
ロイスと呼ばれた幼さを残した人物は、慌てて答えると手にしていた安っぽい紙を丸めた。休むために抱きかかえていた巨大なカバンに突っ込むと同時に立ち上がり、一人でなんとか背負い駆け始めた。
グラディスはというと、人のことを姓名で呼ぶ良い子ぶったロイスの態度が鼻につくのか、からかうような感じで頭を掴んで聞く。
「仮眠も取らずに何を見てやがったんだ?」
「あー、いえ、今回のクエストの討伐対象を覚えていたんです」
ロイスは照れるような困っているような表情で答えた。
「また間違えて、バカにされたくないですから……」
ロイスはそう付け加えた。
「けっ、これだからB級は。"バッシュドラゴン"ぐらい、ちょいと上のランクの奴らについていけば覚えるっつーの」
出来の悪い後輩に呆れつつ、グラディスはロイスをやや突き飛ばすようにして歩いていってしまった。それに対してロイスは、尻もちを回避しようとして強かに大木に体を打ち付けた。
周囲の視線が向くと苦笑を返して誤魔化す。よくあることだからとロイス。
「随分な荷物だが、代わろうか?」
やや長身でモノクルをかけた男性が、ロイスの身長ほどある巨大なカバンを気にして近づいてきた。ここメブルト山へやってくるまでもずっと背負っていたのだ。個人的な道具だとしても、クエスト攻略のために用意したのは間違いない。
「すみません、ヌグイェンさん。でも、これぐらいは大丈夫です」
「そうか。何度か言ってると思うけど、俺みたいなC級冒険者にさん付けじゃなくても良いし、マーゴットって下の名前でも」
これまで含め数度ロイスに断られ、ヌグイェンことマーゴットはよほど大事なものなのだろうと大人しく引き下がった。
「そうよ。同じぐらいの年だし、ランクの分はもう少しピシッとしないと」
「マルティさん、まぁ、ハハハッ……」
などとロイスを注意するのは、このグループ唯一の女性でミランダ=マルティという人物だ。同じB級であるロイスとしては、苦笑いを浮かべて逃げるしかなかった。
そのように駄弁っている3人に、苛立ちをぶつけるのはグラディスである。
「おいお前ら、真面目にやりやがれ!」
怒られた3人は、サッと顔を見合わせると急ぎ走り出した。
どさくさに紛れてミランダがグループに支給された簡易の罠セットを持ったり、手持ち無沙汰なマーゴットはグラディスをにらみつけるしかなかったり、ロイス=スミスは自分の荷物に傾心していたりと。到底、役割というものがない。
「良いかお前ら、せっかくS級昇格がかかったクエストにつれてきてやってんだ。気ぃ引き締めてかかれ」
「は、はいッ」
「……すみません」
「はーい、がんばりまーす」
グラディスの叱咤に三者三様の反応を返した。
ロイスを除けば真面目には思えないが、グラディスもお小言に夢中でもはや気にしていない。感謝こそしているかもしれないという程度だ。
そのまま歩いて樹木に覆われたキャンプ地を出ていくと、皆の眼前には自然豊かな山岳地帯が広がっていた。後は登るか降るかどちらかである。
一行はそこそこ整地された広い山道を登り、中腹ほどまでたどり着いた。小言も終わっていくらか続いた沈黙を破るように、グラディスがマーゴットに指示を出す。
「おいマーゴット、あそこで"バッシュドラゴン"の痕跡がないか探るのと偵察だ」
そう示した。突き出た岩の庇が途切れ、日差しが高山植物を照らす程よく拓けた地点である。
餌場にして集まっていた短い角持ちの四足動物"ディアーホース"達は、4人の姿を見て食事をやめる。
「はい」「あ、私がやるわ」
マーゴットがグラディスを一瞥してから動き出そうとしたところで、ミランダが先輩風を吹かせたいのか率先して動いた。
「あッ……」
グラディスは若干の詰まりを感じるも、ミランダをそのまま行かせた。
「邪魔してごめんね」
ミランダは"ディアーホース"達が逃げていくのに罪悪感を感じつつ、周囲に他の生物の痕跡がないかを探し始めた。
またしても手持ち部沙汰になったマーゴットは、グラディスと同じように周囲を見張りを始める。そこへゆっくりした歩調で近づいてくるのがロイスだ。
「……C級より役立たずかよ」
グラディスはそんなロイスを見て、憎たらしそうに呟いた。B級とは言え、時間をかけた叩き上げでマーゴットより実力はないと判断した。
「す、すみません」
「辛いなら代わるが……」
「あッ、マルティさん!」
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