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「まったく、アルの奴は!」
一人呟きながらも店へと出勤して、床を踏み鳴らしながら奥へと進んで行った。選挙のやり口に対して、文句の一つでも言ってやらねばと思って突っかかろうとした。
もう鼻が覚えた葉巻とお酒の臭いで、カポネは逃げも隠れもできない。
が、そこにはフランクやフシェッティもいて踏みとどまってしまう。下手に突っついてエポナの正体を暴露されても困るのだ。
「よう、やっとこ出勤か。飯を頼む」
エポナの憤慨など知らぬといった様子で、カポネが注文をしてきた。
仕事の前から疲れて、深い溜息が漏れてしまう。
「ふぅぅ~……」
「おっと、要件はまとめたし俺達はこれで失礼するよ」
エポナが脱力している間に、フランクがフシェッティを連れて立ち去ろうとした。わかったと言っておきながら、わかっていない気遣いの仕方だ。
エポナが止める暇もなく、不機嫌そうなフシェッティを引っ張って出ていってしまう。
「お、おい……」
「で、どうした? 何か用事があるんだろ?」
「えっと、だからなぁ……!」
カポネに話を勝手に進められ、引き止めることもできず文句へ移ることとなった。
いや、ここで言いたいことを言えて伝えられたなら問題になど巻き込まれたりしないのだ。
「あのやり方は何だ? お前が誰を応援しようと勝手だがなッ」
「あー、選挙のことか」
何のことはないとばかりに、カポネはエポナの文句を受け流そうとした。
「あの程度のズルっこなんざ、どこのどいつもやってらぁ。なんなら、オバニオンのクソガキもだ」
「あ?」
なぜここでオバニオンを引き合いに出すのかはわからないが、そんなのらりくらりとしたカポネの態度がエポナは気に入らなかった。なんだかんだで、オバニオンの肩を持っているところがあったのだろう。
そのため、エポナは話題をやや脱線してしまう。
「まだ人への気遣いができるだけ、アル、お前よりマシだ。特に女性へのなッ」
思わず声を荒げてしまった。
しかし、一つ失敗があった。自分が女であることを隠すため、遠回りに表現したのが悪かったのだろう。
「なんだと? あいつの方が良いってぇのか?」
オバニオンに優しく対応されているのは違いないが、なびいているかのように取ってしまったらしく、カポネの琴線に触れてしまった。
ここで否定しておけばよかったものを、売り言葉に買い言葉。誰が先に売り買いしたかもわからないケンカを叩き返す。
「フンッ、こんなことを続けていると本当に飯を作ってやらんぞ」
「グッ……まぁ良い! さっさと仕事をしろ!」
さすがのカポネもこの殺し文句には言い返しづらいのか、適当に話を切り上げて店を出ていってしまった。
トーリオに代わって、民主党の選挙活動を妨害する作業の監督をしなければならないのだ。もしかしたら、なんだかんだで心傷んでいてエポナの料理が活力になっていたのではないか、そう考えると少し申し訳無さが沸いてくる。
それでも直ぐに、今度ばかりは許さないと決めて頭を振って同情を払うのだ。
しばらくは二人の間がギスギスしたことは言うまでもない。そんな関係が顕著に現れたのは、選挙の終盤に起こった事件のことである。
――。
――――。
4月に入り、何日か続いた選挙日程も最後に差し掛かったある日。
「今日はやけに客が少ないよな」
「さぁ、な」
英国部下のセリフを、つっけんどんに流したエポナ。
理由は誰が見ても明白で、それ以上は皆が押し黙ってしまう。
「どうせ、選挙の妨害で道とかがふさがってるんだろ」
原因と要因をエポナが呟き、また周囲の空気を凍らせるのだった。人気が少ない店内にはそんな小さな声もそれなりに聞こえ、関係者一同もまた気まずくて視線を外した。
シカゴで行われている選挙を妨害するため、カポネ達が民主党支持派に検閲を仕掛けているのである。それ故に、ここ数日は人の往来が少なくなっている。
「……サイレン?」
騒ぎを起こして警察が駆けつけることなどこれまでにもあったが、今度の音は1つや2つではなかった。
店の側を通り過ぎていったことで一安心するも、残響の行き先から最寄りの投票所の方だとわかった。だからどうするというわけでもないが、そのときから既に覚悟のようなものができていたのだろう。
30分もする頃、やはりお店の前が騒がしくなってくるのがわかった。
直ぐに、扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「くそっ! 死なないでくれ、兄さん!」
「ど畜生どもが!」
カポネが悲痛な声を上げ、フシェッティが怒りを露わにしていた。パトカーとは違うサイレンの音も聞こえてくるあたり、ただ捕まって暴言をぶちまけて、に留まっていないといった様子だ。
これまでとは違う空気感に、野次馬根性の客を除いてほとんどが店内に留まっている。エポナも、流石に外へ出ていく勇気は持てなかった。
ドクドクと心臓が跳ねて全身は熱いのに、顔色は血の気を失っている。このような恐怖を抱いたのは、最近だといつだっただろう。こうも一分一秒が長く感じられたのは、確かコロシモが目の前で暗殺されたとき以来である。
