アルカポネとただの料理人

AAKI

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「あー、調理器具の専門店みたいなのはないのか? "ハーバード・イン"の料理長に、プレゼントでもしてやろうと思ったんだけど」

 エポナは、誰にというわけでもなく問いかけた。カポネを殴ったレードルが補充されていないと可哀想だな、などと無駄なことを考える。

「現実を、見ろ」

 すかさずカポネが突っ込みを入れ、現実へと引きずり戻してくれた。その汗だくの顔はもはや、出汁を取られている豚かなにかだった。意識を逸らせておいた方が精神衛生の上で、良策と言えそうなためエポナは視線を外す。

 いつもであればもっと噛み付いてくるだろうが、そんな元気もなさそうである。ただ、このままではエポナさえ出汁を絞り出した鶏ガラになりかねないのも事実。

「どこかで休……」

 あまりお腹は減っていないかと思ったものの、気づけば何かエネルギーを取り入れたいと感じていた。

 そして発見したのが、店内に作られたイートインスペースで売られているハンバーガーだ。パンズに挟んだ肉と野菜、ジャンクな油を流し込むコカ・コーラ。心には、もうそれしかなかった。

「……」「……」

 同時に、ゴクリと喉がなった。エポナとカポネは、目配せもなくフラフラとイートインスペースへと歩いていく。

 幽鬼のような男と――女だが――男がやってきて、店員も少しばかり表情がこわばり気味だ。まぁ、一方は知る人ぞ知るトーリオ一家のナンバー2なのだから当然だろう。

 さておき、一つだけ訂正しなければならない。

「ホットドックプレーンとコカ・コーラSサイズ」

「ハンバーガーとコーラのMサイズ」

 エポナは、どちらかといえばホットドック派だ。メニューとして置いてあるならば、そちらを注文する。

「なんだ、コーラといやバーガーだろ?」

 第一次世界大戦期にリバティサンドと呼ばれていたものが元通りになって、どれほど久しいだろう。エポナにとっては知ったことではないが、料理の組み合わせに絶対正義などありえない。

 まずは穏当に合議する。

「その組み合わせも否定はしないが、私はホットドックの方が好きなんだ」

「そいつじゃコーラの爆発力に負けちまうぜ」

 それでもカポネのしつこく絡んでくるならば、もはや戦争だ。正義と正義のぶつかり合いだ。

「この洗練された小麦と肉と野菜のコラボレーションがわからないなんてな」

 挑発的に言い返してしまった。

 パンズ、ウィンナー、キャベツや玉ねぎといった付け合せの生み出す調和は、手軽さに比べジャンクと呼ぶにふさわしくない。当然ものによりけりだが、そんな気持ちが先立ったのだ。

 ホットドックを一口かじり、エポナは美味しそうに咀嚼してコーラを軽くすする。合わないなんてことはなく、口の中をさっぱりさせて次の一口を美味しくしてくれる。

「あ? お前こそ、こいつをガッツリと飲み下す感覚がわからないなんざ似非料理人だ」

 怒ったらしいカポネはそういうと、やりかえさんとばかりにハンバーガーにかぶりついて半端に噛み砕いたところで飲み物で胃へと押し込んだ。

「……ギリ」「ギギ……」「ごくり……」

 両者歯を軋ませてにらみ合った。周囲から、緊張とは違う生唾を飲む音がするのも気づかずに。飲み下される姿でさえ、多くの客の購買意欲を刺激したのだ。

 さらに洗練と肥大の戦闘がパクパクムシャムシャゴクゴクと続くから、人だかりができていくではないか。

 気づけば、騒ぎを聞きつけた護衛達もやってきていた。無事に合流できたことは喜ばしいが、しばしエポナとカポネはこの件で静かな戦争でにらみ合うこととなる。

 和解までの間、一部地域のホットドックとハンバーガーとコーラの売上が伸びたとかどうとか。
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