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Menue4-3
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「オブライエンさん、私はその、応援してるからね……!」
お店に戻ったエポナへかかったガウチョ妹からの第一声はそれであった。察しが良いにも関わらず、どうやらエポナの正体についてはまだ気づいていない様子だ。
流石にこのままでは不味いと思ったエポナは、誤魔化すための言葉を探す。
「そういう話じゃないんだ。えー、だから、ヘッドハンティングのお誘いだから」
エポナの思いついたそれは、最もらしい理由としては適当だったと思う。ガウチョ妹も、まさかと言いたげだがなんとな信じようとしてくれた。
ガウチョ妹は何故か残念そうである。
「え、あ、そう……」
「ところで、随分と人数が減っているようだが」「おい、今の話は本当かッ?」
追加で誤魔化そうと話題を変えたところで、いなくなっていたカポネの呼びかける声があった。
振り向けば、随分な剣幕で迫ってくる丸くなり始めた傷顔。オバニオンを怒らせずとも、こちらを怒らせることになる。
「あー……とりあえず断っといたから。片付け前に心労を溜めさせないでくれ」
自分に向けられている怒りではないのでなんとかなるが、とりあえず受け流そうとした。
「こちとら、ジェンナんとこのクソガキが来て腹に据えかねてるってぇのによ!」
上手い具合に話題が代わり――いや、問題自体は解決していなかった。
随分な憤りに、何があったのかとエポナはガウチョ妹に視線を向けて暗に問いかける。
「えっと、お嬢さん? が来て、オブライエンさんはいないことを伝えたら、残ってる料理を持っていっちゃったのよ……」
ガウチョ妹の返事に、エポナは苦笑を禁じ得なかった。こんなときにきていたこともだが、やることなすことがむちゃくちゃなのだ。カポネを怒らせることぐらいわかっているだろうに。
しかし、英国部下のスターゲイジーパイだけが取り残されているのには忍びなさを感じる。
「そういうことか。そっちの方は私がなんとかしておくよ」
あまり見てやるべきではないと判断して、パイから視線を外したエポナはアンジェラへの対応を引き受けた。手紙を送って、自重するように伝える程度だが。
そしてカポネの方も、話を戻してオバニオンへの抗議を決めたようである。
「トーリオの兄貴を通して、ノースサイドのガキに言うしかねぇな。ウチのに手ぇ出すなってよぉ」
プリプリと怒って立ち去ってしまうカポネ。嵐はとりあえず去り、クリスマスパーティーはつつがなく終わりを迎えたのだった。
それから約2ヶ月後のこと、オバニオンへの抗議がどうなったかは詳しくは知らないが、問題なく時間は過ぎた。あれからアプローチがなかったところを見ると、本当にその日を待っているのかそれともお叱りが利いたか。
どちらにせよ、心穏やかで平和な日々だったことは確かである。
「ふぅ、もう2月だっていうのに、いつも通りか」
それが良いことなのかはさておき、エポナは閉店の準備をしながらつぶやくのだった。
椅子を机に上げ、床の掃除を終えた。一通り確認の後、厨房の奥にある更衣室へと引っ込む。別に服を着替えるような予定はなく、コートを取りにいく程度のものだった。
しかし、そのときは盛況のあまり店じまいが明け方も近くなっており、そろそろ体力の限界に来ていた。明日が休みで本当によかったが、問題はそこではない。
「……うと、うと。ただいま……」
眠気のあまり、更衣室の扉を潜ったところで自分の部屋に帰ってきたと錯覚してしまったのだ。
ベッドに倒れ込むかわりに休憩用のソファーへと体を投げ出し、邪魔な服を脱ごうとして断念すると数秒とせず眠りに落ちる。1時間かそれぐらいで、感触の違いから現の世界へと戻ってきた意識。
何やら、誰もいない店内から物音がする。
「ん? まさか……」
最初エポナは、泥棒でも入り込んだのかと思った。お金ならばどうしようもないと、聞こえてくる足音に注意した。
しかし、その物音がはっきりとこちらへ近づいていることに気づく。
気づいたときには既に遅かった。
「誰か――」
「ッ!?」
視線の端にカポネの顔が映った瞬間、自分の格好を思い出してエポナは慌てた。
「ちょ、ちょっとまっ」
ボタンを指で弄りながら制止をかけようとするも、間に合わず扉は開いてしまった。
「――いないのか? あ?」
「あ……」
どことなくカポネに似ているが別人だとわかる男と視線があった。若干、男の見ている位置が下に向かっていた気もしなくはないが。とりあえず、もはやカポネが部屋に闖入してきたとき同様で、恥ずかしいとかいった感情は沸いてこないので問題ない。
そこで漸く、カポネにフランク=カポネという兄がいることを思い出す。従兄弟のフシェッティと共に、ニューヨークから応援に駆けつけるという話もである。
しかし、なぜこの店でエポナが顔を合わせなければならないのか。
「失礼」
「あぁ……」