と、いくつもの考えに整理をつけた。
一人呟きながらも店へと出勤して、床を踏み鳴らしながら奥へと進んで行った。選挙のやり口に対して、文句の一つでも言ってやらねばと思って突っかかろうとした。
もう鼻が覚えた葉巻とお酒の臭いで、カポネは逃げも隠れもできない。
が、そこにはフランクやフシェッティもいて踏みとどまってしまう。下手に突っついてエポナの正体を暴露されても困るのだ。
「よう、やっとこ出勤か。飯を頼む」
エポナの憤慨など知らぬといった様子で、カポネが注文をしてきた。
仕事の前から疲れて、深い溜息が漏れてしまう。
「ふぅぅ~……」
「おっと、要件はまとめたし俺達はこれで失礼するよ」
エポナが脱力している間に、フランクがフシェッティを連れて立ち去ろうとした。わかったと言っておきながら、わかっていない気遣いの仕方だ。
エポナが止める暇もなく、不機嫌そうなフシェッティを引っ張って出ていってしまう。
「お、おい……」
「で、どうした? 何か用事があるんだろ?」
「えっと、だからなぁ……!」
カポネに話を勝手に進められ、引き止めることもできず文句へ移ることとなった。
いや、ここで言いたいことを言えて伝えられたなら問題になど巻き込まれたりしないのだ。
「あのやり方は何だ? お前が誰を応援しようと勝手だがなッ」
「あー、選挙のことか」
何のことはないとばかりに、カポネはエポナの文句を受け流そうとした。
「あの程度のズルっこなんざ、どこのどいつもやってらぁ。なんなら、オバニオンのクソガキもだ」
「あ?」
なぜここでオバニオンを引き合いに出すのかはわからないが、そんなのらりくらりとしたカポネの態度がエポナは気に入らなかった。なんだかんだで、オバニオンの肩を持っているところがあったのだろう。
そのため、エポナは話題をやや脱線してしまう。
「まだ人への気遣いができるだけ、アル、お前よりマシだ。特に女性へのなッ」
思わず声を荒げてしまった。
しかし、一つ失敗があった。自分が女であることを隠すため、遠回りに表現したのが悪かったのだろう。
「なんだと? あいつの方が良いってぇのか?」
オバニオンに優しく対応されているのは違いないが、なびいているかのように取ってしまったらしく、カポネの琴線に触れてしまった。
ここで否定しておけばよかったものを、売り言葉に買い言葉。誰が先に売り買いしたかもわからないケンカを叩き返す。
「フンッ、こんなことを続けていると本当に飯を作ってやらんぞ」
「グッ……まぁ良い! さっさと仕事をしろ!」
さすがのカポネもこの殺し文句には言い返しづらいのか、適当に話を切り上げて店を出ていってしまった。
トーリオに代わって、民主党の選挙活動を妨害する作業の監督をしなければならないのだ。もしかしたら、なんだかんだで心傷んでいてエポナの料理が活力になっていたのではないか、そう考えると少し申し訳無さが沸いてくる。
それでも直ぐに、今度ばかりは許さないと決めて頭を振って同情を払うのだ。
しばらくは二人の間がギスギスしたことは言うまでもない。そんな関係が顕著に現れたのは、選挙の終盤に起こった事件のことである。
――。
――――。
4月に入り、何日か続いた選挙日程も最後に差し掛かったある日。
「今日はやけに客が少ないよな」
「さぁ、な」
英国部下のセリフを、つっけんどんに流したエポナ。
理由は誰が見ても明白で、それ以上は皆が押し黙ってしまう。
「どうせ、選挙の妨害で道とかがふさがってるんだろ」
原因と要因をエポナが呟き、また周囲の空気を凍らせるのだった。人気が少ない店内にはそんな小さな声もそれなりに聞こえ、関係者一同もまた気まずくて視線を外した。
シカゴで行われている選挙を妨害するため、カポネ達が民主党支持派に検閲を仕掛けているのである。それ故に、ここ数日は人の往来が少なくなっている。
「……サイレン?」
騒ぎを起こして警察が駆けつけることなどこれまでにもあったが、今度の音は1つや2つではなかった。
店の側を通り過ぎていったことで一安心するも、残響の行き先から最寄りの投票所の方だとわかった。だからどうするというわけでもないが、そのときから既に覚悟のようなものができていたのだろう。
30分もする頃、やはりお店の前が騒がしくなってくるのがわかった。
直ぐに、扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「くそっ! 死なないでくれ、兄さん!」
「ど畜生どもが!」
カポネが悲痛な声を上げ、フシェッティが怒りを露わにしていた。パトカーとは違うサイレンの音も聞こえてくるあたり、ただ捕まって暴言をぶちまけて、に留まっていないといった様子だ。
これまでとは違う空気感に、野次馬根性の客を除いてほとんどが店内に留まっている。エポナも、流石に外へ出ていく勇気は持てなかった。
ドクドクと心臓が跳ねて全身は熱いのに、顔色は血の気を失っている。このような恐怖を抱いたのは、最近だといつだっただろう。こうも一分一秒が長く感じられたのは、確かコロシモが目の前で暗殺されたとき以来である。
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