近衛騎士隊長の同人誌『陛下、不敬をお許しください!』

AAKI

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44P・まさかの殴り合いへ

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 手招きするかのようにスピードを調整するパスクを、アレーサンドロが追う。
 走りながらの打ち合いを経て、アレーサンドロの持つ剣が完全にボロボロになってしまった。
「ブブブッ! 剣をよこせ!」
「とびっきりのだ!」
 一方が武器を求めるのはわかるが、なぜかパスクまでそれに賛同した。本気でぶつからねば面白くないとでも考えているのだろう。

「……ならば、これを!」
 本来ならば愚王に使わせるような代物ではないのだろうが、リナルドは己の細剣を投げ渡した。
 パスクやケリュラの持つ業物と打ち合える武器などそうそう多くはなく、我が陛下が楽しめるならその判断もばやぶさかではない。
 それに、天命を信じるならば当人から賜った剣に倒れるなどということはないだろう。
 そんな経緯も思惑も知らないまま、アレーサンドロは細剣を引き抜きその名工具合にやや驚きを見せる。

「ブブッ! これは……ほほぉ~」
「……」
 脂袋から漏れる感嘆の声に、リナルドはやや後悔を覚えた。まるで、自分の最愛の人を視姦されているかのような複雑さだ。
「ククッ。目をえぐり出してやりたいとでも言いたげだなぁ」
 心中を察してか、敵兵を押しのけ終えたケリュラがやってきた。

 そういう戦闘狂も、この決闘に参加したいとばかりに体を小さく震わせている。残党程度ではやはり物足りなかったようだ。
「お互い、最後の楽しみは後に取っておくとしましょう」
「決闘が終わったら好きにして良いとな?」
 リナルドが言うと、ケリュラも嬉しそうに応えた。
 瞳に一瞬だけ映った、野蛮なる者達の輝きには気づかない。

 そのような決着はないだろうと思って、リナルドは別の提案をする。
「シャフィク卿やヤクーバ卿なら良い勝負をしてくれるのではないでしょうか?」
「なッ」「いやいや!」
 流石に差し向けられてはたまらないと、観戦していた両将も首を横に振った。
 ケリュラは舌打ちする。

 そうしている間にも王と王の戦いは決着に近づいてきていた。
 いくら名剣を手にしようとも、使い手に技量があっても、体力がもたなければあまりに無意味だ。
「ブッ。ブッ。ふぅぅぅ……」
 息切れを始めているのが遠目からでもわかる。
 パスクも、軽くあしらっているように見えて決して楽というわけではない。額には玉のような汗が浮かんでいるのが見える。

「フッ。まさか、俺がここまでとはな。昔、俺が見込んだ通りじゃねぇか」
「ブブブッ! 楽しみおって! だから、昔からお主が嫌いだったんだ!」
 2人の奇妙な会話が聞こえてくる。離反からこれまでの流れを考えると、確かに決意するための主因があったのだろう。
 古い付き合いというのはリナルドも同じなのでわかるが、2人の間でそのような話があったことに驚いた。
 いや、と近衛騎士隊長は頭を振って心中に湧いた気持ちを振り払う。

「……そろそろ終わりでしょう」
「なんだ。不機嫌じゃな」
 その心中を見透かしてか、ケリュラはケラケラと笑って追従してきた。
「逐一、私の癇に障るところに触れてこないでくださいますか?」
 図星を突かれそうになって、先制して言葉をせき止めた。

 まさか、パスクがリナルド以外に戦友としたかった者がいるとは思わなかった。
 それがあのアレーサンドロともなれば、余計に気が気でないというもの。
「ブブブブブブブゥゥゥゥゥゥッ!」
 ただ、決してパスクの見立てが間違っていたわけではないのは確かだ。
 体が動きについてきたのか、裂帛の気合いとともに細剣の刺突を繰り出すアレーサンドロ。

 パスクはそれを槍の柄で受け流し続けるも、余裕らしきものは少しずつ消えていく。押されているとも違う。
「拮抗しちまったか……! 時間を掛けすぎたかねぇ」
 少し遊んでアレーサンドロを本気にさせてしまったことを、やや喜びを持って後悔した。
 火花が散り、汗が吹き飛ぶ。互いが目を見開いて、闘争にギラつかせながら武器を打ち合わせる。
 騎馬と騎馬がマイムマイムを踊り、輪の中では刃によるタップダンスを刻む。

 護拳で槍の切っ先を止めたかと思えば、柄を掴み無理やりパスクを馬上から引きずり降ろそうとした。
 当然、踏みとどまることなどできずバランスを崩す。しかし、その勢いを逆に利用して馬の背を蹴って体を浮かせた。
 背中同士を渡った棒の上で逆立ちし、アレーサンドロの顔面にキックを入れる。が、もはや引くことなくパスクに対しても蹴りが入った。
「ブッ!」「ゴッ!」
 見事な同士討ちだ。

 それでも、どちらも勢いが乗らなかったがために致命的なダメージとならず静かに落馬する。
「こうなったら素手、武器なんてもう要らないだろ!」
「ブブブッ! やってやるわぁ!」
 まさかここへ来て、両者ともに武器を投げ捨てて拳を唸らせたのである。
 リナルドが見ていたら細剣を投げ捨てたことを、マキシが見ていたら無駄に時間を掛けていることを、怒ったことだろう。

 しかし、今はこの無意味で無用な喧嘩を喜んで観戦するヴァイマン達しかいない。もしケリュラがいようものなら、観客すら煽り立てて騒ぎにしていただろう。
「そこだー!」「やれー!」「顔だ! 顔を狙え!」
 なんとか賭け事が始まらないのが救いだ。
 アレーサンドロのフックをパスクは滑るようなフットワークで回避して、懐に入り込んだところで下っ腹から一撃を打ち込む。
 脂肪の壁が大きく鳴動するも、ダメージ自体はそれほどではない。
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