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「どうした? はっはぁ~ん、さては田舎からのおのぼりさんが馬鹿面さらしてんだな」
「にゃッ!? 馬鹿ッ、ちょっと立ちくらみがしただけだ!」
息を呑むのをカポネに悟られ、エポナは手をおろしつつ慌てて否定した。少し顔が赤くなっているのも気づかれたかもしれない。
カポネは、気にしたようすもなくカカカッと笑いながら先を歩いていく。悔しいが、離れると人混みに揉まれて帰れなくなりそうで、カポネの後を必死で追うしかないエポナであった。
その途中、カポネが急に止まるものだから顔を背中にぶつけてしまう。
「うわっぷっ!」
顔面からで良かった。幾らスレンダーとはいえ、胸が当たれば気づかれる可能性もあった。
「いきなり止まるなよ……」
「あ、あぁ、いやな。あれ」
「?」
エポナは苦情を申し立てようとするも、カポネがアゴで指した先にあるものを見て首をかしげた。二人ぐらいの青年が、何やら工具店の前で何やら装置を動かしている姿があった。
複雑な機構まではわからないものの、レバーひとつで床を模したブロックが崩れる仕組みだ。小さなミニチュアの中で動かしているものだが、それが何の役に立つのかはわからない。カポネが、それに何を見出したかもわからない。
「あれがどうかしたのか?」
「いや、あー……行くぞ」
自分で勝手に止まっておいて、エポナの問いに答えることなくカポネはさっさと歩いていった。
一体なんなんだと、内心で文句を抱きながらもエポナは再び後を追う。工具店の前では、部屋の壁が反転するおかしなミニチュアまで作っているようである。それらが、いくらか後に"21Club"と呼ばれるモグリ酒場のアイデアの一旦となることは、エポナの知るところではなかった。
「どこか、適当な料理店にうわっと!」
お腹こそ空いてはいないものの、歩き続けるのもダルいので周囲に視線を配った。そんな折、またしてもカポネが立ち止まったものだから驚いた。
避けようとして危うく転びそうになったことはさておき、エポナは何事かと立ち止まった位置を見る。小さな売店で売られている朝刊を、カポネは睨みつけているようだ。新聞を欲していたことを思い出す。
「止まるときは止まるって言ってくれッ……。えっと、近々選挙か」
「そっちじゃない。いや、そっちも大事だが、問題はこっちの記事だ」
そう言ってカポネが見せてきたのは、紙面の片隅に小さく載った内容である。買ってからにしろという言葉は飲み込んだエポナ。
ウォール・ストリート・ジャーナルなどが報じるのは、ヴィト=カッショ・フェッロというシチリア・マフィアを最初に立ち上げたボス中のボスが殺人罪で捕まったというもの。
エポナからしてみれば、それがどうしたという話である。
「どうでも良い。さっさとどこかお店に入ろう」
「お前、かなりの重大事件だぞ? これだけならまだしも、こっちの件だってありやがる」
エポナが授業のわからない子供みたいに言うと、カポネは呆れながら顔をしかめると別の記事を指してきた。
そちらは、どうやらシカゴ警察署の署長が交代するという話のようである。しかし、こちらもまたエポナにとってはどうしたのだという話である。
「……はぁ?」
「こいつはぁ、真面目にシカゴの地図が塗り替わるぞ」
「だから?」
やはり、エポナにとってはそれがどうした、でしかない。
一応、シカゴで活動しているサウス、ノース、ジェンナの3チームと雑多なゴロツキどもの力関係が変化するというのはわかる。
「はぁ~。まぁ、しゃーねぇ」
カポネも、言葉で納得させるのも難しいと思ったのか諦めた。
話が終わったと見て、エポナも今度はおかしなところで立ち止まらせるまいと先へ、先へと歩いていく。カポネはそれを追わなければならない立場となり、ちょっと大きくなり始めたお腹を揺らすのだった。
「直ぐにお腹も空かないし、適当に買い物……と言っても何が欲しいってこともないか」
朝食を食べてまだ一時間も経っておらず、エポナは考えながら右ぐらいしかわからない道を進んだ。下手をするとあらぬところへとたどり着きそうだ。
特に、お腹も空いていないのに飲食店を見つけるとそちらへフラフラ足が動いてしまう。なんとか思案から抜け出して方向修正するも、ただ疲労を溜めるだけとなる。
「ふぅ、ふぅ……」
「もうヘバったのか? 最近、車に頼りすぎだろ」
肩で息をし始めたカポネを見て、エポナも自分の疲れを棚に上げてからかった。これならまだ、日々――不本意ながら――走って"フォア・デューセス"へ向かっているエポナの方がパワフルというもの。
食べることも好きな分、不精ではいけない。エポナは自分にそう言い聞かせて、なんとか適当に散策を続けようとする。
「大きな店なら、適当に歩いてるだけでも楽しめるか?」
街では迷うので、大型店にでも入ろうかと画策した。どちらが安全というわけでもないが。
そして、エポナとカポネは当然のように店内で迷子になっていた。後ろをコソコソとついてきていた護衛達とははぐれ、何階かもわからないフロアで佇んでいる。
