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8P・叶わぬ白夢
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パスクの視線に追従してリナルドも白煙を見つけるが、明かりなどが見えないのは不自然だと考えた。
「炊煙などではなさそうですね。見てきますので、ここでお待ち下さい」
言い含めてから周囲を確認して、馬を走らせて岩山へと向かった。
岩場の近くから馬を降り、ケリュラほどではないにせよスイスイと素手で登っていった。
「なるほど」
登りきって、そこにあったものを見て納得する。
「何が見えたんだ?」
登頂の間にパスクが近づいていて声を掛けてきた。待っているように言ったというのにである。臭いこそ腐った卵のようだが、言うほど異常なものでなく良かったと安堵の息を吐く。
「湯です。温泉が湧いています」
「そいつは良い! よし、入るぞ!」
「は? え、あの、では熱さを確かめます!」
唐突にそんなことを言うものだから、リナルドは静止を掛けることもできず応えていた。
グローブを脱いで温度を確かめると、大体の分布がわかってくる。お湯が湧いているであろう中央付近の石柱から離れれば、人が浸かれるだけの温度になっている。
それを確かめるよりも早く、なぜかパスクは鎧や服を脱ぎはなっていた。リナルドは驚きながらも、ジッとパスクの姿を見据える。
「ブフッ!? へ、陛下!?」
「一番槍は貰ったぜ!」
言いながら、中央の円錐にも負けない一本槍を隠すことなくお湯に入った。
「……」
少し白い温泉にパスクの下半身が消えるまで、リナルドは見張るように見つめていた。
安全のためと言えば誤魔化せるだろうが、そのたくましい肉体や柱から目を離せずにいたのだ。そのような浅ましい自分を恥じ、リナルドは赤くなった顔を背けて周囲の見張りを始める。
あの立派なもので貫かれたら……。
「ハッ。いけない。なんてことを……」
馬鹿げた妄想に浸りそうになって、リナルドは自制してなんとか耐え忍ぶ。
「あ? どうした?」
近衛兵のおかしな様子を気にしたのか、パスクが聞いてくる。
「い、いえ……なんでもございません」
「そうか。なら、さっさとお前も入れ」
「は? あ、いえ、私の任務ですのでッ」
ことごとく、予想外のセリフに驚かされてしまうリナルド。素敵な提案過ぎて、嬉しさのあまり思わず言葉を失いそうになった。酷く間抜けな面を敬愛する陛下に見せてはならないと、直ぐに表情を切り替えた。
しかしパスクも、友との語らいの時間を取れる機会を見す見す逃したくないのか、ちょっとばかり無理やりな手段を講じてくる。
「あー、そいつは残念だ。いい湯なのにな~」
チラチラとリナルドの方を見てながら言った。背中に視線が突き刺さるのを我慢しつつ、パスクから目を逸らすのであった。
「こうなったら命令しちゃおっかな~。勅令って通用するのか?」
「……くっ。わかりました! わかりましたから、無駄に大仰なことをするのは止めてください!」
くだらないことで勅令を出したのでは、リナルドも如何に報告すれば良いのか迷ってしまう。仕方なく一緒に入ることにした。
サーコートと鎧を脱いだ。普段であれば簡単に折りたたむ程度だが、アンダーコートやズボンも必要以上に綺麗に折りたたんで準備を終える。
その間、可能な限り体を隠すため湯の湧く円錐に寄り、身をかがませていた。
その様子を見てパスクが笑う。
「おいおい、遅いぞ。それじゃ俺が先にのぼせちまう」
「申し訳ありません……。他に誰かが使うかもしれませんから、あまりみっともなくできませんので」
もしかしたら利用者が来るかもと、言い訳をして温泉に向かった。ただただ、パスクのその立派な肉体に近づくのが恐ろしかった。自分が保てなくなるような恐怖。
このまま迫って、自ら体を差し出して懇願してしまうのではないか。
「なぁに遠慮してんだ。もっとこっちに来て、腹を割って話をしようぜ」
リナルドが遠慮したところで、パスクの方から接近してくるのでたまらない。だからといって押しのけられるわけでもなく。
「蜂蜜酒でもあればよかったんだがなぁ。ほら、星も綺麗だし、まるで俺達を祝福しているみたいじゃないか?」
「そ、そう……」
普段ならば「何を臭いセリフを」などとあしらうのだが、今の状況では厳しかった。視線を逸して思考を無にするので精一杯だ。
「流石に臭すぎたか。ハハハハッ」
ろくな反応がないのを、リナルドが不機嫌なのだと思ったのか、パスクは困ったように頬を掻いた。
何も言い返せないまま少しの時間が過ぎたころ、ふと気づくことがあった。
「騒がしいな」
「はい」
どちらが先だったかは良くわからないが、来た方向とは反対側に岸壁を下った先から物音がすることに気づいた。それなりに遠くからだが、複数の声だとわかるほどに剣呑だ。
まずリナルドが温泉を出て、岩肌の端に向かう。星が綺麗に瞬くだけの暗闇に目を凝らすと、小さな焚き火らしき明かりが見えた。
なんとか何が起こっているのか分かる程度だが、商隊が何者かに襲われていると言った様子だ。
「野盗のようですね」
パスクに状況を伝えた。
どちらの方が早かったか、ほとんど同時のタイミングだったように思える。パスクは温泉を出ると、ズボンだけを履いて岩肌から飛び降りた。
「陛下ッ!?」
