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34P・剣対銃
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「それが、卿の覚悟なのだな?」
体力こそ万全でないにせよ、そう問うことができるほどには回復した。
それがどういう意味の言葉なのか、その場の誰もが理解していた。
「えぇ」
ユリアはオサゲのテールを垂らし、短く肯定した。
「私は生まれてこの方、イータットでしか武器を握ったことがありません。父が迷った道を、貫くのも1つの道でしょう」
銃口をリナルドに向けて、鉄壁の女は決意を表明した。眼鏡の向こうに宿る光は本物だ。
「……」
リナルドは、ただただそれを受け止めるしかなかった。単に付き従う相手が違ったというわけではなく、単にどちらも不器用なほどに素直だっただけだ。
呆れるほどに。
「フッ」
小さく、鼻で笑う声がした。
嘲笑というほどのものではなかったにせよ、少なくとも2人の会話に笑いを堪えられなかったのは確かだ。
「ッ!」
その僅かな息漏れにより、ケリュラは存在を気取られた。
もはや隠れ潜んでいる意味もなくなり、ユリアに向けて偽焔刀を振り下ろす。振り向き際、咄嗟にケリュラの腕を掴み、さらに手甲で防ぐ。
助走の勢いを殺されたことで、軽いめの体は横へとそらされる。
ユリアは、ケリュラの姿が見えずとも大体の位置を把握して発砲。
「やはりもう1人潜んでいましたね……」
手応えがないため、後退しながらも次の強襲に備える。が、それこそケリュラの狙いだった。
「リナルド、ここは私が抑える。さっさと脱出して、軍を指揮してこい!」
まさか、守られるべきはずの王妃から告げられた言葉。
命令ならば従うしかないのだが、交戦している状態であれば話は別だ。怪我だけならば多少の処罰で済むにしても、死のうものなら同じく命を断たなければならないだろう。
「しかし、放っては……!」
当然食い下がった。
「安心せんか。こんなもん、パスクとやりあうまでの準備運動さなぁ」
「言ってくれますね! 物陰から出てきてから言ってはどうですか?」
まだリナルドとの話がついていないうちに挑発までして、本気だ。どちらにせよ、ここにいて短剣一本で何ができるわけでもない。
こうなったのでは脱出しないと、ケリュラの犠牲に報いることもできない。せめてパスクと戦えない程度の負傷が望ましい、などとは考えてはいない。多分
「勝手に負けにしないで欲しいんだが……」
考えを読まれたか、階段脇から抗議の声が飛んできた。
さておき、もはや迷っている暇はなくリナルドは鍵を手に格子へと近づいた。銃撃で邪魔されないように、ケリュラが飛び出しユリアに肉薄する。
「クッ!」
一瞬だけ上階から差し込む明かりに姿が映り、それだけでなんとか狙いを定めるユリア。当然、一発外して接近を許した。
その間に解錠して、まだふらつく足で階段を駆け上がっていく。ユリアが偽焔刀の一閃目を回避して、間合いをとったのが見えた。
ここから先は、奔放なる姫ケリュラと女リナルドことユリアの喧嘩である。
「うるさいのがいなくなったし、存分に女同士で愚痴をぶつけ合おう」
「逃しはしませんが、オロッソ卿の苦労には同情します」
奔放さを理解したのか、敵にさえ気遣われてしまった。
「まだ聞こえてますよ!」
「あぁぁ! 良いからはよ行け!」
完全には逃げ切っていなかったリナルドが文句を言いに来た。当然、追い払われた。
怒鳴りながらもケリュラは偽焔刀をユリアに投げつけ、怯んだ隙に低姿勢で駆け込み片手で側転。
「クッ!」
「銃の弱点はわかってんじゃよ!」
まだ体勢を整えていないところを肉迫し、蹴りからの壁を跳躍して縦割りの斬撃を繰り出した。ドロップキックでよろけたユリアにそれを回避する時間などなく、片腕という代償を支払う。
「がぁぁぁぁぁッ!! 腕がぁ!」
冷静さなど失った悲鳴を発した。
吹き上がった血しぶきがケリュラの顔を化粧して、蛮帝の娘に生まれた少女が久しく怪物の顔になった。
ストロベリーピンクの舌が赤を舐め取る。
「銃など、的を小さくしてしまえばそうそう当たるものではないだろう」
接近戦ならナイフの方が強いとばかりに、ユリアへと顔を近づけた。
その見開かれた瞳に映るのは、グラスのヒビに彩られた歪な獣の姿だった。
「ヒッ! た、た……たすけ、てッ! あぶッ」
恐れおののき、怯え、ユリアは腕の痛みさえ忘れて逃げ出そうとした。行き場のない地下の奥へと、歩み寄ってくる少女に追い立てられて。
片腕しかないことを思い出せずして、這うように足掻くものだからバランスを崩して血溜まりへ突っ伏す。
それでも逃れられず、ユリアは運良く取り落としていなかった鉄砲をケリュラに向けた。
がむしゃらに引き金を引く。
銃声は響き、訛の円錐とともに狭い牢の外への開放されて跳弾していくも、なぜか狙い通りのルートを通らない。
ボトッ、ゴロン。
「へ?」
少し遅れて銃声以外の音が聞こえ、ユリアは何が転がったのかを見やった。
それは、残っていたはずのもう一本の腕だった。
「なん、で……?」
「なんでって、それはお前らが良くわかっているじゃろうに。私らをなんだと思っていたのやら」
ユリアの涙まじりの問いに、ケリュラはおかしなことをとはぐらかした。
