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41P・王の器なり

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 どうしたものか……。
 リナルドは、シャフィクの周囲を駆けながら考えた。
 打ち合ったところで大盾に押しのけられ、馬術の上では同格なので後ろを取ることはできそうにない。
 その間にも、敵兵は集まってきてリナルド達を取り囲んでいった。このままではパスクだけで押し通ることができなくなり、痺れを切らせれば今からでも雑兵達が襲いかかってくるだろう。

「いつまで逃げ回っているつもりか。それとも、逆賊の部下はこの程度なのか?」
 シャフィクから改めて挑発が入るが、ここでそれに乗っかり追いかけっこを止めるリナルドではなかった。
「安っぽい煽りに乗るほど甘くはない。難関ではあったものの、漸く泣き所が見えてきた」
 そう言って、ハッタリをかましてみせた。あまりウソやフェイントなどは得意としないが、ケリュラと過ごしている間に少しは鍛えられた。

 果たして真偽はどちらかとシャフィクが眉をひそめる。
 完全に道が見えないこともなく、固い守りが逆に弱点となっている。後はそのタイミング次第というわけだ。
「では、その手立てとやら見せてもらおう! この大盾を越えられるかどうか、楽しいではないか!」
「いざ尋常に!」
 追いかけっこを止めて向き合うと、互いに息を合わせて駆け出す。シャフィクも歴戦にして硬派な武人であり、パスク達に似た戦闘好きであるようだ。

 フィルツェ砦への突撃を推奨しただけはある。退いて欲しいとは思いつつも、それを可能とするのは力での勝利。
「頭!」
「甘い!」
「チッ!」
 リナルドが狙いすました鋭い一撃を繰り出すも、頭部への大盾によるカバーば最も早かった。舌打ちこそするも、当然ながら突き通せないことぐらいはわかっていた。

 擦れ違った直ぐに、リナルドは馬の背から離れて飛び上がる。バック転宙返りを決めシャフィクの頭上へ。
「どこェッ!?」
 驚くのも無理はない。自らの防御で視界がふさがったことで敵を見しなたのだ。
 さらに頭上からの強襲により、シャフィクは完全に混乱してしまった。それでも歴戦の勇士だ。

 背面に構えた細剣の一閃はシャフィクの頬を抉るも、なんとか意図的に致命傷は避けている。
 ズルリとこらえ切れずに落馬したところで負傷はしておらず、着地したリナルドから距離を取って体勢を立て直す。その隙を与えないようシャフィクへと肉薄する。
「ッ!」
 後一歩で細剣が届くといったところで、横槍が入ったことによりリナルドは身を引いた。
 避けていなければ、地面に突き刺さった銃弾はその身を抉っていただろう。

「グルダ卿! 助太刀に参りました!」
「おぉ、助かったぞ! ヤクーバ卿!」
 シャフィクを助けにきたのは、ヤクーバ=ペル=ケームというペル家所縁の人物だ。
「ヤクーバ=ペル=ケームともあろう方が、まだあのような男に仕えていらっしゃるのか」
 リナルドらしくもなく、馬上の男を睨みつけて揶揄した。

 直接の関係こそないものの、その武勇に関しては父親の代から聞き及んでいた。女性の男爵位バロネスであるユリア=カヴァレーロの父ケーン=カヴァレーロに並ぶ国防の要である。
 シャフィクからの呼ばれ方を考えるに、家督は子息にでも渡して隠居の予定が潰えたパターンだろう。
 ケーンと同レベルの勇将が、未だに肉袋王に与していることがどうも信じられない。
「済まないな。先のイータット国王との約束でな」
 ヤクーバの答えに、そういうことかとリナルドは納得した。

 今でこそアレーサンドロ王は暗君ではあるものの、先代はパスクにも負けず劣らずの御仁だった。確かに侵略や冒涜を繰り返してこそいたが、人柄は比べようもなかっただろう。
 もしその時の忠義が残っていなければ、他国に新国を築いて独立などしなかったはず。
「確かに。今、命あるのはかのアドリアン陛下あってのこと。今回は、貴方と前王に免じて預けるとしましょう」
「かたじけない」
 リナルドが剣を引いたため、ヤクーバは一礼するとシャフィクを連れて陣地へと戻っていった。

 他の敵兵達も、この一戦では負けを認め次第に退いていった。
「さて、仕切り直しか」
 程々に敵軍が退却するのを待つ間、パスクがリナルドの側に寄ってきた。
「勝手に逃して申し訳ありません」
 一応は、戦果を逃したことを謝罪する。気にする性格ではないだろうし、ヤクーバをわざと手助けに入れさせた節さえあった。

「ま、あの豪傑っぷりだと死ぬまで戦い続けただろうしな」
 シャフィクの性格を読んで、時間をかけることなく敵兵を押し返し、さらには士気の向上に利用したのだ。
 先頭に立って敵軍へ突っ込んで行くと思われがちだが、パスクも天を知り人心を掴んでいる。マキシに負けず劣らずの智将には違いない。
 サシの戦いの方が好きなのは違いないが。
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