リナルドが制止する暇さえなく、鞍へと上手く乗ると馬止めの棒に使っていた槍を引き抜いて走り去ってしまった。
「炊煙などではなさそうですね。見てきますので、ここでお待ち下さい」
言い含めてから周囲を確認して、馬を走らせて岩山へと向かった。
岩場の近くから馬を降り、ケリュラほどではないにせよスイスイと素手で登っていった。
「なるほど」
登りきって、そこにあったものを見て納得する。
「何が見えたんだ?」
登頂の間にパスクが近づいていて声を掛けてきた。待っているように言ったというのにである。臭いこそ腐った卵のようだが、言うほど異常なものでなく良かったと安堵の息を吐く。
「湯です。温泉が湧いています」
「そいつは良い! よし、入るぞ!」
「は? え、あの、では熱さを確かめます!」
唐突にそんなことを言うものだから、リナルドは静止を掛けることもできず応えていた。
グローブを脱いで温度を確かめると、大体の分布がわかってくる。お湯が湧いているであろう中央付近の石柱から離れれば、人が浸かれるだけの温度になっている。
それを確かめるよりも早く、なぜかパスクは鎧や服を脱ぎはなっていた。リナルドは驚きながらも、ジッとパスクの姿を見据える。
「ブフッ!? へ、陛下!?」
「一番槍は貰ったぜ!」
言いながら、中央の円錐にも負けない一本槍を隠すことなくお湯に入った。
「……」
少し白い温泉にパスクの下半身が消えるまで、リナルドは見張るように見つめていた。
安全のためと言えば誤魔化せるだろうが、そのたくましい肉体や柱から目を離せずにいたのだ。そのような浅ましい自分を恥じ、リナルドは赤くなった顔を背けて周囲の見張りを始める。
あの立派なもので貫かれたら……。
「ハッ。いけない。なんてことを……」
馬鹿げた妄想に浸りそうになって、リナルドは自制してなんとか耐え忍ぶ。
「あ? どうした?」
近衛兵のおかしな様子を気にしたのか、パスクが聞いてくる。
「い、いえ……なんでもございません」
「そうか。なら、さっさとお前も入れ」
「は? あ、いえ、私の任務ですのでッ」
ことごとく、予想外のセリフに驚かされてしまうリナルド。素敵な提案過ぎて、嬉しさのあまり思わず言葉を失いそうになった。酷く間抜けな面を敬愛する陛下に見せてはならないと、直ぐに表情を切り替えた。
しかしパスクも、友との語らいの時間を取れる機会を見す見す逃したくないのか、ちょっとばかり無理やりな手段を講じてくる。
「あー、そいつは残念だ。いい湯なのにな~」
チラチラとリナルドの方を見てながら言った。背中に視線が突き刺さるのを我慢しつつ、パスクから目を逸らすのであった。
「こうなったら命令しちゃおっかな~。勅令って通用するのか?」
「……くっ。わかりました! わかりましたから、無駄に大仰なことをするのは止めてください!」
くだらないことで勅令を出したのでは、リナルドも如何に報告すれば良いのか迷ってしまう。仕方なく一緒に入ることにした。
サーコートと鎧を脱いだ。普段であれば簡単に折りたたむ程度だが、アンダーコートやズボンも必要以上に綺麗に折りたたんで準備を終える。
その間、可能な限り体を隠すため湯の湧く円錐に寄り、身をかがませていた。
その様子を見てパスクが笑う。
「おいおい、遅いぞ。それじゃ俺が先にのぼせちまう」
「申し訳ありません……。他に誰かが使うかもしれませんから、あまりみっともなくできませんので」
もしかしたら利用者が来るかもと、言い訳をして温泉に向かった。ただただ、パスクのその立派な肉体に近づくのが恐ろしかった。自分が保てなくなるような恐怖。
このまま迫って、自ら体を差し出して懇願してしまうのではないか。
「なぁに遠慮してんだ。もっとこっちに来て、腹を割って話をしようぜ」
リナルドが遠慮したところで、パスクの方から接近してくるのでたまらない。だからといって押しのけられるわけでもなく。
「蜂蜜酒でもあればよかったんだがなぁ。ほら、星も綺麗だし、まるで俺達を祝福しているみたいじゃないか?」
「そ、そう……」
普段ならば「何を臭いセリフを」などとあしらうのだが、今の状況では厳しかった。視線を逸して思考を無にするので精一杯だ。
「流石に臭すぎたか。ハハハハッ」
ろくな反応がないのを、リナルドが不機嫌なのだと思ったのか、パスクは困ったように頬を掻いた。
何も言い返せないまま少しの時間が過ぎたころ、ふと気づくことがあった。
「騒がしいな」
「はい」
どちらが先だったかは良くわからないが、来た方向とは反対側に岸壁を下った先から物音がすることに気づいた。それなりに遠くからだが、複数の声だとわかるほどに剣呑だ。
まずリナルドが温泉を出て、岩肌の端に向かう。星が綺麗に瞬くだけの暗闇に目を凝らすと、小さな焚き火らしき明かりが見えた。
なんとか何が起こっているのか分かる程度だが、商隊が何者かに襲われていると言った様子だ。
「野盗のようですね」
パスクに状況を伝えた。
どちらの方が早かったか、ほとんど同時のタイミングだったように思える。パスクは温泉を出ると、ズボンだけを履いて岩肌から飛び降りた。
「陛下ッ!?」
リナルドが制止する暇さえなく、鞍へと上手く乗ると馬止めの棒に使っていた槍を引き抜いて走り去ってしまった。
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