アルカポネとただの料理人

AAKI

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「良かった。ママに良い報告ができそうだ」

 オバニオン自身が喜んでいるので深く考えなくても良さそうだ。

「あぁ、なんというか、よろしく」

 エポナは今の気持ちをどう表せば良いのかわからず、ただ店内にいる他の人物を一瞥した。考えつくほどの頭は残っていないが――恥ずかしい愛の言葉を聞かれると思うと、当たり障りのない挨拶しが出てこなかった。

「また適当な時間を置いて連絡するよ」

「あぁ、わかった」

 身を隠しているという点を考慮して、居場所は聞くことなく次のアポイントを取った。

 受話器を置いてエポナは店を出ていく。その後を続くように親子も出てきて、エポナとは反対の方へと立ち去る。

 マンションの自室に戻ったエポナは程なく眠りに就く。

「また引っ越しか」

 意識が沈む前に出てきた言葉はその程度の悩みだった。果たして、次はどんな住処でどんな暮らしをするのだろうかと夢に見る。

 それからさらに数日が経過したというのに、オバニオンは未だに町を離れる様子がなかった。母親はすでに脱出しているようだが、従業員などのこともありやはり店一つをたたむのは簡単でなかったらしい。

 加えて、奇しくも如何ともし難い事情やトラブルが重なったのだ。

「運がなかったな……」

 昨日にあたる11月8日のニューヨーク・タイムズ紙を眺めながら、エポナは焦りを押し殺して呟いた。紙面ではこう伝えている。

『シカゴマフィアの基盤を築いた男マイケル・マイク死去!』

 大物の崩御により、さすがのオバニオンも元マフィアとして付き合わなければならなかった。葬儀への直接の参加はなかったものの、献花の注文に追われていたという。

 これが如何ともし難い事情の方。

 次にトラブルの件ではあるが、少し保留にして現状を見ていく。

「さて、そろそろ出さないと」

 エポナは出来上がった料理をトレイに乗せて、変わらない様子で提供しに厨房を出ていった。

 お店はいつものようにトーリオ一家の議場となっており、相変わらずの面々が出揃っている。さらにはジェンナ兄妹の姿もあることから、これからの動きが現実であることを教えてくれていた。

 そんな中から飛び出して、エポナに縋り付いてくる影がある。

「エポナァァァァァァアァァァー!」

「おぉっとっと……。アンジェラ? いったい……鼻水をつけないでくれ」

 エポナは悪質なタックルを受けるもなんとか踏みとどまり、料理を守護しながら腰にまとわりついてくるアンジェラを引き離そうとした。

「……?」

「何だ?」

「や、なんでも。グビュ……オバニオンの野郎、私のこと阿婆擦……ビュ、うぅぅ。ブスとか、色々言いやがったの!」

 いきなりだったため不可解な行動は無視することとして、どうやらオバニオンに侮辱されたことを怒っているようだ。

 真相としてはオバニオン自身が言ったわけではないが、他の兄達に暴言を吐いたのは正しい。というのも、貸したお金の取り立てをしようとして揉めたとのことである。

 賭博場で金の話を、人前でした上で「シチリアのガキどもが。命で支払うか」のようなことを発せば、ジェンナ兄妹が怒るのもしかたない。そういったトラブルのせいで町を出るのがさらにずれ込んだというわけである。

「それで、アルのヤツの復讐に乗っかろうって……」

 面倒事が増えたことにも呆れ、アンジェラの兄達とは違う怒りの方向性にも呆れ、エポナはため息をついた。

 これ以上話しても解決はしないため、アンジェラに料理のピザを引き渡して遠くに離れておく。

「まぁ良い。これを持っていってくれ」

「わぁい! エポナのピザ大好きー」

「つまみ食いはするなッ」

「ヒュヒュッ」

 料理を渡すだけで泣き止み、子供のように一切れを一足先に食べてしまうアンジェラ。エポナがメッと注意すれば、苦笑いを浮かべて逃げていった。

 さて、ここからはトーリオ一家とジェンナ兄妹の合同作戦をリアルタイムで実況していくとしよう。

「まずは、簡単にイェールの紹介からいくぞ」

 カポネが陣頭指揮を執る形で、懐かしい顔をジェンナ兄妹に紹介した。

「クカカカッ。まさか、アルに使われるようになるとは思わなかった」

 まずは、相変わらずのハイエナみたいな眼光を光らせて自身の境遇を笑った。

 次に簡単な自己紹介を済ませる。

「鉄砲玉のフランキー=イェールだ、よろしく」

「聞いての通り、計画は予定のまま俺達の主導で行う。飛び入りのガキどもには、まぁ運転とか手伝いぐらいはさせてやる」

 カポネが引き継ぎ説明した。威張ったような物言いだが、ジェンナ兄妹は以前からの小競り合いこそあっても参加は昨日の段階なので、文句も言えなかった。

 オバニオンが無様に撃たれるシーンに立ち会えるだけ良いというわけである。

「……」

 相変わらず長男ピーターは冷たい目でカポネを見つめていた。

「文句あるか?」

「あー、わかった。温情だけでも受け取っておくよ」

 カポネに凄まれ、四男トニーが率先して作戦を受け入れた。何を考えているかわからない三男ジェームズや末っ子アンジェラを除けば、文句こそ言いたいが同意しているといった様子である。

 いや、一人反対派が居た。
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