「にゃッ!? 馬鹿ッ、ちょっと立ちくらみがしただけだ!」
息を呑むのをカポネに悟られ、エポナは手をおろしつつ慌てて否定した。少し顔が赤くなっているのも気づかれたかもしれない。
カポネは、気にしたようすもなくカカカッと笑いながら先を歩いていく。悔しいが、離れると人混みに揉まれて帰れなくなりそうで、カポネの後を必死で追うしかないエポナであった。
その途中、カポネが急に止まるものだから顔を背中にぶつけてしまう。
「うわっぷっ!」
顔面からで良かった。幾らスレンダーとはいえ、胸が当たれば気づかれる可能性もあった。
「いきなり止まるなよ……」
「あ、あぁ、いやな。あれ」
「?」
エポナは苦情を申し立てようとするも、カポネがアゴで指した先にあるものを見て首をかしげた。二人ぐらいの青年が、何やら工具店の前で何やら装置を動かしている姿があった。
複雑な機構まではわからないものの、レバーひとつで床を模したブロックが崩れる仕組みだ。小さなミニチュアの中で動かしているものだが、それが何の役に立つのかはわからない。カポネが、それに何を見出したかもわからない。
「あれがどうかしたのか?」
「いや、あー……行くぞ」
自分で勝手に止まっておいて、エポナの問いに答えることなくカポネはさっさと歩いていった。
一体なんなんだと、内心で文句を抱きながらもエポナは再び後を追う。工具店の前では、部屋の壁が反転するおかしなミニチュアまで作っているようである。それらが、いくらか後に"21Club"と呼ばれるモグリ酒場のアイデアの一旦となることは、エポナの知るところではなかった。
「どこか、適当な料理店にうわっと!」
お腹こそ空いてはいないものの、歩き続けるのもダルいので周囲に視線を配った。そんな折、またしてもカポネが立ち止まったものだから驚いた。
避けようとして危うく転びそうになったことはさておき、エポナは何事かと立ち止まった位置を見る。小さな売店で売られている朝刊を、カポネは睨みつけているようだ。新聞を欲していたことを思い出す。
「止まるときは止まるって言ってくれッ……。えっと、近々選挙か」
「そっちじゃない。いや、そっちも大事だが、問題はこっちの記事だ」
そう言ってカポネが見せてきたのは、紙面の片隅に小さく載った内容である。買ってからにしろという言葉は飲み込んだエポナ。
ウォール・ストリート・ジャーナルなどが報じるのは、ヴィト=カッショ・フェッロというシチリア・マフィアを最初に立ち上げたボス中のボスが殺人罪で捕まったというもの。
エポナからしてみれば、それがどうしたという話である。
「どうでも良い。さっさとどこかお店に入ろう」
「お前、かなりの重大事件だぞ? これだけならまだしも、こっちの件だってありやがる」
エポナが授業のわからない子供みたいに言うと、カポネは呆れながら顔をしかめると別の記事を指してきた。
そちらは、どうやらシカゴ警察署の署長が交代するという話のようである。しかし、こちらもまたエポナにとってはどうしたのだという話である。
「……はぁ?」
「こいつはぁ、真面目にシカゴの地図が塗り替わるぞ」
「だから?」
やはり、エポナにとってはそれがどうした、でしかない。
一応、シカゴで活動しているサウス、ノース、ジェンナの3チームと雑多なゴロツキどもの力関係が変化するというのはわかる。
「はぁ~。まぁ、しゃーねぇ」
カポネも、言葉で納得させるのも難しいと思ったのか諦めた。
話が終わったと見て、エポナも今度はおかしなところで立ち止まらせるまいと先へ、先へと歩いていく。カポネはそれを追わなければならない立場となり、ちょっと大きくなり始めたお腹を揺らすのだった。
「直ぐにお腹も空かないし、適当に買い物……と言っても何が欲しいってこともないか」
朝食を食べてまだ一時間も経っておらず、エポナは考えながら右ぐらいしかわからない道を進んだ。下手をするとあらぬところへとたどり着きそうだ。
特に、お腹も空いていないのに飲食店を見つけるとそちらへフラフラ足が動いてしまう。なんとか思案から抜け出して方向修正するも、ただ疲労を溜めるだけとなる。
「ふぅ、ふぅ……」
「もうヘバったのか? 最近、車に頼りすぎだろ」
肩で息をし始めたカポネを見て、エポナも自分の疲れを棚に上げてからかった。これならまだ、日々――不本意ながら――走って"フォア・デューセス"へ向かっているエポナの方がパワフルというもの。
食べることも好きな分、不精ではいけない。エポナは自分にそう言い聞かせて、なんとか適当に散策を続けようとする。
「大きな店なら、適当に歩いてるだけでも楽しめるか?」
街では迷うので、大型店にでも入ろうかと画策した。どちらが安全というわけでもないが。
そして、エポナとカポネは当然のように店内で迷子になっていた。後ろをコソコソとついてきていた護衛達とははぐれ、何階かもわからないフロアで佇んでいる。
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