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4P・友達以上の

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 リナルドが再び城に戻ってこれたのは、日も暮れ始めた頃だった。何か余計なことをしていたというわけでもないが、本を2冊読むのに数時間を要したというだけのこと。
 風刺の利いた滑稽本に、ケリュラを主役にした宮廷ラブロマンスと、どれも濃い内容のものだった。まぁ、事実を知れば後者の方が冗談のようではある。
 そのお姫様は部屋に潜ってしまっているのか、正面から入ったときには出会わなかった。
「おう、帰ったか。休暇は楽しかったか?」
 正面入り口を潜った直ぐに、食堂へ向かおうとしていたパスクと鉢合わせした。

「は、はい! ありがとうございます!」
 急に話しかけられたリナルドは、直立不動になってお礼を言うと頭を下げた。公的な場でもなければ別にそこまでかしこまる必要はないのだが、今朝や自作のことを思えば意図せず緊張してしまう。腕を後ろに回して背中の鞄を
 パスクは近衛騎士の妙な反応など気にした様子もなく、頻繁にある様子で誘いの言葉を掛けてくる。
「そうか。そりゃ良かった。とりあえず、飯に行こうぜ」
「あ、いえ、それならば汗を流して着替えを済ませなければッ。構わず先に向かってください」
 リナルドは場のことを考えて断りを入れた。

 清潔感よりも、近衛騎士隊長が国王陛下と同席している中で私服というのでは示しがつかないというものだ。それについてはパスクも汲んでくれたらしい。
「1時間もかからないだろ。待っていてやるよ」
「しかし……」
「ほら、急いできな!」
 宿泊棟への道、王座の間を開いて無理やり促してきたパスク。夕食の時間はある程度決まっているため身だしなみを整えてきても大丈夫だろう。

 これ以上は断っても失礼に当たると、真面目なリナルドは考え大人しく誘われることにした。一礼して急ぎ足に自室へと戻った。
 城内に数名しかいない召使いに湯を持ってきてもらうよう頼み、軽く手ぬぐいで汗を流した後に近衛騎士の装備を身につける。基本は個々の好みに合わせた鎧で構わないが、リナルドは細剣レイピアと盾を併用するスタイルなので鉄片を衣服に縫い付けたスプリントメイルだ。
 その上に刺繍のあるサーコートかマントをまとう。リナルドならばサーコートで動きを阻害しないようにして、腰に陛下から賜った武器を携えれば完成だ。鞄ごと本を寝台の下に押し込む。
 部屋を出て階段を降りていくと、頬杖をついてオールバックの赤髪を向けたパスクがいた。

「お待たせしました」
「おう、来たかッ」
 リナルドが声を掛けると王座から立ち上がり、さっさと歩いて行ってしまった。それを追って、ピッタリと後ろに付く。
 夕食自体はつつがなく終了して、2人は寝室へと向かっていた。
「今日の飯もだが、少し量が減ってなかったか? 税をもっと取った方が良いのかねぇ?」
 そう言いながらも腹太鼓を叩いて見せるのは、少しでも満腹になった気持ちになろうとしてのことだろう。

「えー……マキシ殿の報告を聞く限りでは、周辺の村々からの徴収も捗ってはいないようです」
 報告の上申はパスクもいる時に行われているはずだが、ほとんど聞いていないのだろうと予想してリナルドは改めて説明した。
「そうか。しかし、これ以上の税は掛けられないだろ?」
「蛮帝時代よりも緩い徴収ということで、民心を得ているところもありますので」
「だよな」
 それでも決して無関心などではない言葉だからこそパスクアーレという男に、側近という以上に敬愛する人物としてついていこうと思うのだ。しかし、王の寝室がある階段を上ったところで立ち止まらなければならない。

 何か用事や呼び出しがあれば入ることも叶うので、リナルド個人が一線を守るためにしいている決め事だ。
 ただ、それ以上に必要な仕事ができてしまったのである。
 明かりの灯っていない廊下に、パスクと一緒になって立ち止まった。戦王と呼ばれる男なだけあって、闇から漂う気配には気づいているらしい。
「全く、なんだってんだ?」
「何をしているのです?」
 開かれた窓に向けて2人が声を掛けた。月明かりはなく微かに外からガス燈の光が見えるだけで、見る者が見ればただガラス戸が風に揺らいでいるだけに思える。

 しばし間を置いて、小さな影が窓枠から通路へと飛び降りた。ように見えた。
 そこからゆっくりと人の形がはっきりとして、続いて両手に持った鈍く光る凶刃が姿を表す。
「王妃、刃物など持って待っていては賊と間違われますよ……」
 そうは言っても、リナルドさえ剣に手を伸ばしていなかった。
 目星をつけられていたことに、ケリュラはつまらなさそうな顔をして、深い切れ目の入った腰布をつまみ上げながら一礼する。一応は非礼を詫びているつもりなのだろう。

「まぁ、なんだ。あのような物を読んだのでは心身が昂ぶって仕方がない」
 なんのことを言っているのか、リナルドもパスクも予想がついた。2人が顔を見合わせたのはなんとなくだったが、王は本を手渡したことを誤魔化そうと視線を反らした。
 それについて指摘すればリナルドの正体が知られてしまう。ゆえに例えパスクに非があるとしても、凶刃から守らねばならないのが近衛騎士の努めである。そうでなくとも守護することは決定していて使命だと感じているため、リナルドはケリュラとの間に進み出た。
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