固まっていても仕方ないことを思い出し、フランクとエポナは意思を交わしあった。扉が閉まった。
お店に戻ったエポナへかかったガウチョ妹からの第一声はそれであった。察しが良いにも関わらず、どうやらエポナの正体についてはまだ気づいていない様子だ。
流石にこのままでは不味いと思ったエポナは、誤魔化すための言葉を探す。
「そういう話じゃないんだ。えー、だから、ヘッドハンティングのお誘いだから」
エポナの思いついたそれは、最もらしい理由としては適当だったと思う。ガウチョ妹も、まさかと言いたげだがなんとな信じようとしてくれた。
ガウチョ妹は何故か残念そうである。
「え、あ、そう……」
「ところで、随分と人数が減っているようだが」「おい、今の話は本当かッ?」
追加で誤魔化そうと話題を変えたところで、いなくなっていたカポネの呼びかける声があった。
振り向けば、随分な剣幕で迫ってくる丸くなり始めた傷顔。オバニオンを怒らせずとも、こちらを怒らせることになる。
「あー……とりあえず断っといたから。片付け前に心労を溜めさせないでくれ」
自分に向けられている怒りではないのでなんとかなるが、とりあえず受け流そうとした。
「こちとら、ジェンナんとこのクソガキが来て腹に据えかねてるってぇのによ!」
上手い具合に話題が代わり――いや、問題自体は解決していなかった。
随分な憤りに、何があったのかとエポナはガウチョ妹に視線を向けて暗に問いかける。
「えっと、お嬢さん? が来て、オブライエンさんはいないことを伝えたら、残ってる料理を持っていっちゃったのよ……」
ガウチョ妹の返事に、エポナは苦笑を禁じ得なかった。こんなときにきていたこともだが、やることなすことがむちゃくちゃなのだ。カポネを怒らせることぐらいわかっているだろうに。
しかし、英国部下のスターゲイジーパイだけが取り残されているのには忍びなさを感じる。
「そういうことか。そっちの方は私がなんとかしておくよ」
あまり見てやるべきではないと判断して、パイから視線を外したエポナはアンジェラへの対応を引き受けた。手紙を送って、自重するように伝える程度だが。
そしてカポネの方も、話を戻してオバニオンへの抗議を決めたようである。
「トーリオの兄貴を通して、ノースサイドのガキに言うしかねぇな。ウチのに手ぇ出すなってよぉ」
プリプリと怒って立ち去ってしまうカポネ。嵐はとりあえず去り、クリスマスパーティーはつつがなく終わりを迎えたのだった。
それから約2ヶ月後のこと、オバニオンへの抗議がどうなったかは詳しくは知らないが、問題なく時間は過ぎた。あれからアプローチがなかったところを見ると、本当にその日を待っているのかそれともお叱りが利いたか。
どちらにせよ、心穏やかで平和な日々だったことは確かである。
「ふぅ、もう2月だっていうのに、いつも通りか」
それが良いことなのかはさておき、エポナは閉店の準備をしながらつぶやくのだった。
椅子を机に上げ、床の掃除を終えた。一通り確認の後、厨房の奥にある更衣室へと引っ込む。別に服を着替えるような予定はなく、コートを取りにいく程度のものだった。
しかし、そのときは盛況のあまり店じまいが明け方も近くなっており、そろそろ体力の限界に来ていた。明日が休みで本当によかったが、問題はそこではない。
「……うと、うと。ただいま……」
眠気のあまり、更衣室の扉を潜ったところで自分の部屋に帰ってきたと錯覚してしまったのだ。
ベッドに倒れ込むかわりに休憩用のソファーへと体を投げ出し、邪魔な服を脱ごうとして断念すると数秒とせず眠りに落ちる。1時間かそれぐらいで、感触の違いから現の世界へと戻ってきた意識。
何やら、誰もいない店内から物音がする。
「ん? まさか……」
最初エポナは、泥棒でも入り込んだのかと思った。お金ならばどうしようもないと、聞こえてくる足音に注意した。
しかし、その物音がはっきりとこちらへ近づいていることに気づく。
気づいたときには既に遅かった。
「誰か――」
「ッ!?」
視線の端にカポネの顔が映った瞬間、自分の格好を思い出してエポナは慌てた。
「ちょ、ちょっとまっ」
ボタンを指で弄りながら制止をかけようとするも、間に合わず扉は開いてしまった。
「――いないのか? あ?」
「あ……」
どことなくカポネに似ているが別人だとわかる男と視線があった。若干、男の見ている位置が下に向かっていた気もしなくはないが。とりあえず、もはやカポネが部屋に闖入してきたとき同様で、恥ずかしいとかいった感情は沸いてこないので問題ない。
そこで漸く、カポネにフランク=カポネという兄がいることを思い出す。従兄弟のフシェッティと共に、ニューヨークから応援に駆けつけるという話もである。
しかし、なぜこの店でエポナが顔を合わせなければならないのか。
「失礼」
「あぁ……」
固まっていても仕方ないことを思い出し、フランクとエポナは意思を交わしあった。扉が閉まった。
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