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4篇目タイトル【蘇生の回廊】
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なんてことないタイミングで教えてくるのも雰囲気づくりのためだろう。本棚の古書もそのために用意したのか。
「もう女子の方にも伝えてあるから」
旅行のプログラムを次から次へと勝手に決めていく康一。しかし、二日目からは中だるみを起こすはずだ。
ちょうどそのあたりで、隣の女子二人が顔を出したようである。
「あぁ、こっちにも教えておいた。まぁ、後10分くらいだけど休んでな」
それだけ言い残すと行雄は自分の部屋へと戻って行った。
見送って、淳平と真吾は部屋から出る。
「お二人とも屋内の探検ですか?」
「うん。岸さんも?」
「大して見るものもなさそうだけどね」
奈々に聞かれて二人とも自然と視線を逆時計回り側に向けて答えた。すぐに順回り側へと顔が向く。
「はい。部屋は居づらいと言いますか」
奈々も淳平の問いに首肯し、扉が閉まるのを見届けてから少し言いにくそうに追述する。
「そ、そう」
千春がいないことを残念に思う。それでも、文学を静かに嗜むような性格の奈々にだって思うところがあるのだと考え諦めた。
「おぉ?」
考えを巡らせていると、先へ進んで行ってしまっていた真吾が急に声を上げた。
「どうしたのさ?」
何事かと向かってみれば、なんてことはない。
「こんなところになんか短剣が飾ってあってさ」
真吾の言う通り、壁に絵画のような枠を掲げ、その真中に短剣をはめ込んである。オタク心には興味の惹かれる一品だが、ただの別荘に飾ってあるものとしては異質だった。
「ちょっと真吾」
「大丈夫だって」
それでも抑えきれない好奇心が、他よりまだましな装飾品に手を伸ばさせた。真吾ははめ込まれた短剣を取り外そうとする。しかし、これも何らかの方法で固定されているのか指でつまみ引っ張った程度でははずれない。
「あらら、これもダメかぁ」
少し試して無理だと判断した真吾。
「これも古代エジプトで使われてた短剣を模倣してるみたいですね」
「へぇ、そんなこともわかるんですか」
奈々は本当に文化に詳しいらしく、聞かずとも説明してくれるので淳平も感心した。
諦めた真吾は、他にめぼしいものもない廊下をゆっくり次の角に向かって歩いて行く。
「この絵の装飾は犬の神様で、アヌビス。刀身に刻まれているのがホルスでしょう」
なぜか嬉しそうに語る奈々。その横顔を見つめながら淳平も進む。
「うわぁ……」
するとまたしても真吾の驚く声が響いた。
「もう女子の方にも伝えてあるから」
旅行のプログラムを次から次へと勝手に決めていく康一。しかし、二日目からは中だるみを起こすはずだ。
ちょうどそのあたりで、隣の女子二人が顔を出したようである。
「あぁ、こっちにも教えておいた。まぁ、後10分くらいだけど休んでな」
それだけ言い残すと行雄は自分の部屋へと戻って行った。
見送って、淳平と真吾は部屋から出る。
「お二人とも屋内の探検ですか?」
「うん。岸さんも?」
「大して見るものもなさそうだけどね」
奈々に聞かれて二人とも自然と視線を逆時計回り側に向けて答えた。すぐに順回り側へと顔が向く。
「はい。部屋は居づらいと言いますか」
奈々も淳平の問いに首肯し、扉が閉まるのを見届けてから少し言いにくそうに追述する。
「そ、そう」
千春がいないことを残念に思う。それでも、文学を静かに嗜むような性格の奈々にだって思うところがあるのだと考え諦めた。
「おぉ?」
考えを巡らせていると、先へ進んで行ってしまっていた真吾が急に声を上げた。
「どうしたのさ?」
何事かと向かってみれば、なんてことはない。
「こんなところになんか短剣が飾ってあってさ」
真吾の言う通り、壁に絵画のような枠を掲げ、その真中に短剣をはめ込んである。オタク心には興味の惹かれる一品だが、ただの別荘に飾ってあるものとしては異質だった。
「ちょっと真吾」
「大丈夫だって」
それでも抑えきれない好奇心が、他よりまだましな装飾品に手を伸ばさせた。真吾ははめ込まれた短剣を取り外そうとする。しかし、これも何らかの方法で固定されているのか指でつまみ引っ張った程度でははずれない。
「あらら、これもダメかぁ」
少し試して無理だと判断した真吾。
「これも古代エジプトで使われてた短剣を模倣してるみたいですね」
「へぇ、そんなこともわかるんですか」
奈々は本当に文化に詳しいらしく、聞かずとも説明してくれるので淳平も感心した。
諦めた真吾は、他にめぼしいものもない廊下をゆっくり次の角に向かって歩いて行く。
「この絵の装飾は犬の神様で、アヌビス。刀身に刻まれているのがホルスでしょう」
なぜか嬉しそうに語る奈々。その横顔を見つめながら淳平も進む。
「うわぁ……」
するとまたしても真吾の驚く声が響いた。
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