イータットの民が常日頃から呼称している通り、そこにいるのは蛮族であった。
体力こそ万全でないにせよ、そう問うことができるほどには回復した。
それがどういう意味の言葉なのか、その場の誰もが理解していた。
「えぇ」
ユリアはオサゲのテールを垂らし、短く肯定した。
「私は生まれてこの方、イータットでしか武器を握ったことがありません。父が迷った道を、貫くのも1つの道でしょう」
銃口をリナルドに向けて、鉄壁の女は決意を表明した。眼鏡の向こうに宿る光は本物だ。
「……」
リナルドは、ただただそれを受け止めるしかなかった。単に付き従う相手が違ったというわけではなく、単にどちらも不器用なほどに素直だっただけだ。
呆れるほどに。
「フッ」
小さく、鼻で笑う声がした。
嘲笑というほどのものではなかったにせよ、少なくとも2人の会話に笑いを堪えられなかったのは確かだ。
「ッ!」
その僅かな息漏れにより、ケリュラは存在を気取られた。
もはや隠れ潜んでいる意味もなくなり、ユリアに向けて偽焔刀を振り下ろす。振り向き際、咄嗟にケリュラの腕を掴み、さらに手甲で防ぐ。
助走の勢いを殺されたことで、軽いめの体は横へとそらされる。
ユリアは、ケリュラの姿が見えずとも大体の位置を把握して発砲。
「やはりもう1人潜んでいましたね……」
手応えがないため、後退しながらも次の強襲に備える。が、それこそケリュラの狙いだった。
「リナルド、ここは私が抑える。さっさと脱出して、軍を指揮してこい!」
まさか、守られるべきはずの王妃から告げられた言葉。
命令ならば従うしかないのだが、交戦している状態であれば話は別だ。怪我だけならば多少の処罰で済むにしても、死のうものなら同じく命を断たなければならないだろう。
「しかし、放っては……!」
当然食い下がった。
「安心せんか。こんなもん、パスクとやりあうまでの準備運動さなぁ」
「言ってくれますね! 物陰から出てきてから言ってはどうですか?」
まだリナルドとの話がついていないうちに挑発までして、本気だ。どちらにせよ、ここにいて短剣一本で何ができるわけでもない。
こうなったのでは脱出しないと、ケリュラの犠牲に報いることもできない。せめてパスクと戦えない程度の負傷が望ましい、などとは考えてはいない。多分
「勝手に負けにしないで欲しいんだが……」
考えを読まれたか、階段脇から抗議の声が飛んできた。
さておき、もはや迷っている暇はなくリナルドは鍵を手に格子へと近づいた。銃撃で邪魔されないように、ケリュラが飛び出しユリアに肉薄する。
「クッ!」
一瞬だけ上階から差し込む明かりに姿が映り、それだけでなんとか狙いを定めるユリア。当然、一発外して接近を許した。
その間に解錠して、まだふらつく足で階段を駆け上がっていく。ユリアが偽焔刀の一閃目を回避して、間合いをとったのが見えた。
ここから先は、奔放なる姫ケリュラと女リナルドことユリアの喧嘩である。
「うるさいのがいなくなったし、存分に女同士で愚痴をぶつけ合おう」
「逃しはしませんが、オロッソ卿の苦労には同情します」
奔放さを理解したのか、敵にさえ気遣われてしまった。
「まだ聞こえてますよ!」
「あぁぁ! 良いからはよ行け!」
完全には逃げ切っていなかったリナルドが文句を言いに来た。当然、追い払われた。
怒鳴りながらもケリュラは偽焔刀をユリアに投げつけ、怯んだ隙に低姿勢で駆け込み片手で側転。
「クッ!」
「銃の弱点はわかってんじゃよ!」
まだ体勢を整えていないところを肉迫し、蹴りからの壁を跳躍して縦割りの斬撃を繰り出した。ドロップキックでよろけたユリアにそれを回避する時間などなく、片腕という代償を支払う。
「がぁぁぁぁぁッ!! 腕がぁ!」
冷静さなど失った悲鳴を発した。
吹き上がった血しぶきがケリュラの顔を化粧して、蛮帝の娘に生まれた少女が久しく怪物の顔になった。
ストロベリーピンクの舌が赤を舐め取る。
「銃など、的を小さくしてしまえばそうそう当たるものではないだろう」
接近戦ならナイフの方が強いとばかりに、ユリアへと顔を近づけた。
その見開かれた瞳に映るのは、グラスのヒビに彩られた歪な獣の姿だった。
「ヒッ! た、た……たすけ、てッ! あぶッ」
恐れおののき、怯え、ユリアは腕の痛みさえ忘れて逃げ出そうとした。行き場のない地下の奥へと、歩み寄ってくる少女に追い立てられて。
片腕しかないことを思い出せずして、這うように足掻くものだからバランスを崩して血溜まりへ突っ伏す。
それでも逃れられず、ユリアは運良く取り落としていなかった鉄砲をケリュラに向けた。
がむしゃらに引き金を引く。
銃声は響き、訛の円錐とともに狭い牢の外への開放されて跳弾していくも、なぜか狙い通りのルートを通らない。
ボトッ、ゴロン。
「へ?」
少し遅れて銃声以外の音が聞こえ、ユリアは何が転がったのかを見やった。
それは、残っていたはずのもう一本の腕だった。
「なん、で……?」
「なんでって、それはお前らが良くわかっているじゃろうに。私らをなんだと思っていたのやら」
ユリアの涙まじりの問いに、ケリュラはおかしなことをとはぐらかした。
イータットの民が常日頃から呼称している通り、そこにいるのは蛮族であった。
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